あるところに赤ずきんがいました。ある日、彼女はお母さんから森の奥に棲んでいるおばあさんにパンと葡萄酒を届けるように頼まれました。赤ずきんは篭にパンと葡萄酒を入れて、おばあさんの住む森に向かいました。
森の入口に赤ずきんが着くと、一匹の狼が出てきて、
「そこの女の子、おばあさんのところに行くんだろう?それならこっちの道に行くといい。お花畑があるからお花を摘んでいきなさい」
と言いました。
赤ずきんはそれは良い考えだと思い、寄り道をしました。狼の言った通り、道の先には色とりどりの花が咲いた花畑があり、赤ずきんはその花を摘んで花束を作りました。
そうして赤ずきんが寄り道をしているうちに、狼はおばあさんが住んでいる家へ行きました。おばあさんを食べて、成り代わり、赤ずきんも食べてしまおうと考えたからです。しかし、家の中にはおばあさんはいませんでした。仕方がないので、狼はタンスの中からおばあさんの服を取り出すと、それを着てベッドにもぐりこみました。
少し時間が経ち、赤ずきんはおばあさんの家に到着しました。
「こんにちはおばあさん!」
元気よく赤ずきんが挨拶をすると部屋の奥からかすれた声が聞こえてきました。
「いらっしゃい赤ずきん。ちょっと風邪をひいてしまってねぇ。私はベッドから動けないからこっちに来てくれるかい?」
おばあさんに呼ばれたため、赤ずきんはベッドに近寄りました。
「あら?おばあさんの耳はそんなに大きかったかしら?」
「お前の声をよく聞くために大きくしたのさ」
ベッドに近づいた赤ずきんは普段とは様子の違うおばあさんに疑問を抱きました。
「なら、なんで目も大きくなってるの?」
「お前をよく見るためさ」
「口はどうして大きいのかしら?」
「それはお前を食べるためさ!」
赤ずきんの質問に答えると狼はベッドから飛び出し、赤ずきんに襲い掛かりました。おばあさんを食べることが出来なかったので、おなかが空いて空いてしょうがなかったのです。
きっと若い女の肉はやわらかくて美味しいに違いない。そんな想像を狼はしました。
「――――――っがあああぁ!?」
しかし、狼は赤ずきんを食べることはできませんでした。右腕になにか熱いものが押し付けられるような感覚と共にバランスを崩したからです。
狼はすぐに起き上がり、自分の右腕を見ました。大きな穴がそこには出来ており、そこから血がどくどくと流れ出していました。
「どうして赤ずきんは銃を持っているのかしら?悪い狼に痛みを与えるためよ」
赤ずきんの持つ花束から煙が出ていました。赤ずきんの手から花が落ちると、そこには一丁の銃が狼に狙いを定めていました。
「どうして赤ずきんは斧を持っているのかしら?」
赤ずきんは後ろに手を回すと斧を取り出しました。丁寧に研がれた、切れ味のよさそうな斧です。
「それは悪い狼の分厚い皮膚を切り裂くためよ」
赤ずきんは斧を構えると、一瞬で狼に肉薄しました。狼は赤ずきんをじっと見ていたにもかかわらず、反応することが出来ませんでした。狼は赤ずきんに向かって大きな左腕を振り下ろしましたが、腕は空を切るだけでした。そして、新しい痛みが狼を襲いました。目を下にやってみると、狼の腹が切り裂かれていました。傷は内臓までは到達していませんが、それでも狼の分厚い毛皮と皮膚を切り裂いて血管を何本も傷つけていました。
「お前はなんなんだあああああ!!!」
狼は恐怖で叫びました。これまで狼が狩ってきた人間は皆弱い者でした。狼の姿を見れば恐怖して逃げまどい、たとえ反撃してきたとしても狼には傷一つつけることはできませんでした。猟師の銃は狼にとって脅威でしたが、狼のスピードであれば銃を避けるのは容易いものでした。
しかし、目の前にいる赤ずきんは自分に傷を負わせてきました。そして、狼でも反応することが出来ないほどの速さで動いています。
「どうして赤ずきんの頭巾は赤いのかしら?」
狼は必死に赤ずきんに攻撃しました。腕を振り下ろし、大きな口で噛みつこうとし、大きな耳で赤ずきんの立てる音を聞き。しかし、狼の攻撃は一度も赤ずきんに当たりませんでした。逆に、赤ずきんの攻撃は狼を的確に傷つけていきました。弾丸は狼の手足を撃ち抜いて動きを鈍くさせ、斧は狼の分厚い皮膚を切り裂いて出血させ、手を傷口に突っ込み、肉や血管を引きちぎり。
「それは悪い狼の血を浴びて真っ赤になったからよ」
数分もたたないうちに狼は血まみれになって床に倒れこんでいました。一方の赤ずきんは傷一つ負わず、狼を冷たい目でじっと見ていました。
「た、助けてくれ…俺は人をこれまで食ったことはないんだ。今日お前を襲ったのも、他の狼に人間はうまいと言われて試したくなっただけなんだ。これからは絶対に人間を襲わないから…な?助けてくれよ」
狼は必死に命乞いをしました。人間に自分が追い詰められるなど、彼にとっては信じられないことでしたが、全身の傷が訴える痛みがこれが現実であると彼に思い知らせていました。
「……狼の口はどうして大きいのかしら?」
「ぎゃああああぁぁぁぁ!!!!!」
赤ずきんは命乞いの言葉を吐き出す狼の口を斧で切り落としました。
「それは人間をだますための嘘を吐くためよ」
狼の嘘は赤ずきんにばれていました。彼女にはぷんぷんと匂ったのです。狼がこれまで食べてきた人間の死臭が。
「狼の耳はなんで大きいのかしら?」
「や、やめ―――」
「それは人間の出す音を聞いて、獲物を決めるためよ」
赤ずきんは動くことのできなくなった狼を時間をかけて、少しずつバラバラにしていきました。口、耳、目、右腕、左腕、右足、左足、尻尾、そして内臓。
「大丈夫か!?」
銃声と悲鳴を聞いた森に住む猟師は、猟銃を担いでおばあさんの家に入ってきました。
「大丈夫ですよ」
家の中に入った猟師が見たのは解剖図のようにバラバラになった狼の死体と血まみれの赤ずきんの姿。
「悪い狼はいなくなりました。これで町も安全なはずです。私は時間がないので、片付けはお願いしてもいいですか?」
「わ、わかった」
猟師が頷くと、赤ずきんはおばあさんの家を出ていきました。おばあさんの家には猟師とバラバラになった狼の死体だけが残されています。
「これが獣狩りの赤ずきんの力か…」
狼の死体を片付けながら、猟師は呟きました。人間に危害を加える獣、彼らを狩る集団として創られたのが獣狩りの集団です。訓練を積んだ赤ずきんたちは各地からの要請を受けて獣を狩り続けています。
6日前、この町で狼に人が食い殺される事件が起きました。町の猟師総出で狼を追いかけましたが、狼は捕まりませんでした。そこで派遣されてきたのが赤ずきんでした。森に住む猟師は赤ずきんの力を信じていませんでした。自分たちでも狩れなかった狼をこんな子どもが狩れるわけないと。彼がいち早くおばあさんの家に駆け付けることが出来たのは、赤ずきんを信用せず、近くに張り込んでいたからです。しかし、彼はそれによって赤ずきんの力を思い知らされることになりました。
「赤ずきんの頭巾は何でもっと赤くなったのかしら?」
森を出た赤ずきんは町長に狼の討伐完了の報告をするために歩いていました。
「それは、悪い獣を狩って血を浴びたからよ」
赤ずきんは楽しそうに自分の赤い頭巾を触っていました。