side渡我被身子
「あ、被身子ちゃん。今日晩御飯外で食べない?」
「突然ですね?お外で?」
「うん。もう予約してるんだ〜。」
「良いですよ?あとどれくらいですか?」
遊園地デートもお昼がすぎて今は若干夕方になりつつある。
私の横で指を絡める彼女はいつも通り太陽のような笑顔を見せる。その笑顔が本当に好き。笑顔も好き。
「んーとね……あー……あとアトラクション1個くらい乗れたらいいかなって感じ。」
「じゃああんまり並びたくないですね。…………あっ。あれとかいいんじゃないですか?」
観覧車。
観覧車で身長制限なんて聞いた事ないから多分大丈夫ですよね。
ガタン……ガタン……
私たちを乗せたゴンドラが動く。
いつぶりだろう。観覧車。何年……最後にいつ乗ったか覚えてない。思い出したくもない思い出。
全部。目の前で優しく微笑む彼女が救ってくれた。私の目指す大人……それでいて私の全て。
何度も感謝した。何度も想いを伝えた。何度も心を紡いだ。解いた。繋がった。でもまだ……もっともっとって思うのはワガママだろうか。
この一瞬。2人だけの空間。夕焼け。何気ない会話。ロマンチックなこの時間を永遠にしたい。流水さんとじゃないと感じれなかったと思う。また返さなきゃいけないものが増えちゃった。
「でね?そのあとナイトアイ何言ったと思う?『お前の笑顔にはユーモアがない。』だって。腹立つ。」
「ふふっ。さっきのモノマネですか?似てますね。ふふっ。」
「そう!?私ユーモアの塊だったかぁっ!見る目ないねアイツ。未来見る目はあるのにさ?」
「あはははっ。」
流水さんは最近……というか想いを伝えあった日からだいぶ自分の友人知人関係を話してくれるようになった。どんな話をした。どんな出会いだった。どんなことがあった。何を思った。感じた。知った。
……流水さんの思い出の共有……。愉悦感。流水さんの大切な思い出を私に共有してくれる。それがたまらなく嬉しい。もっと知りたい。もっと共有して欲しい。これだけで心がいっぱいになっちゃう。
「お!そろそろてっぺんだよ!」
「うわー……夕焼けが綺麗です。」
目に映る濃いキンレンカのような光。心を……体を燃やすには充分だった。
「燃える恋……。」
「どうしたの?被身子ちゃん?」
「いいえ?幸せだなって。」
「え〜?……私も。被身子ちゃんより幸せかも。」
「同じ幸せがいいです。」
「……そうだね。同じ。ずっと。これからも。」
どちらともなく唇を合わせる。
この瞬間は永遠じゃないけれど。
私達の心は形にできないけれど。
きっと続く。きっと彩る。
壊さないように。逃がさないように。
繋いだ両手の花を……そっと。優しく。
私は抱きしめた。
「ドレスコード?」
「うん。ちょっと知り合いのお店に寄ろうね?」
遊園地を出て少し、流水さんの向かう店にはドレスコードが必要らしいです。ドレスコードなんて初めてなんですが……。緊張。
着いたお店は大きくて……高級そうなお店。
「こんばんは。予約してた傷原です。」
「あっ!傷原様!お待ちしておりました!お久しゅうございます。」
「お久しぶりです!今日はお父様はおられないけどよろしくお願いしますね?」
流水さんが受付の猫の人とお話してる。知り合いって本当なんだ……パパの知り合いさんですかね?
「そちらが渡我様ですね。それではこちらへどうぞ。」
3人くらいの店員さんに囲まれる。
「えっ?あの……流水さん?」
「おまかせでお願いします。可愛く着飾ってあげてください。」
「「「かしこまりました。」」」
「えっ……あっはい!よろしくお願いします!」
流水さんは流水さんで別のカーテンに入っていった。ひとりだ。……いつも髪結ったり服装決めたりしてるの私だけど大丈夫ですかね……?
そんな私の心配は他所に……お姉さん3人からキャイキャイ言われながらおめかししてもらった。
髪は後ろでまとめて……ナチュラルメイクと派手すぎない赤いドレス。……数分で終わっちゃった……。
「うわぁ……綺麗。これが私?」
「渡我様。大変美しゅうございます。お召し物は当店で預かっておきますので、またお越しになってください。」
「はい。ありがとうございます。」
「いえいえ。傷原様の大切なお方……と聞いておりましたので我々の出来る限りを尽くしたまででございます。…………はい。傷原様が外でお待ちみたいですよ。」
「わっ……わかりました。行ってきます。」
「お履物はこちらを。」
赤いヒール……これも綺麗。あっ……でも歩くの難しいんでしたっけ。
「私ヒールなんて初めてなんですけど……。」
「大丈夫ですよ。傷原様がエスコートしてくださいます。それまでは私が傷原様までお送りしますね?」
「ありがとうございます。お願いします。」
履きなれないし……歩きなれないけど……これは……履きたくなりますね。より綺麗に見えるというか……。
「あっ……被身子ちゃん。すっごく綺麗だよ。」
「流水さんも……とても綺麗です。」
私は目を奪われた。
流水さんは黒を基調とした少しシックなドレス……だけど背中出しすぎじゃないですか?長い髪の毛は編み込みなどを駆使して、腰くらいまでなんとか上げてあります。そのせいもあるかもしれません。絹のような白い肌と白い髪。それに合わさる黒いドレス。本当に綺麗。大人の女性って感じです。
「それじゃ……行こうか。慣れないだろうから腕に捕まってていいよ。」
「は……はい。わかりました。」
夜道。ほんの少しだけ歩くみたいだけど……少し寒くなってくる時期。そんなの気にならないくらい顔が熱い。恥ずかしいから?違う。流水さんが綺麗すぎる。
私……こんな綺麗な人と付き合ってるの……?という愉悦感。夢かもしれない。
「着いたよ。ここ。」
「……大きいですね。」
高いビル。高級車が送迎のためにいくつか止まってる。外見だけで高級レストランと分かる。
「うん。今日のために奮発しちゃった!」
「……嬉しいです。」
「行こっか。」
「はい。」
流水さんは流れるように受付を済ませて、ウェイターの人に挨拶。個室に案内された。
「料理はもう決まってるんだ。被身子ちゃんの嫌いなものは入ってないはずだよ。」
「私嫌いなものないですよ?」
私流水さんが出してくれるものならなんでも食べてますけど……?
「えぇ?本当?ピーマンとかゴーヤとかの苦いもの少し苦手でしょ?」
「……食べられないわけじゃないです。」
少しだけです。少しだけ苦手です。
私の自覚してない事までこの人は知ってる。逃げられないなぁ。ふふっ。
流水さんはジンジャエール。私はミネラルウォーター。
「被身子ちゃん。君の瞳に乾杯。」
「もう……流水さんの瞳にも乾杯です。」
カツン
次々と並ぶコース料理。
料理名の分からない前菜。スープ。肉。魚。etc……
全部美味しかったけど全部どんな料理かわかんなかった。私の理解の外です。
流水さんは所々ウェイターの人に聞いてたみたいだから……料理のことわかるのかな。博識ってやつですね。かっこいい。
好きな所がどんどん増えていく。ずっと愛おしい。朝起きて。夜寝るまで愛くるしい。
流水さんがいるだけで毎食美味しい。毎朝嬉しい。毎日幸せ。きっと私は流水さんから離れたら死んじゃうんだろうな。
流水さんもそうだったら嬉しいですね?
デザートも終わり、食後のコーヒー……私は飲めないので紅茶です。
「……美味しかったね?」
「はい。初めての味で……ちょっとびっくりしました。」
「あんまり来ないもんね。こういう場所。」
「ドレスコードも大変ですしね?」
「……被身子ちゃんのドレス見れるなら毎日来たっていい。」
もう。流水さんったら。
「破産しちゃいます。」
「そうだね。」
「ふふっ。」
二人で笑い合う。幸せ。こんな時間がずーーーっと続けばいいのに。
「特別な日がいいよね。こういう所は。」
「はい。そうですね。……今日は何気ない1日でしたけど。」
「……特別な日にしちゃう?」
急に流水さんが2つ箱を取り出した。
「…………え?」
小さくて……丸みを帯びてて……言われなくてもわかる。生涯を共にする約束の証。
「こっちが私の。こっちが被身子ちゃんの。」
「……え?……え!……え?」
嬉しさで涙があふれる。もう言葉にできない。頭も理解が追いつかない。
「被身子ちゃん。左手出して?」
流水さんは片方の箱を開けて中身を取り出す。
「……はい。」
私の左手を優しく包み込み、流水さんは指輪をはめてくれる。
「これはまだ約束。本当の指輪は2人で見に行こうね?」
「……はい!はい!」
私の指にピッタリはまる指輪。銀色に艷めくそれは、私達の関係を1歩進めてくれる。
「被身子ちゃん。私にもつけて欲しいな。」
「……いいんですか?私で……。」
「被身子がいい。」
「本当に……?」
「被身子ちゃんじゃなきゃヤダ。」
「……もう……ワガママさんですね?」
涙と鼻声で私の顔は多分すごく見てられないけど……もうひとつの箱を開ける。綺麗な指輪。内側には私たちの名前は掘られてる。
その指輪を流水さんの左手の薬指にはめる。約束。違うことの出来ない盟約。
「流水さん……好きです。ずっとずっと愛してます。私だけのものです。」
「被身子ちゃん。あなたはずっとずーっと私のもの。嫌って言っても離さないんだから。」
もう料理の味忘れちゃいました。
でも。
永遠に忘れられない日になりました。