The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百八話 ネクシア聖教国の聖者⑩

 二日間の長い馬車の旅を終え、俺たちは遂にグラーツィア帝国北部ファルシアン辺境伯領へと足を踏み入れていた。

 魔域や死の大地なんて揶揄されることもあるファルシアン領だが、その噂はただの噂ではなく、実際にこの都市にたどり着くまでに何度か魔物や魔獣との接敵があった。

 どれもアゼクオンの騎士たちで対処可能なレベルであったが、文字通りの跳梁跋扈にさすがのサラとセレスティアもその時ばかりは言い争いを止めて、緊張感を漂わせていた。

 

「……何というのでしょうか? 質素と言うより堅牢な街並みですわね」

 

 馬車の窓越しに見えるファルシアン領はセレスティアの言う通り、華美さや派手さとは無縁の建物たちが細部まで区画整理の行き届いた空間に配置されている。

 どの建物もはた目からでも分かるほどに分厚い壁に覆われており、この地の特性をそう言う所からも感じさせてくる。

 

「そして、正面にそびえ立つあの建物が……奥様、スジェンナ様の御実家……」

 

 そんな街並みでもひと際剛健な存在感を放つ、もはや要塞のような建物。

 そこがファルシアン辺境伯本邸だ。

 

 入口となっている門? というか石壁にしか見えない壁の前で馬車が停止する。

 すると、御者がこちらに何やら確認を促すようなアイコンタクトをして来た。

 

 それと同時に馬車の扉が軽くノックされる。

 

「サラ」

 

「はい」

 

 俺が指示するのとほぼ同時にサラが扉を軽く開けて要件を問う。

 

「大変申し訳ございません。アゼクオンのファレス様と言うことは百も承知なのですが、規則にてご本人様の確認が取れないとお通しできない決まりとなっていまして……」

 

 ……なるほど。

 徹底しているな。

 他家ならばでかでかとアゼクオンの紋の入ったこの馬車を見れば、大抵素通りだろうに。

 ただ、有力貴族だからと特別扱いせず、一律に体勢を変えない姿勢は好感が持てる。

 

 俺が感心しているとサラがこちらを振り返った。

 俺はそれに頷き、サラと入れ替わる形で扉から姿を見せる。

 

「ファレス・アゼクオンだ。身分証明は……そうだな。この徽章でどうだ?」

 

 俺は門番をしていた騎士に皇帝の名代を示す徽章を見せる。

 

「はっ……。間違いなく確認いたしました。ご協力感謝いたします。すぐに門を開きますので、今しばらくお待ちください」

 

「ああ」

 

 ……皇帝の徽章を見せても一歩も引かないとは、かなり肝が据わっているな。

 流石はこんな土地で騎士をやっているだけのことはある。

 

「何というか、ものすごく厳格ですわね」

 

 騎士の対応を見て、セレスティアが呟いた。

 まあ、確かにこの世界では珍しいことだろう。

 王都だって、様々な催しが王城で行われ、金さえ払えば平民でもそれを観覧できるくらいには、この世界のセキュリティ意識は低い。

 俺に言わせれば、王城を解放してその施設への立ち入りが金銭次第で可能だなんて危険すぎると思うのだが……まあ、魔法と言う理外の力が圧倒的な立場を築いているため、ということは理解できるが。

 

「噂ではこの地には人に擬態して都市にまで侵入してくる魔物や魔獣もいるらしい。このくらいが適切なのだろう」

 

「それは……恐ろしいですわね」

 

 そんな話をしていると早速堅牢な石門が中々の地響きを起こしながら開かれた。

 

 あらわになった本邸を前にしても、第一印象以上の感想は上がってこない。

 貴族らしさのかけらもない庭、というか開けた訓練場に、外の建物と同じかそれ以上に地味で益々要塞味の増した屋敷。

 

 ただ、その正面に仁王立ちする圧倒的な存在感を放つ人物。

 思わず俺でも身震いするような凄まじい魔力を纏う祖父が地味な建物と相まって異常に大きく見える。

 

「あれが……」

 

 二人が祖父の姿を見て絶句している。

 まあ、無理もない。

 この世界において、実力で俺を上回る人物はかなり限られている。

 

 未だ底の見えない師匠レド、帝国最強の騎士、近衛騎士隊長グレイグ、そしてどんな能力を持っているか不明な皇帝、モラク・ルー・グラーツィア。

 父上もかなりの使い手であることは間違いないが、恐らく本気でぶつかって勝ちきれない、もしくは撤退の可能性があるのはこの三人くらいだろう。

 

 しかし、目の前の男、スレイド・ファルシアンだけは別格だ。

 いくら傲慢な俺でも、全く勝ちのビジョンが浮かばない。

 それほどの存在感を放っている。

 

「降りるぞ」

 

 俺は固まってしまった二人に声を掛けて先行して馬車を降りると、二人に手を貸して馬車から降ろしてから、祖父の正面まで歩いた。

 

「お久しぶりです、お祖父様。この度は急な来訪にも関わらず、お出迎え頂きありがとうございます」

 

「なに、家族を訪ねるのに急も何もなかろうて。よく来たなファレス。歓迎する。それに魔法披露宴の時のエバンスのサラ嬢とカーヴァリアのセレスティア嬢だな? ふっ、流石は儂の孫よ。帝国の慣例に正面から歯向かうとは!」

 

 ガハハッと豪快に笑う祖父スレイド。

 慣例? と少し疑問に思ったが、とりあえずはスルーしておいた。

 

「先に言われてしまいましたが、こちらカーヴァリア侯爵家のセレスティアとエバンス伯爵家のサラです」

 

 俺は一歩横に歩を逸らし、改めて祖父に二人を紹介した。

 

「セレスティア・カーヴァリアですわ。帝国の英雄とこうして直接お話させていただけること光栄に思います」

 

「サラ・エバンスです。私のことまで覚えていて頂けて光栄です。しばらくの間お邪魔させていただきます」

 

 セレスティアは優雅にサラは少し控えめにカーテシーをして見せる。

 

「ああ、長旅の疲れもあろう。外見は地味だが、中はそれなりに快適だ。ゆっくりと過ごしてくれ」

 

 そんな二人に気遣う様子を見せるとすぐに屋敷の中から侍従たちがやって来て、セレスティアとサラを歓待する。

 俺もそれに続こうと後を追おうとすると――ガシッと肩を掴まれた。

 

「ファレス、お前はこっちだ」

 

 そう言うと同時に俺を小脇に抱えた祖父は少し体勢を低くしたかと思えばその瞬間――飛んだ。

 

「……は?」

 

 思わず間抜けな声が漏れる。

 

「孫の実力を見たくてな! 少し馬鹿な獣どもを間引こうではないか!」

 

 風の魔法で調整されているおかげで普通に話せているが、今の俺は間違いなく空中にいる。

 

 そう言えば、母さんが祖父は魔物や魔獣と戦うために日々領内を飛び回ってるとか言ってたっけ?

 いや、誰がそのままの意味で飛ぶと思うんだよ! いや、実際には飛ぶというより魔力と脚力にものを言わせて跳んでいるのだろうが……。

 

「さて、ファレス。着地は出来るな?」

 

「……はい」

 

 どうやらここはファルシアン領の都市を跳び越えた荒廃した土地の上空のようだ。

 下に顔を向ければ、見たこともないような魔物や魔獣がうようよとしている。

 

 そんな中で落下軌道に入ると同時に祖父から解放された俺は大出力の風魔法で加工旋風を巻き起こし落下点にいた魔物を薙ぎ払いながら、何とか地面に着地した。

 

 一方で祖父は特に何か魔法を使うでもなく、足元にクレーターを作っていた。

 ………………。

 

「ほう。今のはスジェンナの風魔法だな! 使い方も中々応用が利いている!」

 

 飛び掛かってくる魔物をまるで鬱陶しいハエを追い払うかのようにはたき落としながら、スレイドが褒めてくれる。

 

「あのお祖父様。これは一体……」

 

 俺は群がってくる魔物や魔獣どもをまとめてサラの『嫉妬』の魔法で拘束し、セレスティアの雷魔法で撃ち抜きながら祖父に状況説明を求めた。

 

「何、ただの遊びだ。それにこやつらは時折面白い物を落とす。こんなところにまでついてきてくれた令嬢や向こうに待たせている令嬢もおるのだろう? 贈り物の一つでも用意してみるというのはどうだ?」

 

「……なるほど。それは面白そうです」

 

 さすがはあの母上の御父上と言うだけのことはある。

 ぶっ飛んでいるようでその行動にはきちんと理由があり、感情的に見せかけて理論派だ。

 ただ、どうしてサラとセレスティアの二人だけでなく、クインやサンの存在を勘づかれているのかと言う点には疑問が残るが……。

 

「それに、儂もお前もただ腰を落ち着けてゆっくり話をするような性格でもないだろう?」

 

 足元を縫うように這って来た大蛇のような魔獣を、華麗なアッパーカットで打ち上げながら、にやりとスレイドが笑った。

 

 なるほど。

 祖父は言外にこう言っているのだ。

 狭い空間で令嬢二人の相手をするのは中々に疲れただろう? ストレス発散でもしながら気楽に話そうではないか、と。

 

 俺は剣に手をかける。

 そして、上空から迫る体長十メートル以上はありそうな怪鳥を時穿剣で一刀両断にした。

 

「最高です。お祖父様」

 

「はっはっは! そう来なくてはな!」

 

 心からの笑顔が漏れる。

『傲慢』と『忠義』、完全に対極な魔法を扱う俺と祖父だが、なかなかどうして性格はバッチリと噛み合っているらしい。

 

「して、ファレスよ。披露宴でも思ったが、先の剣閃はかつての剣聖の太刀筋ではなかったか?」

 

「ええ、実は剣の師として元剣聖レドに剣の手ほどきを受けていました」

 

「ほう……剣聖レドといえば、数年前に行方を眩ませたと聞いていたが……やはり、お前は持っているな」

 

 俺と祖父はそこそこのスピードでこの死の大地を駆け、魔物たちを屠りながら、会話に興じる。

 

「そのレドですが、先日結婚し、男爵家の婿になりました」

 

「なんと……! なるほど……剣聖と言えどやはり一人の男。惚れた女には敵わなかったか。相手は誰だ?」

 

 レドの結婚には少しの驚きを見せるも、どこかしみじみと呟くスレイド。

 

「お相手はスペーディア商会の商会長ギンカ・スペーディア男爵です」

 

「スペーディア商会と言えば……アゼクオンに併合された旧ノウ領の復興でお前と共に活動に当たった家ではなかったか? そう言えば、あそこには『クインファレス』と言う大漁船があるとも聞いたな。なんでも不安定だった漁獲量がここ数年で安定したのはその船の貢献が大きいのだと」

 

「……そうですね」

 

『クインファレス』……世俗から離れて、ずっとこうやって魔物たちと殴り合っているであろう祖父にも知られているのか。

 

「ふむ、その様子。王都に待たせているのはそのクインという令嬢と見たぞ? どうだ?」

 

「……ご明察です」

 

「はっはっは! 良いではないか! よく悩めファレスよ。お前なら覚悟さえあればどんな選択も出来よう」

 

 こうして俺と祖父スレイドは談笑をしながら、死の大地と呼ばれるこのファルシアン領をまるで散歩でもするように渡り歩いた。

 

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