MISSION LOG
決闘はアリスの敗北に終わった。スネークは彼女を保健室まで運ばせるまでの足止めと時間稼ぎをするため、ネルの前に立ち塞がる。
「…武器はコイツで行かせてもらおう。」
「ほーん、ハンドガン一丁か。」
ネルは普段、こういった選択を「ナメられている」と捉えるのがほとんどだ。しかし今回はスネークを相当の実力者だと踏んで、これを受け入れた。
とは言っても、このハンドガンは改造された麻酔銃仕様だが。
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ゴングもといグレネードが爆発し、先手に出たのはスネーク。
フラッシュ・バンを転がし、ネルの動きを伺う。
「ちょっと明るいなぁ?」
「!?」
薄々察してはいたが、効いていない。
スネークの使う武器は麻酔銃、グレネード、フラッシュ、そしてソーコムだ。生徒相手に実銃を使うことはできない。ソーコムは、有ってないような物と考えていいだろう。
彼のポリシーの一つは『非殺傷』。
呑気なことを、と思われるかもしれないが、彼は生前…というより、「ソリッド・スネーク」としての人生で一生をかけて、それを最大限守り続けた。
彼は今もなお、非殺傷を遵守している。今更破る訳にはいかない。
スネークはギリギリ、ローリングでネルの攻撃を躱した。
「避けるだけかよ?」
「……」
「…お前に実銃は向けない。」
「そうかよ。じゃ素手か?」
スネークはやむを得ず、麻酔銃でネルの上腕を狙った。
「ハンドガンなら近寄らねぇと、あたしには当たらないからな。」
忠告とばかりに一言。
アスナの時と同じ状況に持ち込むことができれば勝機はあるが、あの時は不本意だった。
どうにか最低限の攻撃で、ネルを退却させられないか。
近くの観葉植物を遮蔽物にし、時折リアサイトを覗く。
スネークはどうにか弾の雨を躱し続け、ネルには一切手出しをしない。
「正々堂々戦えよ!」
「無視すんな!!約束を守れ!!」
必死に考える。ネルを説得するか、彼女が妥協できるのはどこまでか。
「そうだな、約束…後出しですまないが、移動させてくれ。ここじゃ狭すぎる。」
「…それ、先に言えよ。どんだけ焦らされたと思ってんだ?」
スネークは、ネルを体育館に誘導した。
これがある程度正式な『決闘』であるためか、移動中はネルも大人しく銃口を下げて、何事もなく体育館へ歩いていく。
入口側とステージ側にそれぞれがつき、静寂が場を支配する。
「…じゃ、そろそろ始めるか?」
「ああ。始めよう。」
「ただ……先生。ロクに銃を使わねぇようなら、あたしにも考えがある。」
『ツイン・ドラゴン』が床に置かれ、ネルがその二丁を後ろへ蹴って滑らせる。
「これでフェアだろ?」
「よっぽど俺と戦いたいんだな。」
「さ、
「……。」
そっと手足を出し、構えの姿勢を取るスネーク。防御主体の姿勢が見て取れる。
ネルがパンチを仕掛けるが、できるだけ負担少ない姿勢で拳を受ける。
やはりと言うべきか、彼の腕がギリギリと音を立てて痛む。
「ぐっ…!」
「はっ…この程度で?」
半笑いで、さらなるパンチと蹴りが飛んでくる。銃撃に比べたら速度は劣るが、それでも、キヴォトス人の中でも上位の強さを誇る肉体から繰り出される体術は半端なものではない。
「!」
「は?」
ドスッ、とスネークがネルを後ろへ投げる。
今までずっと受け流すばかりだったためか、ネルは驚いて反応が遅れたらしい。飛び起きて体勢を立て直す。
「んだよ、強ぇじゃん。」
「あまり生徒相手に手荒な真似はしたくない。」
「なんでそんなやり方してんだよ。」
「……
「そっか。……油断すんなよ!?」
「……っ。」
再び回避。
再びネルの猛攻は続く。特にこれと言ったカテゴリーに当てはまる格闘技ではない、チンピラめいたファイトスタイルだが、その威力は致命傷になりうる。
一撃の強さを例えるなら、13.97mm砲弾をモロに食らうようなものだ。
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(一方、オタコン)
「アリスの具合は?」
「うーん、もうそろそろ気がつくんじゃない?」
「アリスちゃんもそうですけど、デイビッド先生、大丈夫でしょうか……。」
ミドリがアリスの頭を撫でながら、そう呟く。
「……彼が心配だけど、きっと大丈夫だよ。彼は困難を切り抜ける力に定評があるからね。」
「…定評?」
「いい意味だよ。…なんでか、困難に陥る頻度は高めだけど。」
「先生、部室までのルート…確保、しました…。」
「これ以上何かあると、表彰式に間に合わないので…」
「ありがとう、ユズ。」
ユズは部室までの最短経路を抑え、アリスが目覚めるのを待っていた。
「…『光の剣』も、受け取りに行かなきゃね。」
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「…先生、よくやったよ。」
スネークはタコ殴りにされながらも、ネルを抑え込むことに成功した。
ネルの首ではなく胸に腕を掛け、抑え込む。
「…どうやって?」
「………お前は…蹴りをかわされると……僅かな隙が生まれる。投げられた時も…同じだ。」
「…ありがとよ。直しとく。」
「今度、訓練とか頼めるか?生身が嫌ってんなら、VRも用意できるけど。」
「……考えておく。」
「…いい加減胸から手ェどけろよ!何やってんだ!!」
「ごっ!?」
顎に肘打ちを食らったが、持ち直してよろよろと下がる。
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彼らは体育館の外に出た。
「あっ、先生!一体どこにいた───えぇ!?」
「ユウカか……」
すごい怪我されてますよ、とユウカが。
彼女は慌てて保健室まで連れて行こうとするが、そこにネルが割り込み、
「先生はあたしが連れてくよ。あたしとタイマンしてこうなったんだからな。」
「えぇ……???」
あのネル先輩とやり合って比較的軽傷で済んでるの…?とばかりに、口を開けたままのユウカが立ち尽くす。
「せ、先生…どうやって?」
「ネルのハンデがあったから、だな。」
「今度は本気でいくからな。」
「……勘弁してくれ。」
そのまま、スネークはアリス達と別の保健室に連れて行かれた。
一番近い所にあった保健室は生徒も少なかったため、目につくことはなかった。
「やけに…って言い方も悪ぃけど、頑丈だよな。先生。」
「そうか?気のせいだろ。」
いつも通りとぼけるが、ビッグ・シェル事件を振り返れば分かる通り、時々、隠し方が雑である。
「…アカネがあんたの動きを分析したんだけどよ、」
「…やっぱ、『一般人の動きじゃない』つってたんだよ。」
「デイブ先生、今までどうやって鍛えてた?」
「あー、
「……あまり他人の過去を詮索するな。ここに来る前の事を、俺は絶対に答えない。」
「お前が好戦的で、向上心があるのは分かった。」
「…けっ。」
「まあ…強いて言うなら『犬ぞり』だ。」
「犬ぞり?」
「ああ。俺はそれで体力、根気強さ、バランス感覚なんかを鍛えた。」
嘘は言っていない。
「そうか…他にもっと教えてくれよ───」
「リーダー、先生、少々お時間を……」
ネルを連れ戻しに、それからスネークへのお見舞いに、アカネ達がやってきた。
「あ、リーダー!どうだった?先生、強いでしょ?」
「ああ、確かにな…中々だ。」
ネルが長椅子から勢いよく立ち上がる。
「いい運動になったぜ。腹減ってきたなー……」
「先生…これ、差し入れ。」
カリンから缶コーヒーが手渡された。
「差し入れ?特別何かした覚えはないが。」
「この間、私が狙撃した時の避け方…参考になったから。お礼も兼ねて。」
「…じゃ、いただこう。」
「…気も済んだしな!よし、ラーメンでも食いに行くか!」
ネルが長椅子から勢いよく立ち上がり、スネークの肩に手を置く。
「いいね、リーダー奢ってくれるの?」
「あぁ!好きなの頼めよ、いつものとこ行くぞ!」
ネルは3人を引き連れ、保健室を出ていこうとした。
「(……そろそろ戻るか…)」
「ん?何してんだよ先生?」
「?」
「…行こうぜ。」
「…!?」
想定外の誘いに、スネークは硬直した。
正直、仲間内でしかそういう集まりには行かないスネークだ。
教え子の女子高生、ティーンとの食事なんて、それもグイグイ来るタイプが2人居る場となると、多少居心地も悪い。
「嫌か?」
スネークは肉体年齢こそ20代後半だが、実年齢はおよそ40と数歳程度だ。そんな場に混ざれる自信はない。
……アビドスの柴関ラーメンは例外だったが。
「………今度行こう。今は忙しくてな。」
「そっか…じゃ、今度な!」
ネルを見送った後、スネークはそそくさとその場を去った。
最短距離で、アリス達のいる保健室へ向かう。
レイド楽しいですね。
……この連載でデカグラマトン編3章に辿り着くのはいつになるんでしょう。
おそらく、多分、次回でパヴァーヌ1章が終わります。