side気月千歳
「……気月……好きだ。」
…………わかってた。わかってたつもりだった。
あの後止九ノ院さんに言われたこと。何度も思い返した。
『……ってことがあったんです。どうすればいいのかわかんなくなっちゃって……』
『なるほど……ふふっ。』
何故か笑われた。
『いえ、馬鹿にしたわけでは無いのです。可愛らしいなと。』
『可愛っ……おちょくってますよね!?』
『いえいえ……ですが……ふふっ……何を悩んでいるのですか?それは恋でしょう?』
『…………はぇ!?』
自分でも思ってない声が出た。びっくりよりも……何故か恥ずかしかった。
『今まで何ともなかった相手を意識して、距離を取って、近寄れなくて。……それが何がきっかけだったとしても、あなたは恋をされているのですよ?』
『……これ……恋……!?……いや……だって……もうこんなおばさんで……』
『恋に年齢などありません。』
『いやっ……でも私……なんかが……』
『…………恋に立場などありません。』
『…………』
全部論破された。……私……恋……元敵なのに……
『気月様。……今言わないと……きっとあなたは後悔する事になる。』
『…………』
……私は……私は……
『……ここのお代は持ちますよ。どうぞ。今すぐ行ってあげてくださいませ。その方……今日は事務所はおやすみらしいですよ?』
『なんで……いやっ……ごめんなさい!この借りは!』
『はい。美味しいお菓子。お待ちしておりますね?』
『ありがとうございます!!』
そこからはもう無我夢中。
何度も何度も反芻しながら走ってた。
恋……恋……恋……
久しぶりにいっぱい運動して、身体に何度もガタが来たけど止まらなかった。
私はもう逃げない。
思えばあの日からずっと逃げてきた。
異能解放軍から抜けた日。全部流水ちゃんに任せてきた。責任なんてなかった。仕事に復帰しても、流水ちゃんの結婚式に呼ばれても、許されても、私のどこかできっと後ろめたい気持ちがあった。
仕事だから行く。呼ばれたから行く。許されたから行く。主観が全部他人になってた。
でもそんな身ぐるみ全部とっぱらって。
「私はッ……もうッ……逃げないッ!!」
気がつけば、インターホンを押していた。
「…………ありがとう。筒美さん。」
筒美さんが少し反応した。
ちょっと可愛い。
「私……筒美さんから逃げてた。……だってさ?あの日のことなーんにも覚えてないんだもん。失礼じゃんって……自分に言い訳して。」
「…………うん。」
「……でもね?寂しかったんだ。みんなに会えないの。……筒美さんに会えないの。」
「………………」
筒美さんの抱きしめる力が少しだけ強くなる。
待っててね?頑張って言葉にするから。
「私……さ?……初めて……なんだよね。こんな気持ち。」
「…………」
「リ・デストロにあった時も。流水ちゃんに会った時も。こんな気持ちじゃなかった。」
「………………うん。」
「……ね。筒美さん。……こっち向いて?」
筒美さんがおずおずと、ゆっくりこちらに顔を向ける。
目が真っ赤。泣いてるじゃん。
「……私……気月千歳は……筒美火伊那さんの事が大好きです。誰にも渡したくないです。傷の舐め合いでも構いません。……元敵の私と……一緒になってくれますか?」
目を見て。全部出す。胸の中全部。後ろめたいことも全部。
彼女ならきっと……
「……はいっ……はいっ!!」
受け止めてくれるはずだから。