お待たせしました。
これからは毎週月曜日に投稿していきたいと思います。
あと前話と前々話、勢いだけで書いたところを修正してます。
「おふぁよ~」
昨日は飛行機の中でほとんど眠れなかったというのに、夜遅くまでメールのやり取りをしてしまった。その反動か今朝は寝坊してしまい、時計を見ると既に10時を回っていた。
留学前は中学生だったし、基本的に毎朝6時には起きていた。あの頃と比べると、心身ともに疲労が溜まっていたのだろう。時間の経過に驚きつつ、のっそりと一階へ降りる。
キッチンには母さんがいて、ソファでは父さんがテレビでゴルフ番組を眺めていた。のんびりとした週末の風景。母さんに挨拶を返されつつダイニングの椅子に腰かけると、僕が階段を降りた音に気づいたのか、綾ちゃんも階段から降りてきて向かい側に座った。
「兄さん、おはよう。よく眠れた?」
「そりゃもう。飛行機、消灯時間以外ほとんど起きてたしね~」
「なるほどね。時差ボケとかはないの?」
「今のとこは平気っぽい~」
──うむ、やはり我が家は最高である。
イギリスにいた頃も電話やビデオ通話で会話することはできたが、こうして顔を合わせて、気兼ねなく綾ちゃんと話せる時間はやはり格別だ。
その幸せを噛みしめながら、母さんが焼いてくれたパンにかぶりつく。バターの香りと香ばしさが口に広がる。こんなに心躍る朝食は久しぶりだった。
やがて話題は自然と、今日の予定についてへと移っていった。
「綾ちゃんは今日どうするの?」
「んー…午前中は宿題を片付けて、そのあと駅前のモールでシノ──えっと、友達の誕生日プレゼントを買いに行く予定かしら」
「お、ちょうどいいや。僕も留学中に買い逃した本を探したくてさ。一緒に行ってもいい?」
「もちろん。勉強終わったら声かけるわね」
「はーい」
二言三言ほど会話を交わすと、綾ちゃんは勉強の続きをしに自室へと戻っていった。
その後、僕は朝食の皿を片付けてから両親としばらく話をしていた。何気ない雑談だったが、そんな時間もまた懐かしく、あっという間に時間が過ぎていった。
*
*
*
昼食後。綾ちゃんの勉強も終わったようで、準備を済ませた僕たちは一緒に家を出た。
僕は白シャツにジーンズというシンプルな格好。一方、綾ちゃんは紫系のブラウスに膝下のスカート、髪をリボンでまとめたフェミニンな装い*1だった。まるで絵本から出てきたような可愛さである。
「いいねその服。とっても可愛いと思うよ」
「あ、ありがとう…///。兄さんも似合ってると思うわよ」
「ありがとっ!」
見てくださいよ皆さん。こんなに可愛い子が、うちの妹なんです。
前世では一人っ子だった僕は、兄弟姉妹のいる人が本当に羨ましかった。その反動で、つい猫可愛がりしてしまっている自覚はある。けど、仕方ないじゃないか。可愛いんだから。
そんなことを考えつつ、駅前へと向かって歩いていると──
「ニャ~」
微かに、小さな鳴き声が聞こえてきた。
「あれ、兄さん……あの子」
視線の先には、灰色の毛並みを持つ少しぽっちゃりとした猫が、短い足でぽてぽてと近づいてくる。首輪は付いていない。野良猫のようだ。
猫は僕たちの足元までやってくると、もう一度「ニャ~」と鳴いた。僕がしゃがんで目線を合わせると、今度はさらに小さく、優しい声で鳴く。
「ニャ~〈えーじー〉」
「おぉ、ボスか~。久しぶりだな~」
「ニャ~〈ひさびさー〉」
この猫は、小路家がこの町に越してきた直後に出会った子だ。
最初は意思疎通ができることに驚いていた様子だったが、次第に打ち解け、今では顔を見せれば軽く雑談もできるような間柄だ。以前より体格がよくなっていて、しっかり“大人の猫”になっていた。
「兄さん、その子って……」
「この辺りのボス猫だよ。名前がないから、僕は勝手に“ボス”って呼んでる」
「ニャ~〈よろしくー〉」
「よろしくー、だってさ」
「えぇ……よろしく?」
ちょっと困ったような表情の綾ちゃんだったが、ボスに数分ほど挨拶をしてからお別れし、再びモールを目指して歩き始めた。
──ただ、道中で他の友達、カラスやら犬やらが話しかけてきたため、つい会話に応じてしまい、到着は予定よりも遅れてしまった。
*
*
*
モールに到着すると、まずは綾ちゃんの用事であるプレゼント探しから取りかかることにした。
色とりどりの店舗が軒を連ねるショッピングモールの中、ひとつひとつの店の前で足を止める。2人で「これがいいんじゃないか」「あっちのほうが可愛い」等と言い合いながら店を回り、約1時間ほどかけてようやく理想のプレゼントが見つかった。
「付き合ってくれてありがとう、兄さん」
綾ちゃんは照れくさそうに微笑みながら言った。
彼女が選んだのは、ロンドン発のブランドによる、花柄や王冠のデザインが施されたステーショナリーセットだった。
「シノは外国……特にイギリスが好きだから、きっと喜んでくれると思って」
なるほど、と思う。
そういえば中三の頃に同じクラスだった大宮さんと妹談義をしたとき、「妹が外国のこと大好きで~」「熱中できるモノを見つけれて良かった~」なんて言っていた記憶がある。
苗字も同じ“大宮”だし、きっと昔一度だけ挨拶したことがあるあの子のことだろう。
*****
場所は変わり、小路兄妹がプレゼントを探していたモールの別エリア。
ゴスロリ調の黒いドレスを身にまとった少女と、ピンクのふんわりとしたワンピースを着た少女───忍とアリスの二人は、忍の母親から頼まれていた買い物をすべて終えたところだった。
それぞれの手には買い物袋が1つずつあり、満足げな表情を浮かべていた。
「シノ、これでマムに頼まれてるお買い物は全部かなー?」
「そうですね、流石アリスです!」
「えへへそうかなぁ~…って、あれ?」
モールの中をぶらついていたアリスが突然立ち止まり、何かに気づいたように店の中を覗き込む。
「…?アリス、このお店が気になるんですか?」
忍は首をかしげながら聞いた。
アリスは店内で商品を見ている2人に注目している。「シノ、あれ」と小声でささやく。
忍が視線を向けると、何かと昨日から自分たちの中で話題の綾が男の人と歩いているのが見えた。
「あ、綾ちゃんです…と、あの方は多分綾ちゃんのお兄さんですね」
「あの人が…!」
陽子曰くお互いにお互いのことが大好きな兄妹らしいが、目の前の光景を見ると、その言葉の説得力はさらに高まった。
綾はいつも以上に朗らかな表情をしているし、浮かべている自然な笑顔には、どこか特別な輝きがあった。兄もそんな綾を見つめる目は優しく、まるで世界で一番大切なものを見るような眼差しであった。
「なんか、すごく仲良さそうだね」
アリスがぽつりと言う。
「はい、なんだか私たちまでほっこりしてきちゃいますね」
2人はいつもと違う友人の姿には興味が湧き、買い物袋を抱え柱の陰に身を潜めながら隠れて2人のことをワクワクしながらじっと観察していた。
***
「「………」」ジー
───……何だか、すごく視線を感じる。
さぁ次は本屋だ、と店を出たとしたところで、ふと視線の先に、おかっぱ頭の少女と金髪の少女が物陰からこちらを見ているのに気づいた。
(……あれ、あの子たち)
心当たりが、ふと浮かぶ。
綾ちゃんが以前話していた“イギリスから来た留学生”と“その子が追いかけてきた友人”のことだ。
「そういえばさ、綾ちゃんのクラスにイギリスからの留学生が来たんだよね?」
「アリスのこと?えぇ、前も話したと思うけど、シノのことを追いかけて日本に来たらしいわ」
「その子って、金髪だっけ?」
「? そうね、綺麗な髪よ」
「じゃあ……シノちゃんは黒髪の短髪?」
「……!?よく覚えてるわね…!?」
「いや、その……あそこに」
「えっ?」
視線の先を指さすと、そこには──
「シノ!? アリス!?」
「「あっ」」
*
*
*
とりあえずその場で4人並んで立ち話を続けるのも周囲に迷惑だということで、近くにあったカフェに入ることにした。
昼時を少し過ぎた時間帯で店内はそこまで混んでおらず、窓際の4人がけのテーブル席に腰を下ろす。全員が注文を終えてドリンクが届き、一息ついたところで、ようやく改めての自己紹介タイムとなった。
「改めて、綾ちゃんのお兄ちゃんやってます、小路英司です。忍ちゃんは久しぶり、君は初めましてだね。綾ちゃんのお兄さんだと長いし、好きに呼んでくれて良いよ~」
「お久しぶりです!…えっと、苗字だと綾ちゃんと被っちゃうので、英司さんってお呼びしますね!」
忍が元気よく頭を下げたあと、隣に座る少女に目を向けながら言う。
「綾ちゃんと陽子ちゃんからも色々と聞いてます。そして、こっちの子がアリスです!」
──ほんわかした雰囲気の子だな。私服はちょっと意外な感じだけど…。
今はモデルもやってるらしい大宮さん(姉)はどちらかと言うと、美しいとかカッコいいみたいな言葉が似合いそうな女の子だ。対して妹の忍ちゃんはなんというか、ぼや~っとした子である。
そんな忍ちゃんの横にちょこんと座っている金髪の少女は、少し緊張した面持ちで忍ちゃんの腕にぴったりとくっついていた。けれど、忍ちゃんに促されるようにして、そっと腕を離すと、小さく深呼吸してから自己紹介を始めた。
『えっと……初めましてエイジ、アリスです』
小さな声だったが、しっかりとしたイギリス訛りの英語だった。
口元に少し緊張が残るものの、やはり慣れ親しんだ言語のためか、凛とした可愛い声である。
『うん、初めましてアリス。やっぱり、こっちの方が話しやすいかな?』
僕もイギリス英語で応じると、アリスちゃんの表情がぱっと明るくなった。
久しぶりに母国語を聞いたせいか、目を丸くして、思わず身を乗り出すようにして言葉を返してくれる。
『……!イギリスの英語!とても綺麗な発音です!』
『ありがと!ま、つい2日前までイギリスに行ってたからね。他の言語よりも得意なつもりだよ。…アリスちゃんの日本語も綺麗だって綾ちゃんから聞いたよ?』
「はい、たくさん勉強しました!」
アリスちゃんは胸を張って笑う。
その表情は誇らしげであり、嬉しそうだ。
『おお、本当に日本語上手いね!日本人みたいだ!』
「あ、ありがとうございます!」
──いや、本当にお世辞抜きで上手い。
僕は例の特典(言語チート)のおかげで喋れてる部分が9割なのに対して、彼女は純粋に努力でこのレベルに達しているのだ。
僕が1番付き合いのあるあの子は、日本人のお父さんがいるからある程度喋れても不思議じゃなかったし、僕自身もちょっとだけ教えたことがある。でも、アリスちゃんみたいに全てが外国の環境から来て、ここまで流暢に日本語を話せる高校生は、かなり珍しいと思う。
ちょっと盛り上がってアリスちゃんと会話を続けようとすると、それぞれの隣から声が挟まった。
「英司さん、すごいですね! アリスと英語で喋れるなんて!」
忍ちゃんが目を輝かせて僕の方を見る。
「というか、日本語と英語が逆じゃない……?」
そして綾ちゃんは感心とちょっとした困惑をまぜた表情でぽつりと呟いた。
僕が英語で話し、アリスちゃんが日本語で返す──冷静に考えれば確かにちょっと変な構図だ。
「「あっ、ごめん!」」
僕とアリスちゃんは思わず笑って肩をすくめる。
アリスちゃんはえへへと頬をかきながら口を開く。
「イギリス英語を喋ってくれる日本人って本当に少なくて。だからつい…」
「イギリス英語?英語にも種類があるんですか?」
「…たしか、アメリカとイギリスで発音とかが違う、って聞いたことあるような…」
綾ちゃんが曖昧な記憶をたどるように呟く。
「そうそう。たとえば"schedule"の発音とか、"r"の巻き方とかね」
と、ちょっとだけ説明を加える。
隣ではアリスちゃんが「うんうん」と嬉しそうに何度も頷いていた。
どうやら、母国語を通じて誰かと繋がれたことが嬉しいようだった。
「普段から英語を使うときはイギリス英語なの?」
「ん、まぁそうだね。アメリカ英語も喋れない訳じゃ無いけど、もうこっちに慣れちゃった」
「イギリスに留学してたものね」
綾ちゃんの言葉に頷いたそのとき、対面からまたしても忍ちゃんの声が飛び込んできた。
「英司さんって、英語以外にも他の外国語も喋れるんですよね…?」
「うん、一応ね。普段は使わないから正確な数が合ってるかは分からないけど、日常会話レベルなら……まぁ、8ヶ国語くらいは」
「は、はちかこくご…?」
目をまんまるにしてイスの背もたれにのけぞる忍ちゃん。アリスちゃんも「わあ……」と目を見開いて感嘆の声を漏らしていた。
「すごいです……! どうやったらそんなに話せるようになるんですか!?」
うわあ、来たよこの質問。
僕は苦笑しながらグラスの水をひと口飲んで、適度に本当っぽくてバレにくいテンプレの説明を伝える。前世とかチートとか、もちろんそんなものは言える筈がないからね。
「うーん……なんていうか、昔から“言葉”ってものにすごく興味があったんだよね」
───どちらかと言うと興味を持たざるを得なかったというか…前世で全然出来なかったのが大きすぎるんだよなぁ。
「外国の文化とか本を読むのも好きだったし、それに……いろんな人と話せるって、単純に楽しいからさ」
───順序が逆なんです、何見ても聞いても喋っても理解できたから好きになれたんです…。でもそれを理由にせず、ちゃんと勉強しているんだよ、うん。たぶん努力の方向性がちょっとズルいだけだ。
「あと、言語って他の教科と違って、“使えば使うほど上達する”からさ。勉強っていうより、ゲーム感覚に近いかも」
「ゲ、ゲーム……!」
「そう!ステージクリアしていく感じ。知らない言語が新しいステージ、新しい単語覚えたら“スキル解放!”みたいな」
忍ちゃんは「なるほどです……!」と、もはや目を輝かせすぎて目の中に星が浮かびそうな勢いだった。
───……ごめんね、このゲーム、僕は最初から全マップと全スキル開いてるんだ。一応誤解されないように言っておくけど、日本語で文法とか構造を理解し直すためにちゃんと努力してはいるから!
「す、すごいです……! 私、外国語どころか勉強自体が苦手なので……」
「いやいや、でも忍ちゃん、少なくとも言語に関しては外国の文化が好きっていうのは大きな強みだよ。言葉を好きになる第一歩って、そこから始まるからさ」
「本当ですか…?私も、いつか英語でアリスともっと話したいなって思ってて!」
「その気持ちがあれば、絶対大丈夫。むしろ、もうスタートラインには立ってるよ」
その言葉に、忍ちゃんの表情がぱっと明るくなった。
やる気スイッチが入ったのか、忍ちゃんがふんす、と意気込んで両手をぎゅっと握りしめ、びしっ!と背筋を伸ばしてこちらを見た。真剣な表情である。
「英司さん!」
「うん?」
───おや?これは何か来るぞ?
次の瞬間──
「アイアム、シノブ! アイライク、イギリス! アリス、ベリーキュート! ユー、スピーク……ベリーイングリッシュ!!」
忍ちゃんは一息で言い切った。店内は少し静まり返っている。
文法も発音も怪しいが、勢いだけは100点満点だ。
うん、全力なのは伝わった。めちゃくちゃ伝わった。
「ベリーイングリッシュ」という謎ワードにちょっと笑いそうになりつつ、僕は笑顔で返す。
──なら、こっちも“全力”で返してあげようかな。
「Thank you, Shinobu. I’m very happy to hear that. Actually, I also think Alice is cute, and your English is very, very enthusiastic. But perhaps we should practice together more? For example, next time, let’s try some longer sentences, okay?」
「………ほぇ?」
忍ちゃんの目がくりくりと丸くなり、顔が固まった。わかりやすく困惑している。
「えっとぉ…セ、センキューとオーケーは分かったんですけど、えっと…」
隣のアリスちゃんがハッとした表情になり、すぐに優しくフォローに入った。
「えっとね、英司さんは“ありがとう”って言って、それから、“言ってくれて嬉しいよ”って。あと、“シノブちゃんの英語も、すごく熱意があって素敵だね”、だって!」
「ふ、ふんふん……っ(褒めてくれたのかな……!?)」
「最後に、“今度はもっと長い文にもチャレンジして練習してみよう”、だって!」
「頑張りましゅう…」
頭を抱えてふにゃふにゃになる忍ちゃん。
…と、むぅ、と頬をふくらませてジト目でこちらを見るアリスちゃん。
「……エイジさん、意地悪だよ!……あんなにいっぱい返したら、シノびっくりしちゃうよ!」
声に怒りの色はないけど、それでも可愛らしくじんわり抗議してくる。アリスちゃんが忍ちゃんのために怒るその優しさが伝わってくる。
「ご、ごめんごめん!嬉しくなってつい勢いで……!」
僕は両手を上げて謝った。完全に悪ノリした自覚はある。ごめんね忍ちゃん。
──と、そのとき。
「……兄さん」
ずっと様子を見ていた綾が、じとーっとした目で僕を見ながらすっとカップを置いて冷静な声で口を開いた。
「初心者にネイティブもビックリの英語ぶつけて、アリスにも叱られるって、どういう状況?」
「……全力で反省します」
*
*
*
あれからカフェで4人で楽しく語らって、約1時間ほどで解散。
その後、僕は目的だった洋書の新刊を本屋で無事にゲットし、綾ちゃんと一緒に帰宅した。
家では、いつも通りの平和な時間が流れていた。
シャワーを浴びて、母さんが作ってくれた夕食をのんびり食べ、食後のデザートに冷蔵庫からプリンをこっそり拝借したりして──気づけば、もうすっかり夜。
部屋の照明は柔らかく、外は虫の音が遠く聞こえる静かな時間。家族それぞれがリビングや自室で思い思いに過ごす中、僕は綾ちゃんの部屋に呼ばれていた。
綾ちゃんの部屋は、彼女らしく整っていて清潔感がある。ベッドの上には英語の教科書とノートが開かれ、サイドには丸いフォントの付箋がいくつも貼られていた。
「…………てことで、ここはwould have goneになる」
僕がノートの一文に指を置いて言うと、綾ちゃんが首をかしげる。
「“もし〜していたら”っていう過去の妄想ってことよね……うーん、頭ではわかっても口に出すと難しいわね」
「時制が3つぐらい重なってるからね。“現実には起こらなかったこと”を言葉にするのって、日本語でも難しいし」
「分かるような、分からないような…」
綾ちゃんが小さく唇を尖らせた。
納得しかけて、でも微妙に納得してない顔。可愛い。
兄妹のちょっとしたお勉強タイム。
こうして一緒に勉強する時間も、僕にとってはかけがえのないひとときだった。
そんなふうに穏やかな時間が流れる中、すこし遠くからピロリン、ピロリンと着信音が聞こえてきた。
それは、綾ちゃんの部屋の隣──つまり僕の部屋からだ。
「兄さんのじゃない?」
「うん、多分。ちょっと出てくるね」
立ち上がり、静かに綾ちゃんの部屋を出る。
廊下を渡って自室の扉を開けると、机の上でスマホが微かに震えていた。
画面に表示された名前に、少しだけ目を見開く。
画面に浮かぶその文字列は、イギリスでの日々が思い出される代表的な名前だった。
いつもはメールでのやり取りなのに、今日は電話。何かあったのだろうか。いや、むしろ何か言いそびれたことでも?
『やぁ、カレン。どうしたの?今日はメールじゃなくて』
受話ボタンを押すと、スマホのスピーカーから、ぱっと空気を変えるような明るい声が飛び出した。
『エイジー!聞いて!私当分日本に住むことになったの!』
明るく、勢いに満ちていて──そして間違いなく、喜びを含んだ声色であった。
「……………え?」
原作の部分にも触れていきたいなと思いつつの地盤固め回でした。
綾ちゃんが買った誕プレはアニメでの大きさを見て、時代設定的に当時流行ってた商品とかから探してます。
ただ高校生の女の子が同性にあげるプレゼントとか全然詳しく無いので、「そんなもん渡すかい!」とか言われちゃうかもと戦々恐々としております。