MISSION LOG
この告白によって、スネークとオタコン、そして補習授業部はアリウスへの防御に専念することとなる。
「スネーク、場所は大丈夫そう?」
「ああ。視界もそれなり、風も強くない。」
トリニティの、ある校舎の屋上。
スネークはうつ伏せの状態で偵察を始めた。ソリッド・アイの電源を入れ、目標が鮮明に見えるまで倍率を絞っていく。
……あの時と同じ、白いジャケットにガスマスク、突撃銃や榴弾砲を持った生徒だった。
「確認できるだけで三個小隊か。」
「……アズサ、ハナコ、そっちの状況は?」
オタコンが尋ねる。
「……成功した。ナギサは袋に入ってる。」
「仕返しもできましたし♡」
ナギサは、なんとも情けない体勢で袋に押し込まれていた。
表情は険しい。十中八九ハナコの『仕返し』のせいだが。
「あはは……それなりに楽しかったですよ、ナギサ様とのお友達ごっこ。」
信頼している人間からの、こういう言葉にナギサは弱い。そこに生まれた隙が原因で、元の計画よりスムーズに彼女を回収できたという結果に至ったのだ。
足早にナギサのセーフハウスを去る二人。
ハナコは彼女の下半身を凝視していた。
「結構……大きいのですね、ナギサさん。」
──────────────────
アリウス生は正門を突破し、次々と中庭を進む。迷いなく。
スネークが構えるのは、レミントンM700を麻酔銃に改造した狙撃銃。シャーレで入手できた銃の中で、最も直ぐに入手できて、かつ改造しやすかったものだ。
ボルトアクション式なので装填に時間は掛かるものの、故障しにくいという信頼がある。
足止めの担当はコハルとヒフミ。
特にコハルの手榴弾は攻撃と回復が同時にできるため、足元に投げるだけでそれなりの効果が期待出来る。
「っ!」
が、狙撃がバレた。今や目前の手すりだけが弾を防ぐ最後の砦だ。
スネークは装備を着込んだアリウス生たちの対処を任せて、比較的軽装かつ重火器を使う生徒を麻酔弾で行動不能にした。
麻酔も眠らせるだけで威力は低く、これも急場しのぎでしかないため、先を急ぐ必要は増す。
必ずしも重症を負わせる必要は無いが、制圧等で戦闘を止めさせる必要があった。
現在の戦闘員はスネーク自身を含めて五人。アリウス生はおおよそ120人とのこと。
足りない。
圧倒的に戦力が足りない。
ここに二、三人ほどいるだけで大きく変わるが、そもそも正義実現委員会が行動不能なのだから、治安維持組織が動いてくれることはないだろう。
「……そろそろ弾が無くなる、降りるぞ。」
「了解です、門の方へお願いします!」
スネークは校舎を駆け下り、目線で周囲を警戒。誰もいないことを確認し降りていく。
一階。
給弾中のアリウス生がいる。なんて迂闊な、と思うだろうが、まだ高校生であることを忘れてはいけない。
手元がおぼつかないのか、相当手間取っている。
息を殺し、腰の麻酔銃に手を伸ばした。
相手も手練れだと聞いているし、こういった方法で油断させるのが狙いだとも取れる。
何にせよ、早いうちに手を打ちたい。
「……。」
「ひっ……!?」
彼女はガスマスクを外していた。
短い白髪で、ぶかぶかのジャケットを羽織り、チェスカー・ズブロユフカ社のVz.61サブマシンガン、通称スコーピオンを
前面に収納できるワイヤーストックではなく、通常のストックが肉抜きされたようなスケルトンストックのカスタムモデルだ。
「…武器を捨てろ。」
はっとした様子の彼女は慌てて武器を置き、目に涙を浮かべた。
正直言って、気の毒なほどの怯え方だった。
スネークは置かれた銃を横へ蹴飛ばし、腰が抜けてしまった彼女から少しずつ離れた。
彼女は反撃しない。できない。
いざ、標的として示されていた大人を前にすると、懐に仕込んだナイフが出てこない。
涙が彼女の頬を伝った。
スネークも思う所があるようで、苦い表情でスコーピオンを奪い、その校舎を後にした。
『何かあれば自分が戦う』と言った彼だが、結局は生徒たちに押し切られて共闘に至った。
しかし情けないと思うばかりではなく、
『私の招いたことだ、私に対応させてほしい。』というアズサの言葉を認めたのは彼。
アズサが責任を取ろうとしていて、スネークにも協力を頼んだ。
彼女だって計画を立てたうえでの判断だ。ほとんど毎晩夜遅く、合宿所を出て仕掛けていたトラップや塹壕はこのためだ。
「そろそろか?オタコン。」
「ああ、アズサが言ってた時間まであと3,2,…」
アズサは携帯用のリモコンを握りしめている。
「1…」
「…0!」
ボタンは押し込まれた。
ズドォ、ズドォォォォォオオオオッッ!!!
「爆弾!?」
ヒフミは作戦内容を思い出した。
襲撃をかけたアリウスの生徒たちの大部分が所定の棟に移動したら、二箇所の出入口を爆破して塞ぐ、と。
「こちらアズサ。回収とルート確保完了。」
「了解。全員その場を離れて体育館へ。」
「先生、みんな。道中にまだ残りがいると思う。気をつけて。」
「わかった。」
「「了解です!」」
「了解!」
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…いた。
「シャーレの先生だ!全員構え!」
周囲に散っていた三人ほどが集合し、彼を囲むのは計四人。
「……」
スネークは左手で静かに親指を立てる。
「う゛っ!?!?」
生徒の一人が痙攣しながら倒れた。
「スネーク!」
ステルス迷彩を解除して現れたオタコン。
彼ができる最大の攻撃手段の一つに、放電があった。
その隙にもう一手。
放電に気付かれるまでの一瞬に、
ピンは、彼の手の中。
「!全員伏せ───」
辺りは白い光と、音に包まれた。
「…ここまで無傷なのが奇跡だな。助かった。」
「僕もだよ…蹴飛ばされたらおしまいだ。言うまでもないけど、気を引き締めて行こう。」
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「───もう逃げ道は無い。」
たった今、四人がアリウスを追い詰めた所だった。対多数の状況だが、このまま順当に行けば制圧できそうだ。
二人は素早く中へ滑り込んで、扉を塞ぐ。
補習授業部に指示を飛ばしながら自身もスコーピオンで威嚇、援護した。
狙いは指揮官。
相手は様々な銃を乱射し、正面切って突っ込んで来る。
それを、片っ端から沈める。
スコーピオンを構えるスネーク。
もう麻酔で収まらないことは分かりきっていた。
連射される弾たちはバラつきこそあれど、四、五人のジャケットに穴を開け、また掠めた。
「先生、それ貸して。」
「何?」
「たぶん、私の方が上手く扱える。」
「……分かった!」
スコーピオンをアズサへ渡し、自身はソーコムに持ち替える。
腰だめで掃射され、一瞬で空になるマガジン。
指揮官が倒れた。
「……先生、弾は無い?」
「無い。」
「なら……ペロロ様!お願いします!!」
頭が倒れたうちに畳み掛ける。
まずは注意を引いて攻撃を逸らすことだ。
固まったアリウス生目掛けて手榴弾が飛び、いとも簡単にやられてしまう。
やけに練度が低い。
一人、また一人、時々何人かまとめて倒れていく。
後方、正面入口から嫌な音がした。
バリケードが突破された。
「皆さん、後ろ!アリウスの増援が!」
ハナコは注意と同時に発砲した。
「オタコン、外に何人いる!?」
「……40,50………100人以上は居るよ!」
「大隊規模が動員されてる……!?」
倒れた仲間などお構い無しに、体育館へ踏み込むアリウス生。
銃口を下げると、中央に道を作るように整列した。
「あはっ……やっぱりあなたたちだったかぁ。」
ティーパーティーの幹部、三派閥のトップであることを示す白いバッジ。自転する、惑星のようなヘイロー。
「……やはり君か。」
「知ってたの?先生、コソコソ嗅ぎ回るとこあるって聞いてたけど……本当なんだ。」
「…白洲アズサが告げ口でもしたかな。トリニティの裏切り者が、アリウスも裏切るなんてね?……」
「まあ、【本当の裏切り者】は私なんだけど。」
「……ミカさん?」
「あっ、えーっと……そうだ、浦和ハナコ。」
「礼拝堂ぶりかな?今日は水着じゃないんだね。」
「先生、銃なんて向けちゃって。撃てるの?」
「言っておくけど、私たちは容赦しないからね。」
「……こんなこと、正義実現委員会が黙っていない。」
「それも私の命令一つで動かなくなる組織なんだもん、後継もいるし。」
「……後継だと?」
「この子たちがそうだよ。トリニティの正式な組織になるの。」
「え……?」
コハルの困惑はもっともだ。警察組織を突然、個人の独断ですげ替えてしまうほど恐ろしいことは無い。
それも、さっきまで戦っていた得体の知れない人間たちに。
「あなたは正義実現委員会の子かな?……ごめんね、でもしょうがないの。トリニティとアリウスが和解できるんだもん。」
「……ミカ様、先輩はどうなるんですか?」
「って言うと、ハスミちゃんとかツルギちゃん?」
「まあ多分、クビ?」
「そんな……!」
そして何より、尊敬していた先輩たちが辞職せざるを得ない。組織丸ごと消えるということは、同級生たちもだ。
「コハルちゃん……!」
「……あ、戦車泥棒の子?どんな感じかと思ってたけど、割と普通?見かけに寄らないね。」
「…セイアを出せ。」
「…この際言っちゃうけど、セイアちゃんはもっと前にヘイローを壊しておいたの。」
「……。」
「たくさんの犠牲より、数人で済むならそれが良いでしょ?」
「ふざけるな!」
「……もういいよ、みんな。撃ち方…始め。」
スネークの怒りを上書きするように、弾幕が張られる。
こちらは比較的、隊列も装備も整っている。
「……全員下がれ!」
四人とオタコンを後ろに下がらせ、自分一人で前に出る。
それでも、アズサは反撃の手を止めない。
「私が招いたことだ!私がケリをつける!」
「お前だけの責任じゃない!」
これはトリニティとアリウスの因縁のせいでもあると、スネークは言いたかった。
一人で背負うのは間違っている。
自分はこの戦場を一人で背負おうとしたが、それではアズサと同じ。
「私は足掻く。足掻いて、みんなをこれ以上巻き込ませない!」
消耗される
オタコンが物資を補給するために飛ばしたドローンは、外に構えるアリウス兵に墜とされる。
弾はもう間も無く切れてしまう。
迫るアリウス兵。
彼らから見て後ろの窓を割って、何者かのグレネードが投げ込まれる。
「伏せろ!!」
爆炎を破り、涼しげな顔で歩を進める黒づくめの少女たちがいた。
「みなさん、私たちはこれより内紛に介入、聖園ミカさんを傷害教唆及び傷害未遂で拘束します。」
「シスターフッド……!?」
シスターフッド。彼女たちはトリニティの中でも独立した組織の一つ。
独自に生徒を拘束できる権限を持っている。
ハナコが彼女たちのことを、切り札として用意していたのだそう。
ぞろぞろと進むシスター。
「…………はぁ。」
シスターフッドは即座に展開し、壁を作るようにアリウスを包囲、ミカを拘束してしまった。
「抵抗……できる感じじゃないか。そんな榴弾まで向けられたらね。」
ミカが両手を挙げた。
「……もう、止まれないんだもん。」
「…質問、いい?」
「…………私、どこで間違えたんだろう。」
「自分で考えろ。」
「…………」
セイアの死亡は偽装である、と伝えると、ミカはいよいよ脱力して倒れ伏した。
今回は長めです。