それは寝る直前の事だった。
「……いつまで様子を伺っているつもりかな」
今日、ずっと視線を感じていた。
この気配は悟だと思うのだけど、違う気もする。
声を掛けてみると、悟が現れた。え? 何か小さいのが大きくならなかった?
どういうこと? 悟の術式は無下限だろ?
「……初めまして。俺の名は五条悟。お前に依頼があって来た」
これは、悟の名前を語っているのか? それにしてはお粗末すぎる。
姿はそっくりだけど、どこか違和感もある。これだけ姿を寄せているのに、私のことを知らないのもおかしい。でも、私の何かが、目の前の男は悟だとも告げていた。
「私に依頼? 私は呪詛師だけど、いいのかな」
「俺には関係ねーし」
「……依頼は?」
「しばらくの間、俺の配偶者の替え玉をして欲しい」
「は?」
「今、あいつ狙われてて。それに、ずっと閉じ込められっぱなしだし、少しは外に出してやりたい」
「なんで私に?」
「あいつに似てて強いから」
「私は男だよ?」
まさかこの悟が女なんじゃあるまいな。ジロジロ見るけど、どう見ても男。
「事情があってさ。あいつも男なんだよ、五条傑」
写真には、鍛えていない私が写っていた。大きな卵を大事そうに抱えていて、見るからに私とは違ってそうだ。
「君、五条家の当主だろ? なんで男と結婚する羽目になるんだよ」
「長くなるけど」
「聞くよ」
「傑は、アルセウスの愛子で」
「アルセウス?」
「厄介なエイリアンみたいなもん。呪霊ではない、でも人智を超えたもの」
「ふぅん……?」
「傑は、10歳の時にアルセウスから、一体のポケットモンスターと呼ばれる化け物を下賜された。傑が育てた魚型のそれは、竜となって街を焼いた。当然、呪術界と戦争になり、呪術界は完全に叩きのめされた」
「は?」
「アルセウスは言った。植物も動物も術師も全部ポケモンに変えると。手始めに、俺がポケモンに変えられた」
「なんだよ、それ……」
「傑が慈悲を願って、俺は後遺症はあるものの、人に戻れた。でも、アルセウスの愛子の傑も、戻ったとはいえポケモンになった俺も、子孫を残されたら困るってなった。両方の子供を期待してたアルセウスに穏便に納得してもらう事が必要だった。流石のアルセウスも、別種族にする事はできても、男を女にする事はできなかったみたいだから」
「それが、えーと。五条と夏油の結婚?」
悟、と呼ぶと混同するから、仕方なく私は五条と呼んだ。
けどめちゃくちゃだな。何かもっと他に、やりようあるだろ。
「傑は……。ただ魚を育てただけなのに、その魚に街を焼かれて、色々禁止されて、監禁されて、俺の配偶者にされて、わけわかんねー呪詛師に狙われて……。ちょっとぐらい、自由を渡してやりたくて……」
その言葉には、思いやりしかなかった。街を焼いた事に対する嫌悪も、恐れもなくて。だって、10歳だぞ。呪術界が戦争になって叩きのめされたの。嫌悪して当然だろ。
「……君こそ」
「俺?」
「呪術界を叩きのめされたって事は、五条家も無事じゃすまなかったんじゃないかい? 後遺症は大丈夫なのかい? 男が妻になんて……。ハニトラめいた指令もされてるんじゃないか? 君は大丈夫なのか?」
言葉が溢れるように出ていた。そうだ、悟はいつも人のことばかりで心配になる。
「傑に比べたら全然」
その言葉に苛立った。私は守られるばかりの存在ではない。見当違いだとわかっていつつも、反発が出た。
「夏油に責任が皆無とは言えないだろ。10歳だ。幼児じゃないんだ。判断はできる年齢だろ。少なくとも私はそうだったつもりだ。私は君が心配だよ」
「傑……じゃねーな。えーと」
「傑でいいよ。これから入れ替わるんだから。どうしても呼び分けが必要なら今日外でも呼べばいい」
「わかった。傑。ありがとう」
「勘違いしないで欲しいんだが、私は五条傑なんかの為じゃなくて、君の力になりたくて力を貸すんだ。それはわかっていて欲しい」
「それでも、助かる。すぐに傑を連れてくる」
「ちょっと待って、家族に説明だけさせてくれ」
夜にも関わらず、家族は集まって話を聞いてくれた。
「アルセウス? ポケモン? 夏油様、こいつ嘘言ってます!」
「そうだよ、ポケモンなんてフィクションじゃん……!」
「そうでもなさそうよ、ほら」
ラルゥが写真をスワイプする。
そこには数々の可愛らしいモンスターが写っていた。
疑っていた美々子と菜々子は驚愕の声をあげる。
どうやら、あの有名なポケモンらしい。
「コイキングからギャラドスになったなら、それは犠牲が出るでしょうね。夏油様、いえ、傑様お可哀想」
「攻略本アルゾ」
「あっ 俺の! もちろんお持ちください! 関連資料集めとくので、一週間後ぐらいに取りに来てください」
利久が有難いことを進言してくれる。まあ、一週間もかけないけどね。サクッと呪詛師を倒してくるよ。
「問題解決してさっさと戻ってくるよ。留守を頼むね」
「傑だけど……いや。ここでは自由にさせてあげてほしい。できる範囲でいいから」
「あまり甘やかす必要はないからね」
「傑は何も言ってくれねーから、何か好きな物とかあったら教えて欲しい」
「はぁ、君はもう……」
悟、あっちでは相当甘やかせてそうだ。別の意味で心配になる。
「いや、傑、勉強も訓練も許されなくて、常識も何も知らねーんだ。あと、アルセウスの愛子だから危険な目に合わせるとやばい」
「常識を教えるのと甘やかすのは話が別だろ。でもまあ、戦えないなら扱いも多少は楽そうだね。頼んだよ、ミゲル。ラルゥ」
「承知シタ」
「任せて」
「じゃあ、頼む。アルセウス」
「は?」
そして家族が消えて、いや、私たちが消えたのか。私達は寝室にいた。
美しい四足歩行のポケモン?が私の腹を突く。
「アルセウス!?」
そしてポケモンは消えてしまった。
「はぁ、あー。着替えて寝ようか」
「そうだね。目が冴えてしまって眠れる気がしないけど」
そうして、着替えて眠った。
朝、私は卵を抱えて五条と……いや。私も間違えないように悟と呼ばないとね。悟と川の字になって寝ていた。
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