side気月千歳
「気月さん!こちらの書類なんですが……」
「こういう方針で記事を纏めた物を出版すれば……」
「気月さん。午後からは……」
忙しい日々。あの大戦から10年がたっても変わらない事実。
あの大戦に…………私も出ていた可能性があったと思うと……今を享受できるこの瞬間は……すごく幸せなのかもしれない。
「ごめんね。今日は午後から少し顔出してこないといけない場所があるの。急ぎの用事?」
「いえ。後日でも可能です。」
「じゃあ後日。」
集瑛社。私の務めている会社。専務という立場だったのが、先の大戦で数多くの社員を無くし、何とか形あるものにまで持ってこれた現状。昔通りとはいかないが、今や私ですら慌ただしく動かないと回らない。
……でもこの予定だけは絶対に外せない。……外してはならない。
あの日。キュリオスは流水ちゃんに救われた。
共に栄光を掴むはずだった。共に革命を成すはずだった。共に力をつけてきたはずだった。共に…………死ぬはずだった。
全てが狂ったあの日。キュリオスは無様に生き延びた。
リ・デストロを問いただした。
帰ってきた言葉は……まさにキュリオスが異能解放軍としての活動を辞め、私に戻るためのきっかけだったかのしれない。
指定の小屋に行ったあの日。私は流水ちゃんとあるものを見た。
それは……ひとつのメモだった。
『キュリオス。
お前がここに来る。そしてこれを見つけると願って。
生き残っているのであれば、我々の最後の頼みを聞いて欲しい。
それはこの場にリ・デストロがもしもの為に用意していた全てを持ってきて欲しい。
これで晴れて君は自由だ。
これはリ・デストロの最後の命令である。
スケプティック』
……きっとリ・デストロは、流水ちゃんが私を助けると踏んでいたんだろう。スケプティックに頼んだんだ。
故に……私はリ・デストロが脱獄の後の為……補助をした。
連絡機器。食べ物。服。全てを集めた。瓦礫の中から。
流水ちゃんも協力すると言っていたが、私だけでやった。流水ちゃんの手をこれ以上汚させないために。
これが成功してしまえば……間違いなく私は脱獄犯の補助をした事になる。
……元々異能解放軍という犯罪組織に所属していたのも相まって、捕まれば良くて多額の慰謝料と数十年の懲役……最悪タルタロス行きだろう。
罪の意識はあった。
流水ちゃんに助けられた手前。リ・デストロに夢を見いだせなくなった。共に生きるのを拒まれたのだ。当然だと思う。
でも……縋ってしまった。
集めてしまった。リ・デストロが求めたものを。
あれだけ何もしないと言っていた流水ちゃんは、知人に頼んで義足を作ってもらったらしい。……渡された時は相当困ったが、受け取ることにした。そして小屋に全部保管した。
そうしてヒーローと敵の日本中を巻き込んだ最終戦争が始まった。私はただ見てるだけだったが、映像が流れる避難所で何も先を見いだせないまま項垂れていた。
リ・デストロから連絡なんてあるはずがない。……私は異能解放軍を捨てたんだ。
ぼんやりと映るディスプレイの光。それが少しだけ鮮明に見えた気がした。
「……リ……デストロ?」
映像にリ・デストロが映っていた。敵連合の幹部と戦っているとの事。…………ヒーローと共に。
「ど…………どうして…………」
その映像に見えたヒーロー……流水ちゃんだ。
きっとリ・デストロは最後の最後まで流水ちゃんのことを思っていたんだと思う。革命の事以上に……流水ちゃんが頭を支配していたのかもしれない。
革命を起こす前に、自分の未来を任せれる存在が……彼の目の前に現れてしまった。
幸か不幸か……彼は魅入ってしまった。彼女の自由に。
私は後悔した。
何が自由だ。何が異能解放軍だ。
何も変わっちゃいない。私はずっとずっとずっとずっと異能解放軍一筋だったのに…………
当のリーダーは……既に失敗する先を見据えていたなんて。
私は何も知らず……その手助けをしていたなんて。
きっと私に決意なんてものはなくて、私を導いてくれる人が欲しかったんだ。
じゃあ今のキュリオスは何がしたいの。今の私はなんなの。今……私(キュリオス)は何をすればいいの。
目標が……理想じゃなくなった。……理想じゃなかった。
この複雑な気持ちになにも整理なんて着くはずもなく……そのまま戦争は終わってしまった。
いつも通りの道を歩く。
街はいつも通り。滞りなく時間を刻む。
昼過ぎ。ランチは終わらせた。……お土産何がいいかしら。
ちょうどいいケーキ屋さんがあったから入る。
あの子たちは……
「すみません。このいちごタルトまるまるひとつください。」
「はい。かしこまりました!」
甘い匂い。きっと好きだろう。
私の罪はきっと拭えない。
あの時ほど全てを見失った時はなかったけど……
あの時ほど流水ちゃんに助けられた日はなかったけど……
今私が罪を拭えるとしたら彼女だけだから。
自己満足かもしれない。
本人は全く気にしてないかもしれない。
でも。
だとしても。
「こんにちは!」
「あっ。気月さん。流水ちゃん呼びましょうか?」
「ふふっ。お願い。冬美さんは今日も綺麗ね?」
「もう!お世辞がお上手ですね?」
私は今日も静かに罪を背負うのだ。