side渡我被身子
初めてのあの日から何度も夜が過ぎて。
何度も心を重ねて。
夏休みは終わった。
夏っぽいイベントなんて全くなかったけど……それでも私は……この夏を一生忘れないと思う。
新学期初日。目覚まし時計で私が目を覚ますと、既に流水さんはベットに居なかった。昨日あれだけ……私は少し寝不足気味だ。
エアコンがちょうどよく効く室内は…生まれたままの姿だと少し肌寒い。
最近は私が血を吸ってあげると良く鳴いてくれるから……ベッドが血で汚れちゃう。
それでも全然ピンピンしてるのは……本当の特殊体質なんだなって。今までどれだけの血を抜いてきたんだろう。
とりあえずこのままだと流石に汚いのでシーツとタオルケットを洗濯機に入れ、シャワーを浴び、制服に着替えて、髪を乾かして、軽くメイクをしてリビングに行く。
いい匂い。多分昨日のシチューが残ってたのかな?
流水さん特製の……ブロッコリーと鶏肉が多めのシチュー。私が運動してるからタンパク質を多めにしてくれてるらしい。……そんな気遣いが本当に胸に染みる。
本当に大好き。
彼女は私の留まることを知らない感情を……その小さな身体で受け止めてくれる。
だから朝眠くても。辛くても。
「おはようございます。流水さん。」
今日も貴方にとって1番かぁいい私を見せたい。
きっとワガママだけど
「おはよう。被身子ちゃん。今日も可愛いね。」
私は毎日この人に恋をしてるんだから。
「ありがとうございます。流水さんも可愛いです。愛してます。」
「…………ありがと」
貴方も私に毎日恋をして?
side傷原流水
最近毎日負けてる流水さんです。
「流水さん?何かありまひたか?」
食パンを頬張る被身子ちゃん。
今日もお団子ヘアーが可愛いね。
「んーん?なんでもない。早く食べちゃって?時間そろそろじゃない?」
「…あっ!本当ですね。すみません。」
「いいのよ?朝ごはん大事だからね!」
毎朝…毎日楽しい。人と暮らすってやっぱりいいわね。
「ご馳走様でした!行ってきます流水さん!」
「忘れ物ない?」
「えーっと……多分ありません!」
「ふーん……?」
玄関で少しバタバタしてる察しの悪い彼女に……少し意地悪してあげよ。
「被身子ちゃん。」
「なんですか?流水さ…んっ」
ちゅ
「……んっ……ふふっ…行ってらっしゃい?」
「…………今夜覚えておいてくださいね?…行ってきます。」
昨日の仕返しはできたかしら?……今夜のことは考えないでおこう。
被身子ちゃんが食べた食器、シチューの鍋を洗い終えて
ある程度掃除もひと段落。
一息つくのもつかの間……私は重い腰をあげる。
……楽しい時間は終りね。
私はおもむろに電話をかける。
ワンコールで繋がる。私のこと好きすぎるでしょ。
『もしもし』
「パパ?今ちょっといい?」
『いいよ。……まぁ件の事だろ?』
「うん。そろそろ被身子ちゃんの親権を渡してもらわないと。めんどくさいけど交渉に行く日を決めないとね。」
『親権は……僕でいいのかな?』
前々から色々相談してたしね。金銭的には大丈夫だけど……パパには迷惑かけちゃうから。
「うん。そうしてくれると嬉しい。私にしちゃうと……色々不都合がね?」
『はっはっは。仲が良くて何よりだね。孫はまだかい?』
カーッと顔に血が上る。きっと私の顔は他人に見せられないくらいに赤くなってる。
「もう!無理に決まってるでしょ!!」
『冗談だよ冗談。……ハァ……あいつらにコンタクトを取るのは多少気が引けるけど……娘の頼みだ。引き受けたよ。』
私の仕事の件もあるし……本当に何度も迷惑をかけちゃうね。パパ。
「……ありがとうパパ。無理しないでね?大好き。」
『それだけで私の頑張る理由になるさ。私も大好きだよ。』
優し声色。ありがとう。今度大好きなきんつば差し入れに持っていくね。
プツッ……プー……プー……
……あの両親の事だ。春から……今日の今日まで何も連絡をよこさなかったという事は……多分厄介払いできたと思ってるんだろう。
ゴネることはしないだろうけど……一応……一応なんでも出来るように準備はしておくか。
「……これも被身子ちゃんの為だから。大丈夫。」
私は机に立てかけてある被身子ちゃんの写真。満面の笑みを見て。頑張ろうと胸に抱いた。
「両親……ですか。」
パパとの話から1週間後の夕食の後、被身子ちゃんとリビングの机で向かい合う。大切な話がしたいと言ったら家事も程々に座ってくれた。
被身子ちゃんの顔が曇る。あまり話したくないけど……そうは言ってられない自体になっちゃった。
「うん。被身子ちゃんの親権を貰いたくてね?パパがあれから何度もコンタクトを取ろうとしてるんだけど……。」
『うるさい。私達には娘は居ない!』
『二度と関わるんじゃない。それともなんだ?公安が実力行使に出るのか???』
『おかけになった電話番号は……』
「……箸にも棒にもかからないんだよね。」
「そう……ですか。…ごめんなさい。ご迷惑をおかけして。」
被身子ちゃんが俯く。
「被身子ちゃん。だからね?」
私は被身子ちゃんの両手を握る。
「実力行使に出ようと思うの。」
「えっ……でも公安が……あっ。」
「私公安だけど公安じゃないしね?相手がその気なら好きにしようかなって。」
被身子ちゃんの顔に笑顔が戻る。
「ふふっ……悪い人ですね?」
「やられたらやり返さなきゃ。復讐は何も生まないけど復讐しないと舐められたままだしね?」
「はい!やっちゃいましょう!」
少し身を乗り出して被身子ちゃんの頭を撫でる。
「ふふっお姉さんに任せなさい!」
「……はい!……でも実力行使ってどうするんですか?」
「家に押しかける。」
「……はい?」
「家に押しかける。」
「聞こえてます。……上げて貰えないんじゃ…」
ふふふふ お姉さんに任せなさい!
「あの家……というか被身子ちゃんの両親、今すごーく近所では有名みたいよ。悪い意味で。被身子ちゃんの同級生も同じ区画に住んでるでしょ?」
「はい。でも同級生には……私が住んでる場所変えてるなんて喋ってないはずですけど……何が話題になってるんですか?」
「そこは私が少しづつ悪評を流しておきました。」
「え!?」
「私見た目だけは可愛いからその辺りの奥様方のお手伝い……例えば荷物持ってあげたり、子供の遊び相手になってあげたら仲良くなってね?」
「……流水さんそんなことしてたんですか?」
「必要なことだからね。色々な情報を吹き込んであげたらもうあれよあれよと噂が広がって……その人たちもう家から出て来れない位になっちゃった。今両親の関係も最悪なんじゃないかしら?えへ。」
「うわぁ……惨い……」
「だーかーらー……奥様方は……というかあの辺の家庭はだいたい被身子ちゃん可哀想。渡我家はどうなってるんだ!ってなっちゃってるから仮に警察呼ばれても大事になりにくいし、迷子の被身子ちゃんを家に送りました。ってヒーローライセンス持ってる私が言えば何ら問題ないわ。」
「……流水さんって本当に凄い大人の人って感じですね。」
「敵に回す相手を間違えたのよ。公安だからって公的な手しか無いと思ったら大間違い。自分の首を絞めちゃったわね。」
「……ありがとうございます。流水さん。」
「大丈夫大丈夫。あとは被身子ちゃんの気持ち次第でいつでも突撃出来るわ。パパは連絡が来しだいいつでも行けるって言ってくれてる。」
「…………私の……気持ち。」
「ええ。あなたの気持ち。整理が付いたら許可をちょうだい?一緒に行きましょ。お風呂先貰っちゃうわね?」
私は席を立つ。風呂場に行こうとリビングを後に……
「行きます。」
被身子ちゃんが声をあげる。
「!……いいの?」
「こういうのは早い方がいいです。……私もとっとと縁を切りたいです。」
なーんだ。……本当に強い子に育ってたのね。
「多分いじいじ悩んでたら、ステインさんにも……判断が遅いって怒られちゃいます。」
へらっと笑う被身子ちゃん。……いい訓練になってたみたいね。
「うん。頑張ったね。」
私は被身子ちゃんに近寄り頭を抱きしめる。
「……はい。」
この抱擁は……私達の関係を後押しする大切な1歩だ。
「でもちょっとまだ怖いので……一緒にお風呂入ってもいいですか?」
「いいわよ?お姉さんに任せて。身体中ピカピカにしてあげるわ!」
「ふふっ……ありがとうございます。」
甘えたいんだと思って胸を張った私は、被身子ちゃんの舌なめずりに気が付かなかった。
はい。お風呂でもベッドでも沢山鳴かされました。
この家防音で良かった。