言い争いの声で目が覚めた。悟が電話をしている。
そして私の腕には大きな卵が抱えられていた。
「傑が心配だから、しばらく傑といるって言っただろ……!」
まだ日も登らぬ時分から、任務を押し付けられようとしているらしい。
今日だけは無理だ、と言う悟だが、電話の相手も引き下がる様子がない。
最終的に悟が折れたらしく、電話を切る。
「ごめん、傑。ここで待っていて欲しい。帰りは遅くなる。手引きは傑が用意してくれてるから。あっ! 料理は作れる? ポケモン達のご飯、傑が作る事になってて」
「わかった。大丈夫、心配しないで」
「サンキュ」
悟は自然に私の襟首を掴み、引き寄せ……私は手でガードした。
「悪いけど、キスは君の配偶者にしてくれないかな」
「だよな、ごめん! 行ってくる。あ、手引きはここだから!」
「行ってらっしゃい」
隠し戸棚の開け方をさっと教えて、悟は去っていった。
そして、悟が去った後、私はひとまず隠し戸棚のメモを見る事とした。
どうやらスケジュールらしい。
「悟のお見送り……毎日この時間なのか……。二度寝……お風呂……卵があったら抱っこ紐を使って抱っこしながら朝食を作って、隣の部屋のポケモン達を起こして……ひらがなが多くて見難いな……。あ、もしかして10歳から勉強許されてないって事か……?」
隠し戸棚を見ると、他にはレシピとボールペンがいくつか、ノート、メモ帳、文字の練習帳と簡単な本が数十冊。数冊は新しいので、全く本が手に入らないわけではないようだ。内容はごく普通。それが隠してあるという事は、文字の練習とかそのレベルで許されていないのか……?
それは悟も心を痛めるだろう。
スケジュールを見ると、私は家事とポケモンを可愛がる事しか許されないらしい。
悟が帰るのは深夜。働きに出るのは明け方前。
悟は疲れてるから休日以外は話すの禁止。休日は月3、悟を常に気遣うこと。
悟の言う事には全て従うこと。
簡単な任務には連れて行ってくれるから、常に呼ばれたらすぐに行けるようにしておくこと。
なんだよ、これ……。
悟、こんな生活してたのか……? それとも、この世界が酷いのか。
発狂するだろ、こんなの。
私だって、テレビも許されず、本も補充は僅か。
時間を潰す方法は、ポケモンとの触れ合いだけ。
そのポケモンも、名前をつけるなとか、定期的にポケモンの引き渡しとか書いてあった。一応、護衛用のポケモンもいるらしいが……。その子も定期的に変わるらしい。今の子はリリーだそうだ。私の人権も悟の人権も無視され、ポケモンだってこの様子ではどんな様子かわからない。
……。
……私は、この世界の住人じゃない。
だからこそ、なんとか出来ないだろうか?
私の、街ひとつ潰してしまった大罪人の私の為に力を尽くしてくれる悟の力になりたかった。
「……よしっ」
今はまず、状況把握だ!
シャワーでさっと汗を流し、服を……服を……悟ぅぅぅぅぅ!!!
すごく良い服とえっちな服しかないってどう言う事だよ悟ぅぅぅぅぅ!!
さては夫婦生活はきっちりしてたな!? 単なる悪ノリで買ったって量じゃないんだよ!
こんな過密スケジュールでどうやった!?
じゃあ、学生時代のジャージを……あっ すごく大事に保管してある。
高専時代だけ外に出してもらえたとかありうるな……。
思い出の品を汚してしまうのも申し訳ない。
私は少しでも安そうでラフな服を探して着た。
下着は、うん……無難なトランクスを頼もう……。安物の服も……。
あ、電話がない。
ゴソゴソ探すと、あった。
まじで電話機能しかない。で、悟の番号しかない。
私の人権……。
とにかく着替えて、ポケモン達を起こしに行く。
「おはよう!」
「ピ!?」
「ププ!?」
「キシャー!」
「キューン」
「そういえば、利久が攻略本をくれたっけ」
それを見ると、いた。
「ピチューと、ププリンと、キャタピー、ウィンディだね。ウィンディの君は大きいから護衛係のリリーかな? よろしく」
まずはポケモン達の水入れの水を替えて、と。
「一緒に料理しようか。その後、君達が何をできるか教えてよ」
面白いじゃないか、ポケモンなんて。
どうせ、他にする事はないんだからね。
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