side白灘珠世
「……」
静寂。
私はアクリル板越しに1人の男を見つめる。
「…………」
目の前の男は拘束具で縛り上げられ、私ではなく虚空を見つめている。
白灘睦月。私の愛おしくて馬鹿な弟。
そう。今私は刑務所……面会室に来ている。毎月の日課。睦月が捕まったその日から。
「……」
お互い何も喋らない。
睦月は以前、超常解放戦線として……敵連合として日本のプロヒーロー達と戦った。そうして捕まった。
おかげで今は死刑囚だ。……かれこれもう10年以上経つ。もう死刑が行われても遅くは無いだろう。
「…………」
私は何度も睦月と面会に来た。それは睦月に謝って欲しかったからでも、過去の行いを悔いて欲しかった訳でもない。
「……睦月。」
「……」
「私の父と母をどこにやったの。」
「…………」
そう。睦月が敵連合として動いていた期間、父と母が突如として姿を消した。そのポストに睦月が難なく収まっていたので不審に思って流水ちゃんに調べてもらったんだ。
するとおかしいほどに何も出ない。本当にただ忽然と居なくなった。警察もお手上げ。探偵どころか流水ちゃんが調べても何もなかったんだからきっと睦月が何かしてるに決まってる。
「……両親は私を蔑ろにした。」
「……」
少しだけ……睦月の眉毛がピクっと動いた。
「両親は私を忌み子と扱った。私を穢らわしいものと同じ空間に居ることすら拒んだ。私にまともな生活をさせなかった。教育も受けさせなかった。」
「…………」
「私は両親を恨んでいるよ。……流水ちゃんがいなかったら……」
「ソイツの話をするなぁッ!!!!」
大声。絶叫とも取れる叫び。
「ダメ。私を助けてくれたのは両親でも貴方でもなく流水ちゃんだから。」
「ぎっぐぐぐ……んふぐ……」
歯を食いしばりながら、額から玉のような汗を流しこちらを睨みつける睦月。
「……睦月が私を助けたかったのは知ってる。だから両親を利用してたのも知ってる。」
「……フーッ……フーッ……」
「睦月が……姉の私に対して普通の感情じゃない感情をぶつけてたのも知ってる。」
「!」
みんなに愛された今なら嫌でもわかる。睦月が私にぶつけてた感情は、親愛ではなく劣情。睦月は……私を女として見てた。
こんなことで理解するなんて……皮肉だよね。
「……異形差別が問題に上がる昨今、貴方が私のことを差別せず、色眼鏡で見ていないことはすごく嬉しかった。」
「…………姉さん……」
「でも私はあなたの姉。あなたの思うようには出来ない…………それに。」
私はため息をひとつ。
「私の未来はもう流水ちゃんに助けられてるから。私の心はちーちゃんとえーちゃんに侵されたから。貴方の助けは要らないの。」
「姉……さ……ん……」
「だからもう貴方は私にとってただの弟以下でしかない。この犯罪者め。」
「あ……あぁ……」
「何度も言わせないで。両親をどこにやったの。貴方がそれを喋らないせいで、路頭に迷ったホワイトホールディングスの人達に、両親の財産から何も補填を渡せない。」
実際あの後ホワイトホールディングスは倒産した。社長が敵連合の幹部だったんだもん。当たり前だよね。
その結果何百人もの人が一斉に職を失うことに。白体教が何とか頑張ってみんなに補填をしたけど……それでも足りてない。
足りてない人が何人もいる。だからこそ両親の全てを利用するしか無かった。……嫌だったけど。
「アアアアアアアッ!!アアアアアアアア!!!」
「……」
そんな私の気持ちなんてお構い無しに発狂する睦月。
私はそれを見ても全く心に響かない。
……今日もお互いダメそうね。
「申し訳ありません。……またお願いします。」
「はい。それではお気をつけて。」
私は刑務所を後にする。
今日は雨。だからこそ来れた。
「教祖様。お体が冷ます故……」
「ありがと。ちーちゃん。」
傘を差して待ってくれていたちーちゃんに感謝をして、車に乗り込む。
みんなの為にも頑張らないと……ね。