side八木俊典(オールマイト)
2年前。ひょんな事から公安に呼ばれて出会った彼女、傷原流水。仕事の為とはいえ、公安直属のヒーローに出会うのはあまり気乗りしなかった。
彼女の第1印象は……正直に言うと嫌われている……だった。
顔は笑っているが目は笑っていない。
調べた情報によるとヒーローのはずなのにヒーローを嫌っている。メディア露出が極端に少ない。そもそも名前以外の情報が全く出てこない。……裏で意図的に操作されているかのように。
極めつけは彼女の最初の一言。
「ブラッドロータス。傷原流水です。私は、貴方の駒です。」
上品なお辞儀からの開口一番。駒?なんの事だと困惑していると、横にいる飼田一狼くんが
「……彼女には今後、貴方の仕事の情報的な補佐を任せようと思っています。勿論…彼女に貴方の仕事の邪魔はさせませんし、貴方の好きに使っていただいて構いません。」
「……人権ってものは?」
率直にでた質問だった。サイドキックって事か?いや、サイドキックは今は求めてないし、この子の実力が分からない。そもそも実績が分からない以上頷くわけにはいかない。
すると飼田一狼くんの口からとんでもない発言が出てきた。
「彼女のヒーロー活動に、我々公安は一切責任を負いません。」
……公安が責任を負わない?彼女は好き勝手しているって事か?
そんな思惑だったらどれだけ良かったことか。
どれだけ楽観的だったか。
「仕事は我々が彼女に斡旋します。我々に連絡をいただければ……。……しかし彼女の仕事に我々は責任を負いません。……つまり……お分かりいただけると思いますが……」
少しだけ言葉を詰まらせている飼田一狼くん。
次の言葉は……一生忘れれないと思う。
「……彼女のヒーロー活動については、人の権利が奪われている…と言っても過言ではありません。」
「なっ…………そんなこと…公安が容認しても社会が許さないぞ!!」
激昂。当たり前だった。目の前の一人の女の子が文字通り私の駒として使えるようにすると言っているのだ。体も、心も、命でさえも、この男は道具に過ぎないと言っているのだ。
「いいえ。社会の許しなど必要が無いのです。」
「……」
「いざとなれば……ふぅ……」
少しの沈黙。言いにくいことなのだろう。
「私の全てを消せばいいだけです。」
「「!」」
今まで座っていただけの彼女が口を開く。
まるで飼田一狼くんには、もう言わなくてもいいと言っているように
「パパ。あとは私に任せて?2人っきりでも大丈夫。」
「……くっ……済まない。……本当に…済まない。」
……この優しい目……飼田一狼くんの反応……本来であれば他者を思いやれるいい子なのかもしれない。飼田一狼くんの事を恨んでも無さそう……って言うか今パパって言った???
「オールマイトさん。これから私と2人きりで今後の方針を決めてもよろしいでしょうか?」
「あ……あぁ……問題ない。」
「申し訳ありません。私は失礼します。」
飼田一狼くんが深々と頭を下げてから退室する。
2人だ。2人きり。でも沈黙は長くはなかった。
「先程の話、オブラートに包まないで言うと……」
「いやいや!言わなくてもいいよ!わかってる!」
「ダメです。」
私の拒否は……彼女の目に阻まれた。
「これを私の口から言うのが、私達の覚悟であり、私の立場です。」
「…………」
反論できなかった。絶対に言わせてはならないのに、何も言えなかった。
「私の体も、戸籍も、情報も、命でさえも。公安が責任をもって始末します。私はそれを受け入れてますし認めています。……そういう契約なので。」
「なんと…………」
なんという契約だろうか。契約というのは双方利があって初めて成されるもの。これではまるで……自分の全てを公安に握らせて都合のいい駒になっているだけではないか。
「そして…これは。私から持ちかけた契約です。」
「なんだと……!?」
理解不能。何も頭が回らない。何故わざわざそのような事を……?
「何故か……といった顔ですが……まぁ良いでしょう。私はあなたたち、ヒーローのことが心底嫌いです。」
多分私は、今後数十年……彼女のことは一生忘れない。
「ですが社会の悪は祓わなければならない。存在してはいけない。なので……私は私の命を犠牲に、この日本を浄化しています。表に出せないような悪を、存在してはならない悪を。」
傷原流水……私はこの子の好きにさせてみようと思った。多分……この判断が彼女の救いになると信じて。
side傷原流水
雪が僅かに積もる夜、私は連絡を待っていた。
「…………残りは?」
私は近くにいたヒーローに声をかける。
「はい!制圧完了です。」
ふぅん?
「……。」
「……?」
「私が来た!!」SMASH!
「……オールマイト…貴方が居るとやはり仕事が早いですね。」
以前から調べていた敵の拠点らしき廃ビル。違法薬物の収納倉庫だったみたいで、必要ないかもしれないけど一応オールマイトに連絡したら来てくれたらしい。……暇なのかな。暇じゃないと思うんだけど……。
「まぁこれも全部君が情報をくれたからだけどね!」
「ほぼ単身で突撃して数分じゃないですか。私の力が必要だったかは甚だ疑問ですが……」
「いやぁ!衰えたね。全盛期だったら……」
そんな話をしながら周りに目を配る。さっきまで補佐で居てくれてたヒーローの人は既に回収作業を手伝ってる。立派だね?
「それ聞き飽きました。……オールマイト。私は少し出てきます。」
「……む?それなら私が……」
周りには誰もいない。私の会話を聞く人はいない。
「大丈夫です。活動限界……近いんでしょう?」
「……なんでもお見通しか。じゃあ頼むよ。何人だい?」
「多分1人です。……このビル関連じゃないと思うんですけど……少し気になった足跡があって。」
私は近くに置いていた包帯で巻かれた棒を手に取る。
「ソレ……持っていくの?」
「はい。用心にこしたことは無いので。」
包帯を少しだけ解き、背中に背負って前で結ぶ。少々重いがこれはあった方がいい。
「……気を付けてね。君は来年には……」
「わかってます。雄英講師……ですよね。」
「うん。わかってるならいい。頑張って!」
「………お気遣いありがとうございます。」
私は手首に装着してる刃物搭載ブレスレットで、両の人差し指に傷を付け自分の血を近くの建物にくっつけて飛び上がる。
スパ〇ダーマンの要領で宙を飛ぶ。これがいちばん早い。
「そういえば彼女チョーカーつけてたな。初めて見たぞ。……こういうのを褒めるが女性とのコミュニケーションってなにかの本で見たぞ!……ブツブツ」
足跡は真っ直ぐではなかった。多分なにかの影響でダメージを受けたんだろう。オールマイトが暴れた建物の破片?衝撃?そこまで遠くに行ってないはずだ。……だとしたらどこかの……路地裏……身を隠したいはず……
見つけた。
あの覆面……あれは……
「ハァ……ハァ……くそっ……」
私はこの男の後ろに降り立つ。
「分倍河原仁。」
「ひっ……だっ誰だ!」
凶悪犯罪者トゥワイス。……本名分倍河原仁。
なんでこんな場所にいるのかは分からないけど好都合だ。
「申し遅れました。ヒーローブラッドロータス。貴方が混乱に乗じて逃げていくのが目に入り、貴方の身柄をいただきに上がりました。」
「ヒーローか……全く……本当にツイてないぜ……」
「……抵抗はしないんですか?」
「……するぜ?全力で。ブラッドロータス?名前も知らないヒーローになんか遅れを取れないからな!ま、俺は名前知ってるけどな!?」
「そうですか……残念です。少しだけ……痛めつけましょうかね。」
私は包帯を解き、獲物を露わにする。
2対の大鉈。スチームパンクな見た目だが所々にこびりつく血痕がおどろおどろしさを醸し出している。
「なんだ……それ……」
「これですか?私が特注した、対凶悪犯罪者制圧兼護身用大業物……右手の彼岸花と左手の紫陽花です。」
「ひーっ……とんでもない代物だな。」
口ではそういいつつ戦闘態勢を解かない。
「……ほんの少しだけ……痛めつけますね。」
「……これ以上の抵抗は。」
「も……もう無理だ……。」
数分後、トゥワイス……分倍河原仁の片腕骨折、全身切り傷で勝負が着いた。切り裂かれたマスクからは少しだけ目が見える。
「それでは拘束させて貰いますね。」
「ぐっ……いつもこうだ……俺ァ毎度毎度運がねぇ……。」
私は指から出した血で拘束しながら答える。
「……。貴方の過去を幾つか調べました。」
「は?俺の事追ってたってこと?ファンかよ!」
「……凶悪犯罪者にも過去次第では、私は情状酌量の余地があると思ってます。一応……目を通せる範囲での犯罪者の過去は全部頭に入ってます。」
「……仕事熱心だねぇ?なんでそんな奴が無名なんだよ。イテテ」
「少し補強するので動かないでください。やりすぎました。」
「ありがとよ……ってヒーローに何言ってんだってカンジだが。」
悪態を着きながらもある程度は観念してる様子。抵抗の色はあまり見えない。
「……私はヒーローライセンスを持ってるだけでヒーローではないので。」
「あん?よくわかんねぇな?昔流行った自警団ってやつか?」
「いえ。自警団……当時はヴィジランテ…でしたか。そんなものではありません。一応公安に所属してますよ。」
「へぇ〜お堅いじゃねぇか。良いとこ務めてんな……ちくしょう。」
「………まぁ私の話はいいでしょう。……これで骨折は大丈夫そうですね。」
「おっアンガトよ!……拘束も解いてくれると嬉しいんだが?」
「それとこれとは話は別です。あなたに今死なれたら、色々困るだけなので。」
「ちぇっ……ツレねぇなぁ。」
まだもう少しだけ時間がありそうだ。……この人は……きっどまだ救える。
「……私は。貴方には情状酌量の余地は充分あると思います。過去だけ見れば……ですけど。」
「…………色々やっちまったからな。」
「ええ。……私は罪を償えば貴方を許します。」
「あん?何言ってんだお前。お前に許されたところでなーんも嬉しくねぇよ!ありがとな!」
「私は1人……個性で悩んだ女の子を救いました。あなたも……自分の個性で悩んでいるのでしょう?社会復帰が厳しそうでしたので。手を悪に染めたのはこれが原因でしょうね。」
「…………」
「貴方には然るべき場所に行ってもらいます。これは変わりません。」
「……そうかよ。」
「ですが。」
なんで私もこんな事言おうと思ったから分かんなかったけど
「?」
「私のツテで腕のいい精神病専門医と、個性カウンセラーを面会に来させます。」
なんとなく悪そうな人に見えなかったんですよね。過去と今を見てる限り。……精神性はだいぶ敵に寄っちゃってますけど。
「……は?」
「貴方の保釈金も全額肩代わりします。」
「なっなんでだよ!お前になんの利もねぇじゃねぇか!!」
意味不明。そんな色が見て取れる。当然だろう。……でも。
「私は。社会をより良くしたいです。」
「だったら……俺を殺せば……」
「何故。過去社会に殺された人間を、私達真っ当に生きてきた人間が殺す権利があるのでしょうか。」
「……は?」
「私たちは運が良かっただけです。周りに恵まれ、普通に生活をし、普通に就職をし、普通の幸せを享受している。」
「……」
「まぁ、私の場合、周りに恵まれたかはわかんないですけど。この社会はそんな人間だけでは成立しない。できない。」
「…………それがなんだよ。」
「私は犯罪者を根絶したい。根絶したいと言っても殺したいわけではなくて、外的要因、先天的要因。どうしようもないことで罪を犯してしまう人を無くしたい。……潜在的に犯罪を犯してしまう者はどうしようもありませんが。」
「……なん……だ……だから俺を助けるってか?」
「いいえ?助けはしませんよ。助かるかどうかはあなた次第です。私は貴方が真っ当に生きられる手段を用意してあげるだけ。」
「…………」
「これを貴方がどう活用するかはあなた次第です。懲役何年になるでしょうね?5年以上は確定でしょう。」
「……そこからは俺次第ってことかよ。」
トゥワイスは観念したのか立ち上がる。
「はい。なんなら腕のいい弁護士も付けましょうか?ちょっとだけなら減刑してくれるかもしれませんよ?」
私はトゥワイスの拘束を解かずに、予め外に呼んでいた公安と警察の車両に歩き出す。トゥワイス……分倍河原も後ろを着いてくる。
「はっはっは。なんでもありじゃねぇか?」
「なんでもありです。なんでも使わないと生き残れないので。」
「……あんたも大変だな?」
「お互い様ですね。」
警察車両に乗る分倍河原は少しだけ憑き物が晴れた顔をしていた。これで彼は充分だろう。
「流水!」
私を呼ぶ声がする。聞きなれた。大好きな声。
「パパ!!来てくれたの?」
パパは私を抱きしめる。心配かけちゃったかな。
「ごめんね?パパ。心配かけて。」
「大丈夫だ。お前が無事ならいい。よくやったな。」
あれ……この匂い……ふーん?約束……破っちゃったね?
「ふふん。当然でしょ?……パパ?またタバコ吸った?」
「うっ…………1本だけだ。」
バツが悪そうな顔してる。だったら辞めればいいのに。
「やめてって言ってるよね?身体壊したいの?」
「あの……えっと……」
言い合ってるとワラワラ公安の人が寄ってくる。
「飼田さんも娘さんにはタジタジですね!」
「はっはっは。動画撮ってやりましょ。いい見せ物になりますよ!」
「おーい!飼田さんがまた娘ちゃんにドヤされてるぞ!面白いからみんな見に来いよ!」
「やめんか!!!!」
「パパ?」
「……はい。」
今日の説教は長そうだ。