MISSION LOG
サンクトゥムタワーにて、リンから説明を受けた雷電。
シャーレでの簡単な研修を終え、護身用の刀を見繕いに、百鬼夜行へ向かう。
「先生。……最後に、こちらへ。」
「……ここは?」
一通りの説明を受けた雷電は、サンクトゥムタワーの一室、それも厳重な保管庫のような場所にリンと二人、エレベーターで移動してきた。
「こちらは、先生の虹彩を認識することで開く仕組みになっているそうです。」
「……連邦生徒会長からの伝言か。」
センサーは雷電の目線に丁度合う位置にあり、まさに雷電専用といったように見えるものだった。
虹彩がスキャンされ、解錠の電子音声と共に分厚い扉が開く。
扉の先にはもう1枚扉があり、そちらも解放される。
「……」
「……彼女らしい、こういう時は用心深いのですね。」
リンが不意に言葉を漏らしたが、雷電は聞かなかったことにした。
そして、保管庫の中。
「これは?」
「……こちらが、『大人のカード』です。」
「カード……クレジットカード?」
「詳しくはデイビッド先生がご存知ですが、『先生』にしか使えない特殊なものです。」
「なんでも、自身の何かを代償にして、望む物を手に入れられる……と。乱用は厳禁です。」
雷電は銀色をしたカードを受け取ると、まじまじ見つめた末、ポケットに仕舞った。
「……他には?」
「?特に何もございません。」
カードだけでなく、何か端末や大事なものが他にも入っていておかしくないサイズのジュラルミン製ケースだ。
「…そのサイズの箱に、カード1枚だけか?」
「いえ、それと…」
【追伸 プレゼントも用意してますよ!】
連邦生徒会の印が押され、シールで装飾されたかわいらしいポストカードが入っていた。
「あとはデイビッド先生に任せてある、と。」
「そうか……」
◇
そして今、雷電は。
「ここが百鬼夜行……」
百鬼夜行を訪れていた。
スネークに紹介され、一人で行かせてくれ、と単身やってきたのだった。
目的は、
非殺傷を前提とするため、峰打ちのできる刀……が欲しいが、真剣がそうそう簡単に手に入る訳はない。
高額なうえ、できるなら既製品ではなくオーダーして打ってもらうのが望ましい。
結果、間に合わせで木刀を探すことになった。それも、本格的なものがあるのは
「……ここか。」
複数の店を紹介されたうちの一店舗目。
よくある土産屋だ。
「これは……」
やや、作りの粗いものが多い。品揃えは良いが、使うには心もとない。
気を取り直して二店舗目。
ここは人気のある店のようだ。他校の生徒が店内のあちこちで商品を手に取っている。
「……」
売り切れ。
彼は早々に立ち去ることにしたようだ。
最後に三店舗目。
ここでは店頭に木刀のコーナーがあり、木刀自体にも丁寧なコーティングや真剣に寄せた作り、振りやすい長さがあった。値は張るが、相応だろう。即決だった。
そこに。
「そこの人〜!ぶつかるよ!気をつけてー!!」
「あっ、危ないですーーーっ!?」
「?」
そう聞こえたかと思えば、狐耳の少女が雷電めがけて突進しそうになっている。
彼は慌てて受け止めようとしたが、
「うわっ!?」
「ぐっ…」
少女はバランスを崩し、不意にみぞおちに頭突きを食らう形になり、痛覚を遮断していなかった雷電は一瞬、苦悶の表情を浮かべる。
「……君、立てるか?」
「ごめんなさい…お怪我は……?あっ!?」
彼女は立ち上がったかと思えば、追手を気にしている様子だった。
「…あっちは、追いつくまで時間がかかりそうだが。」
「手助けが要るか?見つかるとマズそうだ。」
「へ、それは……その……」
呑気に立ち止まっている間にも、追手は迫る。
「行こう。」
雷電は、手を引いて走り出した。
「えぇ!?ミモリ先輩、あの子が連れて行かれちゃった!」
◇
「……そろそろいいか。」
それなりに離れた公園に着き、雷電は抱えていた少女を下ろす。
「……です。」
「大丈夫だったか?」
「すごかったです!」
「もしかして、本物の忍者ですか!?」
「あー…いや、なんて言うんだ、部分的にはそう……だな」
彼の名前を知りたいと思ったイズナだったが、まずは感謝を伝えた。
「あっ、イズナを助けてくれてありがとうございました!」
「俺は構わない。君はイズナというのか?」
イズナが一瞬「あっ」という表情をした。
「…はい!」
「俺はジャックという。今回シャーレに赴任してきた顧問だ。よろしく。」
「聞いたことあります!シャーレには色んな所で色んな事件をズバッと解決してくれる、スゴい大人の人がいるって!」
その
「……その木刀は、どうされたんですか?」
「…護身用だ。気になるか?」
「かっこいいです!」
……褒められたものではない。なぜなら、雷電の、殺しを愉しむ殺人鬼の武器だ。
彼はその点に、ほんの少しのむず痒さを覚えた。
「そういえば、今日はどうしてこちらへ?」
「ああ、この刀を買いに来たのと……祭りの広告を見てな。」
「なるほど...それなら!」
「よろしければイズナに、このお祭りを案内させてください!」
「よろしく頼む。」
◇
彼の目線からすると、少女が当たり前に銃火器を持ち、それを使って争うことが日常茶飯事、という文化体系には納得できかねた。
少年兵、この場合は少女兵と言い表す方が適切かもしれないが、それが生まれてしまうことこそ、雷電が恐れ憎む事態である。
それでも、シャーレの捜査員という公的な立場なら、マヴェリック社のようでなくとも介入と戦闘の仲裁がしやすい。
初めこそ任命に戸惑ったが、思い直す理由はいくつかあった。
「───大丈夫ですか?」
「ああ、いや......ちょっと見惚れててな。綺麗な所だな、百鬼夜行は。」
「えへへっ、そう言っていただけて嬉しいです!」
「あ、あそこのサクラ大福には実際に桜の花びらが使われてるんです!美味しいですよ!」
「買ってこよう。二つでいいか?」
「えっ、そんな、悪いです!」
「いいんだ。案内してもらってるお礼としてな。俺は勧められて、それに乗っただけだし。ほら。」
「あ......ありがとうございます!」
「(まあ、経費で落ちるだろ......)」
木刀が目立たないのも好都合だった。
木刀を持ち歩いている人自体も、テンションに任せて振り回す観光客もあちこちにいた。
「ここは?」
「桜花祭を見に来たなら、ここは外せません!絶景ですよ!」
そう言われて目線を前にやると、遠くに桜の大木と街並みが一望できた。
「ちょうどこの時期が一番綺麗に咲く、百鬼夜行の自慢です!」
「あの木、御神木なんですよ!」
「綺麗だな。」
イズナが尻尾をゆっくりと振りながら、一呼吸おいて話を始める。
「イズナはこの場所が大好きなんです。」
「ここでこうしていると、イズナも夢のためにまだまだ頑張らなきゃって気持ちになります。」
「夢?」
雷電が聞き返す。
イズナには「キヴォトスで一番の忍者になる」夢があった。
しかしそれは周囲に理解されず、彼女は今まで孤立していた。
「......忍者に?」
「......はっ!?」
「あっ、その、えっと...す、すみません、その......こんな夢を持ってる人、今どき居ないってことは知っているのですが......」
「別にいいじゃないか。夢なんだろ?」
「...え?」
「応援、してくださるんですか?イズナを...」
「生徒の夢だからな。......教師ってこの立ち位置で合ってるか?」
「イズナは嬉しいです!応援してくださったのは先生が初めてなので!」
「えへへへっ...そうですか...!」
尻尾を振って、耳を揺らし、イズナは全身で喜びを表現している。
「俺も多少なら、忍者について教えられないこともないと思うぞ。」
「本当ですか!?」
「俺でよければ頼ってくれ。...そうだ、名刺を。」
雷電はシャーレの名刺を用意されたうえ、ほとんどこのためにモモトークまで登録させられていた。
イズナが礼を言った後、イズナのスマホに着信があった。
「あっ、雇い主の依頼を忘れてました......!」
「では、改めて。イズナは、立派な忍者になってみせます!」
「すみません、イズナはお先に失礼します!依頼が終わった後、また一緒に桜花祭を楽しめたら嬉しいです!」
そうして、イズナは風のように去っていった。
「何だったんだ......」
雷電も公園の展望台を降り、その場から去った。
◇
同時刻、シャーレ。
「───はい、こちら連邦捜査部『シャーレ』です。」
「あ゛ー良かった!番号合ってた!!」
「さっき一回間違えちゃって......陸八魔って人じゃないですよね?」
「かけ間違えた先がもう分かったけど......僕はエメリッヒです。どちら様?」
電話口で焦るような、騒ぐような荒い声が聞こえる。
「えーっと、まず改めて、私はシズコって言います!」
「
「えーっと、シズコだね?」
オタコンがメモを取りながら確認した。
今、彼はマニピュレーターで受話器を取りながら、エンジニア部が作った専用のアームでペンを持っている。
「はい、それで今回お電話させていただいたのは...」
「百鬼夜行で開かれる春のお祭り『
「百夜ノ...ああ、これね。ポスターがあった。」
「それです!お忙しいかと思うのですが、よろしければお越しいただけませんか?」
「予定も空いてるし、行こうかな。」
オタコンは片手間に、開催日の予定表の余白をこじ開けた。
「ちょっと時間が無いので略しちゃいますが、その『桜花祭』では、以前になかった試みをすることになりまして......」
「それからちょーっとぉ...大したことではないのですが、先生にご相談したいこともありまして。来てくれると、シズコとっても嬉しいです!」
「ではでは!」
少し早口気味になったシズコが、手短に話を切り上げて電話を切った。
「......予定、ギリギリだな...スネークも出張中だし...」
「!そうだ、あっちに雷電がいるじゃないか。」
オタコンはもう一度、受話器を取った。
雷電の描写について
・ニンジャランはできる
・足がヒールみたいになってるので、靴が履けない
(追記:最初のリンとの会話を、一部変更しました。)