The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百十五話 アゼクオンVSグランダル①

 ガルドールに協力を取り付けてから三日後、夜。

 明日には蘇生魔法のために三日間身を清めたガルドールと合流し王都へ帰るため、今日はいつもより早く寝支度を終えていた。

 

「(お兄ちゃん! 今日もお話の時間だよ!)」

 

 俺が寝支度を整えながらも、寝ずにいたのは無論このためだ。

 俺たちが王都を出てから五日目となり、すっかりこの時間が楽しみになっている様子のサンが嬉しそうに声を弾ませながら話しかけて来る。

 

「(ああ、今日も報告を頼むぞサン)」

 

「(うん! 今日は大変なことがあったんだよ!)」

 

「(ほう? いったい何があった?)」

 

 大変なことがあったという割には楽しげな様子で話しを始めるサンに疑問を抱きながら問う。

 

「(えーっとね、お兄ちゃんのお母さん。だから……スジェンナお母さんが王都に来たよ!)」

 

 ……!?

 母さんが王都に?

 確かに何かで忙しくしているとは言っていたが、特に大事がない場合貴族が王都に顔を出すことは少ない。

 つまり母さんが王都に出てきているというだけで大事が起きていることの証左になる。

 

「(……理由は分かるか?)」

 

「(うん! 分かるよ! 確か、グランダル家及びそれに準じている貴族に対しての反対を唱えている……だったかな? お姉ちゃんがそう言ってた!)」

 

 ……なるほど?

 これまでもサンから報告は受けていたが、確かに王都では一歩間違えば皇室への反逆罪にも捉えられるような行動、発言が何故か黙認されていた。

 それが俺たちが帰還しだすタイミングに合わせて、よりにもよって母さんが先導して対立を煽っている、と。

 

 これは……最初から全部母さんの手のひらの上ってわけか。

 俺たちが帰るまで、行きのことを考えればあと三日。

 今日、対立煽りを始めたとすれば、俺たちの帰る頃には完璧に機は熟し、一番熱いタイミングになるだろう。

 

 そうしておそらく、引っ込みがつかなくなったグランダル家側から今回の件に対しての裁判が起こされるはずだ。

 ……一体、どこまで読んでいたのだろうか?

 

「(そうか……グランダル家側の対応は? 何かあったか?)」

 

「(うーん? ちょっとお姉ちゃんに聞いてみる!)」

 

「(ああ、頼む)」

 

 サンが席を外している隙にここまでの情報をまとめて思考を整理していく。

 

 母さんのこの動きを見る限り間違いないだろう。

 俺が皇帝になると決めるということまでは完全に読まれている。

 ……おそらく今回の件、カメリナ様や他のファルシアン家の面々もグルだろう。

 そのうえで礎になる盤面を整えてくれているのだ。

 

 無論、今回の件を見事解決したとしても、それで俺が「はい皇帝!」となるわけではないが、現王太子の起こした不祥事を、皇帝直々に名代と認められている俺が解決する、という構図を大々的に見せつけることが出来る。

 帝政は民の意見が直接反映されるようなレファレンダムではないが、皇帝になる条件として民に認められていることは必須条件であることに間違いはない。

 今回のことは間違いなく俺にプラスに働くはずだ。

 

 ……本当に母さんには頭が上がらないな。

 どこかであっと言わせてみたいものだ。

 

「(お兄ちゃん! 聞いてきたよ!)」

 

 ちょうど思考の整理がひと段落したところでサンが戻って来た。

 

「(クインは何と言っていた?)」

 

「(今日のところはグランダル家側に大きな動きは見られません。ですが、フルタス伯爵家長女アナレさんに近衛騎士以外の誰かが接触したらしいという情報があります。だって!)」

 

 ……アナレさんに?

 あの人は学園が休校になった今も、学園内に用意された部屋で俺の魔法で氷棺に閉じ込められたメーディアさんと一緒にいるはずだ。

 今でもメーディアさんには魔法を使い続けているが、あの夜以降にメーディアさんの身体に何かをしようとした者はいないはず……。

 

「(アナレさんの様子は分かるか?)」

 

「(ううん。そこまでは分からないって)」

 

「(そうか……いや、情報提供助かったぞサン、クイン)」

 

「(うん! 任せて!)」

 

 近衛騎士が会わせたとすれば、今回の一件に直接関係がなく、なおかつアナレさんと親しいと判断された人物だろう。

 少なくともトールスやルーカスが面会しているということはないはずだ。

 ……そこまで気にする必要もないか?

 

「(それで、お兄ちゃんはもうすぐ帰って来るんだよね?)」

 

 何となく引っ掛かりを覚えながらも、サンのその言葉によってこの引っ掛かりは意識の奥に消えていく。

 

「(ああ、予定通りならば明日の朝にはファルシアンを発ち、三日後の早朝には王都に戻る予定だ)」

 

「(そっか! はやく会いたいね!)」

 

 あまりにも純真なサンの言葉。

 ……これは強すぎる。

 

「(……そうだな。だが、まだ数日ある。気を抜かず情報収集、頼むぞ?)」

 

 あまりの可愛さにこちらにサンを召喚して全力で頭を撫でてやりたい衝動に駆られたが何とかこらえて冷静な対応に努めた。

 

「(うん! 私とお姉ちゃんに任せておいて!)」

 

「(ああ、それじゃあ、おやすみなサン、クイン)」

 

「(うん。おやすみなさいお兄ちゃん!)」

 

 

「ファレス様」

 

 俺がサンとの会話を終えると、いつもより真面目な顔をしたセレスティアが話しかけてくる。

 

「どうした?」

 

「ただいま、姉から通信がありまして……なんでもカーヴァリアの神官たちの様子が少し慌ただしいとのことですわ」

 

 俺がサンと定時連絡をしている隙にセレスティアもカーヴァリア領にリカルド兄上と一緒に行っている姉のエルシアさんと連絡を取ってくれていたようだ。

 ただ、神官たちの様子が慌ただしい?

 いったい何が?

 

「理由は分かるか?」

 

「いえ、そこまでは……。ですが、大勢の神官が教会に集っているとのことですわ」

 

 神官たちが一同に集まる……か。

 いくら神官たちとは言え、常に教会にいるわけではない。

 それでは流石に生活できないからな。

 アゼクオンの騎士団にだって、アゼクオン領にある教会から日替わりだか、週替わりだかで神官が派遣され、訓練で怪我を負った騎士の治療に当たったりしていた。

 

 しかし、このセレスティアの言い分を聞く限り、そう言う神官が皆、教会に集まっているということだろう。

 

 ……まさか、ガルドールが身を清めていることと何か関連があるのだろうか?

 特殊な儀式が必要なことから、神官ならば誰かが蘇生魔法を使おうとしていることが分かるとか?

 それとも普段は外に出ないような聖教国側の大物が帝国を訪れようとしているとか?

 

「そうか。情報提供に感謝するとエルシアさんに伝えておいてくれ」

 

 まあ、ここで考えていても答えの分かる話でもない。

 俺は取り留めのない思考を止めて、セレスティアにそう伝えた。

 

「ええ、わかりましたわ。それでサンさんからの報告は……王都の方はどうな状況なのでしょう?」

 

「ああ、それはだな……」

 

 俺が話を聞き終われば今度はセレスティアの方から王都の情報を聞いてきた。

 俺はサンたちから貰った情報を、完璧なタイミングでサラから提供されたハーブティーを呑みながら共有し、今日はいつもより早く眠りについた。

 

 ◇◇◇

 

「チッ……アゼクオンめ! 侯爵家の分際で!」

 

 反皇室を訴え始め、既に一週間が経とうとしていたところで入れられた横槍にトールスは腹を立てていた。

 

「まさかファレスではなく、親が先に介入してくるとは……少し予想外でした」

 

 メーディアの死体回収に失敗して以降、身を隠し、一日の大半の時間をトールスと共に過ごしているルーカスがトールスを諫めながらそう口にする。

 

「……ああ、そうだね。ファレスはあれでも皇帝の名代だ。動くとすれば奴からだと思っていたのだけど……」

 

 ファレスにとっても予想外だったスジェンナの行動は、もちろんトールスたちにとっても予想外だった。

 確かにトールスはグランダル家として、反皇室の声明を発表しているが、あくまで彼は次期当主の身、本家の当主が発言したのではない。

 

 しかし、それに対してアゼクオンは次期当主が何かをする前に当主側が問題に介入してきたのだ。

 

「これは、もう……戦争ですね」

 

 子供同士の問題であれば、学園内の揉め事として処理することも出来ただろう。

 それが貴族に与えられている力でもある。

 しかし、当主格が介入してきたことによって、もう学園内の揉め事として処理することは出来なくなってしまった。

 

「ああ……ただ、アレは皇帝に対してぶつけなければならない。戦争と言ってもアレなしでは、いくら我がグランダルにフルタス、マーデンの戦力を合わせたとて、アゼクオンに対しては良くて五分と言ったところだろうね」

 

「……と、なると――」

 

 ルーカスが顎に手を当てて、少し難しい顔をする。

 

「……裁判だね。皇室を巻き込んで、大衆の面前でその非を認めさせなければならない」

 

 言い淀んだルーカスに変わってトールスがそう口にした。

 

「……ですが皇室を巻き込んだ裁判で皇室を裁くというのはあまりにも不利では?」

 

 トールスの言葉にルーカスが当然の疑問をぶつける。

 これは正しくその通りであり、皇帝という超法規的存在が絡む裁判が正当に行われるということを担保することは誰にもできない。

 しかし、その疑問が来ることは分かっていたと言わんばかりにトールスはにやりと顔を歪めた。

 

「もちろん、対策は考えてある。唯一、皇室でも関係なく公平に裁くことのできる人物。その人さえ連れて来られれば、僕たちの勝ちさ」

 

 そう宣言したトールスの目はギラリと光り、勝ちを確信して疑わない様子だった。

 ただ、それを横で見ていたルーカスはそろそろか、と見切りをつけるような表情をしていた。

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