The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
各話タイトル変更のタイミング、もう少し後でも良かったなと後悔中……ちょっと長い章になりそうです。


第百四話 ネクシア聖教国の聖者⑥

 学園が休校となったため、俺とサラは昼過ぎには別邸に帰って来ていた。

 しかし、そんなせっかくの時間を俺は自室に籠って浪費していた。

 

 無論、この空いた時間を活用し聖者を探そうと思ったのだが、市街の状況が中々に動きにくい。

 ネクシア聖教の中心教会は貴族街ではなく平民街に位置している。

 

 普段なら特に気にする必要もないことなのだが、今の平民街は帝国建国史上初のレベルで荒れており、その原因として皇室の次に目の敵にされるであろう俺が、アゼクオンの馬車で平民街に出るのは正気の沙汰ではない。

 

 もしそれで俺に石の一つでも飛んできてみろ。

 辺り一帯が血の海になることなど、サラのことを少しでも知る物ならば誰の目からも明らかだった。

 

 ……こんなに暇な時間を疎ましく思うことも中々ないだろうな。

 

 なんだかんだやることだらけだったこれまでの時間。

 不遇を嘆くことはあっても、まさか暇を嫌う時が来るとは思いもしなかった。

 

「……ふう」

 

 さすがにぼうっと時間を浪費するのはもったいないと思い、ベッドの上で胡坐をかいて目を閉じ、久しぶりに吸魔でもしてみようかと集中する。

 魔力覚醒後の吸魔はほとんど意味をなさないが、『吸魔の指輪』を二つ身に着けている俺はそれでも馬鹿に出来ない。

 

 呼吸を整え、自身の内側と向き合う。

 

 俺の中には、圧倒的な力を内包する『傲慢』の魔力が今もごうごうと燃えている。

 ほぼすべての魔法を見るだけで我が物とし、一度魔法を食らってみればその瞬間、使用者を超えてその魔法の深淵に近づくこの魔法は、正しく『傲慢』そのものだ。

 

 ……しかし、この『傲慢』に対して、俺は一つだけ気に入らない点があった。

『傲慢』は他者のオリジナリティを模倣する代わりに、自身もまたオリジナリティを持たないのだ。

 実際はその模倣するという特性こそがオリジナリティな訳だが、そのオリジナリティが結果として、目に見える状態で現れるのは何処かで見たことのある魔法の強化版。

 

 やはり、圧倒的な力を示すならば、他者を蹴散らし嘲笑うこの『傲慢』のほかに俺だけの特別な何かが欲しいところだ。

 

 それこそ、魔法に限る必要はない。

 例えば一月ほど前にリューナスがサラとの戦闘でやって見せたような、圧倒的なフィジカルによる物理法則さえ超越したかのような剣技。

 

 ただ、残念ながらいくら俺でも、リューナスのあのようなフィジカル頼りの技を会得するのは難しい。

 技術として模倣することは出来るかもしれないが、それでは結局『傲慢』と同じ模倣に過ぎない。

 

 ……何か、なにかないだろうか?

 

 さらに、さらに深く、己の内面と向かい合う。

 この身に宿る、果てしないほどの魔力のその先に向かって、溢れ出る魔力の奔流に逆らっていく。

 余計な思考を振り払い、魔法の極致を求めてただひたすらに深淵を落ちていく。

 

 ――ある時、世界から音が消えた。

 

 一体どれだけの時間が過ぎただろうか?

 一分かもしれないし、十分かもしれない、一時間やそれ以上だって考えられる。

 時の感覚も忘れてしまうほど集中した俺は、遂に底へたどり着いた。

 

 そこは確かに何もない空間。

 ただしかし、そこにはこれまでに感じたことのないほどの濃い魔力で満ち溢れていた。

 圧倒的な魔力で満ちたその空間は、常人ならば、立ち入るどころか知覚した瞬間に意識を失うことだって考えられる。

 だが俺には、何よりも心地よく慣れ親しんだ魔力だ。

 たどり着いたここは『傲慢』の魔力の海のような場所だった。

 

「そうか、これが。魔力の根源……『傲慢』の最奥」

 

 そう口に出すと、まるで映像記録のように俺が今まで会得してきた魔法たちが流れていく。

 

 サラの『嫉妬』

 レドの『時穿剣』

 父上の『火属性』

 母上の『風属性』

 クゾームの『怠惰』

 クインの『慈愛』

 サンの『水属性』

 リューナスの『音属性』

 ルーカスの『土属性』

 セレスティアの『雷属性』

 

 様式も形態も威力もそのすべてが違う多数の魔法が『傲慢』によって再現されていく。

 

 嫉妬の蛇が暴れ這い、時穿剣がそれを切り裂いていく。圧倒的な火力の拳が舞えば、その炎を裂くように風が通り過ぎる……そうして最後の雷魔法が再現され終わる。

 すると突然、俺の目の前に見たことのない魔力の球のような得体のしれない何かが出現した。

 

 その球から感じられる魔力はこれまで『傲慢』が変質してきたどれにも似つかない、異質な魔力をしていた。

 

「……なんだ、これは?」

 

 この『傲慢』の魔力で満ち溢れた空間に、いったいどうして俺の知らない魔力が存在している?

 そもそもここは、自身の内面世界のようなもののはず。

 

「……俺の中に、俺の知らない魔力が、存在している?」

 

 そんなことはあり得ない。

 覚醒前ならばまだしも、俺は間違いなく魔力覚醒を終えている。

 だが、状況証拠的にそうとしか考えられなかった。

 

 俺はおもむろにその球体へ手を伸ばし、掴み取ろうとして――

 

 

「……ス様! ファレス様っ!!」

 

 悲泣とも、絶叫とも取れるようなサラの声で、俺の意識は一気に現実へと引き戻された。

 

「……サラ? 一体どうした? 何かあったか?」

 

 体勢を確認してみれば、俺はベッドに仰向けに横たわっており、その上からサラが覆いかぶさるようにして涙を零していた。

 さらにその周りには他の侍従たちも俺を取り囲むように控えている。

 

「……身が震えるほどの魔力の奔流を感じたかと思えば、唐突にそれが立ち消え、様子がおかしいとお部屋に入ってみれば……ファレス様が……ファレス様がぁっ……」

 

 涙声で何とか状況を説明してくれようとするサラだが、肝心のところを言う前に俺の胸に顔をうずめて泣き始めてしまった。

 

 俺はその姿勢のまま周りに控える侍従たちに説明を求めると、どうやら俺は呼吸をしていなかったらしい。

 どうにも睡眠時無呼吸症候群とか、そう言うレベルではなかったようだ。

 傍から見た俺はまるで、陸で溺れるかのような、そんな状態だったという。

 

 俺自身に苦しさや何か体調不良が残っているわけではないため、実感が湧かないが、侍従たちが俺を取り囲むほどだ。

 余程の状況だったのだろう。

 

「皆、心配をかけたな。少し、集中しすぎていたようだ」

 

 強張った表情の皆を落ち着けるためになるべく優しい声音を意識して話す。

 なお、サラはまだ俺の胸から顔を離そうとしないので、体勢は仰向けのままだ。

 

「心配をかけてしまったが、俺は今、魔法の深奥へ一歩近づいたのだ。それにこの通り、身体的な問題はどこにも見られない。だからもう安心して、それぞれの持ち場に戻ってくれ」

 

 真偽は置いておいて、俺の言葉を命令と受け取った侍従たちはこちらを気に掛けながらも持ち場へと戻っていく。

 この世界で目覚めた直後からは考えられない光景だ。

 まさか、ここまで心配してもらえるようになるとはな……。

 

 そして、魔力の深奥と表現したあれ。

 皆はそれ以上に体調が気になって、その言葉にはあまり反応していない様子だったが、あれは一体何だったのだろう?

 感覚が残っているうちに確かめたい。

 

 ただ、今はそれより――

 

「……サラ、落ち着いたか?」

 

 サラは顔を外側に向けて耳を胸にあてている。

 俺の心音や呼吸音を聞くことで生存確認を使用しているのだろうか?

 

「……落ち着きません」

 

 サラは涙や鼻水でぐずぐずになった声で俺に真っ向から反発する。

 

「……どうしたら、落ち着くんだ?」

 

「明日の朝まで、このままにしていただければ」

 

「……それは中々な条件だな」

 

「では、落ち着けません」

 

 珍しく我儘を言うサラは、これまでどんな時でも見せなかった彼女の素を見せられているように感じられる。

 そんなサラの変化を少し嬉しく思いながらも、このままでは本当に明日の朝まで時間が経ってしまいかねない。

 それは困る。

 いや、困りはしないが、普通に不便だ。

 それに……いい加減この体勢はよろしくない。

 

「サラ、こちらを見よ」

 

 俺は普段通りの口調でサラに命令した。

 

 すぐには動こうとしなかったサラだったが、やはり、命令口調には逆らえずおずおずとこちらを向いた。

 

「……はい」

 

 そうしてこちらを向いたサラが俺と目を合わせる前に、俺はサラの唇を奪った。

 

「……んむっ! ふぁ、すさま!?」

 

 ほとんど声にならないような声を上げるサラからゆっくりと唇を離すと、耳元へ顔を移す。

 

「落ち着かずとも良い。今はそれで我慢しておけ。まだ、やることは残っているし、サラも着替えたりしたいだろう? すべてが終わったら、な?」

 

 羞恥に悶えそうな内心を押し殺し、サラに言い聞かせる。

 

「……はぃ」

 

 すると蕩け切った声でそんな返事をするサラ。

 

 ……これ以上ここにいてはサラの理性を壊してしまう。

 俺は限界の一歩手前で、バスルームに飛び込んだ。

 

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