TS転生者はとにかく楽して異世界を攻略したい   作:さくさくさくたー

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1 とにかく楽して楽々生活

 異世界に転生すれば、現代よりもずっと自由に生きられると思っていた。

 魔術やスキルといった特別な力があれば、個人が自分の思うがままに生きられるだろう、と。

 しかし世の中そう全てが上手くいくはずもなく。

 私が転生した際に手に入れた力は、直接戦闘に寄与するものではなかった。

 無論、特別な力では在る。

 使えば、多くの富を名誉を手に入れられるだろう。

 しかし、本来の使い方をすると私の力は()()()()()のだ。

 だから下手に使うと、私は成り上がりすぎてしまう。

 世界の命運を握るような、そんな地位にまで上り詰めてしまうのだ。

 それは行けない。

 前世では、変わりなんていくらでもいるような社畜人生を送ってきた。

 そして来世では、変わりがきかなすぎて社畜のような人生を送ることになってしまう。

 私は一度、そんな社畜生活で地獄を見た。

 自由のない生活は、もうゴメンだ。

 

 私は自由な生活を送りたいのだ。

 朝の起床時間は自由に決めたいし、突発的に休日を作りたい。

 異世界で、冒険者ならそれができると思っていた。

 だからこそ、たとえ自分の能力が冒険者に向いていなくたって、私は冒険者になるのだ。

 なにも、決して全く能力に応用が効かないわけではない。

 むしろ使い方を工夫すれば、私の能力は楽をするのに向いている。

 だからこそ、決めた。

 

 私は、とにかく楽して異世界を攻略する。

 冒険者になって、能力を工夫して、楽をして生きるのだ。

 結果として――少し、多少……それなりに周囲を振り回してしまうことにはなるけれど、不幸にはなっていないので、大丈夫だと思う。

 多分。

 

 

 □

 

 

 私はその日、ギルドマスターに呼び出されていた。

 冒険者ギルドを束ねる長、言ってしまえば私が拠点とするアイラムの街の冒険者のドン。

 そんなヤバい人に、突如として「おまえちーと面貸せや」されたのである。

 なにそれ怖い……私は平凡で無害な一般冒険者なのに。

 

「と、いうわけでシーラ。アンタまたやってくれたわね」

 

 シーラ、私の名を呼ぶ眼の前の少女。

 ちびっこい背丈に、クソでかいリボン、燃えるような赤髪に、射抜くような視線。

 いかにも気の強い少女といった風体の彼女こそ、この街が誇るギルドマスターである。

 名を――

 

「いや、私は何もやってない、レイカ。ほんとほんと」

 

 レイカ。

 今年で十八歳になり、今から三年ほど前に史上最年少でギルドマスターとなった才媛である。

 私とは、ギルドマスターになる以前の冒険者時代からの腐れ縁だ。

 そんなレイカが、瞳を鋭く細めながら私を睨む。

 

 対する私はごくごく一般的な銀髪TS美少女。

 背丈はレイカより少し高いけど、小柄な部類。

 胸がすこぶる大きい以外は、レイカと同じくミニマムサイズ。

 装備の関係で露出が多いけど、そのことに少しだけ背徳感を感じている一般TS転生者だ。

 

「アンタしかいないでしょ! あんなバカみたいなことできる人間が、他にいてたまるか!」

「いやいや、私は品行方正で真面目な冒険者、バカみたいなことなんてたまに……そんなに……あんまりしない!」

「途中から語気を弱くするんじゃない!」

「というか」

 

 私はなんとか言い訳をしようと、身振り手振りを交えながらレイカに訴える。

 

「そもそもどれの話?」

「語るに落ちたわね! 心当たりがないってレベルでやらかしてるんじゃない!」

「うぐ……いやしかし、何をやったのか知らないけど、私がやったという証拠はどこにもないはず」

「自分でいうか……」

 

 はぁ、と額に手を当てるレイカ。

 いや本当に、私がやらかしたという証拠はでてこないはずなのだ。

 何せ、証拠が残りようがないからな。

 

「証拠が残らないのが、そもそも何よりの証拠なのよ」

「……まぁ、そう言われるとそうなんだろうが」

「とにかく、説明してもらいましょうか?」

 

 そう言って、レイカは立ち上がる。

 今まで、ギルドマスターの執務室の執務机に腰掛けたまま、私を睨んでいたのだ。

 そんなレイカが、私の前までカツカツとやってくると――

 

 

「ダンジョン中層に出現した氷竜が、()()()()()()()()()()()()()()()件について」

 

 

 私の胸元あたりをびしっと指さしながら、こちらを見上げてきた。

 

「ああ、そのこと」

「そのことか……じゃない! 昨日の今日よ!? もしかしてそれ以外にも何か昨日のうちにやらかしたんじゃないでしょうね!」

「…………昨日はやってない」

「嫌な沈黙ね」

 

 まぁ、うん。

 それはいいのだ。

 今は本題じゃないし。

 氷竜。

 名前のイメージそのままの、氷属性のドラゴンである。

 青白い色をしていて、首の長いシュッとしたフォルムの西洋竜だ。

 そして、ダンジョン中層という言葉から、なんとなく事態は想像ができるだろう。

 

「本来、中層に出現するはずのない氷竜が、突如として現れた。そう聞いた時は血の気が引いたわよ」

「けど、突然氷竜が口から蛙噴いて死者が出ずに処理できただから、良いことだ」

「口から蛙引き出して処理できることがまずありえないんだけど!? そもそもどうして蛙なんてでてくるのよ!」

 

 ダンジョンに出現しないはずの魔物が現れる。

 極稀にだが、そういうこともなくはない。

 もしそうなったら、近くに居た冒険者は犠牲になってしまうのだが、今回はたまたま近くに氷竜を処理できる何者かがいたおかげで死者を出さずに済んだ。

 ……わけだが、まぁ蛙ってなんだよ……って話だな。

 

「そうだね……もし仮にそんなことが起こり得るとしたら……水蛙泡(みずあほう)っていうマジックアイテムの効果じゃない?」

「水蛙泡って……水を蛙に変身させるマジックアイテムだったかしら? ……氷竜のどこに水なんてあるのよ」

「あるでしょ、凍った水が、たんまり。それにドラゴンはブレスを吐く。()()()()()()()()()()()()()()一発」

「…………可能かどうかでいえば、可能なんでしょうね。事実としてそうなってるわけだし」

 

 はぁー、と大きなため息一つ。

 レイカは腑に落ちないけれど、納得するしかないといった様子で肩を落とす。

 いいじゃないか、それで氷竜を倒せたんだから。

 

「でもね、他に突っ込みたいとこはまだまだあるわ。そもそも水蛙泡って滅茶苦茶レア……というか、マイナーなマジックアイテムじゃない」

「さすがレイカ、よく知ってる」

「そりゃあ私はギルドマスターだもの、冒険者にまつわる情報を集めるのが仕事の一つよ」

 

 でもね、とレイカは続ける。

 

「マイナーだからこそ、凄腕アイテム合成師であるアンタのアイテム合成でも、作成は難しいでしょ」

 

 ――アイテム合成。

 それが私のチートスキルの名前だ。

 この世界には色々とスキルがあるわけだが、アイテム合成もその一つ。

 ただ私のアイテム合成は特別性である。

 具体的に言うと、スキルのランクがS+。

 うーん、あまりにわかりやすくチート。

 で、そういうスキルを使う人間はアイテム合成師と呼ばれるわけだ。

 

「魔法生物すら創造できるアンタのアイテム合成なら、魔法生物を生み出す水蛙泡も作成することはできるでしょうけど。素材を集められるかは別だし」

「まぁ」

 

 アイテム合成には、合成元となる素材が必要だ。

 その素材がすごい素材であればあるほど、生み出せるマジックアイテムも強力になり、アイテム合成のランクが上がれば上がるほど合成できるマジックアイテムの質も変わってくる。

 S+であれば、魔法生物も作成が可能だ。

 魔法生物ってのは、文字通り魔法で生み出した生物。

 今回の水蛙泡で生み出した蛙がそれだな。

 特徴としては意思を持たず、生物とはいうが生命ではない。

 そして内包している魔力がなくなると、形を保てなくなる。

 これにより、私はアイテム合成で魔法生物を生み出し、それを使役するのだ。

 結果、効果が終わった魔法生物が時間経過により消滅すると、私がそれをやったという証拠が物理的に消失する。

 私が平穏に暮らすための証拠隠滅に、これほど有効な方法はないだろう。

 ともあれ。

 

「でも、考えても見てほしいんだけど、水蛙泡って水を蛙に変えるんだ」

「蛙だけに、とか言うんじゃないわよ」

「言わないけど……レイカってダジャレ好きだよね」

「こいつ……!」

 

 こほん。

 まぁ、ようするに。

 

「――水と蛙を合成すれば……できるじゃん、水蛙泡」

 

 話としては、非常に簡単なのだ。

 まず魔法生物の蛙を生み出し、更にそれを氷竜のブレスと合成。

 結果、窒息死する氷竜の完成だ。

 これまで誰もそれをやってこなかったのが不思議に思えるくらい。

 だが――

 

「できるかぁ!」

 

 ぺしっと、痛くならないように加減した手刀をレイカが繰り出してくる。

 

「アイテム合成は、決まった素材を決まった量合成することでアイテムを作成するスキルでしょ! 水と蛙を素材にしてもふつーは水蛙泡にならないっての! いくらアンタが高ランクのアイテム合成持ちでもね!」

 

 そう、そうなのだ。

 普通なら、できない。

 じゃあどうやって、水蛙泡を作成したのか?

 答えは――とても非常に簡単な理由だ。

 

「そこは、ほら。アイテム合成にはもう一つ重要な要素があるじゃないか」

「……イメージ、ね。じゃあアンタは何をイメージしたのよ」

 

 ――アイテム合成には、素材の他にもう一つ重要な要素がある。

 それがイメージだ。

 このアイテムの効果はこういう効果だ……と強くイメージすることで、効果を高めることができる。

 私はそれを利用して――

 

 

()()()()()()()()()()()()……ってイメージしたんだ」

 

 

 本来ならありえないことがありえてしまうくらい、()()()()()()()()と願いながら、アイテム合成を行ったのだ。

 

「結果、できた」

「…………」

 

 そんな私の言葉を聞いて――

 

「できた、じゃなあああああい!」

 

 レイカの叫びが、執務室に響く。

 

 まぁたしかに、普通ならどれほど「楽がしたい」と思っても、ありえないことが起きるほどじゃない。

 でも私の場合は、少しだけ特別なのだ。

 何せ――

 

 

  ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 一度死んでしまうくらい苦労したら、楽をしたいという思いが世界のルールすら歪めたって、何らおかしくはないだろう。

 そう、だから私はとにかく楽をしたい。

 これはそんな私が、楽して日常を送りつつ、周囲を振り回す物語だ。




楽して異世界攻略TS銀髪美少女生活はっじまっるよー!
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