The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百十六話 アゼクオンVSグランダル②

 翌日明け方、ファルシアン領の屋敷に険しい顔をした厳つい男が訪れた。

 表情もそうだが、何故か全身を黒の外套で覆っており、それでも溢れ出る筋骨隆々な肉体がより妖しさを増している。

 

「……失礼ですが、こんな時間にお一人来られるお客様をお通しするわけには」

 

「ちょっと! スレイドの爺やファレスから話は行ってないの!?」

 

 そんな怪しい男にも徹底されたマニュアル通りに門番の騎士は対応をする。

 そうして、相手が怒って攻撃して来てもいいように身構えていたのだが……彼はその声と喋り方に耳を疑った。

 

「スレイド様からは何も……ファレス様からは誰より信心深い神官が早朝には訪れるだろう、とお聞きしていますが……」

 

 そして、その衝撃から思わず、今朝の来客予定について口を滑らせてしまった。

 

「……あら、ファレスったら。アタシのことそんな風に……ウフフッやっぱりいい男ね」

 

 しかし、その失言は図らずして男の機嫌をよくさせた。

 

「……はい?」

 

「ちょっと、伝わってるじゃない! そのファレスの言っていた誰より信心深い神官はアタシよ。分かる?」

 

「……あなたが神官? いやいや、いくら面白い冗談とはいえ、それでここをお通しするわけにはいきませんよ」

 

「あなたねぇ……はぁ、まあいいわ」

 

 その男は門番の対応に呆れたとでも言うかのように溜息を吐くと、何を思ったかその身に纏っていた黒の外套を一気に脱ぎ去った。

 

「な、何をっ……!」

 

 一瞬、何を見せられるのかと顔を背けかけた門番の目に入ったのは……純白の法衣。

 濁りの一つないその衣の着用が許されるのは、神官の中でも聖者と呼ばれる一握りの存在であることはその門番も知っていた。

 

「これで分かったかしら? アタシがその神官よ! もうっ! せっかく一番はファレスに見せようと思っていたのに」

 

「も、申し訳ございませんっ! すぐに門を開けますっ!」

 

「ま、今のアタシはちょっと機嫌が良いから、許してあげるわ」

 

 ……誰より信心深い神官か。

 まさかこのアタシが、誰かにそんなことを言われる日が来るなんてね。

 でも、悪くないわ。

 

 純白の法衣を身に着けた聖者ガルドールは気分よくファルシアン辺境伯家の門をくぐるのだった。

 

 ◇◇◇

 

 早朝、ファルシアン邸前。

 

「さて、行くのだなファレスよ」

 

 明け方に屋敷を訪れたガルドールを加え、サラとセレスティアと共に屋敷の門へ向き直る。

 祖父やカメリナ様、グスタフ様が勢ぞろいして見送りをしてくれる。

 

「はい。この度はお世話になりました」

 

 改まってファルシアン家のそれぞれに向けてお礼をする。

 

「なに、お前は家族だ。礼など不要よ」

 

 すると祖父が一歩こちらに歩み寄り、肩に手を置いて言う。

 

「そうだぜファレス、今回は仕事に追われて全然相手をしてやれなかったが、今度は俺とも討伐に行こうぜ」

 

 今回は忙しそうにしていたグスタフ様も続いて、反対側の肩に手を置いた。

 

「お二人もまた、お話ししましょうね」

 

 カメリナ様は俺の方に一礼すると、サラとセレスティアを優しく抱き寄せる。

 

「……ありがとうございます。それでは行ってきます」

 

 俺がそう言うと祖父とグスタフ様は肩に手を置いたまま少し横にずれて真ん中を開けると、手を背中へ移動させて俺の背中を押した。

 

「好きにやって来いファレス」

「ああ! 先代の言う通りだぜ!」

 

「はい!」

 

 あぁ……なんだか懐かしいな。

 学園に行く前、アゼクオンの実家を出るときもこんな風に送り出してもらった。

 あの時のように感傷があるわけじゃないが、後ろで支えてくれる人、を直に感じることが出来るのはやはり良い物だ。

 

 そんな人たちからの期待に応えるためにも、本気で、好きにやらせてもらおう。

 

「私はいつもお傍に」

「私もですわ」

 

 二人が俺の左右に並んだ。

 言わずとも馴染んでしまったいつも通りの立ち位置。

 

「ああ、頼りにしている」

 

 そう言って正面を見れば、ひとりだけ除け者みたいで詰まらなさそうな顔をしていたガルドールがやっとかとでも言わんばかりにニィと口角を上げた。

 

「それじゃあ、ここからはアタシがお世話になる番かしらね?」

 

「何を言っている。しっかりと働いてもらうぞ」

 

「ウフフッ、分かっているわ」

 

 いつもの並びにガルドールが加わる。

 完璧な布陣がさらに強くなったようなそんな安心感。

 このメンツが揃っていて、負けることなど考えもつかない。

 

 まあ、そもそも俺が勝負ごとにおいて敗北を喫するわけがないのだが。

 

「さぁ、目的はグランダル家及びに反皇室派を唱える阿呆どもだ。無為に帝国を荒らす厄介者どもに鉄槌を下すぞ」

 

 俺の号令に三人が続き、ファルシアン家の面々からは歓声が上がる。

 こうして俺たちはファルシアン領を発ち、王都へと戻るのだった。

 

 ◇◇◇

 

「さて、グランダル家はどんな対応をしてくるかしらね?」

 

 久しぶりに自領を出たスジェンナは意気揚々と呟きながら思考を巡らせる。

 

「と言っても、既にある程度の予測はついているんじゃないですか?」

 

 そんなスジェンナの呟きに親し気に反応する声があった。

 

「あら? そう見えるかしら?」

 

「それだけ自信ありげな表情をされていれば誰にでもわかりますよ」

 

 その声の主の背後にはどれも並々ならぬ価値を持つだろう調度品や魔道具、武器等高価なものが並んでいる。

 スジェンナのいるそこはアゼクオン家に縁のある場所ではなく、少し別の縁のある持ち主の私室だった。

 

「そう言うあなたも、次にグランダル家が取る手段など分かり切っているのではなくて? そうやって魔道具分野の寡占に風穴を開けたのでしょう? ギンカさん?」

 

 スジェンナが振り返る先には微笑を携えたギンカ・スペーディアの姿があった。

 

「どうでしょう? 私は商人ですから。吹く風を読むのに長けているだけです」

 

「ふふっ、今のグランダル家には逆風も吹いていないから分からないとでも言いたいのかしら? まあ、いいわ。あなたはほんの数年でグランダル家に仕掛けるきっかけを作ってくれたのですもの」

 

「きっかけなどなくても問題などありませんでしょうに」

 

「そんなことないわ。自然な流れで正面からグランダル家を叩く土壌を作るのは簡単ではないもの。ファレスちゃんに妙な悪評でもついたら私は自分を許せないわ、だからあなたには本当に感謝しているの」

 

「では、娘の件も?」

 

「ええ、もちろん。まぁ、私たちが何かするまでもないような気がするけれどね。ファレスちゃんはああ見えて一度懐に入れた人にはすっごく優しいんだから」

 

「もちろん、ファレス様のことは疑っていません。それでも保証が欲しくなるのが商人としての性なのですよ」

 

「ふふっ」

「うふふっ」

 

 一方はアゼクオン侯爵家の舵取り役、一方はその一代で貴族にまで成り上がった傑物、そんな二人の女傑が手を結び、着実に舞台は整えられていく。

 

 ◇◇◇

 

「トールス様」

 

 慌ただしく人が動くグランダル別邸で昼前から集まっていたトールスとルーカスの元へ一人の従者がやって来た。

 

「進捗か?」

 

「はい。使者より、例の方のご協力を取り付けたとの報告が」

 

「フッ、ハハハッ! そうか! よくやったぞ」

 

 その報告を聞くなり高笑いをしたトールスは勝利を確信し、顔を歪める。

 

「トールス様、例の方、というのは先日の?」

 

「ああ、そうだよルーカス。この国において皇帝に口を出せる人間は存在しない。ならば国外から呼べばいいだけのことさ。……僕たちには聖ネクシア神の加護がついているんだ」

 

「ネクシア神の加護ということは……まさか」

 

「ああ、ファレスは聖者を連れてくるだとかなんとか言っていたけど、聖者なんて既にこの世にはいないんだよ! でも、聖教国の影響力は馬鹿に出来ないからね。教会の大司教をこちらに引き込んだのさ!」

 

 既にトールスを見限るつもりでいたルーカスはこの発言でトールスへの評価を若干見直した。

 もし、本当に聖者が存在しなかった場合、対外的にほぼ聖教国のトップである大司教を引き込めたというのはかなり大きいアドバンテージになる。

 それにトールスの言う通り、半ば同盟状態にある聖教国のトップならば十分に皇帝へ口を出す権利がある。

 

「流石です、トールス様。……他に整える準備はなにかありますでしょうか?」

 

「そうだね……」

 

 ルーカスの問いに一瞬何かを考えたトールスはパンパンと手を二回叩いた。

 二人しかいないその部屋に乾いた音がこだましたかと思えば、すぐに扉が開き一人の男が入ってくる。

 

「トールス様、彼は?」

 

 その男はルーカスと同い年ほどの外見。

 肉付きは悪いが、身なりはそれなりで恐らく貴族であろうことは一目でわかった。

 しかし、目はうつろでまるで一切の生気が感じられない。

 

「ああ、彼はね、君とは違って僕に完全に従順な部下なんだ」

 

 どこか楽し気に聞こえたその声にトールスの顔を振り返ってみれば、その瞳には一切の感情が籠っていなかった。

 

「トールス、様? いったい……何を?」

 

 ルーカスはその瞳に危険を感じ、一歩、また一歩と後ずさりながら声を絞り出した。

 

「ハハッ、そう怖がらなくてもいいよルーカス。でも、今、裏切られるのは勘弁なんだよね。だからさ、君も彼と同じように従順になってくれれば良いんだ」

 

「……チッ、引き際を誤ったか」

 

 ルーカスは辺りを見回し逃亡経路を探すも、残念ながら入り口には不気味な気配の男によって封じられており、彼にできるのは悪態を吐く程度のことだけだった。

 

「ああ、本当に残念だよルーカス。彼の魔法は便利だけど反応がどうにも悪くなるところが欠点でね……ま、もういいけどさ。じゃ、クゾーム、ルーカスを僕の言いなりにしてくれ」

 

「カシコマリ……マシタ」

 

 クゾームと呼ばれたその男の瞳が妖しげに光る。

 そして――ルーカスの意識は深い海の底へ沈んでいった。

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