side筒美火伊那
「……。」
「え……なにこれ。スナイパーうさぎ?」
「……。」
「……ナガンさんこれ欲しいの?」
「……。」
「……クレーンゲーム苦手なんだ。」
「……。」
「…………取れなかったんだ。」
「……うるさい。」
仕事終わり。暇だからとスーパーに買い物に行ってる流水ちゃんについて行った帰り。ゲームセンターのクレーンゲームに目がいった。
大きいぬいぐるみ。可愛い。欲しいって思って……
ガチャガチャやってたら……
お札が2枚飛んだ。
「……貸してみて?」
「……。」
流水ちゃんが前に出る。キョロキョロと横から……前から……と見ながら、
「うん。……これなら行けそう。」
とチャリンと1回。
少しづつアームで人形を動かす。
2回。3回。
「……多分これでいけるよ。」
「……本当かい?」
「まぁ見てて。」
あんなにアームで掴んだのに持ち上がらなかった。絶対に無理だって思ったのに……
「……持ち上がった……」
タグの輪っかにアームを引っ掛けて持ち上げてる。上手い。
ガコン……
「はい。取れたよ。」
「…………ありがとう。」
ぎゅっと抱きしめる。新品の人形独特のひんやりとした感じと、布の匂い。少し落ち着く。
「んふふ。いいってことよ!」
「なんだいそれ?」
流水ちゃんはよく分からない。本当に。
それこそ私が服役してる頃から。
初めて会った時、私の後釜だと。私が公安の都合で捕まってることを謝罪してきた。この子は全く関係ないのに。
何度も面会に来た。何度も何度も。不思議というより不気味だった。
私は拒絶した。拒絶してたんだ。
……でもなぁ。
「んっふふ〜!ナガンさんは今日何食べるの?」
「んー……流水ちゃんと冬美ちゃんに作ってもらったタッパーが余ってるからねぇ……」
「えぇ?まだ余ってるの?日持ちしないよ。」
「こーいうのはゆっくり食べたいんだよ。」
「また作るのに。」
「それでもさ。」
「ふーん?」
「美味いもんは最後まで取っとくタイプなんだよ。」
「……ふひひ……そっか!」
この笑顔だ。この笑顔で……私は心を開いたんだ。
私の後釜なのに……こんなに笑える社会になったんだと。それがこの子の頑張りなのかどうなのかは不明だけど。
「次いつ作りに行けばいい?」
「ん〜……今週中は大丈夫そうだね。」
「じゃあ今週末だ。また冬美ちゃんと家にお邪魔するね。…………部屋綺麗にしておいてよ?」
「善処する。」
「不安〜。」
こんな雑談ができるくらい。人殺し達が雑談できるくらいには平和な社会。
私達が居なかったら成り立たなかった社会。平和を当たり前に享受する人間が暮らす当たり前に平和な社会。
思い返せば不安な社会だけど……
「……平和だね。」
「……今はね。」
「そうだね。」
この社会を守りたいと。少しでも思える。
私のためだけじゃ無いとはいえ、みんなの為に事務所を作って。受け入れて。本人が嫌ってるビルボードチャートに入って。
自分を犠牲にすることを全く厭わない私の恩人を、少しでも助けたいと思えるなら。
「……この社会は多少美しいんだろうね。」
「……?」
「こっちの話さ。」
「ふーん?」
シャバに出てきてよかったと。ほんのちょっぴり思えた。