The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百十一話 ネクシア聖教国の聖者⑬

 俺はシャワールームに入り、扉を閉める。

 そして脱衣所に置かれたドレッサーの正面に座り、鏡の中の自身と向き合いながら、さらに思考を深めていく。

 

 今回、俺たちはかなりのスピードでこのファルシアン領にやって来た。

 母さんの手紙を受け取ってその翌日には出発しているのだ。

 そしてその三日後の今日に到着している。

 

 しかし、ファルシアン家は完璧に歓待の準備が整っていた。

 無論、このレベルの家となれば、いつでも客人を泊めることなど造作もないことだろうが、祖父が俺たちを待っていたというのが今回の肝だ。

 

 祖父は普段、先ほど俺と行ったように領内のそこら中を文字通り跳び回り、魔物や魔獣を間引いて回っている一人遊撃部隊のような人だ。

 そんな祖父が俺たちを真っ先に出迎えたということはつまり、俺たちの予定を完全に読み切っている人物がいたということになる。

 

 そんなことが出来る人物となれば、もう俺には母さん以外に思い当たらなかった。

 おそらくだが、カーヴァリア家の侯爵夫人であるコルネリア様と母さんが繋がっており、セレスティアが今回の外出の件を報告した段階で母さんに情報が回っていたとみて良いだろう。

 

 そしてもう一つ、母さんを怪しむ情報として大きな点があった。

 今回はファルシアン領に向かう、つまり母さんの実家に行くと言うのに母さんが一緒に行くと言い出さなかった点である。

 

 もはや言うまでもないことだが、俺は母さんに溺愛と言っていいほどに愛されている自覚がある。

 そんな母さんが自分の実家に帰る息子に何らかの用事があって同伴できない?

 そんな馬鹿な話があるか!?

 ……いや、実際は往々にしてあり得ることだとは俺も思うのだが、母さんに限ればこれはかなり不自然だった。

 

 しかし、アゼクオン、カーヴァリア、ファルシアンの三家を巻き込んで何かを画策しており、その中に自分が邪魔だと判断したのだとしたら……特に恋愛関係となれば、あの母さんでも引きそうである。

 

「……一体どこからが計画だったんだ?」

 

 もし俺の推測が正しかった場合、この世界の女性は本当に傑物揃いだ。

 クインの母、ギンカ・スペーディアや母さん、そしてこの計画に乗ろうと判断できるコルネリア様もカメリナ様も皆、肝が据わりすぎだ。

 普通に帝国の法律的にまずいはずなのだ。

 この世界はどこを見ても一夫一妻制の家族しかいない。

 原作でもハーレム=バッドエンドだったことからも、恐らく禁忌扱いとなっている。

 だと言うのに、そんなもの気にしないとばかりに俺たち三人を同室に……。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息が漏れる。

 鏡の中の俺も全く同じようにため息をつくせいで、一回のため息で幸せが二つ逃げてしまうような気がした。

 

 ……とりあえず、シャワーでも浴びて思考を整理しよう。

 そう思った俺はいつもより少し乱雑に服を脱ぎ捨て、シャワールームへ入った。

 

 日々思っていたことだが、この世界は異世界の割にはゲームが元となっているおかげでシャワーやトイレなどの水回り設備が充実していてありがたい。

 茹だった頭を冷やす目的でまずは頭から冷水のシャワーをかぶった。

 

 温水よりも鋭く感じる水が髪を伝って全身へ流れていく。

 

「ふぅ……」

 

 徐々にシャワーの温度を上げていき、適温にすると体の芯がジンと温かくなった。

 同時にフル回転していた思考もゆっくりと正常化していく。

 あとは湯舟でもあれば完璧なのだが……流石にそれは求め過ぎというものである。

 

 湯舟がわりに温水のシャワーを背中に浴びながら、改めて今置かれている状況を客観視してみた。

 場所は母さんの実家、ファルシアン辺境伯領。

 俺に用意された部屋にはなぜか大きすぎる一つのベッドに加え、サラとセレスティアが同室。

 原作的にこの世界でハーレムは厳禁。

 

「……ほぼ詰みだな、おい」

 

 改めて考えた所で事の深刻さは変わらない。

 

 ただ、もし……もし原作同様ハーレムが厳禁の場合、俺は一体だれを選ぶつもりだったのだろう?

 今はこうして、なし崩し的に三人同室になってしまっているし、それ以前にサラとの関係はもはや、別邸内では公然の秘密くらいになっているだろう。

 

 すると、やはり俺はサラを選ぶのだろうか?

 サラのことは好きだ。

 キャラクター性だとかビジュアルが好みだとかそう言う問題ではない。

 こちらの世界で目覚めてからもう五年近くだろうか? その間一日たりとも彼女と共に過ごさなかった日はないし、一度たりともサラに対して負の感情を抱いたことはない。

 偶に「おいおいサラちゃん……」と思うことはあっても、それを込みで俺はサラを好いている。

 この世界で誰よりも深い関係にあるし、サラのために命を賭けろと言われたら賭けられる程度には、彼女のいない生活は考えられない。

 

 しかし、ならばどうして俺はセレスティアを拒まないのか。

 俺は誰よりハーレムがバッドエンドに直結することを知っているはずだ。

 そこまでサラを愛しているのならば、他の異性は拒むべきだったのだ。

 

 しかしながら、俺はそれをしていない。

 なぜ? と聞かれたらそれはセレスティアにも惹かれてしまっているからに他ならないだろう。

 さすがは作中最高の美貌を謳われるだけのことはある。

 そんな彼女に好意を向けられて意識するなという方が無理な話しである。

 それに彼女の性格がいい意味で予想外だったのも、正直好印象だった。

 原作で言われていた通りの氷の令嬢だったりと、冷たい性格だったのなら、ここまで惹かれることはなかっただろう。

 

「はぁぁ……」

 

 さらに大きなため息が口を吐く。

 だめだ、分からん。

 いくつもの分岐がこの世界にあったとして、その世界では必ず誰かを選んでいたとすれば、俺はきっと六割はサラを三割はセレスティアを、そしてもう一割は別の誰かを選んでいるだろう。

 もう一割をクインだと仮定すれば、もしかしたらもう少し変わるかもしれない。

 だが、そんな風に考えてしまうほど、俺の胸中は混沌に満ちていた。

 

 貴族として考えれば俺にふさわしい相手はセレスティア一択だ。

 優良侯爵家として、帝国に忠義の厚い二家の婚姻は一部の反皇室派以外からは歓迎されることだろう。

 

 しかし、皇帝の視点から見れば、俺に最もふさわしいのはサラになる。

 サラは皇帝の腹心であるエバンス家の出身だ。

 爵位も伯爵家と、釣り合いとしては十分であり、加えて俺を下に付けることが出来る。

 

 一方でアゼクオン侯爵家単体で見るならば、条件としてはクインもかなり上位に食い込む相手となる。

 彼女は領地を持たない男爵家であり、かと言って金がないかと言えばそんなことはない。

 もはや、所持財産だけで見れば子爵家よりも持っていたっておかしくない。

 それに加えて、成り上がりの男爵家ということで家によるしがらみがなく、また、スペーディア男爵家には元剣聖のレドがいる。

 

 俺の感情を抜きにしても、この中から一人を選ぶというのはかなりの難題である。

 

 ……ダメだ、どう考えてもはっきりとした正解なんてものはない。

 

「ファレス様? 随分と長時間ですが、ご体調が優れませんか?」

 

 なんてうだうだと考え事をしていると、かなりの時間が過ぎていたようで、浴室のドア越しにサラが呼びかけて来た。

 

「いや、大丈夫だ。もう出るから、部屋で待っていてくれ」

 

「かしこまりました。ですが、ご体調が悪ければ必ず、すぐにお伝えください」

 

 先日、俺の呼吸が止まる一件があってから、サラの心配性がより強まってしまった気がする。

 まあ、あれに関しては俺もよくわからないので、心配してもらえるのはありがたいのだが。

 

「ああ、分かっている」

 

 俺はそう答えると、脱衣所からサラの気配が消えるのを待って浴室を出た。

 風魔法の応用でサッと全身を乾かすと、いつの間にか用意されていた寝巻に着替える。

 

 結局、あれこれと考えても答えは出なかった。

 もうこればかりはなるようになれとしか言いようがない。

 

 俺は意を決して脱衣所を出た。

 

「こんな格好の淑女二人を待たせるだなんて。ファレス様は悪い方ですわ」

「私はファレス様のためならばいくらでもお待ちできます」

 

 戻った先で俺を出迎えてくれるのは、相変わらずのネグリジェ姿な二人。

 

「いや、悪かったな。少し、いや大分考え事をしていた。……さて、では改めてこの状況について、説明してもらおうか」

 

 もう、まどろっこしいことはやめだと俺はその大きすぎるベッドの方へ腰かけて、二人を呼びながらそう言った。

 

「……!」

「はい」

 

 セレスティアは緊張で肩を跳ねさせながら拳二つ分ほどの距離を開けて座り、サラは堂々と肌の触れ合う距離で俺の横へ腰かける。

 そうして俺を挟んだ二人は顔を見合わせると、軽く頷いた。

 

「ファレス様。帝国の法で重婚が禁止されていることはご存知でしょうか?」

 

 まず口を開いたのはサラだった。

 

「ああ、知っている」

 

 サラが言ってきたのは、いわゆるハーレム厳禁を示す法の存在について。

 正確に知っていたわけではないが、まあ予想通りであるため俺は頷く。

 

「では、この法に例外が存在していることもご存知でしょうか?」

 

 次は反対のセレスティアが説明を変わる。

 

「例外? それは知らないな」

 

 それについては流石に知識がない。

 というか、重婚の法律に例外なんてあっていいのか?

 

 俺が知らないと答えると二人はもう一度顔を見合わせて、今度は二人して俺の手を握って来た。

 

「私たちも先ほどカメリナ様から聞いたばかりですが、その例外とは――皇帝です」

 

 最後で二人の声が揃う。

 ……ほう? 皇帝ならば重婚の制約に縛られないと?

 いや、確かに皇帝は最高位の存在だ。

 法の上に存在しているのだから、確かにその理屈は理解できるが……。

 

「それと、この状況に何の関連性が……」

 

 すべて言いかけて、気付く。

 突拍子のない話し過ぎる。

 ただ、手を握りこちらを見つめる二人の顔を見れば、その気付きが正解だということはこれ以上なく理解できてしまった。

 

「俺に……皇帝になれと?」

 

 物心がついたばかりの子供ですら無理だと鼻で笑うであろう一節を俺は本気で口に出した。

 

「はい。私は昔からファレス様こそ頂点にふさわしいと、ずっと考えていました」

 

 サラがまっすぐに俺を見つめてそう言う。

 そう言えば、確かに昔、そんなことを聞いたような気がする。

 

「ファレス様ならば……皇帝程度、簡単に慣れるのではなくて? と言った方がその気になるのでしょうか?」

 

 逆側からセレスティアが煽るような口調で言ってくる。

 なるほど……皇帝程度、か。

 

「くっ! ははははっ! そうだな。その通りだ。」

 

 俺は何をくよくよ悩んでいたのだろうか?

 こんなものいつも通りではないか。

 

 俺は誰だ――そう、俺は『傲慢』ファレス・アゼクオン。

 この俺に不可能などなく、法程度が俺を縛っていいはずがない。

 

「良いだろう。サラ、セレスティア。俺は決めたぞ」

 

 二人の肩を抱き、そのままベッドへ仰向けに倒れ込む。

 そしてベッドの天蓋へ向けて手を伸ばし宣言する。

 

「俺は皇帝となり、お前たちを手に入れる」

 

「「はい」」

 

 二人の声が揃う。

 正直、内側にいる冷静な自分は「馬鹿なことを」と言っていた。

 しかし、うだうだと頭を悩ませるより、今の方が分かりやすくてすっきりしている。

 もしかしたらこれこそが母さんの狙いだったりするのだろうか?

 ……いや、今はどうでもいいことだ。

 なんにせよ皇帝になるのならば、グランダル家の問題など早々に片を付けなくては。

 

 こうして新たな決意の元、ファルシアン家での夜は更けていった。

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