side心操人使
「ハァ……ハァ……」
あれから相澤先生に掛け合ってみた結果、自分の個性と入学試験の兼ね合いや、傷原先生の紹介も相まって訓練を受けさせてもらう事になった。
どんな訓練なのか……とか
何が必要なのか……とか
ある意味楽観的だった自分は……後悔することになった。
少しだけアイツの事を……渡我被身子の事を見下してたのかもしれない。
A組は今話題の渦中だ。鼻が高くなってるんじゃないか……と。
考えてみれば当然だ。急に犯罪者集団にぶち込まれて、個性ありとは言え死傷者0で生還出来てるんだ。
才能もそうだけど……努力の形も人一倍なんだって。
理解してるつもりでも……体感してみると明らかな差がある。
「心操。あと1周。」
グラウンドの走り込み。まずは体力から。
当たり前だけど量が多い。
ペースは落ちてるが……やらないといけない。強くなるために。ヒーロー科に行くために。
かくいう渡我は……既に走り込みを終えてストレッチも終えて別のトレーニングをしている。意味がわからない。
途中2回くらい抜かされた。
どんな訓練したらそんな体力と健脚が出来るんだ?
「ハァ…ハァ…ハァ…」
走り込みも終わり、地面に寝転がる。
辛い。きつい。汗が止まらない。
「心操。ストレッチで身体伸ばしておけ。痛めるぞ。」
「ハァ……ハァ……はい。」
呼吸を少しだけ整えて、教えられたストレッチで身体を伸ばす。
「お疲れ様です。心操くん。根性だけはありますね。」
渡我が水を持ってくる。
「……ハァ……ハァ……余計なお世話だ。……それよりあんたの体力どうなってんだ……。」
水を受け取り1口。
「…あんたじゃないです。渡我です。……私は流水先生……傷原先生の力になりたいだけです。こんな所で止まってられません。」
なんというか……こいつ……渡我被身子も相当変なやつで。
話してみるとそうでもないんだが、傷原先生の事になると目の色が変わるというか……雰囲気が変わるというか。
なんて言うんだろう。餌を目の前に置かれた猛獣みたいな……少し怖い。
「渡我。お前は操縛布の練習だ。……まぁもう既にある程度形になっているが、詰めれるところは多い。確実に扱えるようになるまでするぞ。」
「はい!じゃあ行ってきますね。心操くん。」
「心操。お前はもう少し体作りだ。それが終わり次第渡我と一緒に俺と組手だ。」
「げ……はい。」
今日はもう少しだけこの地獄は続きそうだ。
相澤先生と組手を初めて5分。
既に捕縛布にぐるぐる巻きにされて木の枝に吊るされてる俺は、渡我被身子の組手を見ていた。
相澤先生は捕縛布込み……渡我被身子は……なんだあれ。紐の先端に刃物?みたいな武器と捕縛布……じゃなくて操縛布って言う少し軽いものを使ってるみたいだ。
お互い布を躱し続けて一進一退。……相澤先生の方がちょっと有利か?
捕縛布の扱いと、全体的な速度が一段二段違う気がする。
「2人とも頑張ってますね。」
急に下から声がしてびっくりする。
「うわっ!?……傷原先生か。」
この人身長が小学生並だから急に来られるとびっくりする。
「……今思ってた事は不問にします。」
「なんでわかるんですか。」
「勘です。」
この人も大概意味不明だな。
「被身子ちゃーん!頑張ってー!」
そんな声をかけた途端……渡我のギアが一段上がった気がする。
「もう……張り切っちゃって。動きは……丁寧だね。よしよし。」
「……すげぇ…あそこからまだ……」
「ふっふっふ。凄いでしょうちの被身子ちゃん。」
胸を張って偉そうに答える傷原先生。
実際すごいのだから何も言えない。
「……あっそこの足はイマイチ。……そこもう少しだけ右に投げれば……おっそれはいいね。……ちょっとだけ体力がもたないかな?…うんうん。…立ち回りに縄鏢と捕縛布をどちらもいい具合に混ぜてるね。いっぱい研究したのかなぁ。」
……この人は……目か?目が凄いのか。
情報処理能力もさることながら……目だな。目がすげぇ。
些細な変化、相手の感情。思考。なんでもわかっちまう目。
「……バケモノ揃いだな。ほんとに。」
相澤先生に投げ飛ばされて、捕縛布に捕まった渡我を見ながらそう思うのだった。
side傷原流水
「うわーん!流水さんが見てたのに勝てなかったー!!」
「……まだ負けてやらん。」
被身子ちゃんはイモムシみたいにぐるぐる巻きになってる。これはこれで可愛いね。
「被身子ちゃん頑張ってたと思うけどなぁ?相澤先生も割といっぱいいっぱいだったでしょ?」
「……たしかに動きと身体は上々です。……あとは経験でしょう
か。」
経験か……確かに実戦的な訓練はいくつかしてるけど、経験って面ではまだまだ足りないのかも。
「ふーん。…それはインターン次第ですね。」
「はい。インターンが始まって……どうなるかって感じですね。」
「流水さん!可愛い彼女が泣いてるんですよ!慰めてください!!」
イモムシ状態になった被身子ちゃんがぴょんぴょん跳ねてくる。
「はいはい。しょうがないわね?こんな子供だったかしら?」
頭を撫でてやると途端に機嫌が良くなる。猫か。
「……動いてる時はかっこいいんだけどな?」
相澤先生に解いてもらったであろう心操くんが話しかけてくる。
被身子ちゃんはいつでもかっこいいし、いつでも可愛いんです。
「……なんですか心操くん。30秒くらいで負けてたくせに。」
「だってしょうがねぇだろ!?まだ始めたばっかりなんだよ!」
「無様でしたね〜…一瞬でくるくる巻き巻き。吊るされてる姿はミノムシみたいでしたよ?」
「ぐっ……そう言われると何も言えねぇ…。」
訓練一緒に初めて2日。結構仲良しになったね。良い事良い事。
「渡我。心操。そろそろもう1セット行くぞ。」
「はーい。」「うっ…はい。」
「私はちょっと校長先生にお話があるのでこれで失礼しますね。被身子ちゃん。頑張ってね?」
「はい!!今日も一緒に帰りましょうね!」
「うん。図書館で待っててね?」
「はい!」
「仲良いですねほんとに。」
「間に挟まろうとするなよ。うちのクラスの女子(一部男子からも)から総攻撃されるぞ。」
「……怖。」
コンコン
「根津校長。傷原です。」
「入っていいよ!」
「失礼します。…オールマイトも居たんですか。」
「HAHAHA!居ちゃダメかね!手痛いね!」
無視無視。構うとろくなことが無い。
「……根津校長。先日の事件の事で少しお話が。」
「……わかった。聞こうじゃないか。」
「色々調べてみた結果、通信設備、セキュリティ設備どちらも不備はありませんでした。通信をジャックされたのは個性の可能性があります。」
「……物理的じゃないってことだね。……個性か。」
「あとはあの脳無という生物。リカバリーガールに調べてもらったのも相まってひとつの結論が出たのです……仮説に過ぎませんが。」
「聞こう。重要そうじゃないか。」
「オールマイト。あなたにも関係のある問題かもしれません。」
「……なんだって?」
「あの脳無という生物。元人間で個性を複数所持している異常個体なのはご存知ですよね?」
「うん。研究結果からそうだと断定されたね。」
「……人の個性は一人ひとつ。おかしいですよね。個性が複数なんて。それも……まるでオールマイトを倒すためだけのような。」
「……何が言いたいんだ。」
「…………個性を与えられた。可能性を考えまして。」
「!!」「!傷原ちゃん……それは」
何か知ってるな?2人とも。
「少し前……数年ほど前でしょうか。同じような個性を与えられた人が起こした事件……ありましたよね?」
「「………」」
「深くは語られておらず……事件情報もほぼ隠蔽。よほど捜査されたくない事のようですが……個性を与えられた者が犯した犯罪……と言うことは情報を得ました。」
「………つまり……何が言いたいんだ。」
「私は裏で暗躍していた『先生』。奴を事件の同一人物だと認識しています。個性を与えることの出来る人間。個性を与える個性……とでも言いましょうか。……あなたの個性に一部酷似してるんです。オールマイト。」
「………」
「説明をしてください。個性を渡す個性と……個性を奪う個性。この事件の裏できっと暗躍しているやつは…」
「そんなはずは無い!!」
オールマイトの激昂。私は動じない。動じてはならない。
「私は……頭を破壊したんだ!そいつの!脳をだぞ!?……殺せてないだなんて……有り得るものか!!!」
「……では。死体は確認しましたか?」
無慈悲だが突きつける。現実を。
「…………」
「やつが本当に死んだと。奴の死体の処理を。確認しましたか?あなたの目で。」
「…………」