side傷原流水
「……ふぅ…」
緊張する。私は今天下の雄英高校の目の前にいる。
今年からこの学校で働く都合、事前に挨拶があった方がいいし、何より職場を見ておきたいという気持ちがあった。
パパに相談したら
「オールマイトさんがどうにかしてくれるって。」
と言われたのでオールマイトと色々連絡を取りあった結果、入学式の二日前。雄英高校の校門前で集合と言われた。
えぇ……?先生方超忙しいんじゃないの?大丈夫?
……とりあえず10分遅刻してるからオールマイトには怒らないとね。
「済まない!ちょっと遅れたかな?」
そこから10分さらに遅れてオールマイトが雄英高校から出てきた。山吹色と黒のストライプのスーツ。オールマイトっぽいっていえばそうだけど、トゥルーフォームだと……似合わない。
「……ちょっとどころじゃないです。……トゥルーフォームだけど大丈夫なんですか?」
「大丈夫さ!皆……教師陣は事情を知ってるからね。」
「……ふーん。ま、いいですけど。」
「ささ!こっちさ。案内しよう。」
案内も何も卒業生ですし……という言葉は飲み込んだ。ここは先輩の顔を立ててあげよう。……数日くらいだけど。
案内されたのは校長室。
「ここだよ。」
「…………まぁ…案内されるならそうだと思いましたけど…………いざ目の前にすると……緊張……しますね。」
「……君の過去は一応聞いたよ。……まぁ……あんまり悩むことはないんじゃないかな?」
「そりゃそうですよ。根津校長は優しいですし。……ふーっ……行きますか……。」
オールマイトがノックを3回。
「根津校長。傷原くんを連れてきました。」
扉越しに懐かしい声が聞こえる。
「うん!入ってきていいよ!」
「失礼します。」
オールマイトが校長室に入る。
「し……失礼します。」
私も後ろからついて行く。
……オールマイトが大きすぎて前全く見えないんですけど?
「はっはっは!オールマイト。君が前だと傷原ちゃんの姿が全く見えないじゃないか。……感動の再会さ。少し横にズレてくれたまえ。」
「とっととあっちに言ってなよオールマイト。私の愛弟子の顔が見えないじゃないか。」
懐かしい声が聞こえる。根津校長だけじゃない。リカバリーガールも居る。
「わっ……わかりました!では失礼します!」
オールマイトがそそくさと校長室を出ようとする。
「あ!オールマイト。あと10分くらいしたら相澤君をここに呼んでくれたまえ。少しだけ話があるからね!」
「はい!わかりました!」
オールマイトが校長室を後にする。
「さてと。」
こちらにふたりが向き直る。……私は…
「……根津校長……リカバリーガール…………連絡出来ず……申し訳ありません。」
頭を下げていた。
片親で……しかも血が繋がってなくて……同級生は愚か、ほぼ全ての生徒から腫れ物扱いされる私を支えてくれた2人。
連絡しようと思えばできたはずなのに。とんだ恩知らずだ。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか……
私は2人に抱きしめられていた。
「何を言っているんだ君は。君が経験した不条理。不理解は僕たちの責任さ。寧ろ嫌われているとさえ思っていたよ。……オールマイトのためとはいえ、僕たちの要望を飲んでくれて嬉しい。」
「そうさね。根津の言うこともそうだけど、私はあんたが元気なだけで充分だよ。頑張って社会に貢献してるみたいじゃないか。……私としては医療従事者になって欲しかったけどね?また会えて嬉しいよ。」
涙があふれる。暖かい……心が満たされる。
大人になってまで泣くなんて思わなかった。
「ありがとう……ございます……ありがとう…ございます。」
私も2人に抱きついていた。さっきまでの緊張はどこへやら。
「イタタタ……少し加減をしてくれよ。僕はネズミだよ?」
「我慢しな根津。教え子の愛を受け取れないのかい?」
「ごっごめんなさい!大丈夫ですか??」
慌てて手を離す。根津校長は類を見ない人格者で且つ指導者だが、身体はネズミだ。力加減を間違うと大変なことになる。
「ハッハッハ大丈夫さ!僕はこれでも頑丈だからね!」
「骨折くらいなら治してあげるよ。」
「骨折はしてないから安心してくれ!……じゃあまずは君の近況報告が聞きたいな!」
「近況報告……ですか?」
「既に色々調べてはいるんだけど、公安も強固だね。君の情報はほとんど出てこなかった。」
「あんたの仕事、私達に聞かせておくれ。心配かけたって思ってるんだろう?それが筋だよ。」
「……っはい!」
「まぁまぁ腰をかけてくれたまえ。少し込み入った話はもう少ししてからしよう。」
それから色んな話をした。
仕事のこと。
オールマイトとの契約のこと。
被身子ちゃんを拾ったこと。
被身子ちゃんが雄英に入ること。
2人は笑顔で私の話を聞いてくれた。この時間がもっと続けばいいのに。
ほんのちょっとだけの後悔。
もっと早くもっと沢山話しておけばよかった。
コンコンコン
私たちの会話はノックで中断された。
「根津校長。相澤です。」
「相澤くん。入ってきていいよ。」
「話はまた今度だね。……これからはいつでも聞けるからね。」
「はい!」
「失礼します。……。」
全身真っ黒の男の人が入ってきた。
一瞥。疑問、困惑と……ちょっとだけ理解?なんだろう。
ていうか……この人……
「イレイザーヘッド……ここの教師だったんですか……。」
「ん?彼を知っているのかい?」
「……過去の事件に目を通してた時に、名前と姿を見ただけですけど……」
「根津校長。彼女は……」
「ああ!その話をしたくて君を呼んだんだよね!座ってくれたまえ。」
「それでは……失礼します。」
髪はボサボサ。髭は剃ってない。なんというか……ズボラな印象を受ける。
まぁこれでも仕事は完遂するんだ。……今のコンテンツ化したヒーロー像とはかけ離れるけど……。
「話っていうのは簡単さ。相澤くん。君には新入生のクラス、1-A組を担任してもらう話になっているよね?」
「はい。それは大丈夫ですが……」
「君のクラスに渡我被身子って子が入ることになっているんだ。」
「……それがなにか?」
なんだその含みは。……今はあまり気にしないでおこうかな?
「その子の個性の問題でね!君にも頭に入れておいて欲しい話なんだ。」
「……拝聴します。」
「うん!渡我被身子……彼女は個性の影響で血に興味があるらしくてね?」
「血……ですか。」
「時々吸血衝動に駆られるらしいんだ。」
「……拘束しろということですか?」
少しだけムッとなる。まぁそうしてくれた方がお互いの為だけど……
「それは最終手段さ!一応彼女は吸血パックを幾つか持たせる話になっているから、多分衝動自体は起きないとは思う。でもそれでも吸血衝動が起こった時、彼女……傷原ちゃんに連絡を入れて欲しい。」
「……」
「彼女は今年この高校の教師になる予定でね!保健室のリカバリーガールの補佐兼、色んな授業の補佐をしてもらう予定さ。……オールマイトのこともあるしね。戦力増強も兼ねての教師増員さ。」
「校長が決めたことなら従うだけです。」
「うん!君ならそう言ってくれると思っていたよ。連絡手段は傷原ちゃんにブザーを渡しておくから、君はスイッチを押すだけでいいよ!」
「わかりました。それだけですか?」
「うん!それだけだよ!お仕事中に申し訳ないね!」
「いえ。大丈夫です。」
イレイザーヘッド……相澤先生は校長室を後にした。
「失礼しました。」
「なんというか……なんて言うんでしょうね。合理的?機械的?」
一応言っておくが、ああいう合理的な人は嫌いじゃない。人間味を感じられない方が取っ付きやすい。
「あれでもヒーローとしての腕も教師としての腕も充分だよ。……もう少し愛想良くしてくれればね。」
「ハッハッハ!彼は仕事はきっちりとやり通すタイプさ!心配することは無いよ!」
リカバリーガールと根津校長が言うんならそうなんだろう。ひとまず安心。
そういえば……
「…………私の自己紹介のタイミングすらなかったですね。」
「大丈夫さ!一応教員には傷原っていう名前のヒーローが教師になることは伝えてある。また出勤初日にでもみんなに紹介しよう!」
「わかりました。私は基本的に保健室に居ればいいですか?」
「そうだね。会議にも出てもらう可能性はあるけど、君の仕事はリカバリーガールの補佐と、この学園の警護及びオールマイトのサポートだ。何も無ければ保健室にいてくれて構わないよ。」
「わかりました。……改めて聞くと多忙ですね。」
「特殊だからね!大変だけど頑張ってくれると嬉しいよ!」
「私の補佐だから時々病院にも顔を出してもらうことになるよ。」
「うげー……まぁ良いですけど。結構お金もらってますし。」
リカバリーガールが行ってる病院……あそこ行くと色んな仕事頼まれるから嫌なんだよね。
「ハッハッハ!現金だね!」
「変わらないねぇ本当に。……親孝行はできてるかい?」
「それなりに。」
文字通りそれなりなんだよね……もうちょっとパパとの時間増やそうかな?……被身子ちゃんも一緒にね。
「……時間もいい感じだね。じゃあ今日は一旦解散だね!」
「そうさね。あまり拘束するのもあれだしね。」
「……ありがとうございます。楽しかったです。」
「そう言って貰えると嬉しいよ!……時々校長室にもおいで!お話しよう!」
「はい!ぜひ!」
次は被身子ちゃんの番だ。
友達いっぱいできるといいね。