MISSION LOG
ナギサによって『トリニティの裏切り者』の存在、及び『補習授業部の目的』が明らかにされた。
スネーク達はナギサと正反対に『生徒の無実の証明』のために、彼女の脅迫を受けながらも独自の調査を始める。
4人の生徒、そしてスネーク達は実質的な軟禁状態にあった。
合宿所となった離れの校舎に、超法規的機関の捜査員諸共。
人質…というより、生徒の生命線となる学籍を
下手なことはできない。
時は現在、午後七時。
長く放置されていた校舎とプール大掃除を終え、軽い夕食をとった後だった。
各々が、これからしばらくの間過ごすベッド周りや一部の教室を整え終わる頃だ。
「……っ!?」
コハルがシャワー室から出てきた。寝る前にもう一度シャワーが浴びたかったようだ。
「先生、なんでここに居るの!?!?」
「俺は通りかかっただけだ。」
「わざわざシャワー室の前を通るの!?覗きでしょ!死刑!!」
「いや、俺の部屋に戻る道がここしか…」
「言い訳しないで!!!」
「ああ………」
言い返すのも馬鹿らしくなるが、少し笑えてきた。
それを見たコハルの顔が赤みを増し、ハナコやヒフミが仲裁に入るという流れが、少し前からできていた。
「……前の件が響いてるな。」
「仕方ないよ、コハルの忘れ物なのに届けたら怒るんだから。…あの年頃の子は扱いが難しいね…」
「でもまあ、あれだけ元気そうなら安心だ。」
以前コハルが『薄い本』を教室に忘れていったことがあった。
それを彼が数分立ち読み…してしまったのはさておき、彼女を追って届けたのだが…
「エッチ!スケベ!変態!」
……勿論その後謝られた。しかし、それ以降。ほんの少しだけ疑いの目が強くなった気がしていた。
つい先程、自分たちは向かいの部屋にいると言い残して部屋を後にした。
「……免許のある教員は、全員こんな経験をしてるのか?」
「かもね。今からでもオンラインの課程に入るかい?」
「遠慮しておく。」
冗談交じりの愚痴を交わしながら、その日の業務報告書と通常業務の一部を片付けていく。
雷電に振った分はできているだろうか、ゲヘナに耐えられるモデルのパソコンを持たせるべきだったろうか、などなど話は続く。
彼らだって、本当はビールの1杯でもやりたいところだが、学び舎で酒盛りをするのはどうかと思ったのでやめたらしい。
そして、時計の針が十一時を指した頃。消灯時間も過ぎているので、スネークが校舎内の見回りをすることにした。
残されたスネークは、報告書とのにらめっこを再開する。
集中していても、頭の片隅にはナギサの言葉が反響する。
スネークは一瞬、ナギサを憎らしく思ってしまった。
が、裏切り者が条約締結阻止による共倒れを狙っている可能性があるということは……
そのとき、控えめなノックが聴こえた。
「どうぞ。」
ドアがゆっくり、乾いた音と共に響く。
「ヒフミ。」
「あ、えと……すみません、少しご相談があって。」
「遅い時間にすみません。」
オタコンはヒフミを椅子へ促し、ほとんど出来上がった報告書を急いで終わらせた。
「どうしたの?」
「まず、エメリッヒ先生。今日はお疲れ様でした。」
「君たちこそ、お疲れ様。よく頑張った。」
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校舎の見回りも中盤に差し掛かる頃、ふと何者かの気配がした。
「……アズサ?」
スネークが曲がり角から覗き込むようにして確認する。
その小柄な体格、肌身離さず形態した突撃銃、白い翼。
念入りに周囲の様子を伺いながら、廊下の突き当たり───他より一回りほど大きい窓を目指しているらしかった。
彼の背後からも誰か来る気配がしたので、少し急いで息を殺した。
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場所は戻って、顧問の部屋。
ヒフミ曰く、自分が補習授業部に選ばれたのは『アビドスの一件以降、シャーレと繋がりがあるから』だそう。
1個小隊レベルの部隊を指揮をしながらも、自ら銃を持って戦うことができる『捜査官』。
その部隊と指揮官のオペレーターとして参加、後方支援を行えるうえ、ミレニアムとのパイプがある『捜査官』。
そして3人目として、百鬼夜行にて『生徒を守る』名目で自ら武力を行使、大いに暴れた『捜査官』。
少人数で活動する超法規的機関としては過剰ともいえる戦力を持っている。
そのあたりがマークの理由だろうか。
「…ヒフミ。」
「はい?」
「こんな話に巻き込んでごめん。これは大人が、もっと時間をかけて進めるべき話なんだと思う。」
「ここからは僕とデイブとジャックに任せて───あれ、ジャックのこと知ってるっけ?」
「はい、直接会ったことはないんですけど、ニュースで見ました。」
「そっか…話が逸れたね。とにかく、僕らに後を任せて。」
「まず君たちには、勉強に専念してほしい。それがここから抜け出す近道だ。」
「………!」
「僕だって、『裏切り者』がいることは間違いであってほしいし、その裏切りだって冤罪であってほしい。」
「……結果がどうであっても、僕たちはそれを突き止めるために手を尽くす。だから。」
「私に、私たちに、できる
少し考えこんだ後、意味を理解したように顔をあげた。
「…はい!えっと、私が今どんなことをできるのかは…まだ分かりませんが、もう少し考えてみます!」
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「どうかした?スネーク。」
「アズサの様子がおかしい。」
「えっ?」
「明らかに窓から外に出ようとしていた。本人は『見張りをする』『慣れない場所で眠れない』と言ってたが……」
「他に様子は?」
「彼女、制服に着替えていた。」
「今はハナコが接触してるが、銃を向ける様子はない。」
さっき、後ろから近づいたのはハナコだった。あまり寝られていない様子のアズサを心配したようだ。
「……了解、2人が部屋に戻ったら、君もこっちに。」
「ああ。……ハナコが離れた。アズサは反対方向に向かってる。」
止めるべきだろうが、あえて泳がせればスパイか否かがわかるかもしれない。
「……彼女を尾行する。オペレーターを頼むぞ。」
「スネーク、それなんだけど…」
時刻は十二時手前。顧問部屋には、今もまだヒフミがいる。オタコンのオペレーションにもかなりの制約がつくだろう。そこで、『彼女』の出番だ。
スネークは、体内通信にシッテムの箱を接続した。
『………アロナちゃんにお任せください!!』
「オペレーターは任せた。」
彼にはスーパーOS『
『アズサさんが校舎を出ました!南西の道です!』
「この道路は市街地からも逸れてるな。一体…?」
スネークは息を殺し、物陰に隠れて進んでいく。
屋外での
一定の距離を保って追い続けなければならない。
『先生、この道路の先は二又に別れてます。ここから見て右が廃墟群、左が他の自治区との境界の川です。』
アズサが懐から何か出したが、スネークは望遠鏡を持っていなかった。
『……私に任せてください!』
『……………メモみたいなものを見てるようですが…』
「メモ?」
「尾行を続ける。」
アズサは廃墟群の方向に進んでいった。
スネークは無意識にも、ザンジバーランドのことを思い出した。グリーンベレーの男を追いかけ、永遠とも思えた、あの迷いの森を進んでいったこと。
「……廃墟に?」
『みたいです。』
しかし現実は残酷だった。
!
何者かに気付かれた。スネークは逃走を始めるも、2方向から銃撃される。
『わっ!?見つかったみたいです!』
「知ってる!!」
五時方向八時方向から、それぞれ狙撃銃と短機関銃だろう。
短機関銃は追ってくる。
スネークは持っていた麻酔銃をその追手の足に打ち込み、道の脇に広がる草むらへ身を隠した。
…十数秒後、追手は気を失ったようだ。
「こいつも子供?」
『見たことない制服ですね。随分新しいですけど、1年生なんでしょうか?』
「制服のある不良なんて珍しいしな。」
『見失っちゃいましたね。アズサさん。』
「……ああ。」
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その頃、オタコンはヒフミと共に試験の過去問をネット上から漁っていた。
「…ちょっとごめん、電話だ。」
「スネーク、無事かい?」
「…アズサを見失った。しかも、どこかの生徒に見つかった。」
「そうか……分かった。怪我は?」
「スラックスの裾に一発掠ったが、特に。自力で戻れる。」
「了解。ヒフミが心配してる、早めにね。」
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「…戻ったぞ。」
スネークが少し雑に扉を開いた。同時に少し青臭いにおいがした。
「デイビッド先生?書類、無かったんですか?」
「ああ、多分ジャックが持ってるんだろ。シャーレには無かった。」
オタコンと口裏を合わせ『見回りついでにシャーレへ書類を取りに行った』ということにして、適当に言い訳を並べた。
何時間か経って、ヒフミを寝かせた。
それから朝方まで、彼女から引き継いだ過去問の洗い出しと、模擬試験の問題作成を終えることができた。
3時間ほど、スネークは死んだように眠った。
そうして翌朝。
「……ヒフミ。コハル。起きてくれ。もう朝。」
「あうぅ…あと十分、いや五分だけ…寝かせてください…」
「そろそろ起きないと。」
アズサが力任せに毛布を剥がし、ヒフミの頬をつつく。
「……」
アズサは部長であるヒフミを労り、もう少しだけ休ませることにした。
「んん……」
「コハルちゃん、そろそろ起きませんか?」
「ここは私が。」
「…アズサちゃん?」
アズサがコハルの脇を持って、シャワー室へ引きずっていった。
そして、部屋の外で待っていたスネークと目が合った。
「………。」
「…………。」