MISSION LOG
補習授業部が設立され、メンバーである生徒4人が揃った。
4人とスネーク、そしてオタコンも共に、現状の大きな壁である第一次特別学力試験に向けた試験勉強を始めようとしている。
一方のスネークはトリニティの授業用ビデオと教材を見漁り、自身の学生時代も参考に授業の準備に取り掛かっていた。
そして迎えた補習初日の当日。
「……」
「コハル?」
「勉強しないと。困るのは君なんだから。」
「!別に、休憩してただけ!!」
コハルは開いた数学の教科書を前に、手をシャーペンで遊ばせていた。
「わかんないんだもん……」
「まだ時間はある。どうにかするよ。」
「どこが分からないんだい?ああ、ここは公式を変形させて使う必要があって」
今回の授業はオタコンが参加していた。
範囲の単元に一通り目を通したうえで、できるだけ公式を使うやり方を教えている。
彼もスネークも教員免許など持っていないし、授業ができるほどのスキルはない。
そうなると、生徒が各自質問する自習形式を取るほかない。幸いにも二人には教えられるもの*1があったため、ある程度の体裁を保っている。
この時間は四人揃って数学のワークを解いていた。
「よし、その調子。」
「……ちょっと気になったんだけど、そのページ、範囲に入ってたかな?」
「……!?違うから!予習!予習だもん!」
「すみません先生、ここの問題の公式なんですけど…」
「ヒフミも質問かい?」
一方、アズサは少し後の単元に取り組んでいる。
「ハナコ、この文章は何?」
「これは…古い叙事詩の冒頭部分ですね。」
怒りを歌え、神性よ、────と始まる文であった。
古代ギリシアの『イリアス』である。
「ああ、あれか。」
素早く続きの訳を書くアズサ。
「次だ。ハナコ、これは?」
「これは古代語の重訳ですね。原文を理科するには辞書が……」
「使うか?」
見かねたスネークが辞典を渡そうとした。
が、アズサは手の平をこちらに向けた。
「大丈夫。内容は大体わかる。確かこれは『
「分かるのか?」
「……うん。」
なにか腹の内を探られているような気がして、アズサは考えてから答えた。
「合っていると思いますが…これは第二回公会議に公布の、……いえ、なんでもないです。」
「君はどこでそれを?」
「……昔、教わった。…」
「…そうか。」
彼女は転校生だ。学校が違えばカリキュラムなんて勿論違うのだから、古代語を習得していてもおかしくない。
転校前の学校では、古典に基づく教育が行われていたのだろうか。
トリニティもそういった古典やそれに紐づいた信仰を重視する文化は存在するし、それを理由にしてここを転入先に選んでいるとしたら納得がいく。
その理由が不明だが。
他の三人と顧問たちの様子を見たヒフミは感心していた。が、よそ見していることに気づいて視線を机に戻す。
ハナコはこれといった質問をしなかった、というより碌な質問をしなかったし、アズサは理屈さえ説明すれば納得して取り組んでいた。
ヒフミはケアレスミスや時間の無駄を減らす方針だそうだ。意欲もある。
そして二人が最もアドバイスをしたのがコハルだ。
熟考しているのだけなのか、妄想でもしているのか、よく手が止まる。
ハナコが投げかけた冗談がその原因になることもあったが、それが減ったことでコハルの個人的な課題点が見えてきていた。
だが伸びしろがある。
「コハル、一年の範囲は今後の基礎になる。だから今のうちから頑張ろう。」
「っ私は正義実現委員会のエリートなの、その本気を見せてあげるわ!!」
「それなら、まずはここの応用からだね。」
「えっ」
「理解が早いな。関係代名詞の使い分けはほぼ完璧だ。」
「わ、ありがとうございます!」
スネークは自分の書いた黒板の内容を見返し、免許なしの素人でもいけるもんだなと感じていた。
「みなさん、ちゃんと取り組んでくれて良かったです。」
「アズサちゃんはやる気があって、ハナコちゃんはこう、『できる人』の感じが凄くって。コハルちゃんは 吸収が早そうですし。」
「エリートの実力はどれほどのものなんだろうな?」
「でも、この様子ならコハルちゃんも、みんなも私も余裕で合格できてしまうかもしれませんね!」
「それが一番良い。
「安心しました。実は少し前にティーパーティーから『もし一次試験で不合格者が出てしまったら、合宿をしてください』、と言われてまして」
「もし三次試験まで落ち続けたら、とか、あうう……』
「どうなるんだ?」
「あ、いえ!なんでもありません!せっかく順調ですし、暗い話はこの辺りでお終いにしましょう!」
その日の授業はそこで終わった。
そこから数日は全員が相当な量のイン・アウトプットをしていたはずだが。全体的に高い意欲が伺えた。前述の通り、ヒフミが全員合格を確信するほど。
「もう真っ暗だ。早く帰ろう。」
「ヒフミちゃん、アズサちゃん、また明日ですね。」
「はい、さようなら!」
「うん。また明日も勉強を教えてほしい。」
「コハルちゃんはもうしばらく一緒ですし、熱い夜を過ごしましょう?」
「そういう言い方やめてよね!?!」
コハルとハナコは向かう方面が同じらしく、解散した後もコハルの強い声が聞こえた。
灯りのともった尖塔も遠くなってきた頃、ふとヒフミは訝しんだ。
(ハナコちゃんは人に教えられるくらい頭がいいのに、どうして落第してしまったんでしょう?)
そうして、数日後に迎えた試験当日。
たったの四時間ほどで試験は終わり、ペンを置く音と同時に体の強張りが解けた。
これもまたハナコを除いて。
翌日、補習授業部の教室にて。
教卓には角2封筒が置かれている。
「先生、それが?」
「ああ。…こう言っちゃなんだが、覚悟しておいてくれ。」
「…………開けるぞ。」
「早く教えてほしい。ずっとドキドキしてる。」
封筒の紐を留め具から解いて、封筒の中身を覗く。
質のいい紙だ。
スネークが全員へ下がるよう促して、結果に目を通す。
そして、読み上げる。
◉【阿慈谷ヒフミ…………72点。結果、合。】
◉【白洲アズサ…………32点。結果、否。】
◉【下江コハル…………28点。結果、否。】
◉【浦和ハナコ…………2点。結果、否】
…………………………。
ヒフミ以外は不合格。つまり、
補習授業部の合宿が決定した!
「……今日は解散だ。各自、下校時間までに帰るように。」
投稿遅くなってしまいすみません。