The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百二十二話 アゼクオンVSグランダル⑧

 俺の発言によって聴衆が揺れた。

 それはそうだろう。

 何せ今の言葉は実質的な勝利宣言に他ならないからな。

 

 しかし、聴衆の興味はすぐに圧倒的なまでの魔力を解き放つガルドールの方へ向けられる。

 

「大いなる聖神ネクシアよ、慈悲深き聖神ネクシアよ。哀れな御霊に今一度、生命の息吹を与えたまえ!」

 

 膝を付き、天に向かって頭を垂れ祈りを捧げるガルドール。

 彼の前にはメーディアさんの眠る氷棺が置かれ、少し後ろでは身体を小刻みに震えさせながらメーディアさんの姉、アナレさんも指を組み、頭を垂れて祈りを捧げていた。

 

 すると先程、俺による魔法操作が解除され、完全な氷の棺となっていたメーディアさんとその周りの氷が柔らかく暖かな光に包まれる。

 ――そして会場内がその眩くも穏やかな光に完全に包まれた瞬間だった。

 

「あれ……私……」

 

 静謐な会場内にたった一人の声が響く。

 

「メーディアっ!!」

 

 その声に続き、切望の感情に溢れたアナレさんの絶叫が会場にこだました。

 

「ね、姉さん……? どうして、私、死んだはず……」

 

「メーディア! メーディアっ! 良かった、本当に良かった……!」

 

 状況が飲み込め切れていないメーディアさんにアナレさんがこれでもかと抱き着いている。

 なお、ガルドールは未だに首を垂れたまま起き上がろうとしない。

 祈りの儀式のようなものなのだろうか?

 

 ……それにしても蘇生魔法、ここまで強大な力だとは。

 メーディアさんの周りには俺の魔法によって生み出された氷のひとかけらどころか、俺の魔法の影響下にあったその事実そのものが消えてしまっているように感じられる。

 貫かれた心臓の傷だけではなく、その服までもがあの日、殿下に刺される前のメーディアさんのままだ。

 

「……ま、まさか、今の魔法は……蘇生……魔法? 本当に聖者を……?」

 

 トールスが信じられないとでも言いたげな表情でこちらを見てくる。

 

「あぁ……生きているうちに神の奇跡を拝むことが叶うとは……大いなる聖神ネクシアに感謝を! 感謝を!!」

 

 リヴァーシンズ大司教はガルドールの起こした神の奇跡とも呼べる事象に感激し、裁定者の役割を忘れてその場で膝を付き、祈りを捧げていた。

 

 しかし俺はそのどちらにも反応せず、真っすぐにガルドールの元へ向かう。

 するとちょうどガルドールも祈りを捧げ終えたのか、顔を上げた。

 

「ガルドール、見事な魔法だった」

 

「ふふっ、当然……よ。ここまで、してあげたんだから、必ず、勝ちなさいよね」

 

 俺の言葉に振り返ったガルドールの顔は真っ青を通り越して、まるで生気の感じられないほどに真っ白で、しかしそれでも彼の言葉には得も言われぬ力強さがあった。

 

「ふっ、誰にものを言っている? 俺はファレス・アゼクオン。ここまで整えられた場で敗北するなど万に一つもありえん」

 

 俺はガルドールにそう宣言すると、俺たち側の入場口で待機している近衛騎士を呼び、ガルドールに肩を貸させて控室へ戻らせる。

 そしてガルドールをさがらせた後で、俺は未だに状況を飲み込み切れていないメーディアさんの元へ向かった。

 

「メーディア・フルタス」

 

「……ファレス、先生?」

 

 声を掛けた俺を見たメーディアさんから出たのはそんな言葉だった。

 ……そう言えば、ついこの前まではそんな風に呼ばれていることもあったな。

 だが、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。

 

「状況は整っている。人質となっていたお前の姉は解放した。ここは裁判の場だ。……何をすべきか、分かっているな?」

 

 俺が端的に状況を伝えると、メーディアさんは視線の先にトールスやルーカスの姿を捉える。

 そして、完全に状況を理解したという顔で頷いた。

 

「はい……分かりました」

 

 その表情はトールスへ立ち向かう覚悟の色を宿していた。

 

「リヴァーシンズ大司教、こちらが本件にて被害者となったメーディア・フルタスです。彼女に証言の許可を」

 

 俺は自分の席へ戻ると、未だに祈りを捧げ続ける大司教に向かって言った。

 

「ま、待てっ! 本当に……本当に彼女はメーディア・フルタスなのかっ!? おかしな魔法で死体を動かしているだけではないのかっ!?」

 

 しかし、そんな俺の言葉を遮るようにトールスが割り込んでくる。

 だが、そんなトールスの最後の賭けとも言える割り込みは予想外の人物によって両断された。

 

「聖者による神の奇跡に文句を付けようというのかっ!?」

 

 トールスの言葉を両断したのは、先ほどまで祈りを捧げ続けていたリヴァーシンズ大司教だった。

 混じり気のない、真剣な聖職者の顔を(たずさ)えて怒気を見せるその姿は確かに大司教と言うだけの迫力を持っていた。

 

「いや……だがしかし……」

 

 トールスにとっても予想外であったのであろうその反発によって彼は言葉を失い、その間にもリヴァーシンズ大司教はさらに(まく)し立てる。

 

「あの光を見なかったのか!? あれは正しく神の奇跡、この世でも聖者様と教皇様にしか扱えない本当の聖魔法の姿。その魔法にいちゃもんを付けることは何人であろうと許さんっ!」

 

「な……」

 

 予想外続きの反応にトールスは完全に言葉を失ってしまった。

 

「被告側、メーディア・フルタスの証言を認めよう。発言を」

 

 そんなトールスから視線を切ったリヴァーシンズ大司教はメーディアさんを証言台の方へ招く。

 

「はい」

 

 覚悟の決まった表情で返事をし、証言台へ向かうメーディアさんは、先程まで氷棺の中で眠っていたとは思えないほどに力強い足取りで一歩、また一歩と歩いていく。

 俺はそんな姿に勝ちを確信しながらも、トールスが自暴自棄になって何かをしでかさないかに注意を払っていた。

 

 証言台へ立ったメーディアさんはサッと手元の資料に目を通すと深呼吸をひとつして話し始める。

 

「殿下に……ベリル・グラーツィア殿下に『指示宝珠』を渡したのは私です」

 

 メーディアさんの証言はそんな告白から始まった。

 急な告白に会場が驚愕に包まれるも、そんなことは意にも介さずメーディアさんは淡々と話しを続ける。

 

「元々私はトールス様及びにグランダル家からの指示として、ベリル殿下の近しい人間であることを求められていました」

 

「なっ! 馬鹿なことを……!」

 

 焦った様子のトールスが口を挟もうとするも、すぐにガベルが打ち鳴らされて、邪魔が入らないように場が整えられる。

 ……どうやらリヴァーシンズ大司教の買収には何やら条件があったと見るべきだな。

 現在のリヴァーシンズ大司教の行動はどう考えても、こちら側に付いたように見える。

 俺は冷静に状況を分析しながら、メーディアさんの証言へ耳を傾けた。

 

「グランダル家の本来の目的は分かりません。ですが、私の姉、アナレは婚約者として学生のうちからトールス様の元へ住み込むこととなり、その件を傘に様々な条件を突きつけて、私はグランダル家の言うことを聞かされていました」

 

 メーディアさんの口から語られたのはやはりと言える話だった。

 予想通りと言えばそれまでだが、もしメーディアさんがアナレさんの婚約破棄などを匂わされていたのなら、貴族家の娘としては指示に従わざるを得ないだろう。

 

 貴族とはプライドを着込んだような生き物だ。

 学園の高学年となり、婚約者の家に住み込んでいたという状況から婚約破棄でもされようものなら、それは実質的には前歴が付くようなものなのだ。

 そんなことになれば、いくら伯爵家の娘であろうと一気に人生が転落してしまう。

 

「この『指示宝珠』と言う魔道具はそんなトールス様との橋渡し役をされていた、そこの方から受け取った物です」

 

 メーディアさんはそう言うと虚ろな目で立っているルーカスの方を手で指した。

 

「黙れっ! 貴様の証言は出鱈目だ! 証拠があると言うなら出して見ろ! この僕が貴様を脅し、利用していたと言う証拠を!」

 

 もう取り繕う余裕もないのか、高圧的な態度がモロに出てしまっている。

 だが、今この場で蘇ったばかりのメーディアさんがここまで状況に合わせた証言を出来るはずがない。

 これだけ具体的な発言が出てきた時点で、客観的な証拠は揃っていると言ってもいい。

 トールスの反論は既に意味を持たない。

 

 だが、いつか復讐を考えていたのだろうか。

 冷静なままのメーディアさんが制服のポケットから一枚の手紙のような物を取り出した。

 

「これは私が初めて受け取ったグランダル家トールス様からの指示書です。三年以上前のものですが、内容は証拠になるかと」

 

 そう言ってメーディアさんはリヴァーシンズ大司教にグランダル家の印章の押された手紙を手渡す。

 

「これは……」

 

 大司教はその手紙に目を通すと、こう言った。

 

「これだけの決定的証拠。もう反論は不可能だろう。判決を告げる。被告側への訴状を棄却し、本件を裏で手引きしたトールス、及びにグランダル家を反逆罪に問うものとする」

 

「な……なんだと……この僕が……」

 

 突き付けられた現実を認めまいと自身の両手へ視線を落としては首を振るトールス。

 それに向かい合った俺たち側では、メーディアさんとアナレさんが再び、きつく抱きしめ合う。

 

 そして、聴衆からの割れんばかりの大歓声を受けて、ベリル殿下による殺人事件の公開裁判は幕を閉じた。

 

 

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