side筒美火伊那
ぼふん!
「…………」
ぼふん!ぼふん!
「…………はぁ。」
ぬいぐるみに八つ当たりしても何も変わらない。
「…………そんなの……わかってる。」
私は……なんであんなこと……
自己嫌悪の原因は少し前まで遡る。
あの日は……いつも定期的に行われている飲み会だった。
気月と一緒に……冬美ちゃんは居なかったけど。なんとなくふたりで飲みたい気分だった。特に理由は無い。
お互い……というか敵活動をしたことがあるふたり。何か通じ合うものもあったのかもしれない。
いい感じに酔いも回って、話も箸も進んだ。
『……んへへ〜……』
『気月。飲みすぎ。帰れる??』
その日は珍しく、気月がベロベロに。もう見てわかる程度には泥酔している。
『私ねぇ〜……実は結構寂しいんだ〜……』
『……!』
急に少しだけ。ほんの少しだけ心を抉られた気がした。
『独り身ってさ〜……楽だけど寂しいよね〜……』
『う……ま……まぁ。分からないこともないけど。』
少し言葉を濁す。多分これ以上喋ると私も気月の雰囲気に飲まれそうだったので、無理やりお酒を流し込む。
『周りはどんどん結婚しちゃってさぁ……取り残されてるって感じるんだよねぇ〜……あはは。』
『……』
何も言えなかった。薄々感じていた。
流水ちゃんと被身子ちゃんの結婚式。正直に言えば羨ましかった。冬美ちゃんとダイナマイト。初々しいけど……それも羨ましかった。
家に帰るといつもひとり。おかえりがない日常は慣れてたつもりだけど…………最近になって寂しさが勝るようになった。
気のせいだと紛らわせても、ぬいぐるみの数は増えていく一方。寂しさを拭いきれてないのは自分から見ても明らかだった。
『筒美さんはどぉ〜?出会いとかある〜?』
『あるわけないじゃないか。女だらけの職場だよ?』
『あははは〜……そうだねぇ〜……』
出会いなんて求めてなかった。元犯罪者の私を幸せにしてくれる人なんてこの世に居ない。諦めてたつもりだった。
でも人間は……欲望があるもので。
『……まぁ……寂しくは感じるよね。』
今はお酒の力でも借りようと、相手が泥酔しているので覚えてないだろうと、少しだけ弱気になった気がする。
『だよねぇ〜……流水ちゃん達すっごく綺麗だったもんね〜……』
『そうだね。羨ましくないかと言われたら嘘になる。』
『……でもさぁ……私を愛してくれる人なんて居ないんだよねぇ……だって私犯罪者だし。』
『……!』
『そう考えるとさぁ〜?筒美さんも同じだねぇ〜……私たち似たもの同士だねぇ〜……あはは。』
気月も。同じだ。
私と同じ悩みを抱えてた。
『んふふふ〜……同じ悩みを抱える同士……付き合っちゃう?なんちゃって!』
『……いいよ。』
……え?私は今……何を……
いいよ……?って言った……?
『えぇ〜?ほんとぉ?……私結構めんどくさいよ〜?』
ダメだ。引き返せ。相手は泥酔してる。きっと今日のことなんて覚えてない。このままだと私は絶対不幸になる。
寂しいよね。だったら一夜限りでもいいから人肌で身も心も温めればいいじゃん。簡単なことだよ。そのあとのことはそのあと考えよう。
ふたつの気持ちが錯綜する。
もう私でも何考えてるかわからなくなった頃、不意に口が動いた。
『あの……』
『んふふ〜……お互いいっぱい飲んだし……今日はこの辺で……』
『待って。』
立ち上がろうとする気月の手を引っ張る。
『おととと……?』
そのまま気月はフラフラとバランスを崩し、私にもたれかかった。
顔が近い。酒の匂いしかしないはずが、鼻腔を擽るのは甘い香水の香り。
『……なぁに?』
『……いいよ……私の家……来る?』
『……え?』
『女に……二言は無いよな?』
もう止まらなかった。
気月に貪られている時は……恥ずかしながら幸せを感じた。求められているのが嬉しかった。
あの日から……気月から連絡はない。
私はどうすればいいのかわからなかった。連絡を取ろうも指が動かなかった。
結局……不幸になった。関係はギクシャクしてるし、気月も中々来なくなったし。やっぱり……私なんか……
ピンポーン……
インターホンがなる。今日は何も配達は頼んでないはずだけど……?
泣きそうになってた目を擦り、なんの警戒もなくドアを開ける。
「はーい。どちらさ……ま……」
「筒美さん……久しぶり……」
「…………」
私は……これからどうすればいいんだ……?