TS転生者はとにかく楽して異世界を攻略したい 作:さくさくさくたー
アイテム合成は非常に優秀なスキルだ。
それは私みたいな高ランクのアイテム合成でなくとも、同じことが言える。
というのもそれはアイテム合成が、本来ならダンジョンの宝箱や魔物のドロップでしか出現しないようなアイテムを、人の手で生み出すことができるという破格の能力だからだ。
だからアイテム合成師という職業は各地で需要があるし、S+ランクともなれば、世界の行く末さえ左右するほどの影響力がある。
そんな力を持って、私は生まれた。
はっきり言って、もうちょっとランクは低くてもよかったと想っている。
私の「とにかく楽して生きていきたい」という前世からの思想は、アイテム合成の常識を覆すほど強い。
なにせ前世の私は本当にただただ社畜として無意味な人生を送り、最後には過労で命を落としてしまったのだから。
もう二度と、あんな楽しみのない生活はゴメンだ。
それでも持って生まれてしまったものは仕方ない、スキルのランクはレイカのような親しい一部の人以外には隠し、普通のアイテム合成師として生きていくのだ。
とはいえ、生まれ変わった私の人生が平坦なものだったかと言えばそうではない。
今の私が生まれ落ちたのは、多くの騎士を排出する貴族の一族だった。
騎士とは国を守り、武芸に長け――そして体育会系だ。
とてもじゃないけど、前世でオタクだった私とはノリが合わない。
更には騎士としての才能以外の才能を軽視する風潮があり、私のアイテム合成も騎士には必要のないスキルだと切って捨てられた。
結果が、地獄のような虐待めいたシゴキと、才能の無さに対する罵倒だ。
私、スキル合成以外のスキルは本当に平凡としか言いようのない構成してるからな。
しかも仮にそのシゴキと罵倒を乗り越えて騎士になっても、待っているのは前世と変わらぬブラックすぎる仕事だ。
騎士の仕事は朝が早く、日が昇る前から起きて鍛錬を始め、日が昇ってからは警備などの任務につく。
そして任務が終わった後は再び鍛錬、全ての仕事が終わるのは日をまたいだ頃だ。
そこから色々あって就寝するとなると、睡眠時間は三時間程度。
どう考えても死ぬだろ、と思うがこの世界には魔術がある。
回復魔術で披露はポンと抜け、騎士は常に体だけは元気に働けるのだ。
なお精神。
無論、そんな生活に耐えられるはずもなく、私は家を飛び出した。
もともと無能あつかいされていたから、特に追いかけられることもなく。
以後二度と家名を名乗るな、とだけ通達されて後は放って置かれた。
いわゆる勘当である。
あまりにも騎士とはかけ離れたスキル構成のせいで、政略結婚の道具にしようにも家名に傷がつくとかなんとか。
まぁ、こっちとしても願ったり叶ったりだが。
そうして私は、ようやくこの世界で自分の人生を始めることができるようになった。
結果、私の「とにかく楽して生きたい」という願いは非常に強くなっており。
アイテム合成の常識を捻じ曲げるほどにまで、成長していた。
おかげで今は、こうして楽に生きていられるわけだが、楽をして生きるのも大変だ。
なにせ、私のスキルは強力すぎるから、ちょっとしたことで目立ちかねない。
先日のレイカの件がその典型だ。
とは言えレイカは、ああいう私の功績を握りつぶしてくれる。
むしろ、助かっていると言えるのだけど。
とにかく私は、基本目立たないように気をつけているのだ。
氷竜が暴れてる場に出くわしても、自分の存在を気取られないように倒したり。
他には――他人の稼ぎをうばわなかったり、とか。
色々と考えて行動しているわけだ。
□
その日、私はダンジョンにやってきていた。
ダンジョン。
異世界にありがちなそれは、この世界においても健在だ。
この世界におけるダンジョンは、一言で言えば資源の山である。
魔物を倒した時の素材やドロップアイテム、そして宝箱。
ダンジョンの外では入手できないようなマジックアイテムなどがわんさか手に入る。
これがなければ、この世界の人類の発展は今よりずっと遅れていただろう。
なんて言われるくらい。
だからこそ、冒険者ってのはそのダンジョンを潜るのが仕事なわけだ。
私もまた、そうやってダンジョンに潜る冒険者の一人。
ある程度実力があれば、ダンジョンで一日稼げば数日は遊んで暮らせる。
そういう意味でも、楽して生きたい私にとってダンジョンを攻略するのは異世界を攻略するのと同義だった。
というわけで、今日も今日とてダンジョンダンジョン。
アイラムのダンジョンは石造りのごつごつとした洞窟系ダンジョンだ。
いかにもダンジョンらしい見た目で、未だに少しワクワクしちゃうオタクの私。
そんな私は、ずんずんと目当てのものを探してダンジョンを進んでいた。
罠や魔物は警戒しない。
前者はどこに罠があるかわかるようになるトラップサーチのマジックアイテムによって対策済み。
後者も隠密効果のあるローブで対策済み。
魔物の横を、気付かれることなくすり抜けていく。
ダンジョンの収入源は主に魔物の討伐と宝箱だが、私の目的は宝箱だ。
そもそも私は戦闘が苦手である。
アイテム合成によって生み出したマジックアイテムを使えば、だいたいの魔物とは戦えるが、無駄な消費は避けたい。
それに隠密をする意味はもう一つある。
ふと私は、ある場所で未開封の宝箱を見つけた。
しかしそこでは――
「――この宝箱は俺が先に見つけたんだぞ」
「いや、俺達が先だ。適当言ってんじゃねぇ」
複数の冒険者が宝箱の処遇を巡って揉めていた。
もし仮に隠密してなかったら、私も巻き込まれてそうな剣幕である。
冒険者同士の付き合いは、色々と面倒事が多い。
なにしろ誰でも慣れる分、チンピラの多い職業だからな。
私は基本的に周囲との付き合いは最低限ですませたいので、こういう厄介事は近寄りがたい。
そそくさとその場を離れ、別の宝箱を探しに向かう。
やがて、ダンジョンをうろつくこと数十分。
ようやく私は目当てのものを見つけることができた。
「――見つけた。
私が探している宝箱は、すでに発見された宝箱である。
ここに至るまで、未発見の宝箱は先程冒険者が揉めていた分も含めて三つ発見していた。
しかしそれらをスルーして、私は発見済みの宝箱を探していたのだ。
なんでそんなことをするのか?
理由の一つは、未発見の宝箱を回収して他の人間の財を減らしたくないから。
そもそも、現在私はダンジョンの中層と呼ばれるエリアを探索しているが、そこは私の本来の適性ではない。
ようするに、中級者向けのエリアを上級者が荒らして、中級者の報酬を減らすのは拙いのである。
だから私は、すでに中身が回収された宝箱を探していた。
中身がなくとも、私ならばこれを報酬にできるからだ。
すなわち。
「――アイテム合成」
私はあるものを宝箱の中に入れ、手をかざしてスキルを発動する。
この時、合成の素材にするのは――
「合成素材、
宝箱の箱そのものだ。
「――合成開始」
かくして、宝箱が光を帯びて別のなにかに変化していく。
ちなみに銀貨を素材にしているが、この世界は魔物がお金もドロップするので多少素材にしても問題はない。
なんでも、お金は神様が管理して総量はちゃんと決まっているから、こうやって素材にしたりしても総数が変わることはないのだとか。
ともあれ。
「……できた。売却用の合成素材」
現れたのは、一言で言うと銀の円盤だ。
魔術的な儀式に使用したりする代物で、売れば結構な値段になるアイテムである。
こういうアイテムを、後一つか二つくらい集めれば、今日の探索は終了だ。
こんなことができるのも、私の高すぎるランクのアイテム合成スキルあってこそ。
我ながら、色々と楽をしすぎだと思うけど、そもそも楽をするために冒険者をしているわけで。
前世や実家に居た時みたいな、自由のない生活はまっぴらごめん。
だから、多少ずるかもしれなくたって、私は楽して異世界を攻略していくのだ。
ヤバすぎ錬金術です