side傷原流水
「ホークスくん。私下の階行きますね。」
「了解っす。一応気をつけてくださいね。」
「任せて。」
私は階段を降りて、店を出る。人の避難が始まってる。早いねぇ。
偉い偉……い……。
…………なにあれ。
私の目の前……店を出たところ。黒い……何?折れた柱?カプセル?が突き刺さってる。
異様な光景。どこからか降ってきたのか……落ちてきたのか。
周りに人は少ないけど……野次馬かな。……とっとと避難してよね。
「ごめんなさい!皆さん……早く安全な……とこ……ろ……へ……」
ガコン……
音。
その柱が開いた。半分だけ……縦に避けた。
ドバァ……ジュゥゥ……
中から……黒い液体が流れ出る。粘度の高い……煙?蒸発?温度が高いの……かな?
なにか出てくる!
「クルルルル……。」
中から……黒と……白の……
「脳無!!」
「なんだこいつ!?」
「うわああっ!?」
出てきたのは白い体皮と黒い体皮をツギハギした脳無。胸に大きな手術痕らしき傷もいくつかある……今までの脳無とか違う個体。
「クルルル……。」
脳無が一般市民に向く。
「逃げなさい!!早くッ!!」
エスコルチアを纏う。突撃。振り上げられた拳を止める。
「ひぃっ!?」
「早くっ!逃げなさいっ!!!私がとめてるからっ!!」
「クルル……?」
脳無は口をパクパクさせてる。口を開いて……まるで何かを求めているかのような……?
「……キ……」
「……き?」
「キドゥ……ダ…………キドゥダラァ!!!!!」
「!?」
脳無の力が強くなる!地面が割れる!
エスコルチアの出力をあげる。喋る脳無……その上急に力が増した。
「うぎぎぎ…………何!?急に!!」
ボコ……ボコボコ……
急に脳無の身体が音を立てて大きくなる。
「巨大化……?違う……筋力増加?身体強化?…………純粋なパワー系ほど厄介な相手はいないわね……。」
「キドゥダラァ!!ギギギ!!ギヅガルァア!!!」
「うるさい!!なんなの?本当に!!!」
避難は……まだ終わってない!くそ……ここで戦い続ける訳にはいかない……。
一旦距離を取るがすぐ近付いてくる。
「ガルルルルルルアアアアアッ!!!」
脳無の連続攻撃。
何も考えてない大振りな攻撃。見てれば当たらないが……これの一撃一撃が致命傷だと考えると苦しい。
もう1度距離を取る。
「ガルル!グルァアアアアッ!!ギドヅゥラァッ!!!」
……すると今度は急に立ち止まって首を引っ掻き始めた。口を開けてパクパクしている。
「アアアアアーーーーー!!アーーーーッ!!!!」
「……何が……。」
「傷原サン!無事ですか!?」
上からホークスが降りてくる。
「避難誘導は終わったの!?」
「もちろんです!……こいつは……?脳無……っすか?」
「……そう見えるけど……今まで見た脳無と何か違う気がする。」
「……首を……引っ掻いてるんすか?あれ。」
「…………奇っ怪な……。」
「アアアーーーーーーッ!!ギドゥドゥルルルルルルッ!!!!」
突っ込んでくる!早い!!
「ホークスくん!エンデヴァーの援護に行って!」
「行けるんすか!?」
「私がやるしかない!!エンデヴァーの方が強そうだった!!!」
「……勘!信じるっすよ!!」
轟音と共に脳無の突撃を抑える。
「ぐぅっ!?」
「いけるんすか!?」
「信じて!!」
「くそ……わかりました!死んだら笑ってやりますから!!!」
ホークスくんは飛び立つ。
受け止めながら考える。
力勝負は圧倒的にこちらが不利だ。どうする!?こいつの個性がわかってない!情報戦でも不利。喋るってことは思考ができる可能性もある。一旦被害が少ない場所に……
「グリァアアアアッ!!」
急に受けた腹への衝撃と浮遊感。
「グォハッ!?……っ!」
自分が宙に打ち上げられたのだと自覚するには充分だった。
そのまま重力には逆らえず、地面に叩きつけられる。
ガツン!!
「ぐっ!?……がっ…………!!」
転がって衝撃を和らげる……大丈夫……骨は折れてない。
「なんや!?赤いの落ちてきた!?」
「敵か!?」
なんでまだこんなところに人が!!?
周りを見ると少なくは無い瓦礫。多分エンデヴァーとの戦闘の余波がここまで……。
「早く逃げなさい!!早く!!……!!」
「ギギギギッ!!ギドドドドドドッ!!!!ドゥ!!!」
飛んでくる!空飛べるのかあいつ!!
全身で受け止める。手四つ。アスファルトが抉れる。
「うぐぐぐっ!!!早く逃げなさい!!もっと遠くにッ!!」
「ヒイイイイイッ!!!??」
「待って!私のッ!」
「助けてくれえええええっ!!!」
「無理だっ!逃げるぞっ!!」
逃げたのを確認。力比べは私が負ける!!だから……
急に力を抜き相手のバランスを崩す。
「搦手で戦うしかないのよ……ねっ!!」
膝で顎を打ち上げる。
その後、もう片方の足を後ろに。足の裏から血を伸ばして紫陽花を取る。
その足で脳無の側頭部に向かって回し蹴り。紫陽花が頭にしっかり刺さる。
「グガアガガッガガガガッ!?!?」
「よしっ!!…………あれ!?……まさかッ!!」
腕のエスコルチアを解き、手四つを解除。そのまま後ろに飛び、距離を取る。腕にエスコルチアをまた纏う。
私の疑問。……私は紫陽花を左手に持ち直す。
汚れひとつない紫陽花を。
そう……
「この脳無……血が…………ない。」
一滴も血がつかなかった。側頭部とはいえ、一般生物は血が流れている。USJの脳無も、保須の脳無もそうだった。……この脳無……血が流れてない。…………まるで私との戦闘用みたいに。
おかしな邪推だ。ありえない。
……だが血が流れてないから相手の血を操作して動きを止めることはできない。……無理やり殺すことが出来なくなった。
……でも待てよ?血が流れてないなら……
「グゴフォゴゴゴゴフォッ!!!」
今首をかいてるあいつは……
「どうやって酸素を体に流してるの……?」
もしかして……首をかいてたのって……奇声をあげながら口をパクパクしてたのって……
「酸素が吸えないから……?肺が無いの!?摘出したの!?その手術痕は!!」
「ガルルルルルアアアアアッ!!!!」
たとえ脳無が改人だとはいえ!作られたものだとはいえ!元人間よ!?そんな事が許されていいわけが!!!
くそ……どうすれば……
「たす……けて……。」
「!!」
後ろから声……瓦礫の中!
「足が……挟まっちゃって……取れないの。……痛いよぉ……ママァ……。」
小さい女の子の声。姿は見えないが……居るのね。中に。
脳無への同情を捨てろ。
「…………お姉さんに任せて。」
「……誰ぇ……?」
「ヒーローよ。……私が来たッ!!」
多分こいつは放置してたら勝手に死ぬ……死ぬが!被害を度外視してッ!身の安全を取ることはッ!!
「私にはできないよ!」
腰のタンクをふたつ開ける。
私の大量の血。全部出す。
「温存しておきたかったけど。んな事言ってられないね。私の今出せる全力で屠ってあげるから……悔い無く来なさい。」
血を右腕に纏める。固める。右腕が音を立てて折れる音がする。知らない。ここでこいつを止める!!
「ギギギギッギィギチッ!ギドゥドゥドドドッバアアアアアルルルルッルッッッ!!」
体をさらに大きくして突っ込んでくる。
後ろには下がれない。背水の陣。
私の人生っていつもこう。後ろに下がったら何かを失う。前に進んでも何も無いことの方が多いのにね。
茨の道。針の山。傷付いて傷付いて。無限に広がる棘の道。進んだ先に……一体何があるのかわかんなかった。後ろを振り向いても……誰もいなかった。……当たり前だよ。私と同じ道を歩もうとしてる人なんていない。……いないハズだったんだ。
「マリーゴールドって知ってる?……聖母マリアが由来らしいんだけど……知ったこっちゃないよね!そんな大層な名前に……なんで絶望なんて花言葉があると思う!?」
私はこの校則……大嫌いだったな。
『流水さん!』
今は……違うけどね!!!
「Plus・Ultraァ!」
拉ぐ右腕を撃ち抜く。渦のように蠢く膨大な血が、脳無と瓦礫を混ぜ合わせ、まるでミキサーのように脳無の肉を削り下ろす。
「我が愛おしき断頭台(Mary gold my dear)。」
USJの脳無にぶつけれなかった最大出力。ビルすら粉にする攻撃力。生物が受けたら……
「…………。」
残ったものは脳無の損傷の激しい顔と肉片だけ。超回復でも回復しきれない。
「ギ……ヅ……バ……ラ……ミィ……トメ……サ……セ……」
私は頭を踏み抜く。
「まだ喋るんですか。少しだけ敬意を評してあげます。」
そういえば……
「あの筋肉の個性……どこかで見た気がしますね……。どこだったっけ。まぁ……」
私は後ろの瓦礫に振り返る。
「覚えてないしその程度の人だったんでしょ。」
瓦礫に埋まった子助けないと。