私のヒーロー   作:おいーも

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悪。そして前進。

 

 

 

 

 

 

 

 

side傷原流水

 

 

朝。

 

 

シャワーを浴びて朝ごはんの準備を手早く終える。

 

昨日仕込んでた南蛮液を取り出し、鶏肉にしっかり火を通してから絡める。タルタルソースは……私はあんまりつけないけど、被身子ちゃんはたっぷりつけるからいっぱいかけておこう。

 

お味噌汁は豆腐とネギ。お味噌は出汁入りの簡単なやつ。

 

お米は昨日余ったやつをいくつかに分けて冷凍してたからレンチンで済むね。

 

 

 

今日は休日だからってゆっくりする訳には行かない。

 

 

「おはようございます。流水さん。」

 

被身子ちゃんも起きてくる。……準備は出来てるみたいね。

 

 

「おはよう。今日も可愛いね。」

 

 

「ふふっ……ありがとうございます。美味しそうですね。」

 

 

「今日はエネルギー居るからね!しっかり食べないと!」

 

 

「……はい!そうですね!」

 

 

被身子ちゃんに確認をとったあの日から、パパと私の都合を折り合わせ、あの人達が家にいる時間帯を見計らって突撃する。

 

パパが迎えに来てくれるらしいけど、それまでには準備を終わらせておきたい。

 

ご飯を食べ終わり、食器を洗って、あとはパパが来るのを待つだけ。

 

 

「流水さん。」

 

 

ソファで2人くつろいでたら被身子ちゃんが声をかけてきた。

 

 

「なぁに?」

 

 

「ありがとうございます。本当に何から何まで。」

 

 

「……ふふっ。いいのよ?私は大人のレディだから。いつでも頼って甘えて?」

 

 

「はい。……ハグしてもいいですか?少しだけ……不安で。」

 

 

「……おいで?」

 

 

 

両手を広げた私に被身子ちゃんが飛び込んでくる。

 

最近筋肉が付いてきたのか、肉付きが良くなり更に魅力的になった被身子ちゃん。私の。私だけの被身子ちゃん。

 

 

「大丈夫よ。私が付いてるわ。」

 

 

きっと私のモノにしてみせる。

 

私の心と身体を滅茶苦茶にした責任。しっかりとってもらうからね♡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーン

 

 

インターホンが鳴る。ちょっとだけの緊張と。済ませてきた覚悟。

 

 

「流水、被身子ちゃん。準備はいいかな?」

 

 

スーツをビシッと決めた一狼さん。緊張……というか私が全部すると事前に言ってあった事もあって、あまり緊張はしてないみたい。

 

 

「ありがとうパパ。」

 

 

「今日はよろしくお願いします。」

 

 

「うん。任せて……というか全部流水がする手筈になってるんだけどね?」

 

 

「……任せて。書類も……コレも。全部準備OKよ。」

 

 

ジュラルミンケース……私の切り札。めちゃくちゃ大きいし重いけど、被身子ちゃんの事を考えると全然苦じゃない。

 

 

「……持ちましょうか?流水さん。」

 

 

「大丈夫。これは……いざとなった時に必要だから。」

 

 

「じゃあ僕は車を取ってくるよ。待っていて。」

 

 

パパはスタスタと軽快に立ち去った。どこかに車を停めていたんだろう。この家駐車場がなくてごめんね?

 

 

「……何かお手伝いは……」

 

 

被身子ちゃんがアワアワしてる。落ち着かないんだろう。

 

 

 

 

 

「じゃあ……手を握って欲しいなぁ?」

 

 

「手……?」

 

 

「うん。実は緊張しちゃってて……お願い?」

 

 

わざとらし過ぎたかな?

 

 

「……もう……本当に貴方って人は……。いいですよ?私でよければ。」

 

 

普通に手を握るもんだと思ってたら指を絡めてきて。

 

ちょっとびっくりしちゃって。

 

 

「ありがとうございます。流水さん。ちょっとだけ仕返しです。」

 

 

もう。意地悪。

 

 

車を持ってきたパパに

 

 

「お?仲良しだね!こりゃ孫を見れるのもすぐかな!」

 

 

って言われて、恥ずかしかったのに

 

 

「はい。待っててください。絶対に可愛いですよ?」

 

 

とか被身子ちゃんが答えるもんだからもっと顔が熱くなって

 

 

「ね?流水さん?……じゃなくて」

 

 

驚いてる私を知り目に、耳に口を寄せてきて

 

 

「ママ♡」

 

 

と言われて……こんな日なのに私の身体は正直に反応してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと重たい空気。

 

車が止まる。

 

 

「…………着いたよ。」

 

 

渡我家からそれほど遠くないパーキングエリア。

 

 

 

見つけた。あの家だ。

 

……一応何度か下見に来たけど……普通の一軒家。……家庭環境は普通じゃなかったみたいだけど。

 

 

「……よし。行きましょうか。」

 

 

「はい。」

 

 

「そうだね。」

 

 

車を降りて家に向かう。

 

 

「流水。」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「無理だけはしないように。公安がどう思ってるか知らないが、君は私の大事な一人娘だ。」

 

 

「……うん。ありがとう。任せて。」

 

 

雰囲気が重い。インターホンに手を伸ばす。

 

 

ピンポーン……

 

 

 

 

 

 

やっぱり無反応。……面倒臭い。

 

 

「……任せてください。流水さん。」

 

 

本当は嫌だけど。顔も合わせて欲しくないけど。

 

 

「……お願い。」

 

 

1度前に出る被身子ちゃんを頼ることにした。

 

 

「被身子です。開けて貰えますか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも無反応。

 

もういいや。こいつらまだ私を怒らせたいらしい。

 

 

 

 

「おい!!娘が家に入りてぇっつってるんのに家に入れてやらねぇ親が居るか!!!!」

 

 

 

 

近所に響くくらいの大声。近所のみんなに聞こえますように。

 

 

 

「てめぇらがなーんも話に応じないから悪いんだぜ!?オイ!聞いてんのかよ!!」

 

 

 

お、近所さんが何人か家から出てきたね。知ってる人もチラホラと…あ!あの人私におまんじゅうくれた人!美味しかったです!

 

 

 

「聞こえてるならなんとか言ってみろよオイ!?開けろっつってんの聞こえねぇのか!?耳がねぇのかお前らは!!」

 

 

 

あっあのおばちゃん……もう!いけいけじゃないのよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ…

 

 

「「「!」」」

 

 

少しだけ扉が開いた!

 

 

「すみません。帰ってくれませんか?」

 

まだ立ち場がわかってないみたい

 

「いいてぇ事はそれだけか?家に入れろ。話はそれからだ。」

 

 

「……帰ってください。」

 

 

「家に入れろ。何言ってるのか聞こえねぇのか?耳腐ってるだろ。」

 

 

「無理です。これ以上何か言うなら警察を呼びます。」

 

 

「おう呼んでみろ。こっちはヒーローライセンス持ってんだ。迷子のお前の娘を届けに来ましたって言ったらとっとと解散するぜ?あいつら。」

 

 

「さっきまで大きな声で叫んでたじゃないですか。迷惑です。

それにそんな虚言……」

 

 

 

 

「どっちを信じると思う?」

 

 

「……」

 

 

「近所から悪評が収まらず、娘を放棄した両親と、名は知られてないけどヒーローライセンスを持ってる私。少し考えて見りゃわかるよなぁ?」

 

 

 

「そうだそうだー!」

 

「とっとと家に入れてやれー!」

 

「娘ちゃんは化け物じゃないぞー!」

 

 

 

お!ありがとーう!お騒がせしちゃってるから後で菓子折り持っていくね!美味しいよ!

 

 

「……ほら。ご近所さんはなーんも役に立たないぜ?」

 

 

根負けしたのか、ドアが完全に開く。

 

思ったより早かったわね。無駄な抵抗するくらいならとっとと開けば良かったのに。

 

 

「………入ってください。」

 

 

「ふん。とっとと入れりゃ良かったんだよ。」

 

 

作戦第1段階終了ね。ここから……まぁもう負けるはずが無いんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家のリビングに通された。

椅子は4つしかなかったからパパは立ってる。

 

こういう所なんだけど……私の中でどんどん評価が落ちていく。

 

被身子ちゃんの両親はそれこそ……なんの変哲もない人間で、だからこそ血に興味を見せる被身子ちゃんのことが分からなくて。拒絶した。

 

 

理解はできる。まぁ……それとこれとは話が別なんだけどね?

 

 

「……お話は……何ですか。早く終わらせてください。」

 

 

そういう態度をとるんだ。ふーん……

 

 

「一旦その態度には目を瞑ります。私たちは彼女……渡我被身子さんの親権をこちらに譲渡して頂きたいと思い、伺わせてもらった次第です。」

 

 

「…………」

 

 

「いいです。そんな化け物とっとと貰ってやってください。」

 

 

父親とはいえ……そんな言葉が出るなんて。化け物はどっちだか。被身子ちゃんは机の下で手を握りしめてるって言うのに。悔しいよね。苦しいよね。後ちょっとの辛抱だよ。

 

 

 

「……わかりました。それで署名が必要な書類なんですが……」

 

 

「待ってください。」

 

 

母親の方が声を出す。……めんどくさい事になりそうだ。

 

 

「なんでしょうか。」

 

 

「そいつ……それは少なくとも私がお腹を痛めて産んだ子です。」

 

 

「……」

 

子供にそれ……そいつねぇ……

 

 

「その苦労があるのに何も私達が報われないのは酷いです。せっかく産んだ子が!化け物で!今こんな状態になってるのもこいつが悪い!慰謝料だ!慰謝料をよこせ!!!」

 

 

「……そんな…」

 

 

 

「!っそうだ!慰謝料をよこさないとその書類にはサインしない!……あんたたちはそいつの親権が大事なんだろう!?とっとと慰謝料をよこせ!」

 

 

 

クズ。

 

出来損ない。

 

人の灰汁。

 

 

 

被身子ちゃんが立ち上がって廊下に走っていってしまった。

 

 

「……許せないよねぇ…」

 

「何か言ったか?慰謝料だ!金を出せ!」

 

 

「……パパ。」

 

 

「わかった。任せておきなさい。」

 

 

被身子ちゃんの事はパパに任せる。私はこの化け物を対処しないといけない。

零れそうなため息を飲み込む。

 

 

「……慰謝料はいくつをお望みですか?」

 

 

 

「100……3000万だ!3000万よこせ!」

 

 

「人1人の生涯年収って2億円でしょ!?2億ちょうだい!そしたらこんな家からもさらば出来る!!」

 

 

「そうだな!2億だ!2億だよこせ!!」

 

 

 

「なんと……なんとまぁ…………わかりました。」

 

 

脳みそお花畑ですこと。

 

私は切り札を机に置く。

 

使いたくなかった。被身子ちゃんを……

 

 

 

 

 

 

「……ここに10億あります。」

 

 

 

 

 

お金で買うような気がして。

 

 

「じゅっ……」

 

「10億だと!?」

 

 

 

「はい。これで手を打って頂きたい。」

 

 

 

 

私のそんな気持ちも露知らず。この両親は想像以上に想像通りだった。

 

 

「10億もあったら……なんでも出来るじゃない!!」

 

「すごいぞ!毎日遊んで暮らせる!!」

 

 

……恥知らず。本当に。

 

 

「わかった!10億で手を打つ!とっととよこせ!」

 

 

「まずは。」

 

 

私はこいつらを睨む。

 

「書類の方が先です。」

 

 

「……ちっわかったよ。とっとと出せ。サインしてやる。」

 

 

「ご了承いただけで幸いです。」

 

 

会わせなきゃ良かった。……要件的に無理なんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまでごねてたのが嘘のようにすぐサインして、書類が出来上がった。

 

 

「確認します…………充分です。ありがとうございます。」

 

 

「じゃ……じゃあくれるんだよな!10億!!」

 

 

「はい。約束ですので。」

 

 

ジュラルミンケースを差し出す。

 

目の前の化け物は目にも止まらぬ速さで奪い取り中を開ける。

 

 

「すっ……すげぇ初めてこんな量の金を見た!!」

 

「遊び放題買い放題よ!あなた!!」

 

「とっととこんな家から引越しだ!近所もゴミだったしな!!」

 

「ええ!ええ!私タワーマンションに住みたいわ!!」

 

「よーし家具も全部新調しよう!!」

 

「靴に……服に……あーもう何買おう!」

 

 

 

 

 

 

 

「……それでは失礼します。」

 

 

もう

 

 

居続けるのも不要だろう。

 

同じ空気を吸いたくない。

 

雑音を背に廊下に出る。

 

 

 

「流水さん……10億って……」

 

 

そこにはパパと……泣いたんだろう。目が真っ赤の被身子ちゃんがいた。

 

 

「ただいま。帰ろうか。」

 

 

「待って……10億……」

 

 

「……車の中で話そうか。」

 

 

「……はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近所の皆さんにお騒がせしたことと全てが終わったこと、ついでに菓子折を持っていくと皆さん口を揃えて

 

 

「大丈夫よ!スカッとしたわ!」

 

「被身子ちゃん大丈夫?何かあったらすぐ言ってね?おばちゃんできる限りの事はするわ!」

 

「あの人達……子供を売るなんて考えれない!何が慰謝料よ。」

 

 

とか散々だった。本人たちは引っ越すからもう眼中に無いだろうけど……果たしてそう上手くいくかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車内。

 

 

家……じゃなくて役所に向かってる最中……

 

 

「流水さん。」

 

 

「そうね。……と言ってもあの10億は私が稼いだお金よ?……と言っても3年分くらいの給料……と臨時収入が消えただけだから安心して?水道光熱費その他もろもろは大丈夫よ。」

 

 

「でも……」

 

色んな感情が混ざった目。ほっとしたより不安と困惑……特に悲しみが強いね。本当にあの化け物は……

 

 

「ごめんなさい。あなたをお金で買う形になってしまって。」

 

 

私は頭を下げる。切り札は……本当に使いたくはなかった。

 

 

「いえ!私はあんまり気にしてないので……」

 

 

 

「そんなわけないわよね?」

 

 

 

「……」

 

被身子ちゃんは俯く。そりゃそうよね。自分の両親がお金で自分を売った……気にしてないって言うけど心のどこかでショックを受けてる。

 

 

 

「…………流水。」

 

 

パパが心配そうに目線を配る。

 

 

「大丈夫。私に任せて。」

 

 

 

ふぅと息を吐き、言葉を紡ぐ。

 

私は被身子ちゃんを抱きしめた。

 

 

 

 

 

「頑張ったわね。被身子ちゃん。」

 

 

 

「!……私は何も…」

 

 

「ううん。そんなことない。貴方が決断してくれなかったら出来なかったから。」

 

 

「でも……でも……」

 

少しづつ鼻声になってる被身子ちゃん。

泣いていいよ。大丈夫だから。

 

 

「これから何しましょうね?好きな学校に行けるわ。好きな仕事が出来るわ。アルバイトだって。あなたの好きなことしましょう?私がついてるわ。」

 

 

「……流水さん……」

 

 

私を抱きしめる手が強くなる。もっと私に甘えて。縋って。

 

 

「楽しみね!あなたの成長が。ねぇパパ!」

 

 

「ああ。娘が一人増えたからな!パパもっと頑張っちゃうぞ〜。」

 

 

冗談がましく腕をブンブンするパパ。

 

 

「張り切り過ぎて身体壊さないでね?」

 

「善処する。」

 

「もう……パパったら。」

 

 

 

「ふふっ……あははっ」

 

 

被身子ちゃん……ふふっ。いい笑顔。

 

 

「あっ被身子ちゃん……いや被身子。パパのこと笑ったなぁ??」

 

 

「ふふっ……ごめんなさい……一狼さ…………パパ!」

 

 

「うんうん。今回だけだぞぉ〜?」

 

 

「はぁ〜い。」

 

 

 

 

 

「被身子ちゃ〜ん…私のこと忘れてない?」

 

 

「え!そ…そんなことは無いですよ!」ギュウウ…

 

 

「もう。だったらいいんだけど?」

 

 

「そんな……もう…不貞腐れないでくださいよぉ……」

 

 

 

 

 

 

「はっはっは。うちの愛娘は手強いなぁ?被身子。」

 

 

 

「パパ!パパもなんとか言ってくださいよ!!」

 

 

 

楽しい会話で時間が過ぎる。

 

役所に書類を出す時は、もう被身子ちゃんは笑顔だった。

 

 

 

今日は久しぶりにパパがご飯を奢ってくれるみたいで、ちょっと高めのお寿司屋に行った。皆で色んな話をしながら、これからの話をしながらの食事は新鮮だけど……楽しかった。

これからもずっとずっとずーーーーっと。

 

 

 

 

こんな日常が続きますように。

 

そんな願いの第1歩。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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