The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百二十一話 アゼクオンVSグランダル⑦

「原告、被告両者の言い分には食い違いがあるようですね」

 

 俺たち二人の起訴内容と言い分を聞いて、裁定者であるリヴァーシンズ大司教はそう言うと、今度は俺たちに証拠の提出を求めた。

 

 露骨にトールス贔屓な裁定が行われることも想定していたのだが、さすがにこれだけの民、各貴族、皇室に対する裁判とはいえ無視できるはずもない皇帝の前でそこまでの大立ち回りはしてこないようだった。

 

「では、僕の方から証拠を提出しましょう」

 

 先に動いたのはトールスだった。

 彼が手を叩くと控え室の方からルーカスと、俺が教師役をしていたベリル殿下やリカルド兄上のクラスにいた一人の男子生徒がふらふらと歩み出てきた。

 

「……ファレス様、あの二人……なんだか様子が」

 

 だが、出てきた二人の様子は明らかに普通ではなく、まるで自我を喪失してしまったかのように見て取れる。

 クインにもひと目でわかるほどのそれは、一度体験したことのある俺ならば事前に聞いていた情報と照らし合わせなくともすぐに理由がわかった。

 

「ああ……どうやら、アナレさんの言う通り、本当にグランダル家はノウ家を手中に収めているらしい。あれは間違いなく、クゾームの魔法だ」

 

 授業であのクラスにかけられていた『怠惰』の魔法は完全に打ち消した。だと言うのに、こうして再度『怠惰』がかけられており、あまつさえ初めからトールス側に居たであろうルーカスまでもがその影響下にある……。

 どうやらトールス側の内情はかなりギリギリの状態のようだな。

 

 そんな推測を立てる俺の前に、三年の男子生徒が証言台へ上がり話しを始めた。

 

「あれはあまりに恐ろしい光景でした。その授業の日までの約一週間、殿下は学園をお休みされており、皆が内心に心配し始めた頃のことです」

 

 その男子生徒はおよそ感情というものが感じられない、抑揚の無い声で滔々(とうとう)と当時のことを語っていく。

 

「その日は来る実践演習に向けて、最後の調整をしている所でした。クラスの各々が自分の調整に臨む中、突然訓練室のドアが吹き飛んだかと思えば、そこにはベリル殿下のお姿がありました。そして次の瞬間には何事かと殿下に駆け寄ったホーミカ先生の腹部を貫き、続けて今回の裁判における被害者であるところのメーディアさんを手に掛けたのです」

 

 話者の感情は感じられないと言うのに、周りの感情には訴えかけるようなその話し方は、聴衆をさらにヒートアップさせた。

 

「件の被害者だけでなく、教師にも凶刃が向けられていたとは!」

「そんな人が皇族何て考えられない!」

 

 そんな声が口々に聞こえてくる。

 この場には皇帝もいると言うのに、大したものだ。

 

「静粛に!」

 

 リヴァーシンズ大司教がガベルを打ち鳴らし、聴衆を黙らせる。

 そして――

 

「被告側、今提示された原告側の状況証拠について何か反論はあるか?」

 

 微かな笑みを滲ませながらこちらへそう聞いてきた。

 

 なるほど確かに、今、そこの男子生徒によって提示された状況証拠は完全なる事実。

 その場で目撃していた俺も同様の証言が出来る。

 

「いえ、反論はありません」

 

 反論などできようはずもない。

 

「そうか……では――」

「ですが、そちらの状況証拠ではこちらの言い分に対する反証にはなっていません」

 

 ただそれは反論ができないというだけだ。

 その程度の状況証拠だけではもちろん証拠不十分に決まっている。

 この程度のことで押し切ろうと考えていたのであれば、それは考えが甘すぎる。

 結論を急ごうとしたリヴァーシンズ大司教の言葉を遮りながら、俺はクインの方に目をやった。

 

「クイン、例の魔道具とそれについての資料を」

 

「はいっ!」

 

 ここからは俺たちのターンだ。

 

 証言台から降りる男子生徒に変わって、今度はクインが証言台に上がる。

 そしてリヴァーシンズ大司教の方を向くとクインは深呼吸を一つして話し始めた。

 

「スペーディア男爵家長女、クイン・スペーディアと申します。本日は魔道具の鑑定士としてこの場に立たせていただきます」

 

「……良いだろう。して、その資料は?」

 

「はい、リヴァーシンズ大司教にはまずこちらの資料を確認していただきたく。こちら建国から間もない頃に王城より発刊されました、危険な魔道具の一覧になります」

 

 クインが大司教に手渡した資料は守護の意味で大司教の傍に置かれた近衛騎士によってトールス側にも共有される。

 無論、俺の手元にも同様の資料が用意されている。

 

 その資料には、広く知られる皇帝の錫杖や国宝とされる魔道具が数々並ぶ中、今回の件で俺にもよく見覚えのある魔道具がひとつ、記されていた。

 

「これが何だというのだ?」

 

 大司教のその発言を待っていたと言わんばかりにクインが話し始める。

 

「こちらの資料に記されています『指示宝珠』という魔道具をよくご覧ください」

 

「なっ!?」

 

 大司教より先に声を上げたのは俺の向かい側に座るトールスだった。

 この反応は……トールスはこの一覧の存在を知らなかったのだろうか?

 確かに、魔道具について勉強しようと思わなければあまり触れることの多い資料ではないと思うが……流石に詰めが甘くないか?

 もしかして回収されていないとでも思っていたのか?

 

「……? ずいぶんと禍々しい見た目をしているのだな。して、この魔道具が何だというのだ?」

 

 トールスの方を見て不思議そうな顔をするも、押し黙るトールスに問題ないと判断したのかリヴァーシンズ大司教はクインへの質問を続けた。

 

「はい。この指示宝珠が本件に使用されたのです」

 

 そう言うとクインは慎重に『指示宝珠』を取り出し、ジュエリーケースに乗せると大司教に見せつける。

 

「……これは、確かに資料の物と相違ないように見える。だが、これが被告人に使用されたという証拠はあるのか?」

 

「はい。こちらの爪の部分には間違いなく殿下の血液が付着しています。この魔道具は一度使用した者以外には二度と反応しない代物。殿下がご快復され次第、確認いただくことも機能的には可能です」

 

 クインは淡々と大司教ごしにトールスを解き詰めていく。

 もう、ほぼ勝ちと言っても良い状況なのではないだろうか?

 

 何時の間にか野次もクインの解説に熱中するあまり、この人数では考えられないほどに静かな空間となっている。

 

「……なるほど。そちらの指示宝珠とやら、確かに証拠として認めよう。原告側、何か反論は?」

 

 裁判前、リヴァーシンズ大司教がトールスとアイコンタクトを取っていた割には、どういう訳かかなり公平に見られているな……。

 露骨な嫌がらせやわざとらしい婉曲的な理解による厄介ごとも覚悟していたのだが……。

 

 とは言え、まだ裁判は終わっていない。

 警戒は解かずにトールスの反応を待っていると、しばらく黙って下を向いていたトールスがようやく顔を上げた。

 

「そちらが本当に事件当時の殿下に使用されていたという証拠がまだ不十分かと。それを示していただけなければ、こちらとしては納得するわけにはいきません!」

 

 若干声が震えている。

 だが、それも仕方のないことだろう。

 何せ、トールスが今切った札はいわば諸刃の剣。

 その証明が出来てしまえば、この裁判でトールスに勝ちの目はなくなる。

 しかし、証明できなければここまでのクインの解説を含めて、それっぽく見せるための演技だと思われかねない。

 

 腐っても公爵家次期当主。

 このままずるずると裁判を続けるより、勝負所は弁えているということか。

 

 だが、それこそが俺たちにとっての最大のカードだ。

 悪いとは思わない、お前はここで終わりだ。

 

「なるほど、被告側、証明は可能か?」

 

 リヴァーシンズ大司教の目が俺に向けられる。

 

「無論、可能です」

 

 俺はそう答えると同時に控室で待機させていたガルドールたちに合図を出した。

 間もなくして装飾の全くない完全に純白な法衣を纏った大男とメーディアさんの眠る氷棺の乗った荷台を押すアナレさんが会場に入って来た。

 

「あら……その顔、もしかしてリヴァーシンズ? ラインが一本ってことは大司教になったの!? 出世したわねぇ」

 

 緊張感のない様子でガルドールがリヴァーシンズに話しかける。

 

「な……完全な純白の法衣……まさか、ガルドール……様、なのですか?」

 

 一方で話しかけられたリヴァーシンズ大司教は信じられないとでも言うような様子で自分の目をこすっている。

 

「ええ、久しぶりね。まあ、この場ではあなたが裁定者、立場は気にしないで。さて、ファレス? もう、良いのよね?」

 

「ああ」

 

 俺はガルドールにそう返事をすると――

 

「これより、ベリル殿下へ『指示宝珠』を渡した本人の口から、本件の全容をお話いたしましょう」

 

 主にトールスに向かって微かな笑みを浮かべながら、そう宣言した。

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