短めですが本日2話目の更新です。
─────数時間前
兄が帰国するとを綾に告げられた3人は、それぞれ理由は違えど、表情や声に驚愕が滲んでいた。
数秒で衝撃から立ち直り、詳しい話を3人が綾に聞こうとしたその瞬間、綾がハッと顔を上げて時計を見る。短針はまもなく5時を指そうとしていた。
綾は急いで帰る支度を整え、未だ呆けている3人の前で手を合わせて謝罪の言葉を投げかけた。
「みんなごめん!空港まで行かなきゃだから今日は先帰るわね!また来週!」
「お、おう気を付けて…」
陽子が言い終わるよりも前に綾は廊下を駆けていった。
「小路さん!廊下は走っちゃだめよ~」
「ごめんなさ~~~い!!!」
「……とりあえず、私らも帰るか」
「「はい(うん)…」」
友人の今まで見たことのない俊敏な動きに、一瞬思考が止まっていた3人だったが、再び動きを取り戻し荷物をまとめて教室を後にした。
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校舎を出てから、頭の後ろで腕を組んだ陽子が呟く。
「英司くんが帰ってくるって知ったら、綾はああなるよなぁ…」
「はい…綾ちゃん、お兄さんのこと本当に大好きですから」
「へ~!っていうか!アヤってお兄ちゃんいたんだね!シノとヨーコは知ってるの?」
「綾ちゃんのお兄さんは中学でもいろいろ有名だったみたいなんですけど…実は私もあまり詳しくは知らなくて。陽子ちゃんはお兄さんと仲良いんですよね?」
納得した表情で頷く陽子。綾が兄を慕っていることは知っているが、その人となりはよく知らない忍。そして、綾の意外な一面を知りつつ興味が湧いているアリス。
陽子はそういえば、と顔を向けながら歩きつつ語り始める。
「あーそっか。アリスはともかく、シノもあんまり英司くんと関わり無かったもんな」
陽子は自分が英司と仲良い理由は2人ともランニングをしていたことが理由であると述べる。
彼女は天気が良ければ毎日10km走るほどのスポーツ少女だ。実は猪熊家と小路家は歩いてすぐ行き来できるほど近く、ランニングコースによっては小路家の周辺を走ることもよくある。
もともと陽子は忍よりも綾の家に遊びに行くことが多く、その際に英司と挨拶を交わしていた。当初はただ友人の兄というだけでほとんど会話はなかったが、ランニング中に英司とよく遭遇するようになってからは、並走しながら話す機会が増えたのだ。
(ちなみに、英司が定期的に走っているのは前世の経験によるもの。年齢を重ねてから急激に体力が減って体調不良になってしまった経験から、今世では健康のために定期的に走っている。)
「………と、そんなこんなで仲良くなったんだよね~。最初はびっくりしたけど、綾は英司くんのことが大好きなブラコンだけど、それ以上に英司くんのほうが綾のことをめちゃくちゃ好きな超超シスコンなんだよね。どっちもクール系だから意外でさー」
「…仲良い兄妹なんだね?わたし一人っ子だから羨ましいよ~」
「実際めちゃめちゃ仲良いと思うよー、英司くんが留学行くまでも休日2人でよく出かけてたみたいだし」
「中学時代、たまにご兄妹で一緒に帰ってるのは私も見たことあります~」
ここに綾本人がいれば顔を真っ赤にしながら陽子と忍の口を頑張って閉じようとしたのだろうが、生憎そんな場面はなく、微笑ましい兄妹エピソードで盛り上がる3人。そんな中、忍が思い出したように話題を変える。
「そういえば…お兄さん、留学してたって言ってもどこの国に行ってたんでしょうか」
「たしかに…ヨーコ、アヤのお兄さんがどこに留学行ったかは知ってる?」
「イギリスだよ~」
「「イギリス!!??」」
あまりにも身近な──アリスにとっては地元の──国名に、忍とアリスは思わず大声を上げる。
その2人の反応に(そんなに驚くことかな?)と考えた陽子だったが、改めてアリスを見ると自分も驚いて声を上げた。
「…あそうじゃん!アリスってイギリス人じゃん!!」
「なんで忘れてるの!?」
「そうですよ!毎日アリスの金髪を見ていてイギリス人であることを忘れるなんて!」
「金髪は関係なくないか
…?いや私が悪いんだけどさ…アリスごめん!」
今日も金髪推しを拗らせている忍と地元を忘れられていたアリスに対して、素でアリスがイギリス人であることを失念していた陽子は謝罪の言葉を送る。
「…ううん、大丈夫だよ!よく考えたら、それだけ私が日本に受け入れられてるってことだと思うから!」
忍の金髪好きも相当だが、アリスの日本(概念)好きも相当なモノである。
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「そういえば、シノ」
「はい、何でしょうか?」
綾の兄がイギリスに留学していたことについて、2人から質問攻めにあった陽子だが、仲が良いと言ってもそれ以上の情報はなかった。
そこからいつも通りの会話を続け、数十分後に地元の駅に着き、しばらく歩いて陽子と別れた忍とアリスは、大宮家への帰路についていた。
そんな中、アリスが先ほどの忍の発言に疑問を抱き、口を開く。
「アヤのお兄さんが中学で有名だったってシノ言ってたけど…何が有名だったの?」
「あぁ、それは私も噂しか知らないんですけど…」
「うんうん」
両指を頭に当て当時の記憶を思い出しながら、忍が答える。
「曰く、転校してきてすぐに学年1位になったとか」
「お~!」
「曰く、その女子力で学年の女の子全員のプライドを粉々にしたとか」
「お~?」
「曰く、外国語を5つぐらい喋れるとか」
「…………」
「…曰く、外国語どころか犬や猫,鳥なんかと喋れるとか」
「流石にそれは盛ってるよ!」
だが1つも盛っていないのだった。
前半だけで大人顔負けのスペックを持ち、そこに突然人間離れした噂が加わったため、噂の信憑性を損ねてしまっている。
そんなアリスの反応に忍は再び口を開く。
「当時綾ちゃんは否定してませんでしたね」
「えぇ…?…でも、お兄さんのこと大好きなら否定しないこともあるのかも…?」
普段の綾であれば違うことは違うとしっかりと否定しそうなものだが、先ほど聞いた綾のお兄ちゃん大好きエピソードを聞いてからだといまいち信じ切ることがアリスには難しかった。
「…すごそうな人ってことはわかるけど…知れば知るほど謎が増えてくね…」
「……あ、お姉ちゃんなら詳しいかもです!同じクラスだったらしいので」
「ほんと!?じゃあ帰ってイサミにも色々聞いてみようよ!」
「そうですね!そうと決まれば急いで帰りましょう!」
***
私の兄さん、小路英司はとんでも無い人だ。
少なくとも私の周りにいる人の中では最も頭が良い。私と違って運動神経も良い。兄さんがテストで90点以下を取っている所なんて一度も見たことないし…。
容姿だって悪くないはず。芸能人やモデルさんみたいに飛びぬけてカッコいいという訳でも無いが、清潔感はある。私と2つしか年齢は離れていない筈なのに、昔から年齢以上に大人びて見えるし、ちょっと突拍子が無いときもあるけど人格者だとも思う。そもそもコミュニケーション力も並外れているから、実際中学生のころは何度か女の子からアタックされている。
そして兄さんを語る上で外せないこと、それは語学力。あの人は一体いくつ外国語喋れるの…?留学に行く前から既に7,8個は喋れてた筈だけど…、3つぐらい喋れる外国語が増えてそうね。
何なら昔、散歩していた犬と兄さんが会話(?)しているところも見たことがある。ただ一方的に兄さんが喋りかけているかのようにも見えたけど、私にはちゃんと意思疎通が出来ているようにしか見えなかった。兄さんの語学力をもってしたら人間が喋る言葉も動物が喋る言葉も関係無いのかもしれない。
きっとこういう人を世間では優良物件なんて呼ぶのかしら?妹の自分が言うのも身内贔屓かもしれないけど、改めて考えるとスペックが高すぎて正直意味がわからない。
ただ…
「解せぬ…」ヒリヒリ
抱き着くのを止めた兄さんの頬っぺたには思わず反射的に私が放ってしまったビンタの痕が赤々と付いていた。
「私もう高校生だから!外でやられると恥ずかしい!」
ただ…
本当に、本当にこの愛情表現の仕方だけはどうにかならないのかしら…!
普段はどちらかと言うと落ち着いてほわーんとしているクールタイプなのに、私に関わる時だけ異様にテンションが高い…!思い返すと、いつも兄さんは私のことで一喜一憂していた。
───小学校卒業式にて
『あ゛や゛ち゛ゃ゛ん゛そ゛つ゛ぎょ゛う゛お゛め゛で゛と゛う゛~~!!』
『な、なきすぎ!!』
お母さんとお父さんよりも大号泣してるし!
───中学校からの帰り道にて
『え!?テスト満点だった!?偉いぞ~~~!!!!』ナデナデナデナデナデナデ
『うにゃああああああ!!!!』
って感じですぐに頭は撫でてくるし!
───休日の家にて
『ねぇ見て綾ちゃん!この前食べたがってたチーズケーキ作ってみた!はいあ~~~~ん!』
『ちょ急に、あ~~~……あ、美味しい』
急にあーんなんてしてくるし!!!!
幼少期から今に至るまで、いつでもどこでも遺憾なくシスコンぶりを発揮していた記憶しかない。
嫌なわけじゃないけど、恥ずかしすぎるのよ!!
………ふう、2年ぶりに兄さんからの
そんな私の気も知らず、痛てて…と呟きつつも、兄は親指を立ててグッドポーズしながら笑顔で告げる。
「じゃ、家に帰ってからもう一回ハグするね!」
「そういうつもりで言ったんじゃ無いわよ!」
「ごめんごめん」ハッハッハ
この人は本当にもう……留学に行って2年ぶりに会ったのに、少しは大人しくなっているかもと思った私がバカだったわ……!
兄さんは笑いながらお父さんとお母さんにもただいまと帰省の言葉を告げる。2人は兄さんのシスコン具合に慣れているのか諦めているのか、先ほどまでのやり取りに何か言うこともなく苦笑いしながらおかえりと返答した。
……まあやり方はともかく、私のことをいつも可愛がってくれるのは素直に嬉しい。それに私が本気で嫌だと感じることはほとんどされたことが無い。
だからこそ、たまに膝を貸すとか、う、腕を組むくらいはしてあげてもいいかな……たまによ!?週1とか!兄は日本に帰ってきたばかりだし!!
少なくとも、それぐらいのことが出来るぐらいには私も兄さんのことは尊敬してるし、好ましく思っている自覚はある。
「兄さん」
「ん?」
「その…おかえりなさい」
「…!ただいまぁ!」ガバッ
「だから抱き着かないで!」
前話とオチ一緒事件&2話目にしてオリ主視点が登場しない事件発生
次回からあらすじ通りの物語が始まる(はず)