The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百十九話 アゼクオンVSグランダル⑤

 昼過ぎ、目覚めたことで自室へと移送されてきた俺は、サラとセレスティアによる手厚い看護を受けていた。

 

「ファレス様、お口を開けて頂けるかしら?」

 

 精一杯看病をするために普段より強気に来るセレスティアに、

 

「ファレス様、こちらお着換えです。ご入浴の準備も整っております。それから……」

 

 数日間、ファルシアン領にいたことによって満足にメイドが出来ていなかったサラによる、これでもかと言わんばかりのお世話の応酬。

 

 ありがたい限りではあるのだが、正直なところ魔力欠乏によって一時的に気を失っただけであり、父のようにダメージを受けたわけではないため、ここまで甲斐甲斐しくお世話してもらうのは気が引ける。

 

 しかし、俺の受難はこんなものでは終わらない。

 

 一歩も動かなくとも、欲したタイミングで欲しい物がサラから手渡され、こちらを伺いながら恥ずかしそうにしているセレスティアによって食事を口に運ばれている。

 さすがに何かをしなくてはと、家の中だと言うのに耳を澄ませてみれば、何やら三人分程度の足音がこちらに結構なスピードで近づいてくるのが分かった。

 

「ファレスちゃん!」

「ファレス様!」

「お兄ちゃん!」

 

 無論のこと、俺の元に駆け寄ってくる人物など、この世界線でもかなり限られている。

 勢いよく開け放たれた扉から三者三様な声で俺を呼びながら彼女たちが部屋に飛び込んできた。

 

「母さんもクインもサンもそんなに焦らなくても……」

 

「セレスティアさん、変わるわよ」

「ファレス様、こちら最高品質のタオルです、是非身体を拭かせてください」

「はい、お兄ちゃん! お水!」

 

 俺の静止など、この状態の三人の耳に入るはずもなく、二人でも過剰だったお世話係が一気に五人になってしまった。

 

「ハハ……皆、ありがとう」

 

 とりあえずのところ、俺は乾いた笑いと共にお礼を口にしておいた。

 

 ◇◇◇

 

 気が済むまで俺へ世話を焼いてくれた三人は、その後でここ数日中にあった王都での出来事を色々と語り聞かせてくれた。

 

「それで、今後はどうなると思う?」

 

 少しだけこちらを試すように母さんが聞いてくる。

 

「おそらく数日中に引くに引けなくなったグランダル家によって裁判要求がなされ、それが承認されるかと」

 

 俺は少しの間も置かずにそう答えた。

 現状、グランダル家が優位に立つには世論を味方につけて賛同者を増やすしかない。

 そのためには、裁判という公平な形で自分たちの正当性を示すしかないのだ。

 

「流石ね。ほぼその通りよ。でも、少し違うわ」

 

 満足げに微笑みながら、母さんが俺の答えに付け足す。

 

「裁判要求はすでにされているわ。裁判の日取りは明日正午。これはまだ発表前だけど、あと数時間以内には発表されるはずよ」

 

「……明日、ですか?」

 

「ええ、明日の正午、全国民に解放された公開裁判が王城の近衛騎士の訓練場で行われるわ」

 

 正直それは想定外だ。

 さすがに動きが早すぎる。

 まあ、今更数日猶予が出来た所で大したこともできないため、構わないのだが……予想以上にトールス側、グランダル家も本気で動いているようだ。

 日程通りに帰って来られて良かった。

 

「裁判に立つのは我々アゼクオンとグランダル家という認識で間違いないですか?」

 

「そうね。でも、少し違うわ。あくまで明日のファレスは皇帝の名代として皇室側でベリル殿下の弁護に立つのよ」

 

 まあ、言われてみれば確かにそうでないと不自然だもんな。

 今回の件に俺が正面から首を突っ込んでいるのは、厄介なグランダル家にお灸をすえてやるためだが、その名目としてはやはり皇帝の名代という部分が強い。

 世間的にはアゼクオン対グランダルという構図に見えていても、本来ならば俺が正面から割って入るのは難しいのだ。

 

「そうですね……となると、傍に連れていけるのはせいぜい一人と言ったところでしょうか」

 

「ええ、そうね。さすがにいつもファレスの周りで固めてしまっては『皇帝の名代』としてのあなたより『アゼクオン』のあなたが目立ってしまうもの」

 

 俺と母さんがそう呟くと、傍で聞いていた四人の顔つきが変わる。

 ある者はその隣は絶対に渡さないという顔に、ある者は立場から当然自分がふさわしいという顔に、またある者はよくわからないけどお兄ちゃんと一緒にいたいという顔に。

 ただ、唯一一人だけ、顔つきだけではなくこの会話に割って入った者がいた。

 

「あ、あの! ファレス様! 是非、明日の裁判では私を傍に置いていただけませんでしょうかっ!」

 

 普段は控えめで、積極的にアピールをするというよりは一歩引いた位置から全員を見ているような、一歳年上という立場も相まって他三人よりも理性的なポジションを務めるクインが真っ先に動いていた。

 

 そんな意外な行動に驚いたのは俺だけではなく、サラやセレスティア、生活を共にしているサンまでもが衝撃を受けたとでも言うような顔をする。

 しかし、母さんだけは「よく言いました」とまるで娘を褒めるかのような顔をしていた。

 そして――

 

「私もクインさんが良いと思うわ」

 

 サラたちが何か口を挟む前に、母さんが決定的な一押しをして来た。

 

「あくまで他意はありませんが、母さん。理由をお聞きしても?」

 

 クインを連れていく。

 それ自体に文句はないが、その理由が不透明だ。

 皇帝の名代として裁判の席に立つなら、エバンス家であるサラかカーヴァリア家であるセレスティアを連れていく方が間違いないはず。(……サンは置いておくとして)

 だが、ここでクインを押す理由はなんだ?

 

「ええ、もちろん。でも、それは私が口にすべきではないわね。クインさん」

 

「はい!」

 

 そう考えた俺の質問に母さんは答えず、クインに会話を振った。

 

「その……いつか、ファレス様のお役に立てればと思い、魔道具の鑑定を習得しました!」

 

「……なるほど。どうやら確かにクインが一番ふさわしいようだな」

 

 思わず笑みがこぼれる。

 さすがは原作でもファレスを苦しめる有能人物だ。

 確かにギンカ・スペーディアが秘密裏に魔道具の鑑定士を育成し、グランダル家の魔道具寡占に風穴を開けたという話は聞いていたが、まさかそのうちの一人がクインだとは思わなかった。

 いくら昔から商家の娘として、多少は魔道具に触れる機会があったとしても、学園に通いながら鑑定士としての勉強もしていたとなれば、その苦労は簡単に想像できるものではない。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 今回の裁判、鍵を握るのはメーディアさんの証言ともう一つ。

 あの日、他人の確認の前に俺がベリル殿下の胸辺りから取り外した魔道具『指示宝珠』だ。

 あれがどんなものであるかを証明できる鑑定士が居れば、こちらの弁はさらに補強される。

 

 鑑定士が公認の職種でないことだけが気がかりだが、そこは安心と信頼のスペーディア商会。

 公開裁判で傍聴人に多くの一般人が押し寄せることが想定されるならば、その信憑性は大きく跳ね上がるだろう。

 

「じゃあ、明日はファレスとクインさんの二人が裁判の席に立つ。これでいいわね?」

 

 母さんが主にサラとセレスティアに向けて念押しの確認をする。

 

「……はい」

「……分かり、ましたわ」

 

 不服そうな二人だったが、流石に母さんに言い返すわけにも、言い含めるだけの材料を持ち合わせるわけでもないため、渋々納得していた。

 

「良かったね! お姉ちゃん!」

 

 ただ、サンだけはクインが選ばれたことを自分のことのように喜んでいた。

 

 ◇◇◇

 

 ファレスのことを四人に任せたスジェンナはひっそりと、それでも心配を隠しきれない足取りと表情で、この別邸における自身の部屋へ飛び込んだ。

 

「クロフォードっ!」

 

 外に聞こえないようにゆっくりと扉を閉めてから、ベッドに腰かけているその人物に駆け寄った。

 

「スジェンナ……ファレスとはもういいのか?」

 

 いつも通りの無表情だが、付き合いの長いスジェンナには分かる。

 その奥の思いやりが。

 

「良くはないわ……でも、あなたのことが心配だったのよ」

 

 どこか晴れやかな雰囲気を放つその体躯を包み込むように抱きしめながら言い聞かせる。

 

「俺は問題ない。だが、ファレスは、俺たちの子はすごいぞ」

 

 自身のことには全く気遣う素振りも見せずに珍しく嬉しそうに語るクロフォード。

 

「そんなこと、分かり切っていたことよ。だって、あなたと私の子なんだもの」

 

 そんな感情をあらわに喜ぶクロフォードのことを嬉しく思いながらも、スジェンナは複雑な感情を抱いていた。

 

「ねえ、あなた……本当に、わざわざ戦う必要があったの? そんなダメージを負ってまで……だってあの子はすでに私たちより……」

 

 そして、スジェンナは複雑な感情を内に秘めておくタイプではない。

 思ったことを全てそのまま打ち明けた。

 しかし――

 

「俺は、負けていない」

 

「え?」

 

「確かに、俺の奥の手はファレスによって無力化された。だが、最後に戦場に立っていたのは俺だ。まだ、俺の方が強い」

 

 やはり、親子というものなのだろう。

 クロフォードはスジェンナの言葉を真っ向から否定した。

 

 まるで、負けず嫌いな子どものように、昔のファレスを見ているかのように。

 

「……ふふっ、そうね。じゃあ尚更こんなところで伏せっている暇はないわね」

 

「当然だ。帰り次第、久しぶりに外周の魔物狩りにでも行くとしよう。……スジェンナも、来るか?」

 

「……あらあら! ふふっ! それはいいわね!」

 

「……」

 

 こうして機嫌を良くしたスジェンナとクロフォードはその日の夜までこの部屋から出てこなかったそうな……。

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