2人が消えて、そこには夏油様よりもずっとほっそりとした人がいた。
抱えているのはイーブイである。後抱っこ紐。
「キャンキャン!」
「あ、あの。五条傑です。よろしくお願いします……」
「あらぁ、可愛い。よろしくね。えーと、スーちゃん♡ 私はラルゥよ」
「美々子です!」
「菜々子!」
「ミゲル」
「利久だ」
「真奈美とお呼びください」
オロオロとするスーを、夏油一派は気遣う。
「ここは安全だから安心してね。さ、寝室に案内するわ」
「ありがとう。ラルゥ、さん」
ふにゃ、と笑う様にラルゥ達はハートを射抜かれる。
「ラルゥで良いわよ。名前も、忘れたら何度でも聞いてね」
「ありがとう。ふふ。人と話せるの、久しぶりだから嬉しい。その、こっちでは悟以外とお話ししても良いんだよね?」
「……ええ、もちろん」
いきなりぶっ込まれた闇に怯むラルゥ。
「会話も制限されてたのですか?」
「仕方ないんだ。こっちで喋れるなら、いっぱいお喋りしたいな」
ほのかな期待にワクワクと言ったスー。あまりにも願いが細やかすぎる。
「ねぇ、スー様! スー様はしたい事ある? なんでも言ってみて!」
「スー様の、我儘聞きたい、です。五条悟からもお願いされたし」
美々子と菜々子の言葉に、スーは戸惑う。
「悟が……?」
「ナンデモイッテミロ」
「えと、えと」
そこで利久は助け舟を出した。3しか知らぬ相手から選ばせるより、こちらで100用意してそこから選ばせた方が楽しかろう。
「とりあえず、明日はゲームをしませんか? イーブイも出てきますよ! 他にも沢山やりたいこと探しましょう」
「イーブイ?」
「その子の、えと、犬種です。その子、名前はなんて言うんですか?」
「そうなんだ。名前をつける事は許されてなくてね。でもこっちなら良いかな。こっちで孵化させたポケモンはお礼に渡す予定だったし」
そうしてイーブイを撫でるスー。
「あら、そうなの?」
「良いの!?」
「嬉しい!! あっでもスー様、寂しくならないですか?」
「どうせ提出させられるからね。可愛がってくれるなら嬉しい。私も一緒に名前考えていい、かなぁ……?」
「つまり、この子はスー様と私の子!」
「ナンデソウナル」
真奈美の暴走にミゲルがツッコミをいれ、そうしてスーの面倒を見る事になる夏油一派なのだった。
朝。
抱っこ紐に卵を入れて、スーは部屋を飛ぶように走り回るイーブイを捕獲して外に出る。
「夏油……スー様、一緒に訓練しませんか? あれ。その卵は?」
「私は、荒事は許されてないんだ。体を壊さない程度のジョギングと筋トレしかダメで。この卵はアルセウス様が定期的に下さるんだ」
「それって、運動しすぎでじゃなくて、運動不足すぎて体を壊さない程度にって事ですか?」
「そう」
「夏油様は、運動好きですか?」
「10歳までは格闘技とかすごく好きだし、体を動かすの好きだったよ。今も、悟がジョギング許してくれてる時間いっぱい必ず運動してる」
「じゃあ、俺が鍛えてあげます!」
「話聞いてたかな?」
「スー様は運動したいですか?」
「それは、したい、けど。格闘技なんて、見るだけで私、罰を受けちゃうよ」
「ここでは見張ってる人はいないんです。言ったでしょう、安全だって。運動しましょう!」
そんなこんなで、運動をして、真奈美の作る食事を食べて、ゲームである。
「凄い、本当にイーブイ達が出てる!」
さて、そんなこんなではしゃぐスーににっこりする夏油一派だが、だんだんムカついてきた。
確かに、街ひとつ襲わせてしまった事は、夏油にも過失はあるのだろう。
だが、夏油は少年だったのだ。
なのに、夏油は文字の読み書き禁止。本禁止。テレビ禁止。映画ももちろん禁止。カラオケ禁止。訓練禁止。訓練風景を眺めるのすら禁止。禁止禁止禁止。
まともに話す事を許されるのは五条だけだと言うのに、五条は明け方よりも早く、深夜よりも遅い仕事。
これでは心配になってしまう。
五条家の権力とかどうなっているのかと問いたい。
もうちょっとどうにか出来ないのか。それとも五条家をスーが壊滅させたのか。
「良い、スーちゃん。スーちゃんは、身を守る方法を手に入れるべきよ!」
「呪術界は出ましょう。そうしましょう。その為の力は、私達が用意します」
ということで、夏油一波によるスーのブートキャンプが始まるのだった。
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