side傷原流水
「……スーッ……」
緑谷君が居ない…………何処に?
ひとりでここ全域をカバーするのは無理だ。もし既に襲われていたら生き残ってる可能性は相当低い。
生きていたとしても……動けない可能性すらある。
「も……もしかしたらですが洸汰のところかも……。」
「洸汰……?誰ですか?」
聞くところによるとマンダレイの甥らしい。緑谷くんが気にかけていたらしいが……
「……なるほど。よく居る場所にいるかもって事ですね?…………単独行動は……ハァ。頭が痛い。」
こういう時じゃなくても単独行動はNG。いてもたってもいられない……本当に彼は……
「オールマイトじゃないんですから。」
とりあえず……行ってみますか。
「先生!?」
おや?聞き馴染みにある声が……
「おや、爆豪くん。どうしました?」
「なんでいるんだ……じゃなくて!渡我がやべぇ!」
「…………は?なんで…」
頭の中が真っ白になる。被身子ちゃんが……?
「よく分かんねぇけど、障子庇って今敵と戦ってるらしい。轟と委員長には言った。多分障子と3人でどうにかなると思うが、応援が欲しい!」
「それは本当か、爆豪。」
「相澤先生!渡我がっ!」
…………冷静になれ傷原流水。
今……もし緑谷くんの所にも敵が居て、今障子くんの所にも敵が居る場合……確実に私は緑谷くんの所に行った方がいい。
……時間はだいぶ経つ。苦しい方は……緑谷くんの方だ。
……っ……ごめん……被身子ちゃん。
「相澤先生。」
「はい。」
「多分……すごい低い確率ですけど、緑谷くんがこちらに帰ってくる可能性があります。」
「はい。」
「その場合。もし……何か身体の異常があった場合。絶対に止めてください。これ以上何もさせないでください。」
「……傷原先生は?」
「私は……っ……緑谷くんのところを…見てきます。」
「ハァ!?先生!!んでだよ!?」
嫌だが……嫌だが!最悪の想定をしろ傷原流水。どれだけ嫌でも苦手でも!わがままは……ここでは悪手すぎる!!
「…………爆豪勝己。本当はすぐにでも向かってあげたい。」
「なら!」
「ですがどちらも私の生徒です。」
「………………そうかよ。」
「傷原先生。」
「はい。相澤先生。ブラド先生と合流次第…」
「どちらかを生徒の救出に……ですね?」
「はい。ありがとうございます。………爆豪くん。私のわがままを聞いてもらってもいいですか。」
「…チッ………早く行け。あんたの考えてることなら最近多少わかってきた。」
「……助かります。」
私と爆豪くんは別方向に飛び出した。
まだ半分くらい。あと少しで……緑谷くんのポイントに着く。
……あれ?あの光……
緑谷くんがすごいスピードで走り抜けちゃった。背中には小さい少年。
…………腕。
「…………なにか居ますね。絶対に。」
何も声をかけずに向かう。二次被害が起きかねない。
……助けたんですね。彼を。
……。
…………これはっ
マスキュラー……気絶してますけど……なんでこんな所に……。
「……ぉ……ん……なんだ?」
起き上がる。当然だ。衝撃による気絶なんて持って数分。
「…………誰だお前。」
……ハァ。私がおしりを拭いてあげましょうかね。
「こんにちは。私の名前はヒーロー、ブラッドロータス。マスキュラー。貴方を拘束します。」
「……ヒーローブラッドロータス?知らねぇなぁ……強ェのか?それよりも……緑谷出せよ!もっかいやりてぇ!!」
トドメをさせと……教育すべきでしたね。
「……強いかどうかはわかりませんが……お気に召すと思いますよ?」
エスコルチア。血を纏う。
「んだそれ。よくわかんねぇがぶっ倒していいって事だよな?」
「……緑谷くんに負けたくせによく吠えますね?」
「はっはっは!俺にとって勝ち負けは関係ねぇんだよ!戦えりゃいいんだ!強ェ奴と!!」
「なるほど。では喋る時間は勿体ないですね?」
「……わかってるじゃねぇか!」
マスキュラーが筋繊維を身体に巻き付けながら突撃してくる。
私はそれを受け止める。血を腕に集中させる。手四つだ。
「おぉぉお!?お前!!強ェじゃねぇか!!!」
「お気に召していただけたようで幸いです。」
わかってはいたけど……パワーが強すぎる。これ以上は無理ですね。
文字通り骨が折れます。
「じゃぁ!!もっと本気出していいって訳だなぁ!?」
「それは困りますね。」
私は手四つを解いて空に飛び上がる。
「あ?」
マスキュラーの後頭部。
単純な増強系を命を残したまま仕留めるには……これが一番早い。
マスキュラーの耳に指からの血を突っ込む。
「んだこr……」
「それでは。おやすみなさい。」
鼓膜から一気に奥を貫く。
狙うは前庭。蝸牛。
「っっづぁあ……ぁ……」
マスキュラーは倒れ込む。
「……どれだけ鍛えても。この衝撃には耐えられる作りをしてないんですよ。脳って。」
リカバリーガールなら治せるけど……このまま放置でも安全だ。
前庭が壊れちゃったから立ち上がれないしね。
……被身子ちゃん。……待ってて。今行くから。
side飯田天哉
「あそこかッ!!」
氷が見える。轟君だ!
あれは……障子君と……ステイン!?
もう1人知らない敵が居るが……なんでヒーロー殺しが……
兄さんを……インゲニウムを……
「飯田!?なんで!」
「お前は……」
「ステイン!!!」
「ハァ……粛清対象だ。」
『天哉。俺、ヒーロー卒業しようと思うんだ。』
とある病室での一幕。僕は兄さんのお見舞いに来ていた。
『……え?なんでだよ兄さん!リハビリももう終わるって……ヒーロー活動も出来るって……』
『わかってるんだ。自分の身体の事だから。多分全盛期の力は出せない。……それに俺は1度負けてしまった。』
『…………でも!』
『負けてしまったヒーローは……人を導けない。ヒーローは結果が全てじゃない。過程も大事なんだ。1度負けたというレッテルは常に貼り続けられる。世間の目は……思った以上に厳しい。』
結果だけじゃなく過程……。胸に刺さる。
兄さんはスマホを握りしめる。……なにかあったんだろうか……。
『だったらインゲニウムは!』
『天哉。お前が継いでくれないか。インゲニウムを。』
信じられない一言。僕に?インゲニウムを!?
『……僕が!?』
『ああ。それまではヒーローインゲニウムの名前は預かっておくよ。……天哉。俺からのお願いだ。』
『…………。』
兄さん!!!僕は!!
「ステイン!お前との勝負は!」
僕は!!!!!
「「!?」」
「後だ!!」
レシプロバースト!!!
轟くんの作った氷を飛び越え、渡我君を保護。まだ息はある。
「2人とも!僕が渡我君を助ける!だから全力でやるんだ!!!」
「飯田……わかった!!」
「……任せろ。」
「……ハァ。ここにも…。」
少し嬉しそうな轟君。
兄さん。僕は間違っていなかっただろうか。
「……俺の目的は……終わった。」
「どこ行くんだ!!」
「!!」
ステインが木に飛び移り、そのまま姿を消す。
少しだけ見られた気がするが……今は気にしてる暇は無い。
「何を……それよりもっ!」
僕は渡我君を背負い、もう1人の敵に臨戦態勢を取る。
「肉ぅ……肉見せてぇ!!」
「気をつけろ飯田。こいつは相当厄介だ。歯に気をつけろ。」
「……あぁ。わかった。」
攻めあぐねる。この3人でも。
轟君の氷を躱す反射神経。驚くべき速度とリーチを持つ歯の攻撃。どちらも早く……強い。
それにガス。薄くなっては居るが……引火の可能性がある。轟君の炎が使えない。体温調節が出来ない。
このままだと……ジリ貧になる。
「……どうすれば…。」
「……ぉおおっ!!委員長ォ!!半分野郎!!そいつの足止めろォ!!」
爆豪君!?どこから……
「飯田!上だ!!」
なんでそんな上に!?
しかもあれは!体育祭で見せた……
「……榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!?」
side爆豪勝己
地上はガスで爆破が使えねぇ。
だったら……飛ぶしかねぇ。
轟も飯田も障子も……帰ってこねぇ。手こずってんのか。
そのレベルの相手が居るのか。
だったら……俺が仕留める。
『榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)の強化?』
いつの日かの相談。渡我と心操の訓練の合間。
『あぁ。もっと強くするにはどうしたらいい。』
『…………今のあなたには無理ね。』
『あぁ!?んでだよ!!』
『前言ったみたいに、身体と掌のスペックが足りてない。もう少し両方のバランスが取れたら……もしくは何かしらでものすごいスピードが出せたら威力は上がるかもね?』
『……わかった。今は……』
『とりあえず筋トレと体力作りね。頑張って。』
『おう。』
何かしらで……ものすごいスピード……
少し見えた。氷。あの位置に向かって……高い場所から!榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)が打てれば!
「仕留める。……仕留める。一撃で!」
榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)の弱点。発動までの時間。
ボッ……ボボボボッ
今!!ここで出せばいい!!!
落下速度、回転速度を殺すには……両手で最大出力ぶつけりゃいい!!タイミングは一瞬!決めろ!!
見えた!あれが……敵!!!!
「うおおおおおおおおおおっ委員長ォ!!半分野郎!!そいつの足止めろォ!!」
「榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!?」
「……わかった!!!!行くぞ轟君!!障子君!!」
手が痛ェ……目が回る!それでも!!ここで一発で成功させろ!!じゃねぇと死ぬぞ!!爆豪勝己!!!
俺はっ!!
センスだけは!!あいつにも!!……オールマイトにだって!!!!誰にも負けねぇ!!!!!
障子と飯田が時間を稼ぎ、不意の半分野郎の最大出力で相手の足ごと凍らせる。
すまねぇ!お前ら!!!
今っ!!
「くらぇええええっ!!!!!榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)ォッ!!!!!!」
BOOOOOOOOMMM!!!!!
「あぐあぁっっっっっっっっ!!!!!?!?!!!?」
勢いを殺しきれず氷に突っ込んだが、半分野郎……轟が氷の形を変えてくれたおかげで滑り落ち、少し頭を打ったくらいですんだ。
「凄いじゃないか爆豪君!!ありがとう!!」
「ああ。あのダメージ。ひとたまりも無いだろう。」
「……すげぇなお前。」
「……ふん。」
敵は木にめり込んで動かねぇ。
……悪い気はしねぇな。