「何、が……!?」
瓦礫の山。古聖堂の半分ほどが崩れ落ち、周囲はもっと甚大な被害を受けている。
スネークの瞳、もしくは脳内に一瞬、木の人形の
脳しんとうの症状なのか、本当にそこに居るのか判別ができないが、呼ばれる声で意識に掛かるモヤが消えた。
「先生!無事───です、か!?」
「アロナ…」
『今ので随分バッテリーを使ってしまって…!私はもう持ちません、…──────』
スクリーンが暗転したきり、言葉が続くことは無かった。
「………作戦失敗だ。みんなが…」
「いや、今は………状況の把握をしよう。…スネーク。」
「…移動は問題ないが、肩が外れたらしい。左腕が動かん。」
スネークは右腕で銃たちの存在を確かめた。
視界は確かだ。
足が動いた。それだけで有難い。少し頼りないが、自分の身体を運んでくれることは当たり前ではないのだから。
瓦礫の陰に、しゃがみ込む女がいた。
生徒なのだろうが、見覚えのある背の高い姿
「ハスミ?」
「先生…どうしてここに?」
ハスミはスネークの存在と、罪の有無を疑っていた。
彼女の知る先生はそのような事をしない。しかしテロリストとして発表されている。指名手配まで。
「その脚は?」
「止血はできました、もう動けます。」
「……すまないな。」
「……?いえ、何か飛んできたことこそ判りましたが…
「先生はどのように此処まで?」
「…………」
「今、大半の生徒が重症です。今は私たちのような動ける者で応急処置をしています。」
「ハスミ……隣は誰だ…ぁっ?」
「えっ、せ、先生!?」
ハスミを追いかけてきたのは、正義実現委員会委員長、
見開いた目は、驚いたように彼を真っ直ぐ見据えている。
彼女たちも無視できない怪我をしているし、チラチラと見える裂傷や挫傷が痛々しかった。
スネークが己の無力さを嘆こうにも、そんな暇あるわけがない。
「俺を攻撃しないのか。」
「人命救助と防衛が先でしょう。念の為警戒はしますが。」
「そうしてくれると有難い。」
聖堂近くにいた部隊はほとんど重傷、ヘイローがあっても骨折や圧迫による挫傷は免れないようだ。
「っ……」
「ハスミ。」
「ありがとう、ございます……」
「副委員長がこんな体たらくでは…」
「今は負傷者の確認と保護を優先する、君も無理をするな。」
「はい……」
彼がデイビッド本人だという確信が、ハスミの中で少しだけ強いものになった。
「デイビッド先生、ハスミは私が。」
「……エメリッヒ先生?」
「みんな。…あそこに!」
かなり距離はあったが、手のようなものが見えた。
どうか生きていてくれと心から祈って、おぼつかない足取りで駆け寄った。
そこにいたのは、頭から血を流すアユムがだった。
「……まだ息がある。」
「ツルギ、何か布を持ってない?」
「あります、止血に使ってください。」
シルクのハンカチ。腕の流血はどうにか止められそうだった。
ツルギの勘は同時に、後ろに迫る気配に気付いた。
それがこちらの命を狙っていることは明白。
ガスマスクをした小柄な少女、それを率いるリーダー。
部隊長と思わしき少女は、スネークも世話になった武器を担いでいる。
「スネーク、指揮をお願い。僕はアユムを見てるから。」
「……任せた。」
FIM-92、スティンガー地対空ミサイルは、本来
しかしキヴォトスでは、迫撃砲や電磁砲を携行する生徒が当たり前に暮らしているのだ。
その引き金に指が掛けられ、銃口が向いている。
「……上手くいったみたいだね。チームVIIIは後退。ムッシュの護衛に行って。標的はこっちで対処する。」
そう言うと、彼女たちは少し後ろへと下がった。
「何だ!?」
一帯を煙が巻く。
レーダーはもう使い物にならない、受信出来る波がないからだ。視界は奪われた。
青白い光を放ちながら迫る影が現れ、二つ、六つと不規則に増えていく。
ソリッド・アイにも反応無し。
薄汚れた煙が晴れる。
青白い人間が、聖職者のような格好をしていた。
手には随分古そうな型の突撃銃や機銃、
「いったい……?」
「サーモグラフィに反応がない、あれは生徒なのか?」
「敵であることは違いありません、撃ちます!」
「ツルギ、オタコン…いや、エメリッヒたちの近くから順に攻撃。彼等を守ってくれ。ハスミは援護を。」
「了解。……きぃひゃぁぁぁあああああっ!!」
「承知しました。少し下がります。」
ツルギが二丁の銃───ブラッド・アンド・ガンパウダーを振るいながら容易く屠る、しかしキリがない。
スネークが左手を震わせながら、ミメシスに発砲した。
ダメージこそ受けるようだが、消滅しても直ぐ次が来る。そうして包囲が厚くなっていくのだった。
そしてその時。
追い討ちの二射目である。今度はミサイルではないようだ。
着弾地点はかなり離れていたが、それでも爆風が顔を叩いた。」
「今ので無傷なのか!?」
オタコンが嘆く。
「……ハスミ…アユムを運んでくれ。」
「ええ。……っ!?」
ハスミが咄嗟にスネークを守った。盾代わりの翼は地面に垂れ、ハスミが顔を歪める。
未だ健在なミメシスの集中砲火だ。
この騒ぎには負傷者も叩き起こされる。
抱えられたアユムの瞳に映る景色は歪んでいた。薄暗く、見下ろせる限りの自分の身体が赤い。
どこも痛くない。頭から血が流れているのだろうが、詳細が一切分からない。
抱えられているらしいことは辛うじて把握できたが、胸騒ぎが止まらず落ち着かない。
「ぅ………せん、せ、いや、…?」
「動かな─────さい。────安心な場所、まで」
思考すら回らない。
やっと掴んだ意識を、身体に任せて離してしまった。
「…俺が行く。」
「スネーク!」
「先生!!」
「今君がやられたら、いよいよ収拾がつかない!!」
「今あなたが倒れては、もう収拾がつきません!」
変わらずスティンガーを構える『アリウススクワッド』のミサキという少女は、その場の全員に発砲を命令した。
「うああああああああああああああっ!!!!!!!」
「ヒナ!?」
獣のような雄叫びに振り向くと、その場のアリウス陣営が予想外の弾を食らった。
「先生!こっち!!」
こちらも負傷しているが、未だそれなりに動けるレベルだ。空崎ヒナは彼の手を引いて退くことを促す。
「オタコン、二人とアユムを頼んだ!」
…スネークは狙いが自分だけであることを悟った。
ならば促す通り離れるまでだ。
痛む肩で銃を構え、緊張の糸で意識を縛りつけることを選んだ彼。
「先生、あなたは……!」
「なんで助けた?」
「シャーレでないとこの場は立て直せない、伏せて!」
ヒナの掃射で瓦礫を
「それに、マコト達はあなたたちを切り捨てたようだけどっ…風紀委員会は、半信半疑だったし。」
特にヒナ、チナツ、イオリ。関わりの多さというより内容の濃さだろうが、彼らの一貫した意思を近くで見ていた。
そして万魔殿にも、そういう者は少なからず存在した。
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同時刻 トリニティ自治区 会場近くの湖
「…イブキィーーーーーー!!!どこに行ったんだぁーーーーーーー!!!」
「マコトちゃん、今動くのは危険よ!ここで私たちも場所が分からなくなったら……!」
「………ねえ、あれ…見えるかしら。」
「どれだ?」
「……ボートか!!」
未だ残骸の火が消えない湖上に、マコトとサツキは漂っていた。
鉄板にしがみついて浮かんでいるが、時間の問題だ。
「おーい!誰か乗ってるか!?」
「……」
オープンボートの運転席から水面を見下ろすジャック。同乗のイロハ、イブキ、サツキ。
「ゲッ…!!」
「……あの飛行船、いつ造った?俺が居た時に無かっただろ。」
「それが何だ?テロリストよ。」
「……ジャック先生、まずはお二人を引っ張り上げましょう!?」
「そうだな、ロープを出そう。」
二人はボートの座席に転がった。
「はぁ……あぁ…」
サツキは上着を脱いで、ボートの縁に寄りかかる。
緊張が解けたのだろう。
マコトだけは爆発の拍子にアフロと化し、水を吸って何とも言えない姿になっている。
「イブキ、無事か!?」
「うん!ジャック先生が助けてくれたの!」
「そうか……危害は加えられてないな。」
「…俺を何だと思ってる。」
「連邦生徒会を襲った無法者の一味としか。」
連邦生徒会の本拠地襲撃犯が、ゲヘナの生徒会役員を救助した。なんとも訳の解らない状況だが、ただ一人。
ただ一人、真相を知っている者がいる。
「…なあイブキ、あの飛行船を手に入れたのはいつだ?教えてくれ。」
「えっとね、先週の水曜日!」
「そうか、ありがとう。イブキ。」
雷電の瞳が光る。
「色々答えてもらおうか。」
羽沼マコトは諜報の結果、真実を知っていた。
─────────────────────
スネークの視界は鮮明さを取り戻していた。
オタコンとの通信を何度も試みるが、成功はしない。
悪夢でも見ているような気分がした。
「…これだけ離れれば、しばらくは大丈夫。まず持ってる情報を共有しないと───!?」
「遅かったな。ソリッド・スネーク。」
会話が弾で裂かれる。
「……!?」
「デイビッド先生!」
弾がヒナの足元に落ちた。
威嚇なのか定かではないが、右腕を掠めただけで済んだ。
「ヒナさん…、また会いましたね…やっぱり……」
「……」
終幕:デストロイヤーから血が滴る。スネークを庇うように立っている姿が痛々しかった。
「早いね。」
「……」
この場に揃った、揃ってしまったスクワッドは微動だにしない。
作戦があることはとっくに見越しているが、内容なんて分からない。
恐らくヒナが彼を守ろうものなら、二人まとめて総攻撃に遭う。
「いつ以来だ、
「貴様!?」
黒い強化外骨格、蛇のように蠢くマニピュレーター、そして、その顔。
ビッグボスの完璧なクローンらしく、子にもよく似ている。
「………あなたが演説の?」
「勘のいい子だ。」
「ミサキ、相手を。」
ソリダスの命令と共に、ミサキがヒナに掛かる。
格闘とまで行かないが、銃身での殴打と蹴りが効いている。
慕う先生を守ろうと身体を起こすばかりで、銃はとっくに離してしまった。
「ッ……あぁっ…先生!!」
「前を見なよ。」
ヒナが抑えられた。
あれだけの出血でなお、立っているだけでも充分凄いのだ。
肉体には必ず限界がやってくる。
「やはり先制攻撃に限る。風紀委員長のようなプロもまとめて抑えられるのは手間が省けて良い。」
ソーコムは大人しく、重力に従った。
「こいつらがアリウスの…」
「……ようやく会えたな。ソリッド・スネーク。」
「……リーダーだな?」
「そうだ、
「先に伝えておこう、…ムッシュ。」
「好きにしろ。」
彼女、
アリウスはエデン条約に調印したことでETO───エデン条約機構に成ったのだと。
アリウスもといETOは、その武力を用いた鎮圧の対象をゲヘナ《及び》トリニティと定義した。
この
「……こんなところか。では、消えてもらおう。」
「やはり、子供の扱いは私の方が上手いだろう?」
「………」
「さらばだ、兄弟。」
「…」
無線を起動した。
「デイビッド先生!!」
ミサキの腕をすり抜けて、誰より速く彼のもとへ駆け寄る。
「先生!駄目!!」
「先生!!」
彼が選んだのは、受け止めたうえで庇うことだ。
「………」
「…どうして……?」
ヒナの身体に、一人分の重みが乗った。
「───スネーク?スネーク!?」
「…そんな……!?」
「あ………ぁ…ぁっ…」
銃の閃光が、ヒナの精神を蝕んでいく。
彼女の強靭さに由来する強い意識が、その景色を鮮やかなスローモーションで映した。
「うぅぅぅぅぅああああ゛あ゛あ゛ぁぁぁあああああ!!!!」
「───様!」
「あなた様!!!」