The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百十四話 ネクシア聖教国の聖者⑯

「あなた……いったい今のは何なのよ? 鋭さも速さも、もちろん威力も、さっきまでとはまるで違ったのだけど」

 

 ガルドールはそう言いながら、全身に魔力を纏う。

 すると、彼の身体に俺がつけたはずの傷跡が見る見るうちに回復していく。

 ……あれが聖魔法、か。

 

「少し、新たな魔法を試しただけだ。……それより、それがお前の聖魔法か」

 

「ええ、そうよ。これでもアタシ、聖者って呼ばれるくらいにはすごい神官なのよ」

 

「知っている。だからこそ、お前の力を借りたいと思ったのだ」

 

 ……まさかオネエさんだとは思わなかったけどな。

 

「そう言えばそうだったわね。……ごめんなさいね取り乱して」

 

「いや、構わない。話が早くなった。詳しい話をしてもいいか?」

 

「ええ、アタシ、こう見えて約束は守る方なのよ」

 

 ……確かにその見た目だけ見れば契約とかにはめちゃめちゃ厳しそうですよね。

 今月の分、きっちり利子付けて返しな! とか言ってそう。

 なんて、月並みな感想はともかく……俺は粉砕されたテーブルの下で何とか無事だった椅子に腰を掛ける。

 

「お前は蘇生の魔法が使えるというのは間違いないか?」

 

 そして改めて話を切り出した。

 

「蘇生……まぁ、そうね。使えるわよ」

 

 なんだ? ……煮え切らない反応だな。

 だが、とりあえず使えるということは間違いなさそうだ。

 

「俺はグランダル家を徹底的に潰す。そのためにお前の魔法で蘇らせて欲しい人間がいる」

 

「……そう言うこと。いいわ。でも、その前に一つ、あなたに言っておくことがあるわ」

 

 真剣な顔でこちらを見るガルドール。

 

「なんだ?」

 

「蘇生の魔法はね、そんなに便利な物じゃないわ。アタシは神官、神の使いみたいな立ち位置なのは分かるわよね?」

 

「ああ」

 

「そんなアタシが神サマのところへ行った人を蘇らせるわけだから、亡くなってからあまり時間が経っていると流石に見逃してもらえないのよ。それに……時間が経っていなくても完全に蘇らせられるとは限らないわ」

 

「完全ではない? それはどういうことだ?」

 

 蘇生魔法の時間制限については何となく理解した。

 おそらく魔力的な問題なのだろうが、神官としてはあのような認識をしているのだろう。

 今回はすぐに氷漬けにしたため問題はないはずだ。

 しかし、完全に蘇らせられるとは限らないとは一体?

 身体の一部がゾンビ化でもするのか?

 

「生物には五感ってあるでしょ? 蘇生魔法で蘇らせてもその一部、酷い時は全てが失われちゃうこともあるの。もちろん、あなたには協力する。その約束は守るわ。でも、神官として、いや、アタシ個人としてでも良い。今後、この力を頼りに何かをするのは止めて欲しいの」

 

 ガルドールはそう言って深々と頭を下げた。

 ……なんだ? レドの話では教義もクソもないような言われようだったのに随分と慈悲深いというか、思いやりに溢れた人間ではないか。

 どこか哀愁さえ感じるその雰囲気からは彼の本気が伝わってくる。

 

「良いだろう。ガルドール、お前の神官としての信念は理解した。決して便利な魔法として蘇生の力を扱わないことを約束しよう」

 

「……ありがとう」

 

 何か事情があるのだろうか?

 まあ、そこまで深入りするのは野暮だろう。

 とりあえず今はガルドールの協力が取り付けられただけで満足だ。

 

「では、これから俺たちについてきてくれるか? 今はファルシアン家の厄介になっている。祖父が事情を知っているから、お前も受け入れてもらえるはずだ」

 

「あら、こんなアタシを自陣に招き入れるなんてあなたも中々豪胆ね? でも、ごめんなさい。蘇生の魔法を使うには三日ほどネクシア様の下で身を清めて祈りを捧げなくちゃならないのよ……」

 

 そう言いながらガルドールはボロボロになった神殿内を見渡す。

 

「……この様子じゃ、四日くらいかかるかも」

 

 確かに神殿内には、俺とガルドールの戦闘の痕跡がこれでもかと刻み付けられ、とてもじゃないが神に祈りを捧げ、身を清められるような状態ではなくなっている。

 

「……状況的に仕方なかったとはいえ、それについては俺にも責任がある。手伝おう」

 

「あら? お貴族様なのにこんな仕事を手伝ってくれるの?」

 

「ふっ、何を言っている。無論俺がやるのではない。俺のメイドはことこの手の仕事について、右に出る者がいないんだ」

 

 何のことだ? と首をかしげるガルドールを置いて俺は通信玉を通じてセレスティアに声を掛ける。

 

「(セレスティア、聞こえているか?)」

 

「(ファレス様! その……大丈夫でしたか?)」

 

 セレスティアはどこか不安げな声で、触れたくないものに、それでも気にせずにはいられないとでもいうかのように聞いてくる。

 

「(? ああ、問題ない。協力は取り付けた。だが、色々と散らかってしまってな。片付けにサラの手を借りたいのだが……)」

 

「散らかっ……! それに片付けが必要!? そんなっ!?」

 

 何を勘違いしたのか悲鳴のような声を上げるセレスティア。

 それと同時に何かが凄まじい速度でこちらに向かっている気配がする。

 

「(セレスティア?)」

 

 俺がそう声を掛けるも、反応が返って来るより先に神殿に別の声が響いた。

 

「ファレス様っ!!!!」

 

 サラである。

 血相を変えたサラが鬼気迫る表情で神殿内に飛び込んできた。

 

「あら、その子が?」

 

「ああ、俺の片腕にして最高のメイド、サラだ」

 

「離れなさいっ!」

 

 俺は親し気にガルドールにサラを紹介したのだが、何故かサラは警戒心をむき出しにしてガルドールに威嚇している。

 

「あらあら、なんだかとても愉快な勘違いをされているみたいね」

 

 それを見て、ガルドールは理由を察したのか一人でくすくすと笑っている。

 ……一体何を察したのだろう?

 

「ファレス様、ご無事ですかっ!?」

 

 なぜかサラに体の隅々までを確認される。

 

「ああ、ガルドールは中々の使い手だったぞ。まあ、俺が勝ったけどな」

 

「そ、それはもちろん、なのですが……」

 

 サラの目が哀しげなものに変わっていく。

 なんだ? 一体、サラはどうしてこんな目をしている?

 俺は未だにサラの心情を理解できず、なんとか頭を全力で働かせる。

 

「ウフフッ、メイドちゃん。そう心配する必要はないわ。アタシとファレスはただ剣を交えただけよ。ああ、勘違いしないで。もちろん、武器の剣ね? ほら、そこに転がっている刃を見なさい。あれ、ファレスが私の剣を斬ったのよ」

 

 ガルドールの指さす先を見れば、そこには先ほど俺が切断したガルドールの剣の刃上部が転がっていた。

 ……待て。剣を交える……勘違い……っ! まさかっ!

 

「サラ、まさかとは思うが……」

 

 俺は初めて少し怒りの籠った視線でサラを睨む。

 

「も、申し訳ございませんっ!」

 

 こうして何とかサラの誤解は解け、サラの超メイド技術によってガルドールが一日かかると想定した神殿の片付けは三十分もしないうちに済まされたのだった。

 

 ◇◇◇

 

「はっはっは! それはまた、愉快な勘違いをされたものだなファレスよ!」

 

「お祖父様……」

 

「申し訳ございません……」

「私もとんでもない勘違いを……」

 

 馬車に戻った俺たちはガルドールの協力を取り付けた旨を祖父に報告していたのだが、その成功以上にサラとセレスティアによる勘違いに大笑いされていた。

 

「だが、あの警戒心の強い男にすぐに信用されるとは、流石は儂の孫だな」

 

「想像以上に信心深い男でしたから、正面から向き合えばなんてことはありませんでしたよ」

 

「はっはっは! まあ、そうだな。だが、奴はあの見た目に口調だからな。中々そう正面から話をし、聞いてくれる相手には恵まれなかったのだ。人を見た目で判断するな、なんて、貴族として生きていれば誰しも言われたことがあることだろうが、実際に実行できる者は少ない。嬢ちゃんたちが良い例だな」

 

「……返す言葉も」

「ございませんわ……」

 

 サラとセレスティアが身を小さくして縮こまる。

 ……いや、まあ、傍目から見れば確かにそうかもしれないが、俺にはオネエさんと言う存在の知識があったからな。

 実際にそう言った人物と関わっていたと言うような記憶があるわけではないが、知識があるだけでも、初めて見るサラたちよりは簡単に対応できただろう。

 しかし、そんなことは祖父たちに分かるわけもない。

 そうして祖父は隣に座る俺の方を見て、言った。

 

「ファレス……お前は上に行け。領主ではない。王だ。お前にはその才と資格、足るだけの器がある」

 

 期せずしてそれは昨晩決意した目標と相違ない物だった。

 

「ええ、もちろんです。ですがお祖父様、俺がなるのは――皇帝です」

 

 だが、俺はその些細な相違を明確に否定する。

 

「ほう……独立ではなく、あくまでこの国にこだわるか。お前が新たな国を興すというならば儂も、ファルシアン家も無論お前の実家、アゼクオンも全力で支援するだろう。エバンスは例外としても嬢ちゃんのカーヴァリアだってつくはずだ。それでも、この国にこだわるのか?」

 

 祖父が少し厳しい顔をして確認してくる。

 だが、ここで怯む俺ではない。

 

「ええ、もちろんです。理由もなく国を割る必要はありません。簡単なことです。俺がすべてを屈服させ、完膚なきまでに俺を認めさせる。それでこそ、本来の皇帝というものでしょう?」

 

 独立、例えば俺がアゼクオンの領主となり、ファルシアン、カーヴァリアと連立して俺を王として擁立する王国を建国することも出来るだろう。

 それでもかなりの規模だ。

 侯爵家二家に辺境伯家、この三家だけでも十分帝国と別れても渡り合えるだろう。

 それに懇意にしている家は独立に乗ってくるかもしれない。

 

 しかし、俺はそれを是としない。

 何せそれは、この国では皇に慣れないから別の場所で王になるという、情けない逃げにしかならないからだ。

 

 この俺に、ファレス・アゼクオンに逃げなんて似合わない。

 

「……はっはっは! そうか、そうだな!」

 

 祖父は高笑いをしながらバシバシと背中を叩く。

 

「では、儂に見せてくれ。新たなこの国の景色を。今の国も悪くないがな。死ぬ前に悪友の負け顔を見るというのも悪くない」

 

 悪友……そう言えば祖父は皇帝と旧知の仲だったな。

 

「ええ――」

 

 皇帝になる……それは言葉では簡単でも想像しえないほどに難しいものだ。

 遊び感覚でなれるようなものではない。

 最悪、今回グランダル家の手にかかったベリル殿下やメーディアさんのような犠牲者が出てしまうことも考えられる。

 

 ただ、覚悟は決まっている。

 

 窓から見える数匹の魔物が同時に馬車へ飛び掛かってくる。

 俺はそれを『傲慢』で再現した様々な魔法によって薙ぎ払った。

 多色が混ざり合ったことによる黒、それが一瞬にして魔物たちを掃討する。

 

「立ちはだかる者は全て薙ぎ払い、必ずその期待に応えて見せましょう」

 

 そして改めて祖父の方を向き直り、そう宣言した。

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