辻褄合わせのため少し変更しました。(2025/10/24)
side傷原流水
被身子ちゃんと勉強を始めてさらに半年が経った。
もう被身子ちゃんを救ってあげてから一年近く経ち……お友達はいないようだけど学校は楽しそうだ。
彼女自体結構飲み込みが早いみたいで、すくすく成績は伸びていってるみたい。学校の先生が言ってた。
パパが学校に掛け合ってくれたみたいで、一応名目上私が保護者扱いされてる。ありがとねパパ。
「貴方のおかげで少しづつですけど成績が伸びて行ってます。」とか「少しだけ我々に明るく喋ってくれるようになった気がします。」とか色々電話で教えてくれる。
心配だったんだね。いい先生を持ったね。被身子ちゃん。
今日は私がおやつ当番。
ホットケーキを焼きながら被身子ちゃんの勉強を見てやる。
「流水さん。ここが分かりません。」
「ほよ?あ〜……難しいよね。ここはね〜……。」
身長が足りないので台所に立つ時は脚立がいる私。もうちょっと低い人様に台所って作ってあってもいいと思うんですけどね?
脚立は相棒ですよ。料理の。……悲しくなってきた。
相棒から身を乗り出して勉強してる被身子ちゃんの質問に答える。
「……〜って言うこと。ちょっと前の問題の応用だね。分からなかったらこの参考書の……えっと……ここのページを見るとだいたい書いてあるよ。」
「ありがとうございます!流水さんの教え方わかりやすいです!」
「ありがとう。もうすぐホットケーキ焼けるよ。」
「わぁ!少しキリのいい所までやっちゃいますね!」
うん可愛い。今日も被身子ちゃんは可愛いです。
勉強はこのまま行けば雄英に入れそうって学校の先生からお墨付きを貰えている。問題は……
「個性ね……。」
「おいひぃでふ。」
被身子ちゃん。ほっぺに蜂蜜付いてるわよ。
別の日。
被身子ちゃんとちょっと夜遅めに街に出かけた。被身子ちゃんの個性の為だ。多分雄英高校……学力テストだけじゃなくて個性のテストもする。このままの被身子ちゃんの個性だと突破は難しいものになる。
だから実力があって。
ヒーロー像がしっかりしてて。
同じ血の個性の彼だったらいい訓練相手になるんじゃないかなって思った。
「流水さん…どこに行くんですか?」
私の右手を握ってる被身子ちゃんが不安そうに声をかける。
最近被身子ちゃんは私と出かける時だいたい手を握ってくる。
よほどの事がない限り離さないのは如何なものかと思うけど、それ以上に可愛い被身子ちゃんをついつい甘やかしてしまってるのかもしれない。
「被身子ちゃんの個性の訓練にね。」
「でもこっち……公安じゃないですよね?」
「ん〜……そうだねぇ〜。」
ちょっと不安そうだけど着いてきてくれる被身子ちゃん。可愛い。信用されてるのかな?
歩くこと数分。廃墟ビルの中。
「ここは……?」
「ふふっ大丈夫よ?安心して?」
私は少し息を吸って
「赤黒血染!!ステイン!!居るんでしょ???」
「ハァ……声が大きい。ブラッドロータス」
機嫌が悪そうね。何か嫌なことでもあったのかしら。
「あら?後ろにいたのね。」
「……ッ!あれ……!」
後ろから現れた赤黒血染こと『ヒーロー殺しステイン』にびっくりして私の後ろに隠れる被身子ちゃん。
「大丈夫だよ?このおじさんちょっと顔怖いけど優しいからね?」
「……ヒーロー殺し……。」
知ってるんだ?天才かもしれない。
「……無駄話をしに来たなら帰れ。お前は一応公安所属だろう……。」
『ヒーロー殺しステイン』今や誰もが知る無差別殺人敵。でも私の知ってる限りまだ2桁は行ってないんじゃないかしら。それでも結構殺してるけど、慎重なのね。活動初めて1、2年くらいになるはずだけど元気そうでなによりだわ。
「久しぶりなんだから少しくらいお話してもいいじゃない?公安所属だろうが私はヒーローじゃないしね?」
「え?」
被身子ちゃんが驚いている。それもそうか。初めて言ったしね。
「……ハァ……お前は相変わらず重要なことを喋らないのだな。天才の脳みそは理解できん。お前じゃなかったら粛清対象だ。」
「別に必要が無いと思ったからね。私は私の信念があるから。」
「えっと……流水さん……ヒーローじゃないって……。」
「ええそうよ?私は正確にはヒーローじゃない。ヒーローライセンスは持ってるけどね。」
「じゃあ……。」
「ふふふっなんで?って顔ね。私は公安の中でも特別な扱いをされてるの。」
「特別?」
「ええ。ヒーローとしての名誉も。地位も。保険も。全て無し。その代わりに好きに個性を使える権利だけ持ってる。公安に舞い込んでくるすこーし黒い事案を解決するための戦闘力。言ってしまえば半分ヒーローで半分敵ね。」
「……えっと……?」
「ハァ……こいつはヒーローでも無く敵でもない。扱いは能力を勝手に行使してるだけの犯罪者だ。」
「言い方。」
「事実だろう?」
ちょっとだけ嬉しそう。なんか腹が立つ。
「……流水さん……犯罪者なんですか?」
「ん〜……現実はそうなっちゃうわね。」
「なんで……?」
「ヒーローになるのは嫌だった。」
「!」
「でも能力だけは高かった私を世のヒーロー事務所は見逃さない。あの手この手で勧誘してきたわ。大半のヒーロー活動なんて名声。人気を得たいだけの自己顕示欲の渦。……くだらない。」
「……。」
「……流水さん……」
「だーかーら私はパパに頼み込んで公安の暗部っていうのかな?すこーし汚い仕事をしてるの。」
極めて明るく。それでいて伝わるように。私は言葉を選ぶ。
「でもそれって……。」
「無いわよ?人権なんて。失敗は許されない。死亡はもみ消される。知った事は他言無用。雁字搦めでやになっちゃう。」
現実なんてこんなもの。私が歩んだ道だけどね。
「……。」
「でも……。」
でもね?被身子ちゃん。
「これが一番社会を正せる行為だから。必要悪よ。」
「……ハァ。」
少しだけ血染くんが嬉しそうな気がする。
「……そう……なんですね。」
少しだけの困惑と不安。そうだよね。でもこれが私。ごめんね?
「それで。要件はなんだ。」
「そうそう血染くん!」
「その名を呼ぶな。」
なんかまた不機嫌な顔してない?良くないわよ?幸せが逃げちゃうわ。
「被身子ちゃんに稽古をつけて欲しいの。」
「……なんだと?」
「え!?」
2人とも目を見開く。
「あなたの理想のヒーロー像と暗殺術。体術。きっと被身子ちゃんの役に立つわ!」
「まて。ブラッドロータス。俺になんの利があるんだ。」
焦ってるね。でもあなたは…
「利?あるじゃない。だーいぶ前の貸しがね?」
返してもらってないものね?
「……チッ……。」
了承と捉えていいのかしら?
「ちょちょちょ!待ってください私はまだ!」
「いいえ。待たないわ。」
「!」
「あなたの個性は戦闘向きじゃないの。ヒーロー科に入りたいのなら…申し訳ないけど雄英の試験では結果として現れにくい。」
「……ハァ。」
血染くんが考えてること何となくわかるなぁ……あの人と少しだけ似てるんだよね。思考が。
「……そういう事ですか。」
少しだけ落ち込んだ様子の被身子ちゃん。多分私の言いたいことも理解してる。
「理解が早くて助かるわ。血染くんに個性の扱い方と信念を学んで欲しい。私もお仕事があるし……毎日全部見れるわけじゃないしね。」
「…………。」
長い沈黙。それもそうよね。難しい選択。有名な敵に教えてもらうなんて一般常識持ってる人だと嫌だもんね。
「……ハァ…嫌ならいい。判断が遅いヤツは淘汰される運命だ。」
「待ってください!」
被身子ちゃんの大きい声。初めて聞いたかも。
「……。」
「私に稽古をつけてください!流水さんと…流水さんの力になりたいんです!」
「…………。」
「この世界の差別を!膿を!取り除かないと…個性で奪われる未来を無くさないと…流水さんは誇りを持ってるんでしょう?この仕事に。」
少しの不安の目。背中を推すなら今ね。
「ええ。勿論。」
精一杯の優しい目。私の本心でありわがまま。
なんとなくだけど被身子ちゃんもなにか掴めたみたい。
「流水さんが、ヒーローでは成せないことをしたいのであれば私だって!…流水さんと地獄に落ちる覚悟はできてます。」
「……命が惜しくないのか。」
いやぁ……ズバズバ言うね。ほんとに。そういう所が気に入ってるんだけど。
でも必要な確認だからね。ヒーローであれば己を殺してでも他者を救う。理想像であり…今のヒーロー社会に足りないもの。ほんっっっっっっとうに……良くないよね?
「…………。」
「被身子ちゃん………。」
「…………私の両親はきっと私を捨ててます。」
「!」
「……。」
言わなかったのに。子供にはわかるんだね。
「大丈夫です。私は強いので。」
強いね。被身子ちゃん。お姉さん誇らしいよ。
私に笑いかけた被身子ちゃんが歩を進める。
その顔はどこか悲しそうで。それ以上に凛々しくて。
「私は両親とは違う。自分の思い通りにならないからって。理解ができないからって。見捨てない。救いを求めるなら手を差し伸べたい。どれだけ傷つこうとも。それがどれだけ茨の道でも。」
「……覚悟のできている良い目だ。自己犠牲は厭わない。……ハァ…ヒーローの本質だ。」
「ヒーローの本質……ですか……私はヒーローも公安も嫌いです。彼らが真っ当に。正常に機能できているのであれば、もっと救われた心はあるはずです。」
「……。」
本当にね。
ステインの前に立ち睨みつける被身子ちゃん。
「自己犠牲がなんですか。自分の欲望なんて…感情なんて何度抑えてきました。……殺してきました。好き勝手生きれない世界を呪いました。…………流水さんに会うまでは。」
こちらを振り向く被身子ちゃん。どうしたんだろ?
「今更命が惜しいなんて…流水さんの事を思うとちょっと惜しいですけどね?」
「被身子ちゃん!私もよ!!」
本当に可愛い。いい子すぎる。
私も全力でアピールしなきゃ!
「ふふふっありがとうございます。」
「……一応……答えを聞こうか。」
血染くんに向き直る被身子ちゃん。もう心は決まったね。
「……私が普通に生きるために。普通に生きたい人の為。あとちょっとだけ流水さんのため(ゴニョゴニョ)」
途中なんか聞こえなかったけど大丈夫?
「私は力が欲しい。この世の常識を変える力を。私が……みんなが普通であるために。普通な幸せを手に入れるために。」
「…ハァ………及第点だ。明日また同じ時間にここに来い。」
「!!ありがとうございます!」
「やったわね被身子ちゃん!」
「はい!」
私に抱きついてくる被身子ちゃん。背中と腰に大ダメージだけど愛だと考えると全く痛くない。まったく至福です。
「……ハァ…ブラッドロータス…人払いは。」
こっちは喜んでる最中なのに空気の読めない男ね。
「当然するわよ。安心して。」
「……最後までお前の手のひらの上か。」
「あら?なんの事かしら?」
「…………ハァ……まぁいい。」
なんか血染くんやっぱ機嫌悪い?
今日は頑張ったで賞として被身子ちゃんが大好きって言ってくれるビーフシチューを作ったわ。
なにか憑き物が落ちたみたいで……人の笑顔って人を幸せにするのよ?被身子ちゃん。
なんかあのおっさんみたいな事言っちゃった。