The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~ 作:嵐山田
おそらく二、三時間ぶりに戻って来たファルシアン本邸は俺の予想に反して穏やかだった。
「ファレス様! おかえりなさいませ」
最悪、暴走の覚悟もしていたサラが満面の笑みで迎えてくれる。
……ただ、いつも見せる笑みとは何処か違うような気がするのは気のせいか?
「どちらに行かれていましたの?」
サラに続いてセレスティアもこちらへ歩み寄ってくる。
その姿はかなりいつも通りに見えて、やはりこちらもなんとなく違うような気がする。
「ああ、少し郊外にな。お祖父様と魔物を倒して来た」
「まぁ! 流石はファレス様! この北部でいきなりですか……!」
「まぁな」
……何だこの違和感は?
いや、待て。その前にやるべきことがあるだろう。
俺は腕にしがみつくサラをやんわり解くと、微笑まし気にこちらを見ている女性の方へ歩み出た。
「挨拶が遅くなり申し訳ございません。カメリナ様。今日からお世話になります」
「気にしなくていいのよ。それにしても大きくなったわね。スレイド様とはしっかりとお話出来たかしら?」
「ええ、有意義な時間を過ごさせていただきました」
どうやらこの人は祖父の目的が最初から分かっていたようだ。
さすがは巷で本当の辺境伯だとか裏辺境伯と呼ばれるだけのことはある。
ただ、グスタフ叔父上には同情するが……。
「それは良かったわ。さぁ、座って頂戴。あなたの話も聞かせて欲しいわ」
「はい。失礼します」
広いソファに腰かければ、当然の如くサラとセレスティアが隣に座る。
しかしやはり、サラはいつも以上に俺にくっついて、セレスティアは距離を取っている……と言うより若干緊張しているように感じられる。
「あらあら……ふふっ」
そんな様子を含み顔で見ているカメリナ様。
しかし、これは一体? なんて当人でもない彼女に聞くわけにもいかず、俺は疑問点を抱えたまま
カメリナ様とのティータイムに興じた。
◇◇◇
夕食までご馳走になり、今晩宿泊させてもらう部屋に通されたのだが……なぜかサラとセレスティアまで同室に案内された。
到着時に祖父が屋敷内は快適と言っていた通り、もちろんここが一番良い客間なのだろうが、それにしたって、アゼクオン別邸で俺が使っている部屋とほぼ同じくらいの広さがあるのは流石、土地だけはある辺境伯領ということか。
もちろんこの部屋には、シャワールームやバスルームも完備されており、部屋の奥ではキングサイズのベッドがそれはそれは大きく存在感を放っている。
「サラ、セレスティア……これは一体?」
さすがの俺もこればかりは聞かずにはいられない。
百歩譲ってサラはまだ分かる。
彼女はエバンスであり、俺のメイドでもあるため慣れない環境では同室にするということも……いや、ダメだろ。全く意味が分からんわ!
それにもちろんサラにもだが、それ以上にセレスティアにはちゃんと個室が用意されていなきゃ、侯爵家と辺境伯家という有力家間の問題に発展したっておかしくない。
ただ、当の本人たちは――
「どうかされましたか? ファレス様」
「私、ベッドはファレス様の右側が良いですわ」
全く気にしていない様子である。
……セレスティアさん? 何さらっと同衾前提のお話をされているのでしょうか?
こんどこそ百歩譲ってもここは他家ですよ?
「いや、いやいやまっ――」
俺がそこまで言いかけた所で王都にいるサンたちから声を掛けられてしまった。
「(お兄ちゃん! 今日のお話の時間だよっ!)」
待ちわびていたとでも言わんばかりの期待の籠った声。
ただでさえ出発時にあれだけ怒らせてしまったのだ。
この二日間でここまで持ち直したとはいえ、また、機嫌を損ねるのは俺としても好むところではない。
くっ……やむを得ん。
俺はすぐ近くの椅子に腰かけて、とりあえずはサンとクインとの会話の方に集中することとした。
「(……と言うことで、王都では相変わらずグランダル家によるグラーツィア皇家に対する不安を煽るような工作が続いています。だって!)」
「(そうか……商会の方には何か影響は出ていないか?)」
サンを介してクインから報告を受ける。
俺たちが王都を出て三日目、何か行動を起こしてきてもおかしくはない頃だと思っていたが、どうにも慎重な様子だ。
念のため、未だにメーディアさんに掛けた氷の魔法は解いていないが、そちらにも再び接触がある様子はなかった。
「(商会の方はレドが目を光らせてくれているようで、怪しい者は即刻追い返されています。だって!)」
「(なるほど……)」
つまり、影響なしと言う訳ではないと。
まあ、レドが居ればそうそう問題は起こらないだろう。
「(おそらく大丈夫だとは思うが、当面は二人だけでの外出は避けるようにな)」
「(分かった!)」
「(さて、サン、クイン。今日はこのくらいで……)」
あらかたの報告も聞き終わったところで会話を切り上げようとすると――
「(今日はお兄ちゃんもファルシアン領? に着いたんでしょ? 何があったのか教えてよ!)」
まるで逃がさないとでも言うかのように、サンが会話を続けさせようとしてきた。
「(お姉ちゃんもファルシアン領がどんなところなのか聞きたいって言ってるよ)」
サンはさらに続けて二の矢も放ち、流石にこれを断るわけにはいかなくなった。
「(……分かった。ファルシアンはだな……)」
こうして、二人から飛んでくる色々な質問に答えたり、祖父と倒した魔物や魔獣の話をこれでもかと聞かせ、そこそこ良い時間になった。
「(……そんなわけで、だ。死の大地を謳われるファルシアン領はその名の通り、中々の魔境だったぞ)」
「(流石はファレス様ですね! だって! 私もそう思う!)」
「(ああ、ありがとな。さて、サン、クインそろそろ流石に良い時間だ)」
今度は遮られる前にきっぱりと言い切る。
「(そうだね。あ、ちょっと待って! お姉ちゃんが最後に言いたいことがあるって)」
「(分かった。では、それで最後にしよう)」
どうせ明日も話すだろうに、改まっていったい何だろうか? と思ったが、俺とてそれを口にするほど野暮ではない。
最後にしようとだけ言って、サンからの続きを待つ。
………………。
おそらく三十秒ほどの沈黙。
日常ならば気にならない程度のそれは、この遠話の状態では非常に長く感じられた。
「(ファレス様。今の一件がひと段落つきましたら、一日、お時間を頂けませんか? 私とファレス様の二人で、です)」
サンの声を待っていた俺は、突如聞こえて来たクインの声に驚かされた。
しかし、それ以上に、その覚悟を決めたと言わんばかりの声に思わず気圧される。
「(……良いだろう。必ず、時間を取ると約束する)」
「(……っ! ありがとうございますっ!)」
そんな風に言われては無下にすることなどできない。
「(じゃあ、お兄ちゃんまた明日ね!)」
再び聞こえてくるのはサンの声。
「(ああ、おやすみサン、クイン)」
「(うん! おやすみなさい!)」
そう言って俺たちは遠話を終えた。
ふぅ……と溜息を漏らしながら伸びをする。
「ファレス様、クインさんたちとのお話は終わりましたか?」
「ああ」
俺の様子の変化にすぐに気が付き、サラが「お疲れ様です」と、紅茶の入ったカップを差し出してくれる。
「今日は昨日、一昨日より長くお話していらっしゃいましたね」
リラックスできる香りの紅茶に舌鼓を打っていると、背後のソファテーブルの方からセレスティアがそう言ってきた。
「ああ、ファルシアン領のことを色々と聞かれて……なっ!?」
言いながらそちらを振り返ると……そこにはなぜか既にネグリジェ姿になったセレスティアが恥ずかしそうに座っていた。
俺の銀髪とは違い、透き通るようなシルバーブロンドの髪を片側に下ろし、大胆に肩の露出したネグリジェで少し俯きながらこちらを見つめる姿は何ともいじらしく……凄まじく情欲を掻き立てる。
「あ、あまり見られては……は、恥ずかしいですわ」
いつもははっきりとした物言いの彼女が言い淀む姿というギャップは、彼女のその美貌も相まってもはや戦略兵器クラスの威力を持っていた。
「そんな調子では今晩、眠れないのではないですかセレスティアさん」
セレスティアの姿に思わず黙ってしまった俺の元に、続いてやってきたのは、紅茶を出してすぐシャワールームの方へ行っていたサラだった。
まさか……とは思ったが、想像通りその姿はセレスティア同様ネグリジェ姿。
煌めくような金髪をこれでもかと映えさせる黒いレースのそれは、セレスティアとはまた違った扇情的な魅力をこれでもかと醸し出している。
「……サラ、セレスティア、今度こそ聞かせてもらおう。これは一体、どういう状況だ?」
俺は昂る欲望をなんとか抑え付け、なけなしの理性でそう聞いた。
「……詳しいお話はまた後程させていただきますわ」
「まずは、シャワーを浴びてきてくださいませ。ファレス様」
横に並んで座る二人がそう言ってシャワー進めてくる。
……なんだ? いったい何が起きているんだこれは……!
俺はとりあえず言われるがままにシャワールームへ向かいながら、高速で脳を働かせ状況を整理していく。
そもそもまず、三人同室というこの状況がおかしいのだ。
ここがカーヴァリア領やアゼクオン領ならばともかく、ファルシアン領は縁戚関係にあると言っても、実家ではない。
もてなしに文句をつけるつもりはないが、こんな状況になるのはやはり何かがおかしい。
……俺とスレイドお祖父様が出ている間に何かあったのか?
……いやそれとも、もっと早い段階で手が回されていた?
まさか……母さん!?
その結論にたどり着いたとき、俺の中で色々な物が繋がったような気がした。