サリー-アン・パークスの救済 作:ポリジュース
1.サリー-アン・パークスをご存知か?
サリ─‐アン・パークスは天才児だった。
サリ─‐アンは一歳にしてティーンエイジャーと同程度の語彙力と話術を持っていたし、三歳になる頃にはどこで学んだのかペラペラと日本語を話し始め、四歳にもなると片言の韓国語を話し、何故かエスペラント語もペラペラだった。しりとりで他の子どもに負けたことはなく、孤児院の子どもたちの喧嘩を収めるのも上手く、職員との恋バナの相槌も上手かったのでみんなから好かれていた。
おまけにどこぞの子役と見紛うほどの美少女っぷりだ。闇夜のような黒髪に、深い緑色の瞳。顔立ちは恐ろしいくらいに整っている。職員たちは何度か彼女をオーディションに連れて行こうとしたが、「この時代のハリウッドは闇が深いからヤダ」と断られてしまった。
ウール孤児院の人たちはサリ─‐アンのことが大好きだった。____彼女が誰かに引き取られそうになる度、おかしな出来事が起きてみんな逃げ帰ってしまうけれど。
サリ─‐アン自身も、自分がこそがこの世の主人公に違いないと感じていた。
しかし、一九八七年、サリ─‐アンがもう少しで七歳になるある春の日。サリ─‐アンは自分がこの世界の主人公ではないことを知った。
「自転車が、空を飛んだ……?」
★
サリ─‐アンはベッドに潜り、盛大にため息をついていた。
いつもは職員さんの夕飯の準備を手伝い、つまみ食いしたり味見の係を引き受けようとするのに、今日は「体調が悪い」と言ってベッドから出なかった。孤児院に来てから一度だって、体調を崩したことはないのに。
どうしてこうなったんだ。
美少女に生まれ変わって、前世の知識を活かしてちょっと楽をしようと思っただけなのに!
そう、サリ─‐アン・パークスは転生者である。
日本語をペラペラと話せたのは前世が日本人だったからで、片言の韓国語を話せたのは前世で韓流ドラマを見あさっていたからで、エスペラント語を話せたのはなんか面白そうと勉強していたからだ。
子どもたちに余裕を持って接することが出来たのは精神年齢が遥かに上だからで、職員の恋バナに相槌を打つのがやたら上手かったのは二〇二〇年代を生きるJKだったからだ。
別にたいそうな野望なんてない。この美しい顔と知識を活かし、ちょっと勉強して株で一山当てようと思っただけだ。
しかし、二度目の人生の七年目にしてつらい現実に直面してしまった。喧嘩を吹っかけてきたガキが自ら真後ろに吹っ飛んで行ったり、切るのに失敗した前髪が翌日には元通りになっていたり……極めつけは今日、車に轢かれそうになった瞬間自転車が宙に浮かんで難を逃れたことだ。
次々起きる不可思議な出来事、一九八〇年のロンドン、ウール孤児院。
サリ─‐アンは気づいてしまった。ここがかの有名な『ハリー・ポッター』シリーズの世界だということに。
そして、自分がその世界のモブだということに。
サリ─‐アン・パークス。「金ローでハリポタ見ました!」とか「小学生の時図書館でハリポタ読みました!」程度の知識なら知るはずのないモブ中のモブである。幸い、
『ハリー・ポッターと賢者の石』七章でハリーの前に組み分けされた生徒。寮も容姿も分からない、名前以外に何ら情報のない生徒。それ以降彼女の名前が出ることは一度もなく、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』で行われるO・W・L試験で彼女の名前が呼ばれることはなかった。
サリ─‐アンは頭を抱えた。
メタ的に考えるなら、単に作者がサリ─‐アン・パークスというキャラクターをすっかり忘れていただけだろう。しかし、確かにここにサリー‐アンは存在している。「なんか勝手に消えちゃいました」なんてありえない。
つまり、サリ─‐アンは何らかの理由があってO・W・L試験を受けられない状況に陥るのだ。
可能性その一、単なる体調不良。
ほかの生徒とは違う日にO・W・L試験を受けただけ。これなら何も問題ない。
可能性その二、留年。
例えばマーカス・フリントは誤植によって留年扱いだった時期があるが、これはあくまで最終学年の話だ。五年に上がるまでの留年があり得ないのはクラッブやゴイルが進級していることから分かる。
可能性その三、中退。
例えばエロイーズ・ミジョンは死喰い人の襲撃を恐れた両親によって家に連れ戻される。しかし、これは魔法省がヴォルデモートの存在を認めた後の話だし、サリ─‐アンは孤児で、今後里親に引き取られる可能性も低い。
また、ニュート・スキャマンダーやハグリッドは退学処分を受けたが……どちらもそれなりの事件を起こしている。たかがモブキャラが、主人公たちの活躍の裏で大事件を起こしていたとは考えにくい。
となると可能性その四、死亡あるいは聖マンゴだ。
マグル社会での死亡はほぼ無いだろう。魔法族が交通事故やマグルの病気で死ぬとは考えにくい。かといってホグワーツで生徒が死んだり、聖マンゴ行きになれば作中で触れられないわけがない。
サリ─‐アン・パークスは休暇中に、ホグワーツの外で、魔法によって災難に遭う確率が高い。
こんなのってあんまりじゃないか? とサリ─‐アンは思った。
せっかく好きだった『ハリー・ポッター』の世界に美少女として転生したってのにモブキャラで、しかも十五歳までに死ぬか大怪我か大病をする可能性がある。
サリ─‐アンは決意した。
絶対に死なないと。
絶対に聖マンゴ行きにもならないと。
そして、出来ればシェーマス・フィネガンとかディーン・トーマスレベルには出番が欲しいなとも思った。
〈注意など〉
ニュート・スキャマンダー、退学説とギリ退学しなかった説があるんですが、ファンタビは退学したと言っていたので退学したことに。
主人公は転生者ですが社会人になる前、高校生時代で死んでしまったのでそこまで賢いというわけではありません。