夜蛾学長は困惑していた。
「夏油はほんっと勝手だよな、コンが逃げるのも当然だろ」
「硝子にはわからないよ! 私は……!」
「わからないね、ビビリ。コンを信じろよ。てかコンのママは私だし」
「コンは私のだぞ!」
「2人とも、喧嘩すんなって」
夏油と家入が険悪になるのを、五条が飴玉を放り込んで止める。
視線を逸らし、飴玉を舐めながら黙る2人。
「それで、並行世界の悟と傑と硝子と言ったな」
「そー。俺らのペットが逃げちゃったから、捜索の拠点にさせてほしーの。宿賃として呪具とか持ってきた。活動資金も用意してくれたらなって」
「その為に特級呪術師と反転使いを遊ばせると? どんな裏がある。それに3人のペットとはどういうことだ」
夜蛾学長が困惑した声を上げる。
「ペットがいないと俺ら使い物になんねーから……。あ、俺ら3人で同棲してて、ペット飼ってるんだ。学生時代に傑がこっそり学校に持ち込んでから、ずっと面倒見てる」
「そう、なのか……? その写真は?」
「これなんだけど」
渡された写真を見る。妙な生き物に囲まれた3人の写真。
「これは……なんという生き物なのだ? 呪霊ではないな、写真に写っているし、こんな可愛らしいフォルムをしていない。それに、どこかで見たような……コンとはどれだ」
「これ。この小型犬」
「探す当てはあるのか」
「織姫に探させます。この大きい犬。すげー賢いから、長くても一週間で終わるかなって。写真はこれ」
「でかすぎて騒ぎにならないかどうか微妙な線だな……」
「なんとかならない? すげー大人しい子なんだけど」
「こんなに大量のペットを飼って世話できてるならそちらでは呪霊の数が少ないのか?」
「さあ? それなりに忙しいけど、こっちと比べてどうかまでは」
「それはそうだな」
話していると、五条先生が部屋に飛び込んできた。
「傑! と俺!?」
「こっちの悟かい? よろしくね」
「私は無視か? 五条」
「あ、いや。ごめん硝子。君ら何者?」
「並行世界人って奴。俺らのペットが事故でこっちの世界に投げ出されちゃって……」
「ペット探しに特級術師2人と反転術師が来るわけ? ないっしょ」
「本当は反対されたけど、傑が心配のしすぎで泣きすぎで干からびそうだし、硝子が凶暴化するし」
「泣いてないし」
「凶暴化してない」
文句を言う2人。だが確かに言われてみれば夏油の目元が赤い。
「ペット好きなんだ? 忙しくて飼えないとかないの?」
「3人で同棲してなんとか頑張ってる」
「えっ 同棲してんだ」
「こっちじゃペット飼ってないんだ? 同棲もなし?」
「全然。そんな暇ないよ。自宅とかそんな時間ないって。寮暮らしだよ」
「そうなのか……」
そして、五条先生は写真を見る。
「皆、すげー可愛いじゃん。そしてめっちゃ飼ってるじゃん。えっこれってCG?」
「可愛いだろう? 皆、私の可愛いお友達さ」
「これ、どっかで見たような……? あーピカチュウ! ピカチュウの前のやつだこれ」
「そういえばそうだな!」
そして、五条先生と夜蛾学長はスマホで検索を始めた。
「ポケモン!? マジでポケモン!? すっご。嘘だろ!?」
そしてパシャパシャと写真を撮る。
「こっちにもいるんだ、ポケモン?」
「フィクションであるだけだよ。これゲーム」
「は?」
「何それ欲しい」
「後で買ってあげるよ。ラインナップ知りたい! 傑が飼ってんのって可愛い縛りなんだ? ピチューと、ミミッキュと、イーブイ、ププリン! 可愛いじゃん。進化させないの? ピチュー。逆に硝子が結構ガチなのウケる」
「ピチュー? 満月の事かな? 私は……小さい頃に大事件を起こしちゃって以来、進化させるのが怖くなっちゃってね」
「なになに、何進化させちゃったの? コイキングとか? ピチピチ跳ねる魚」
「!! ……そう、だよ。コイキングはわからないけど、私のシャークくんは、大きな鯉みたいな品種で。進化したら私を忘れちゃったんだ。それで、街を壊して、呪術界の人にいっぱい迷惑を掛けて、禪院甚爾に殺されちゃった。私も死刑になるところだったんだけど、悟が庇ってくれてね」
痛ましい顔をする夏油と、その肩を抱く五条。
「その件については良いだろ、もう。傑はあの時、子供だったんだ」
「でも私は、アルセウス様にシャークを育てたら進化するって聞いてたんだよ」
「進化したらどうなるか知らなかっただろ、傑は」
流石に五条でも、超有名ポケモンコイキングがギャラドスに進化するのはわかる。
それが現実になったら、大変なことになったであろうことも理解できた。
「コイキングが進化したらいきなりギャラドスなのは罠すぎるよね。え、まじでギャラドスに育てちゃったの? 他のポケモンぶつけたりとか」
「ギャラドスは知らねーけど、すげー龍になってさ。たまに卵が現れる以外、対処法が全然わかってないんだよ。傑が小さい頃、神様にあったって時の証言でポケモンって名前と進化する生き物なのと神様がアルセウス様なのがわかるくらいで。逆に情報があるならなんでも良いから欲しい。硝子は進化させる派だし、ポケモン達も進化したがってるけど、どうなるかわかんないだろ? 問題起きた時の殺処分の責任者俺だからさ、ヒヤヒヤしてんだよ」
「大変そー……。いや、まじで。資料は伊地知に頼んでおくよ」
「ありがとう」
それから、五条先生は彼らが飼っているポケモンについて自ら調べてあげた。
夏油の手持ちポケモンが今は亡きシャークくん以外は理性消しとばす感じではないのに安心する。
「コンは織姫、えっと、ウィンディが探してくれる。ウィンディは賢いからね」
「うーん、でも見つかると騒ぎになるかもね。これ、早く動かなきゃだよ」
「もし目撃証言とかあったら教えて欲しい」
「良いよ! 代わりに仕事手伝ってくれない?」
「そういうの五条が得意だろ。私は織姫と一緒にコンを探す」
「私もコンを探したいかな。頼むよ、悟」
「監視対象2人が何言ってるんだよ。そもそも一週間も問題起こさないなんて無理だろお前ら」
「あー、はいはい。なるほどわかった。サクッと片付けて、その後手伝うのは?」
「それならいい」
「迷惑かけるね、悟。うちの子がみつかりさえしたら手伝うよ」
「期間は一週間だけにしろよ? 流石に1ヶ月とかは無理」
「契約成立。こっちの傑は特級呪詛師やってるから、間違えられないように、傑のそばを離れるなよ、僕」
「呪詛師!?」
「夏油、人との争いができない感じなのに?」
「いや、傑はセンスあるよ。シャークくんの件がトラウマになってなかったらかなり強くなってたと思う。今でさえ、傑すごく強いし。差異が起きたのが小さい頃なら、全然性格違っててもおかしくないって」
「シャークくんの件は残念だったけど、今の子はどの子育てても大丈夫だと思うよ? 可愛いのも変わらないし、ゲームどおりかはわかんないけど、僕もサポートするよ。任せて」
「悟、ありがとう」
というわけで、3人は呪専預かりになるのだった。
そして、生徒達にポケモンを見せる。
「でか!」
「でっかいなウィンディ!」
「きちんと躾してあんの?」
「それは傑じゃなくて俺を信じて」
騒ぐ生徒達に五条が言う。
「不安」
「どういうこと!?」
「私のペット達、暴れたら悟が殺処分する事になってるんだ。シャークくんの事があったからね。だから、人にだけは牙を向かないように全力で躾けてる」
「可哀想だけど、ギャラドスがゲームどおりなら残当だな」
「しゃけ!」
「2度と進化させねーのか? ピチューやププリン、進化させるともっと可愛くなるぞ」
「怖いんだよ。私の事を忘れて、あの時みたいに街に……」
「下手すると特級呪詛師より犠牲出してそうだもんな。誰でもやりかねないってのがさらにひでー」
「コイキングがギャラドスはなぁ。リアルになればそうだよな」
「僕も躾手伝いますから、安心してください。それにピチューがピカチューになるくらいなら問題ないですよ。無理することもないですけど」
とりあえず、監視が必要という事だが、五条は認められなかったので乙骨が監視である。
「じゃあ、織姫。コンを探して」
「ガウガウ!」
硝子が織姫の背に乗っかった。
「GO!」
「わっ ちょっと待ってください!」
そして、4人と1匹は駆けていった。
その後。
傑は泣いて帰ってきた。悟は傑の隣でオロオロして、硝子は荒ぶっている。
「す、傑……」
「うわああああああ私のコンが! 私の! 私の!」
「夏油の分際で外道すぎるだろこの外道傑!!!」
ガシガシと硝子が傑を蹴る。
「うわあああああああ!!!」
「硝子! 傑をいじめんなっていつも言ってるだろ?」
傑が一層泣きじゃくるのを、悟が抱きしめ背中ポンポンとして慰める。
「何があったわけ? 硝子ちょっと落ち着けよ」
荒ぶる硝子を五条先生が抑える。
「呪詛師の夏油さんがコンくんを飼ってて、コンくんが呪詛師の夏油さんに懐いていたんです。後、進化もしてました」
「あー」
乙骨の説明に、五条先生は声をあげる。
飼い主と間違えて懐くのはあり得る。だって同一人物だ。
「説得したんですけど、全然で……。呪詛師の夏油さんの方がいいと。それでポケモンバトルで力付くで説得しようとしてたんですけど、織姫ちゃんもそれはいけないって。呪詛師の夏油さんにも嗜められて」
「あー。というか多少は賢い描写もあるけどさ。それでも動物を説得とか無理でしょ。要は魚に犬だろ? 犬種にもよると思うけどさ。普通に次の飼い主に懐くとかあるだろ」
フォローとも言えないフォローをする。
「あと、夏油さんが前に飼ってたシャークくん街を滅ぼしかけてたそうです」
「そうね。ギャラドスだったらそうなるだろうね。僕もまだ子供だろうし、禪院甚爾が討ち取るのはめちゃくちゃ残当だね。その時に傑が秘匿死刑にならなくてよかったよ」
「コンは、コンは私の事を忘れてしまったんだ。私の事なんてどうでも良いんだ。シャークくんと同じ……! 私は、私は」
「あーはいはい、動物に期待すんなよ、傑。俺が居るだろ?」
「ちょっと待て五条。私だって傷ついてんだぞ。私も慰めろ」
「はいはい、硝子も傑も愛してるよー。世界で一番愛してる」
「ミュウよりも?」
「ミュウよりも」
「それはミュウがかわいそうだろ! 悟はポケモンを蔑ろにしすぎだ!」
「ミュウは3番目に愛してるから大丈夫だって」
悟は雑に2人を抱きしめて慰める。
明日、またお話し合いに行くらしい。
当然、五条も夏油を捕縛しに行くことになってしまったのだった。気が重い。
設定
夏油は小さい頃にアルセウスに会って、ポケモンを譲渡される。
夏油がいくつかの選択肢から選んだのはコイキング。
大事に育ててギャラドスにして、順当に街を滅ぼしかける。
甚爾が大活躍した。
夏油には実は秘匿死刑が降っていたが、普通にポケモン達に粉砕された。
なので、夏油の心を丁寧に折ることにシフトチェンジ。
最新の注意を払ってヘタレに育てられている。
進化恐怖症もその一つ。
なお、アルセウスは夏油にこの世界の動物を皆ポケモンにしてあげるよ! と夏油に誘いをかけているが、夏油はギャラドスショックでギャン泣きで拒否した。呪術界もそれを知っていて夏油の対応には苦慮している。
呪術界は穏便に夏油とポケモンに縁を切って欲しいが、上手くいっていない。
術師さえもポケモンにされかねないので大問題なのだが、それが漏れると大騒ぎになるので悟と一部の総監部にしか知らされておらず、ポケモンいてもいいじゃない派は増えてしまっている。硝子もその1人。
悟? ポケモンになるのは嫌です……。動物と昆虫が全てポケット「モンスター」な世界は嫌です……。
お肉が全部ポケモン由来になるのは地獄です……。
呪霊退治よりも傑の対応の優先を許されている。
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夏油は進化恐怖症
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傾世のポケモンマスター
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