The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百十七話 アゼクオンVSグランダル③

 二日間の旅路を終え、王都へ帰還した俺たちを迎えたのは様変わりした様子の王都だった。

 これまでも王都に入る度に喧騒を感じていたが、その比ではない。

 

 普段は政治に興味も示さない民がやれ皇室派だ、反皇室派だ、と分かった気になって、言い争いをしている光景がそこら中で見られる。

 

「あら……王都も野蛮になったものね。アタシの知っている王都の人たちって温厚な感じだったと思うのだけど」

 

「ああ……だが、今だけだろう。皆、皇室が揺れるという初めての事態に驚いているだけだ」

 

 政治が揺れれば人も揺れる。

 人は自身の安全が損なわれそうになると、それを守るために時に狂暴な動物としての本性をあらわにするものだ。

 それ自体は悪いことではない。

 王都の人々に生命力が溢れている証拠なのだから。

 

 ただ……その原因を作ったのが貴族家であり、なにより公爵家であるということが腹立たしかった。

 貴族が貴族であるためにはノブレスオブリージュを忘れることがあってはならないのだ。

 いたずらに王都を荒らし、民の心を揺らすなど貴族の風上にも置けない愚行。

 一刻も早く、この件を片付けなければ。

 

 そんなことを考えていると急に馬車が動きを止めた。

 

「どうした?」

 

「どうやら言い争いが喧嘩騒ぎになってしまっているようです。諫めてまいります」

 

 俺の疑問に素早く窓から外の状況を確認したサラが報告してくる。

 

「いや、待て」

 

 報告してすぐにサラが馬車を降りようとするのを俺は引き留めた。

 

「ファレス様?」

 

「ここは俺が出る」

 

 疑問顔で振り返るサラに俺はそれだけ告げると馬車のドアを開き、平民街に降り立った。

 

「下らぬ争いはやめよ」

 

 剣の鞘で地面を突き、注目をこちらに集めてから声を上げる。

 すると、辺りの視線が一斉に俺に向くのが分かった。

 

「おいおい……あれって」

「あの紋……間違いないアゼクオン家だ」

「ってことはあの方が『煉獄』の?」

 

 そんな声が耳に付く。

 だが、俺はその声を気にせずに争いをしている一団の元へ歩を進めた。

 

「一体、何があって道の中心で揉め事などをしている」

 

 喧嘩を遠巻きに見ていた連中とは違い、俺の言葉も聞こえていないかのように真剣に揉め合う二人の男の視界に入るように鞘に納めたままの剣を二人の間に差し込んでもう一度声を掛けた。

 

「なっ……なんだてめ……え?」

「部外者が突っ込んできてんじゃね……え?」

 

 両者が同じ顔で固まる。

 

「言ってみよ。何を争っているのだ」

 

 俺はそんな二人にダメ押しの質問をした。

 

「あ……え、その……白昼堂々殺人事件を起こすような者が皇太子で良いのかと……」

 

 しどろもどろになりながらも二人はそう答えた。

 

「……政治に関心を持つのは悪いことではない。しかし、何故争う必要がある? 貴族家の当人同士ならば主義主張を通すために争うこともあろう。しかしながら、お前たちが争って何になるというのだ?」

 

 実際のところ争い、もとい暴力的になる理由も政治の揺らぎによるものなのだろうが、そんなことをいちいち説明する必要はない。

 こういう争いは一度冷静になれば落ち着くというものだ。

 

「争うなと言う訳ではない。しかし、方法と場所は弁えよ。ここは確かに平民街お前たちの街だろう。しかし、それ以前にこの国は皇帝の物だ。その直接の臣下である俺たち貴族の道を遮り、首を刎ねられないのは幸運であるということを理解せよ」

 

「……」

 

 既に顔面蒼白な二人は十分頭も冷えたことだろう。

 俺の言葉を聞いても何も言ってこないのがその証拠だ。

 王都に住んでいる平民ならば、貴族を相手に許可なく話してはならないというのは特に厳しくたたき込まれているだろう。

 それが実践できているだけで、落ち着いたことが窺える。

 

「分かったのならばもう行くがよい」

 

 俺はそれだけ伝えると外套を翻して馬車へと戻る。

 背後では、一目散に駆け出していく二人分の足音があった。

 

「正直、驚きましたわ。制圧なされるのかと思いましたが、まさか諭されるとは」

 

 馬車へ戻ると様子を見ていたセレスティアが意外そうな顔をして言ってくる。

 

「なぜ罪もない者に刃を振るう必要がある? 話しで解決するのならばそれに越したことはないだろう」

 

 俺をバイオレンスなキャラにするのは止めていただきたい。

 これまでそう思われるほどに暴力的に振る舞った覚えはないのだが、一体どこからそんな考えが出てくるんだ?

 

「アタシもちょっと驚いたわよ。なんと言うか慈悲深さ……みたいなものがあったわね」

 

「お二人ともまだまだですね。ファレス様は常に私たちの想像の上を行かれる方です。この程度で驚いていては心臓が持ちませんよ」

 

 セレスティアに続いて自分も驚いたというガルドールにサラがマウントを取っているが……これは俺、褒められているってことでいいんだよな?

 行動のいちいちが突拍子もないって言われているわけじゃないよな?

 

「もう馬車が動く、座っておけ」

 

 サラの言葉には敢えて何も言わず、わざわざ馬車の中で立って出迎えてくれたみんなを座らせて俺も元の位置へ戻る。

 

 それにしても……慈悲深いか。

 確かに、以前までの俺ならば、先ほどの二人にはもう少し別の言い方をしていたかもしれない。

 しかし、皇帝を意識し始めた影響だろうか?

 単に上に立つ者ではなく支配する者としての行動を無意識にしていたのかもしれない。

 

 気が早いにもほどがあるな……。

 

 流れる街並みに多くの視線を感じながら、俺はそんなことを思っていた。

 

 ◇◇◇

 

 久しぶりに帰って来た自宅……アゼクオン別邸では予想外の人物が俺たちを待っていた。

 

「戻ったかファレス」

 

「……お久しぶりです。父上」

 

 母さんが全力で出迎えてくれるかと思っていたが、まさかの展開だ。

 

「ファレス様、私たちは先に荷ほどきをして参ります」

 

「ああ」

 

 父の発する如何ともしがたい雰囲気を察したサラがセレスティアとガルドールを連れて部屋の方へ向かって行った。

 

「ファレス、ついて来なさい」

 

「はい」

 

 三人の姿が見えなくなったところで父は口を開いた。

 いつも通りの口下手で意図の読みづらい表情、だが、今は何か伝えたいことがあるのだということが分かる。

 

 先導する父についていくと、現俺の自室であり、元は父の部屋であったであろうその部屋に向かうのではなく、住んでいる俺でも中々立ち寄らないような使用人部屋のさらに一番端の部屋にたどり着いた。

 

「父上……ここは?」

 

 疑問を口にしながら考える。

 原作『マーチス・クロニクル』にはこんな部屋なかったはずだ。

 ファレスルートをやり込んだ俺だ。

 使用人部屋の正確な数こそ覚えていなくとも感覚でズレを感じることは出来る。

 

 そんな俺だからこそ、強く疑問に感じる。

 ここは……なんだ?

 

「……」

 

 無言で扉を開き先に中へと入っていく父上。

 ……どうやら入るまで何も伝えるつもりはないらしい。

 

 どういうつもりなのかは分からないが、父上だからと無警戒でこの部屋に入るのは違う気がする。

 そう言えば前にもアゼクオン領の屋敷で父の部屋に呼ばれたかと思えば、突然殴りかかって来られたことがあったっけ?

 

 ……よし、覚悟は決めた。

 

 俺は意を決してドアノブに手をかけ、一気に引くとその部屋に一歩足を踏み入れた。

 

 瞬間、父が殴りかかってくることも想定して身構えていたが、そんなことはなく想像以上に広い部屋の中心で父は壁にかかるいくつもの肖像画を見上げていた。

 

「こ、れは……?」

 

 その強烈なインパクトに圧倒されかけながら驚愕を声に出すと父が俺の方を見て言う。

 

「ここにある肖像画は歴代のアゼクオン当主の物だ」

 

「これが歴代当主様方……」

 

 俺は並び連なるアゼクオン当主の肖像画を順番に見ていく。

 道理で威圧感の強い人ばかりが並んでいるわけだ。

 皆が皆歴代の当主なのだと言うならばこの覇気にも納得できる。

 

 そう思ってぐるりと一巡を見た後で俺は一つ疑問に思うことがあった。

 

「……どうしてここには父上の肖像画がないのでしょうか?」

 

 凄まじい迫力を放ちながら並ぶ歴代アゼクオン当主の面々の中になぜか父の姿がない。

 

「俺の物がないのは当然だ。ここに肖像画が飾られるのは当主を降りてからだからな」

 

「なるほど……そう言うことですか」

 

 俺はようやくこの部屋に連れてこられた意味を理解した。

 この部屋はその存在自体がアゼクオンの歴史そのもの。

 

 そして、俺がこれからやろうとしていることはそんなアゼクオンの歴史を大きく変えるような大事だ。

 

 父の拳に豪炎が宿る。

 

「ファレス。やりたいことがあるのだろう? ならばその実力を持って、この俺に示してみよ!」

 

 全く、父上は口下手にもほどがあるだろう。

 だが、ここで力を示してこそ、これからを率いる者としての覚悟を示せるというものだ。

 

「分かりました。俺の覚悟を、示して見せます!」

 

 俺も父と同じように拳に炎を宿す。

 

 こうして、ある種の当主継承戦とも言えよう戦いの火蓋が切って落とされた。

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