The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百十二話 ネクシア聖教国の聖者⑭

「今頃向こうではお話が通っている頃かしら?」

 

 主無き部屋で、それでもいつでも主が帰って来られるようにと、完璧に整えられたベッドに腰かけたスジェンナが呟いた。

 

 ファレスの想像、すべてが母スジェンナの計画である、という点は間違っていない。

 しかし、彼はまだ分かっていなかった。

 

「私の……私たちのファレスちゃんにちょっかいをかけようだなんて……徹底的に教えてあげなくちゃならないみたいね」

 

「……」

 

 スジェンナの言葉に同じく息子の部屋で彼の椅子に腰かけたクロフォードが軽く頷く。

 

 ファレスが理解していなかった唯一のこと、それは両親より向けられる愛の大きさである。

 

「そもそも、皇帝の名代を賜っているファレスちゃんを差し置いて、帝位簒奪を目論むなんてグランダル家は何を考えているのかしら?」

 

「……目的しか、見えていないのだろうな」

 

「はぁ……どうしてそんなことになっているのかしら? ……まあ、いいわ。ねぇあなた、それよりファレスちゃんの結婚式はいつになるのかしら?」

 

「……」

 

 良い未来しか見えていない自分の妻を見て、いつも通り黙り込むクロフォード。

 

「アゼクオンから王都まで凱旋披露宴なんてどう? あぁ! 楽しみだわ! ちょっと寂しくもあるけど……」

 

 しかし母の愛とは……時にそれは何よりも強大なものになるのである。

 

 ◇◇◇

 

 ハーレムというものは気苦労が多そうだ、なんて漠然と思うことはあったが、とりあえず三人で並んでいるこの現状は悪くない気分である。

 左右のどちらを見ても眼福だなんて状況では、気苦労を感じる暇がないと言えばその通りなのだが、正直少し意外だった。

 特にサラなんかはいつも通り『嫉妬』を炸裂させて、俺が諫めてのやり取りになると思っていたのだが、存外この状況を楽しそうにしているようにも見えた。

 

「……そう言えばサラは俺についてばかりで同年代の友人っていなかったもんな」

 

 仰向けの姿勢のまま視線だけを左側で眠るサラの方に向けながら呟く。

 

 俺は家柄、才能、成績において学園でもトップクラスに目立っている。

 そのおかげか色々と好奇の視線を向けられることが多い。

 男子諸君からは嫉妬や怨嗟の籠った視線が大半だが、ご令嬢たちからはかなり色々な視線が向けられている気がしている。

 しかし、そんなご令嬢たちが俺に対して何もアクションを起こせないのは、常にサラが俺の隣にいるからだ。

 

 多分……いや、恐らくほぼ九割はサラの私欲による行動だとは思うのだが、残りの一割ではそう言う面倒な視線から俺を守ってくれていたのだと思う。

 だが、唯一、セレスティアだけはそんなサラのことを気にせずに俺へと接近してきた。

 それどころか、生来の付き合いである俺とサラの関係に対抗し、あろうことかサラの反対側のポジションに入り込み、そしてそれをあっさり手に入れた。

 

 よく言い争いをしているこの二人だが、きっとお互いに認め合っている節もあるのだろうと思う。

 今回の件はそれを如実に感じさせられた。

 綺麗な寝顔をこうして並んで晒してくれるようになるとは、あまり考えていなかったが……。

 

「……俺も寝るか」

 

 流石に他家ということで、この状況でもどちらの手以外には全く触れていないという、健全な十五歳としてはかなり苦しい状況に目を瞑ると同時に俺は実際に目を閉じた。

 

 祖父と魔物掃滅をしたおかげか、目を閉じれば心地の良い疲労感がすぐに俺を睡魔へと誘った。

 

 

「ここは――」

 

 そして気が付けば、そこはつい先日、俺が魔力の深奥と表現した場所だった。

 慣れ親しんだ『傲慢』の魔力に満たされたそこに、以前よりも明確にまたあの異質な魔力がある。

 紫色で球体の形をした、知らない魔力。

 普通の赤に青を足した紫というより、赤に黒を混ぜたかのようなそれは、静かに、だが確かな存在感を放っている。

 

「お前は、なんなんだ?」

 

 前回サラに泣かれてしまったこともあり、この場所からは早く戻りたかったが、やはり自身の中に知らない魔力があるというこの状況を気にせずにいられるほど、俺は自分に無頓着ではなかった。

 

 それに、どうしようもなくその魔力に惹き付けられる俺がいた。

 ……あの日を再現するかのように俺はその球体へ手を伸ばす。

 すると――

 

 まるで俺に触れられるのを待っていたかのように、指先が触れた途端にその魔力の球体が破裂し、『傲慢』の中にその魔力が広がっていく。

 どんな色にも変わる『傲慢』だが、その魔力とは混ざり合おうとしない。

 しかし、どうにも相性が悪いとかそう言う感じではないらしい。

 

 そんなことを考えている間にも、この魔力の深奥とも言える場所にこの紫色の魔力が広がっていき……俺の『傲慢』にも引けを取らないだけの質量を伴って、俺の中に定着した。

 

「この魔力……もしかして……」

 

 改めて定着を認識すると、無意識に身体が魔法の効能を感じていく。

 この魔力は間違いない。

 ……大罪魔法だ。

 

 だが……なんだこの能力は?

 

 空、とでも言うのだろうか。

 魔法とはそもそも覚醒すれば、無意識的に扱えるものだ。

『マーチス・クロニクル』上の訓練は技術を磨くもので、他のゲームのようにレベルが上がって上位魔法を覚えるということはない。

 だからこそ、能力が空っぽなんてことは有り得ないのだが……いや、一度に扱える魔力量はおそらく増えたはずだから、そう言う魔法なのか?

 

 ……だが、魔力の雰囲気というか感覚は間違いなく大罪魔法のもの。

 何がどうなっている?

 

 俺は確認のために無理やり意識を覚醒させ起き上がる。

 まだ二人は眠っており、どうやら今回は誰にも心配はかけなかったみたいだ。

 

 ただ今はそれより……この正体不明の大罪魔法の確認がしたい。

 

 俺は二人を起こさないようにベッドを出ると、外套だけを羽織って部屋の外に抜け出した。

 

 既に深夜を通り越して明け方へと向かっている時間帯、この時間ともなれば流石に起きている人はおらず、すんなりと屋敷の外まで出ることが出来た。

 

「さて、お前の正体を教えてもらおうか」

 

 感覚で分かる、俺の中にあった正体不明のあの魔力は未だ確認できていない大罪魔法のどれかだ。

 どれも詳細な能力は知らないが、ただの空っぽなんてことはないはずだ。

 

『憤怒』、『色欲』、『暴食』さぁ、いったい俺の中にあったのはどれなんだ?

 

 俺は若干の期待に胸を躍らせながら、『傲慢』とはまた別の魔力、先ほど自身の中に定着したばかりの魔法を発動させる。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 しかし、特に何が起こるでもなく、確かに魔法は発動しているもののそれだけ。

 始めと終わりしかプログラムされていない直通の回路でも動かしたような虚無感だけが残った。

 

「……なんなんだよ、これ」

 

 あまりに理解のできない状況に思わず膝を付きそうになるも、何とかこらえて膝に手をつく。

 何か条件が必要な魔法なのか?

 

 例えば『憤怒』、名前的に怒っている時にしか能力が発動しないとか?

 ……いや、大罪魔法は確かに感情に基づいて発現するが、性能やそれ自体に感情が関わっているわけではない。

 俺だって謙虚にしたまま『傲慢』を発動することは出来るからな。

 

 ……じゃあ、ほんとに一体何なんだよ。

 

 正直、この世界の大罪魔法には分かっていない部分もある。

 そもそも本来は水と風の複合属性である氷属性に覚醒するはずだったサラが『嫉妬』を覚醒しているのだ。

 クゾームは原作通り『怠惰』を持っていたものの、もしかしたら大罪魔法の何かが大きく変わっているのかもしれない。

 

 これなら生前ファレスルート以外もしっかりとプレイしておくべきだった。

 いや、現状が既にオリジナルルート過ぎてあまり関係ないか。

 

 考察をしながら色々な発動方法を確かめて見たが、やはりこの新しい大罪魔法は何も起こさず、『傲慢』と掛け合わせて使用してみても、目立った変化は見受けられなかった。

 

「規模の大きな魔法も試してみたいところだが……流石に明け方に他領でやるのは迷惑過ぎるな」

 

 仕方ない。

 今日のところはこのくらいにしておこう。

 

 とりあえず今日のところはこの正体不明な大罪魔法についての確認を諦めて、部屋に戻ろうと振り返ると――

 

 なぜかそこにはしたり顔の祖父が立っていた。

 

「……スレイドお祖父様?」

 

 内心の驚きを何とか消化して、平静を装い声を掛ける。

 

「さすがは儂の孫だ。ほれファレス、今の魔法で一発殴ってみろ」

 

 だが、そんな俺のことは気にした様子もなく、それどころかどこか楽し気な笑みを浮かべてここを殴れと手のひらを向けてくる。

 

「お祖父様、あの魔法は……」

 

「良いからやってみろ」

 

 何かを確信した様子で俺を急かす祖父。

 というか、なんでこの人は俺が新しく大罪魔法が使えるようになったことを知っているんだ?

 それにどうにも俺以上に詳しい様子だし……。

 

 とは言え、俺も気になっているのは事実。

 

「……分かりました」

 

 相変わらず右手を開いてこちらに向けている祖父に返事をすると、俺は今一度あの虚無感しかない魔法を発動する。

 

「では、行きます」

 

「うむ!」

 

 少し離れた位置から左足を一歩踏み込み、かなりの力を込めて拳を撃つ。

 魔法披露宴の際に『傲慢』と祖父の『忠義』をぶつけ合わせたときは子供だったこともあるが、簡単に受け止められてしまった。

 しかし、今回は違った。

 

「……!」

 

 祖父の顔が僅かに歪む。

 

「どうでしょうか?」

 

 だが、相変わらずびくともしない祖父を前に俺は姿勢を正し、講評を求めた。

 

「ふっ! はっはっは! さすがは儂の孫だ!!」

 

 すると突然祖父が時間も気にせずに高笑いをし出す。

 まるでずっと探していた何かを自力で見つけ出したときのような、そんな高笑いだった。

 

「お祖父様?」

 

「ファレス、今の魔法はお前の『あの』魔法とは別の魔法だな?」

 

「はい。先ほど夢……と言うか、睡眠中に急に扱えるようになりまして」

 

「ほう……睡眠中とは流石としか言いようがないな」

 

 祖父は自分のことのように嬉しそうな顔をしながら言う。

 

「ですが……俺にはこの魔法が何なのか皆目見当もつかず……」

 

「まあ、今はまだ、そうなのかもしれんな。だが、少なくともお前の拳は重くなっていた」

 

「え?」

 

「今の魔法にはどうやら、儂の魔法と似たような肉体を強化する能力があるみたいだな」

 

「――!」

 

 肉体を強化する魔法……バフ系の力ということか?

 なるほど、それならば確かにさっきまでの体外へ放出するような扱い方では上手くいかないわけだ。

 そんな風に俺が納得している合間にも祖父は言葉を続ける。

 

「お前の元の力(傲慢)が周囲を屈服させる力だとするならば、今のその力は求めるものを確実に得るための力だ。……それに」

 

 一度言葉を区切り、祖父の大きな手が頭にポンと置かれた。

 

「どうやらその力……まだ先があるな」

 

「先がある……とは?」

 

「ふっ! そこからはお前の領分だファレスよ。さて、そろそろ戻った方が良さそうだぞ? 確かあのエバンスのサラ嬢は朝が早いのだろう? もし、起きたときにお前が隣にいないとなれば……」

 

「それは……まずいことになりそうです」

 

「ああ、まだ時間はある。ゆっくりと休め」

 

「はい」

 

 こうして、急に現れたスレイドお祖父様による講義は終わった。

 ……母さんにしろ、お祖父様にしろ、一体何が見えているのだろうか?

 しかし、お祖父様のおかげでこの魔法の概要が掴めたのは良かった。

 

 その後俺は気配を消し、足音を殺して部屋に戻り、何とかサラたちにバレずにベッドに戻ることに成功するのだった。

 なお、布団をかぶると同時に、熟睡しているはずのサラがもう逃がさないとばかりに腕を抱きしめて来たのは不思議である。

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