side傷原被身子
「……」
昼休み。保健室。ご飯を食べ終わり、机に置いてある写真に目が行く。流水さんと歪ちゃんが寝ている写真。
「……集中できませんね。」
流水さんから聞いた言葉。
『歪ちゃんが例の集団の被験者だった可能性がある。』
初めて聞いた時は思考が停止し、理解するのに時間がかかりました。
理解したあと……私はいつも以上に歪ちゃんに優しくしたと思います。もちろん流水さんにも。
……お腹の底から怒りが湧き出てきます。聞けば歪ちゃん以外にもそういう子が居るみたいじゃないですか。本当に……本当に憎たらしい。
こんなに可愛い子を……
「…………ふぅ。」
いや。こんなことで手を止めてる暇はありませんね。とりあえずお茶を入れて……仕事を早く終わらせて、今日も定時で帰らなくては。ふたりが待ってます。
コンコン
「はい?」
誰でしょうか。ヒーロー基礎学で誰かを招待するなど聞いてませんが……?
「傷原。俺だ。」
あ、この声……
「あ、相澤先生。どうぞどうぞ。」
ガラッ……
相澤先生が保健室に入ってくる。……何か怪我でもされたのでしょうか?
「どうかされました?」
「……何か悩んでることはないか。」
「……え?」
「今日……お前の雰囲気が少しだけ……な。緑谷と山田とそういう話になったんだ。」
「デク先生と……プレゼント・マイク先生ですか?」
「ああ。」
「……」
……話していいんでしょうか。……いや。話しておいた方がいいと思います。例の集団のことは噂程度ですが広まってます。相澤先生の耳にも入ってるはず。
頼れる場所は……作っておいた方がいいです。
「……とりあえずお茶どうですか?入れようと思ってたんです。」
「……貰おうか。」
相澤先生がソファに腰掛ける。
「…………なるほど。」
「はい。流水さんから聞いた情報ですが……多分。」
「…………」
相澤先生が腕を組んで頭を傾げる。
「私は歪ちゃんにそんなことをしたやつを許せないです。……それだけじゃないです、そんな被害を受けている子がまだいるのが……気付けなかった私を許せないです。」
「……そうか。」
相澤先生がお茶を1口。
「良かったよ。」
「……え?」
「お前の悩みが夫婦間の悩みじゃなくて。」
「…………え!?わっ……私は流水さんと喧嘩なんてしませんッ!!」
「そうだろうな。……だが周りにそう錯覚させるほどに思い詰めてるんだ。お前は。」
「……」
「傷原流水はお前を信用して言ってきたんだろう。傷原被身子は……そういう悩みも不安も吐露できないのか。」
「……それは……」
そうでした。流水さんに何も言ってない。流水さんが不安だと思って……私……何も……
慣れがいちばん良くないとは言いますが……私たちの関係も……実は……
「……ヒーローの仕事は-1を0に戻すことだ。ヒーローは必ず遅れてやってくる…………だから無理に気負うな。お前にはなんでも相談できるパートナーが居るだろう。」
「…………はい。ありがとうございます。そうしてみます。」
相澤先生が少し微笑んだ後、お茶を飲み干した。
「……それで。その例の集団の件だが……まだ周りには言わない方がいい。」
「それは……そうですね。」
「不安を煽るものではない。……なにか動く時は、確実に召集がかかる。その時まで準備を怠らないことだ。わかってると思うがな。」
「はい。」
「……じゃ、俺はこれで。……あー……そういえばうちのクラスの生徒がまたお前と組手がしたいって言ってたな。暇があったら付き合ってくれ。」
「はい。またボコボコにしますね。」
「……ふっ。お手柔らかにな。」
相澤先生が保健室を後にする。
「……」
なんか無性に流水さんの声が聞きたくなってきた。
私はスマホを耳に当てる。
少しだけ心が晴れたのもあって、この待ち時間はいつも以上に愛おしかった。