「随分上機嫌じゃねーか」
「あっ わかっちゃう?」
そりゃスキップしてればそうである。
「結婚の練習はそんなに楽しいか? 相手男だろ」
「めちゃくちゃ楽しい」
「でも向こうの悟に殺されねーか?」
「かもね! 僕こわーい。その時は弁護してくれる?」
「ラルトス貸すならな」
「おかか!」
「棘も任務に連れてきてーの?」
「しゃけ!」
ラルトスは卵から孵ったポケモンである。
早速女子達に構われていた。さりげなく男の人気も高い。一番人気はピカチュウだが。
「傑に頼んどくよ。でもどっちを選ぶかはラルトスに聞いてね」
ウキウキで、勤務時間は減ったけど効率がめちゃくちゃ上がった五条悟。
浮き足立つ高専。
たまに出てくる不思議生物。
噂は火のように広がり、並行世界のポケモンマスターの夏油傑が五条と政略結婚をするらしいと噂された。
「何それ」
ドン引きしながら、教祖夏油は言う。
「並行世界の私が悟と結婚? ないだろ」
そもそも友情と恋愛感情は違う。
「それがね、傑ちゃん。向こうの総監部がね。10年以内に老若男女呪霊ポケモン犬猫なんでもいいから結婚相手を見つけられなければ、黄金世代の余りで結婚させるって言って、相手が見つからなかったらしいの。3人とも」
「は? 嘘だろ?」
「それで、逃げはしたものの、いつかは戻って結婚しないとだから、特訓するって」
「なんの特訓だよ、なんの! こっちの悟を巻き込むなよ! というか、10年もあってなんで3人とも余るんだよ!」
「傑ちゃん、モテるのにねぇ」
「それはわからないけど、お見合いとかなんかあるだろ……! 特に悟!!」
こうしてはいられない。
ということで、教祖夏油はポケマス夏油を捕まえる事にした。
イーブイを抱いたポケマス夏油を観察する。
なんていうか、悩みとかなさそうなほえーっとした顔をしていて、教祖夏油はイライラしてきた。
「イーブイ! 電光石火! えらいよ、イーブイ!」
可愛い子犬がフェイント掛けつつ突進する様は可愛らしい。
教祖夏油は、自分の操る吐瀉物拭いた雑巾のような味のキショい呪霊を見て悲しくなった。
なんだこの格差。
「そこにいるのは誰だ!? 私!?」
「そうだよ。私はこの世界の君だ」
「イーブイ、おいで」
慌ててイーブイを確保するポケマス夏油。
「私になんのようかな?」
「用。用事ね。……もう一回、悟に会いたいと思って」
するりと出た言葉に、自分で驚いた。
「悟を傷つけないって縛るよ。ただ、少し話したい。どういうつもりか聞きたいしね」
「それは……わかった。信じるよ。私も君に聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」
「美々子と菜々子と利久がいなかったんだ。私が助けた子だから、心配で」
「その子達なら私が保護してるよ」
「……呪詛師にするのか? あの子達まで巻き込むのか?」
「あの子達が決めたことだ。でも、入れ替わっている間、君が説得したいならすればいいよ」
そうして、私達は入れ替わることになったのだった。
あまりにも簡単に潜入できて拍子抜けする。
ポケモン達に料理を作ってやる。
くっ ポケモン達可愛いじゃないか。私の呪霊とは段違いだ。
「たっだいまー!」
「悟」
悟は上機嫌で帰ってくる。ラルトスも一緒だ。
そして固まった。バレたか?
「どうしたんだい、悟?」
「いや、おかえりのキスはまだかなって」
キス待ちかよ!
「キ!? いやでも、男同士だし気持ち悪くないかなって」
「お前、ポケモンにも僕にもそれ以外にもめちゃくちゃチュッチュしてるじゃん。もうなれたわ」
「!??」
「ほら、ラルトスも待ってるだろ」
待ってるよじゃないんだよ! いや、ほっぺにキスだろ。それぐらいがなんだっていうんだ、夏油傑!
びびってるのか? 私はびびってはいない!
「……おかえり」
「ただいま♡」
「……ご飯できてるよ」
悟は席につき、待機。
「今度はなんだい?」
「おいしくなーれってしてくれないの?」
「!??」
ま、負けてたまるか!? こういうのは攻めたもんがちだ!
「ご、ゴホン。お、美味しくなーれ♡ 食べるかい?」
「あーん」
はいあーんをしたら普通に受け入れられて度肝を抜かれる。こやつ、慣れてる!??
「!?? いや、嫌がりなよ! 普段何やってるわけ!?」
「何やってるんだろうね。変な扉開きそう。ほら食え食え。あーん」
「そこは閉じておけよ」
くそっ くそっ 何やってるんだよ、並行世界に逃げるほど結婚嫌がってたんじゃないのかよ、こんなの夫婦じゃん!
「そろそろ寝よっか。今日も結婚の特訓しようね」
「それ!」
私の風評被害の原因!
「どれ?」
「結婚の特訓って何だよ、男同士でそんな事しても虚しいだけだろ!」
「でもお前、結婚相手見つけないと向こうの僕と結婚させられちゃうんだろ? で、相手見つかんないし、触れるの大好きでも触れられるのは大嫌いだし、困ってるんだろ? お見合いとかで良いなら相手斡旋できるけど、全敗だったんだろ?」
「君が身を挺してそんな我儘に付き合う必要はないだろ……」
全く、何考えてるんだよ。
「えーでも、僕以外駄目なら、僕なら良いって事でしょ? 親友そっくりの子が困ってるんだもん。そりゃ心配するし、手伝うよ」
か、軽い……! よく考えろ! よく考えろ、悟ぅ! どう考えてもおかしいだろ!
「……君って、ほんと優しすぎて心配になるよ」
「だーいじょうぶ。怖くない怖くない。三十にもなった男がエッチが怖いとか乙女かよなんて笑ったりしない」
「笑ってるだろ! と言うか、ふざけんなよ。そんな事あるわけないだろ」
「怖いよ悟って泣いちゃわない?」
「泣くか!」
「じゃあ特訓できるね?」
私は、ちょっと短気なのかもしれない。
売り言葉に買い言葉はよくない。気をつけよう。
朝、悟の特訓を受けた私は、声を絞り出した。
ていうか偽物だってわかってるんだから特訓の必要ないよね? 何やってるんだ、私も。
「……君の気持ちはどうなんだ」
「え?」
「君は、私と結婚とか、どうなんだ。私みたいに逃げたりしないのか?」
「向こうの僕と硝子、頑張ったみたいなんだけどね。黄金世代3人とも撃沈してやんのw w w もう諦めの境地だって。知らない奴よりはいいか、みたいな」
「何だよ、それ……」
それでいいのか、黄金世代。弱すぎないか。
「灰原、向こうでは生きてたりするのか?」
「生きてるみたいだね。すっごい平和時空! ポケモンのおかげみたい。悩み事は彼女が出来ない事ぐらいだって」
「何それ、頭花畑かよ」
「3人で一緒に住んで、お揃いのパジャマ着て、傑がおはようのチューとギュッてして、料理作って、皆で食べて、仕事して、訓練して、ポケモン挟んで川の字で寝て、1ヶ月に1日と一年に一週間は婚活休暇で皆で遊んで。もー僕、すごく羨ましい。というか、もうポケモンを子供にした親子でしょ、家族でしょ、さっさと結婚しろよ、悩むことなんてないだろって思う。総監部もとにかくなんでも良いから結婚しろとは言っても、エッチしろとは言ってないんだし、ていうかそこまで仲良しの状態から部外者が結婚するって無理だろ」
胸がキュウっとなった。嫉妬でどうにかなりそうだ。あまりにも平和すぎる。
「呪霊の数が少ないのか?」
「ポケモンが呪霊倒せるからね。術師を傑が鍛えたポケモンがサポートするようになって、人的被害が激減したんだって。ピカチュウでも二級術師くらいの力があるしね」
「凄いな……」
「向こうの傑と仲良くするほど、寂しくなるんだ。お前とこうして平穏な日々を送りたかったって」
「悟」
「僕は、お前さえ隣にいればよかったんだ」
悟の言葉に、私は胸が痛くなった。
「……いつわかった?」
「見てすぐわかるよ。当たり前だろ。ポケモン達も戸惑ってたし。並行世界の同位体っつっても、間違えるかよ」
「悟」
10年とちょっと前に聴きたかったな、それ。
「悟。私はもう、後戻りは出来ない。君とは歩めない。でも、私にとって君は特別だよ」
「傑。僕が殺すことになっても、お前は僕の親友だ。あっそれと! 向こうの傑は!?」
「ちゃんと丁重に預かってるよ。私が帰ったら解放する」
夏油が教団に帰ると、大変なことになっていた。
建物が壊れていて、ポケマス夏油はいなかった。
「何事!?」
「向こうの五条悟が……」
「迎えに来たかー。話聞く限り、すごく仲良いみたいだったからね。怒らせちゃったかな。怪我はない?」
「はい。皆も大丈夫です。ところで夏油様、何を持っているんですか? ダチョウの卵?」
気がつくと、夏油はカラフルな卵を抱えていた。卵を拾った記憶はない。
だが、ずっしりとしたその卵を、夏油は優しく抱え込んだ。
「ポケモン……呪霊を倒せる動物か。終わらないマラソンゲームに対する、チート染みた答え……」
「夏油様……?」
「百鬼夜行はやめにしよう。新しい教義を用意しないとね」
この後、夏油はポケモンを崇める宗教にシフトチェンジしていく事となる。
五条は、1人寂しくコーヒーを飲んでいた。
ポケモンや傑がいないと部屋が一気に広くなって寂しい。
どうやら、向こうの五条が迎えにきてポケマス傑は帰ったらしい。
テーブルの上には、結婚式の写真が数枚。
わちゃわちゃしてて楽しそうだ。こちらでは死んでる者も何人か写っていて、本当に平和時空なんだと突きつけられる。
ポケモンをあっさり置いて行く辺り、あいつ叱られても仕方ねーなと確信する。
イーブイ(ブラッキー)とピチュー(ピカチュウ)、グルくん(ミミッキュ)、グッピー(コイキング)、ララ(ラルトス)は、世話を伊地知に手伝ってもらって飼うしかないか、と準備を始めようとした所で女性陣に強奪された。
あの五条悟相手に凄い熱量である。そしてピカチュウ達は高専のアイドルをしている。捨てられてショック状態になる事もなく、幸せそうで何よりである。
『ポケモンです! プリンです! 宗教団体がポケモンの召喚に成功し、ポケモンによる世界平和を目指すそうです!』
「何やってんのあいつ!?」
プリンが歌を歌い、テレビの向こうでバタバタと人が眠って倒れていく。放送事故である。
「マジで何やってんのあいつ……」
こうして夏油の教団は方針を変え、2年後、夏油と五条は政略結婚をする事となる。
その後、術師にポケモンが配布され、呪霊対策は一気に進む事となるのだった。
こっそり感想はこちら
マシュマロ
https://marshmallow-qa.com/lucaluca
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