私のヒーロー   作:おいーも

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払えないなら

 

 

 

 

 

side傷原流水

 

 

 

 

「…………で?どうすんの?」

 

「…………どうするってなんだよ。」

 

 

目の前の2人……後ろ手で縛られて椅子に固定。目も隠されて抵抗はほぼ無理。

 

生意気な口を聞いた父親の方の椅子を蹴る。

 

 

ガンッ

 

「!?」

 

「なんだよ?……シラ切るならお前らの命なんてどうでもいいんだけどよ……契約書反故にするんなら話が別だよなぁ?」

 

「契約書…………?」

 

「なんだそれ……サインしたおぼえなんて……」

 

「あ?今更サインしてませんなんて言わせねぇぞ。」

 

持ってきていたPCのサウンドプレイヤーをONにする。

 

 

 

 

『わかった!10億で手を打つ!とっととよこせ!』

 

『まずは……書類の方が先です。』

 

『……ちっわかったよ。とっとと出せ。サインしてやる。』

 

『ご了承いただけで幸いです。』

 

 

 

 

 

「…………!もしかして……あの時の……。」

 

ジィィィ……

 

カバンを開いてPCを閉まって書類を取り出す。

 

 

「見えてないでしょうけど……契約書の写しもこちらにあります。後々知り合いの弁護士に頼んで公正証書にしてもらいました。ありがたいですねぇ。」

 

「まってよ!お金で取引するっていうだけの書類じゃなかったの!?」

 

「……分からない……あの時は浮かれてて……。」

 

 

はぁ…………そんなことだろうと思った。普通だったらサインしないですもん。こんな紙。

 

「なんでよ!!なんで読まなかったのよォ!!!」

 

「うるせぇ!お前は読もうとすらしなかっただろがよ!!」

 

「黙ってください。どちらのサインも頂いております。…………ですので。どちらも約束を反故にした場合……同じ罰則が与えられます。」

 

「罰則…………?なんだそれ……。」

 

 

私は書類に目を落とす。書いてある文章を説明してあげる。

 

 

「『壱.我々(以下乙)は傷原流水、又は飼田一狼、渡我被身子個人(以下甲)、もしくはその周りの人間に今後、何かしらの被害、心的攻撃を加えないものとする。

 

弍.乙は甲に対して故意に5m以内に接近しないものとする。

 

参.上記を違反した場合、乙はありとあらゆる処分を受けるものとする。』

 

……まぁざっくり言うとこんな感じですね。」

 

 

「は?……そんな書類が公正証書になるはずがないだろ!!」

 

「してもらったんですよ。知り合いの弁護士さんに。」

 

「ふざけないで!!ありとあらゆる処分!?何させる気よ!!」

 

「でもこんな書類にサインされたのはあなた方ですよ?」

 

「うるせぇ!そんな約束破棄だ!破棄!!」

 

「うるせぇなぁ?」

 

 

ガヅン!

 

椅子を蹴飛ばす。そのままバランスを崩して椅子ごと倒れる。

 

「ぐあっ!?」

 

「きゃっ!?何!?」

 

「大人の約束なの!印鑑までバッチリ押してもらってるの!お金が動いてるの!あんたらが使い切ったありえない量のお金が動いてるの!わかる!?10億だよ!?10億!!ガキの口約束じゃねぇんだよ馬鹿。んな事もわかんねぇのか。」

 

 

「ぐ…………知らねぇよ……読んでねぇよ……覚えがねぇよ……。」

 

「あぁ?お前らの家に公正証書の写し送っただろうがよ。ンで読んでねぇんだよ。お前らの怠慢だろ。」

 

「…………。」

 

 

母親の方がさっきから黙ってますね。……少しだけ警戒しておきますか。

 

「んでよぉ……この3つ目の項目だわな?ありとあらゆる処分。……何しようかすげぇ悩んだんだわな。……お前ら死んでも反省しねぇだろ?」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

 

「だったらよぉ……10億稼いで貰うのもありだよなぁ?」

 

「じゅ……10億だと!?そんな馬鹿げた金額払えるか!!」

 

「私は払ったぞ?」

 

 

父親の肩を踏みつける。

 

「うぐっ…………。」

 

少しづつ力を入れ続ける。

 

 

「私は払ったんだよ。被身子ちゃんの為にな?お前さん達は……約束破って何もしません泣きわめくだけですってか?みっともねぇなぁ?」

 

グリグリ……

 

「痛ぇ!?痛い痛い痛い!!」

 

「…………。」

 

 

「10億貰って引っ越して、タワマンいきなり住み始め、仕事はやめて、毎日パーティ三昧。お互い実家の縁なぞありもせず、自分たちのために金使えるんだもんな!?楽だっただろうよ。だがどうだ。周りの奴らはお前らのこと見抜いてたらしいな?どんどん孤立してどんどん除け者になって言ったらしいな?それでお互い精神病んで宗教団体に多額を寄付するキチガイ野郎になった訳だ。馬鹿じゃねぇのか。」

 

足を離してやる。まだ殺さない。殺すにしてももっと地獄を見てもらう。

 

 

「なんで……そこまで……」

 

「…………。」

 

「当然だろ。約束破ってないか見張りつけるのは当たり前の自衛だ。なんかあったら被身子ちゃんに被害が行くわけだからな。許しておけねぇ。」

 

 

「……くそっ……嵌めやがって……。」

 

「なんとでも言え。お前らの身柄は私の匙加減でどうとでもできる。お前らの立場がどんどん悪くなるだけだぞ。」

 

「うぐぐぐ……。」

 

「んで……どうすん……だ……ん?」

 

 

 

ブロロロ…………

 

外が騒がしいな……何だ?

 

 

「あははははははっ!!」

 

急に母親が笑い出す。

 

「何がおかしい!」

 

 

「バカね!時間をかけすぎなのよ!!私が隠し持ってたGPSにも気が付かずに!!助けを呼んでいたのも気が付かずに!!」

 

「……。」

 

 

コイツ……ちょっとめんどくせぇな。どうすっか…………。

 

音的に……2台……3台くらいか。

 

 

「あははははははっ!あはははははははっ!!早く離した方が身のためじゃない!?」

 

「そうだぞ!!早く離しやがれ!!この野郎!!ボコボコにしてやるからな!!!」

 

調子に乗りやがって……。もういいや。始末するか。こんなヤツら数秒でいけ……る。

 

 

ん……?

 

 

 

…………なかなか乗り込んでこねぇな??

 

「…………。全然乗り込んでこないですね?」

 

「…………は?だって私たち……いっぱいお金寄付したのよ!?」

 

 

…………あー。読めた気がする。

 

「…………えーっと……それって?」

 

 

ガラッ……

 

重い鉄製のドアが開く。

 

 

 

「ご無事ですか。」

 

白体教の皆様……しかも右腕ちゃん……生重院千棘(きじゅういんちとげ)ちゃんの班じゃん…………こんな山奥まで……。何やってんだコイツら……。

 

 

「…………ハァ。」

 

頭を抱える。

 

「あはははははっ!!助けが来ちゃったわね!この状況どう説明するの!?」

 

「助けてください!この気が狂ったな女に捕まったんです!協力者もいます!!」

 

「…………。」

 

まだ状況を理解できてない馬鹿二人。……頭痛くなってきた。

 

「お黙りなさい。」

 

「あははは…………はぁ?」

 

千棘ちゃんが私に駆け寄る。

 

「傷原様。ご無事ですか。」

 

「ごめんね。右……千棘ちゃん。私がとっとと始末すれば良かったね?」

 

「いえ。傷原様は何も悪くありません。私共の報告が遅れたのが悪いのです故……謝られると困ってしまいます。」

 

 

「……はぁ?」

 

「ちょ……ちょっと待ってくださいよ!…………私達を助けに来てくださったんじゃ…………。」

 

まだ気付いてない2人。

 

「なぜ助ける必要があるのですか。」

 

「なぜって……だって俺達はあなた達に沢山寄付して……。」

 

 

「旦那様。あなたは白体教の教団員……しかも私の班の子に口説いていたのを知っております。」

 

…………猿ですね。寄りによって千棘ちゃんの班か……千棘ちゃん怒ると怖いからなぁ〜。

 

「!!」

 

「はぁ!?私というものがありながら!!何それッ!!」

 

「奥様。あなたはあなたで白体教の教団員に無礼な態度を取っていたのを知っております。」

 

「…………!!」

 

こっちもだったか。……金稼いでもらおうと思ったけど…………こりゃ無理かも。

 

 

「……はぁ。……いくら金積んだところで助けられるほどの人格者じゃなかったって事ね。……なんか改めてごめんね皆。」

 

「いえ。傷原様。謝らないでくださいまし。」

 

後ろの子たちも首を振ってる。可愛いね。癒しだよこの場の。

 

 

「……ですので。我々がこちらに来たのは……傷原様のお手伝いです。」

 

「え……?」

 

「なんだって……?」

 

 

え?……あぁそういうこと?

 

「いいの?」

 

「はい。教祖様から傷原様のお手伝いをしろと言伝がありまして。私共も日頃の鬱憤がありますし……調度良いなと。……掃除も……しないといけないですしね?」

 

「…………いいんだ?」

 

「はい。教祖様の許可が出ております。この者達はお互いの両親から既に絶縁を言い渡されております故……消えても……何も問題がありません。」

 

「「!!」」

 

「ふーん。」

 

白ちゃんやるねぇ?

 

 

「ま……待ってください!!謝ります!!謝ります!土下座します!靴舐めます!お金10億集めます!許してください!許してください!!!」

 

「許してくれ!!まだ死にたくない!!金か!?金が欲しいならすぐに集める!!被身子に接近したことは謝る!!さっきの発言も謝る!償う!助けてくれぇ!!」

 

 

椅子をガタガタさせて大声で許しを乞う2人。無様ですね。

 

私はカバンからゴム手袋を取り出す。

 

……パチン……パチン

 

千棘ちゃんもやる気だ。

 

「……えぇ?私がするよ?」

 

「私も少なからず恨みはあります故……私の班の者に無礼を働いた償いをしてもらわないといけません。」

 

ベキベキベキ……

 

 

千棘ちゃんの髪の毛が音を立てて尖る。

 

生重院千棘……個性毛虫。毛虫っぽい外見で、体毛が全て針のように出来る(毒持ち)。軽度から重度の毒まで調整できる。針は射出可能。毛が生えてないところはツルツルぷにぷに。まぁ顔はほぼほぼ虫の近いから白体教にいるんだけど。可愛いのにね。ちなみに腕は8本ある。普段は色んなところに隠してるんだって。

 

棘を全開放した姿は……綺麗な青髪が煌めいて……本当に綺麗。

 

 

「本当に綺麗だねぇ。」

 

「……そんなこと仰られるのは傷原様と教祖様だけです。」

 

「被身子ちゃんもそう言うよ。班の子も思ってるよねぇ?」

 

後ろの子達みんな頷いた。

 

「あなた達……ふふっ。ありがとうございますね?」

 

 

 

「毒どれくらいにするの?」

 

カバンの中からビニールのエプロン、マスクを取り出す。血……出ないようにするけど一応ね?

 

「激痛を感じて欲しいので殺さない程度にします故……傷原様お願いしてもいいでしょうか。」

 

「はーい。じゃあ私がやるね。」

 

エプロンとマスクを手際よくつける。慣れたもんだね。

 

 

「いやっ!!やめてっ!!」

 

「嫌だ……嫌だ……。」

 

ふたりが逃げようともがくが……もう無理だ。

 

 

「くっさ。……小便漏らしたね?」

 

「掃除が大変なんですから……巻き散らかす体液は血液だけにしてください。これはとりあえず私の分です。」

 

 

千棘ちゃんが髪の毛を1本抜いて女を狙う。

 

ブス……

 

 

「ぎゃっ!?……痛い!!痛い痛い痛い!!」

 

「ひぃっっ!!!!」

 

躊躇なく女の太ももに1本。

 

「ふむ。それでは次は私の班の子達の分です。……聞いてる限り6人分なので覚悟をしてくださいね?」

 

「痛い痛い痛い痛い!!だずげで!!!」

 

「うわあああああっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

針達磨になった女。

 

「あ……あぁ……あ……」

 

「おー……生きてる。上手いね?」

 

「はい。途中で鎮痛作用のある麻薬性の毒に切り替えました。多分あと数分はあんな感じですよ。」

 

「じゃあ処理しちゃおっか。男の方お願いね。」

 

「かしこまりました。」

 

「やだ……嫌だ……嫌だ!来るな!やめろ!!うわああああああああああっ!!!!!」

 

 

ブス…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車のドアを開けてもらう。

 

「ごめんね?車まで出してもらっちゃって。」

 

「よろしいのです。我々もあの方たちには飽き飽きしていたので……久しぶりに個性を使いましたが、どうにでもなるものですね。」

 

帰り道。車に乗せてもらった。今は家の前。

 

ひと仕事終えた後だけど皆和気あいあいとしてる。

 

「みんなも肩の荷がおりた感じだね。よかったよかった。」

 

「傷原様のおかげです。ありがとうございます。」

 

「ううん。そんなことないよ。また遊びに行くね?」

 

「はい。皆総出でお待ちしております故。」

 

私が車から降りると、皆が深々と頭を下げて車に乗り込む。

 

そのまま見えなくなるまで手を振っておいた。

 

 

 

あいつら?今地面の中にいるんじゃない?どうでもいいよ。

 

 

 

 

「ただいまー。」

 

「流水さん!おかえりなさい!」

 

被身子ちゃんがエプロン姿でお出迎え。パタパタと鳴るスリッパが可愛い。

 

「終わったよ。全部。」

 

「……良かったです。これでもう関わることは無いんですね?」

 

「うん。お疲れ様。……もうひとりで外に出ちゃダメだよ?」

 

「はーい。……ご飯食べます?」

 

「いい匂ーい。今日は何?」

 

「寒いのでビーフシチュー作ってみました。いっぱい愛情込めてますよ?」

 

「え〜……そんなの絶対美味しいに決まってるじゃん。楽しみ。」

 

「ふふふっ。手洗ってきてくださいね?」

 

「はーい!」

 

 

 

また夜が老ける。

 

なにも無かったように。

 

これが私の仕事。

 

皆が何事もない日常を過ごすための……誇り高い社会の汚点。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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