side傷原流水
「緑谷くん。気が張れないなら個性の同時使用を少し抑えよう。エンデヴァーに言われた通り少しづつ着実に出来るようになろう。」
「はい!師匠!」
「緑谷少年。浮遊は安定しそうか。」
「まだもう少し慣れが必要です……例えば……」
「轟くんの炎はいい感じになったけど、まだ詰めれるね。氷ほどじゃない。イメージと反芻。頑張ってね。」
「はい。傷原先生は血を操作始めた時はどうだったんですか。」
「私?……私はね、応用じゃなくて初めて触るものだと思って、初めて個性を訓練してた頃みたいに……」
「…………なるほど。勉強になります。」
「そういえばエンデヴァーの試験の調子はどう?」
「それが……。」
「爆豪少年!少し動きが鈍いな。何かあったかい?」
「エンデヴァーに言われた事がまだ出来てねぇんだ。……クソッ。考えてる事が上手く纏まらねぇ。」
「ふむ。……1回書き出してみたらどうなんだい?整理するなら頭の中だけだと難しいことがあるよ。ノートとペンはある。やってみようか。」
「……ああ。」
「被身子ちゃん!捕縛布の動き少し甘いよ!相澤先生ともう少し慣らした方がいいかも!」
「わかりました!時間取ってもらいます!」
「うん!いい子!訓練休んでいいからね!」
「はい!」
訓練は順調。雰囲気も良し。密度も良し。迷った事、分からない事は私とオールマイトで支える。いい訓練だね。
本来緑谷くんの個性強化の為だったのが、みんなの為になってきてる。……A組B組も鍛えてあげたいけど、ワンフォーオールを知らない以上……下手な真似出来ない。
「今日は終わり。解散!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
片付けを終わらせて解散。帰ってゆっくり休んでね。
「轟くん。英語教えて欲しい所あって……。」
「いいぞ。寮でやろう。」
「……寝みぃ。」
「かっちゃん?宿題は?」
「するわ!ボゲッ!」
「爆豪も一緒にしよう。」
「誰がするか!!」
仲良しだねぇ。
「流水さん。私達も帰りましょ?」
「うん。オールマイト。私達も帰りますね。」
「ああ。気をつけてくれたまえ!」
オールマイトに挨拶して学校を後にする。
はぁ〜……最近みんな結構強くなってきたから……相当に厄介だね。……でも……敵連合の動きが読めない以上……彼らの強さはあった方がいい。
確実に並のヒーロー以上の実力を秘めている。これを続ければ……彼らはきっとトップヒーローに届く。
「今日も疲れました……課題が沢山です。」
「宿題?教えるよ。」
「それもそうなんですけど……流水さんみたいになるには程遠いなって。1回勝てた時も私9回死んでますし。」
あれは被身子ちゃんの作戦勝ちだと思うけどなぁ?……実践重視なんだね?
「……被身子ちゃんは強くなるよ。今の環境を全力で活かしていこ?」
「……流水さん。ハグしてください。」
「今?」
外だけど……被身子ちゃんが頷く。
「……いいよ?おいで?」
被身子ちゃんが躊躇なく飛び込んでくる。
私に覆い被さるようなハグ。まるで私を飲み込むような……全身を使ったハグ。
「被身子ちゃん。不安?」
「……はい。流水さんに追いつけないのが……とても嫌です。」
「大丈夫だよ?……私はずーっと同じ場所で待ってるから。被身子ちゃんのこと。私の事……誰にも渡さないんでしょ?」
「……はい。絶対渡しません。」
少し力が強くなる。本当に嬉しいな。
「今日一緒にお風呂入ろっか。」
「一緒にご飯作りましょう。……食べさせてください。」
「全部しよう?」
「一緒に。全部流水さんと一緒がいいです。」
「……私も。帰ろ?」
「はい!」
二人で手を繋いで帰る。この一時の幸せを噛み締めるように。
寝る前。
「あ、被身子ちゃん。明日少し私遅くに仕事があるから、ちょっと寮貸してもらってて?えーっと……20時には迎えに行くから。」
「お仕事お疲れ様です。……相澤先生には?」
「許可とってるよ。」
「わかりました。じゃあ色々準備しなきゃですね?」
「突然でごめんね?」
「いいですよ。壊理ちゃんともお話できますし。寮楽しいので。」
「ありがとう。被身子ちゃん。」
私は明日……異能解放軍の集会に行く。……何も無ければいいんだけど。
「……本当にここですか?」
山奥。鬱蒼と茂る森の中。気月さんと共に山道を少し歩く。
「誰も管理してないから……そもそも機能してるか不安だけど……あった。」
小屋。何も変哲のないログハウス。
「…………こんな場所に……電波も通ってないでしょ?」
「ここには色んな資料があります。拠点の場所……データが何かの間違いで無くなってしまった時……ここに来ればバックアップできます。同じような拠点が日本全国にいくつかあります。……ここはそのひとつです。」
なるほど。電波が通ってなくてもある程度活用出来るってことですね。
「……行くわよ。」
気月さんはドアのノブを上に5回下に3回ひねる。
ガチャ……
「……?鍵が…………かかってない?」
「……気月さん。私の後ろに居てください。」
「……わかったわ。」
鍵がかかってないということは……誰か無理矢理入った形跡があるということ。なにかがいてもおかしくない。
改めて私が扉を開く。引き戸。幸いドア裏は見なくてもいい。
中は広くて暗い。……暗いが……誰も居ない。上。部屋の隅。見渡したが……誰も居ない。ように見える。
警戒は解かない。……解けない。異様な匂いがする。
「明かりを……」
「わかったわ。」
パチン……
「何……これ……。」
「…………。」
気月さんが明かりを付ける。薄暗い照明と、荒らし回された部屋の惨状がなんとも言えない感情をくすぐる。
「……荒らされてるってことは……誰かが此処を知って何かを盗み取ったあと……ってことですよね。もしくは…………何かしら戦闘があったか。」
「…………誰が……。」
「…………。」
目線だけで情報を集める。焼け跡……クシャクシャになった資料……引っかき傷……
持ってきておいた手袋を付ける。
「……多分ここ。」
床に散乱している資料を拾い上げると……
「……これって……。」
赤い跡。……血痕ですね。
「血痕。……明らかにここで何かありました。固まってるのでだいぶ前みたいですね。」
「…………。」
「……焼け跡と……このクシャクシャになった資料。後者は多分この感じ、なにかで濡らされた物が乾いただけでしょうけど……水の個性と火の個性。……一概にはいえませんが、敵連合の可能性は充分あります。」
「敵連合…………やっぱり残党狩りを……。」
気月さんが悲しそうな目をする。
「気月さん。可能性です。」
「…………ごめんなさい。思考が凝り固まってたわ。」
「……ここに敵連合が来ただけでも……相当価値のある情報ですが……それ以上に……気になるものがありますね。」
「気になるもの……?」
「気付きませんか?……コレです。」
私はひとつの折りたたんである資料を取る。
「……それってただの資料じゃ……。」
「この資料だけ……踏み跡も傷も何も無いです。…………誰かがあとからここに来て紛らせるように置いた……と……まぁ邪推ですけど。」
私は折りたたんである資料を開く。
「…………これは……なるほど。」
「……え?……これって……。」
数刻後、私は気月さんをマンションに送った。
「……流水ちゃん。私は……もう少しだけ考えてみる。」
「…………そうですね。気月さん。……何かあったら言ってください。助けになれるか分かりませんが……話だけは聞きます。」
「……ありがとう。流水ちゃん。」
少しだけ悲しそうな顔をした気月さんはそのまま部屋に戻って行った。
「…………私も帰りましょうか。」
被身子ちゃんが待ってる。
今日の夜道は……少し寒いですね。
春はまだ遠そうです。