The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百二十五話 アゼクオンVSグランダル⑪

 王城を出て別邸へ帰るも、俺は再び王城を訪れていた。

 理由は簡単だ。

 サンの様子が少し、いや、かなりおかしかったからである。

 

 まるで何か信じられないものでも見てしまったかのように、いつもの可愛らしさの欠片もないような思い詰めたような表情で、黙って座り込んでいる様子を見せられては、何もしないわけにはいかなかった。

 

「……ファレス様? お帰りなられたのでは?」

 

 王城の門で番をしていた騎士に不思議そうな顔をされる。

 だが、今はそれどころではない。

 

「急用だ。先刻俺が斬った黒竜の所在は? 案内できるものをすぐに呼んでくれ」

 

「――! はっ! かしこまりました!」

 

 俺の口調で状況を察した騎士が城内へと駆け戻っていく。

 その間もサンは俺の服の裾を掴んだままジッと無言で足元を見つめていた。

 

「サン? どうしたの?」

 

 一緒についてきたクインやサラも心配そうな表情でサンのことを見守っているが、やはりサンは無言のままだった。

 唯一セレスティアだけはサンとあまり関わりがないため、気まずそうにしていたが、今は逆にそんなセレスティアの存在がありがたかった。

 

「お待たせいたしました! こちらです」

 

 先ほどの騎士が案内役の者を連れて駆け戻ってくると、サンはいきなり立ち上がり、ぐいっと俺の服を引っ張って馬車を飛び出した。

 

「サン! 少し落ち着け。急がなくともあの竜は逃げない」

 

 飛び出したサンにそう言い聞かせながら、先走らないようにと抱きかかえる。

 サンの身長はせいぜい百三十センチと言った程度でかなり小柄だ。

 こうして抱き上げてしまえばすっぽりと腕の中に全身が収まる。

 

「……でも、でも、確かめないと……!」

 

「ああ、大丈夫だ。これから確かめに行くのだろう?」

 

 何を確かめたいのかは分からないが、一先ずこの場はサンを落ち着けることを優先した。

 そうして俺は降りて来た三人を連れて、サンを抱きかかえたまま案内人について王城を歩いた。

 

 

「……ファレスお兄ちゃん、ごめんなさい。私、自分で歩く」

 

 しばらくして落ち着いて来ると、今度は段々自身の状況が恥ずかしくなってきたのか、珍しく照れたような声でサンが耳元でそう言ってくる。

 

「そうか?」

 

「……うん」

 

 俺としては別にこのままでも構わなかったのだが、わざわざ恥ずかしがっていることをさせる必要もないだろうと、サンを降ろした。

 そうして案内人も含めた六人分の足音が響く長い廊下を進むと、先ほどまで、公開裁判で俺たちが立っていた訓練場の裏手に当たる場所に連れてこられた。

 そこは裏庭……というと一気に庶民的な感覚になるが、他の表現のしようのない、何と言うかこの王城もしっかりと人の手で建てられたのだと感じられるような場所だった。

 

「本来ならばすぐに解体して必要な場所に運ばれるのですが、今回はそのままの状態をご所望と伺いましたので訓練場から一番近いこちらに移動させるのみに留めておきました」

 

「ああ、感謝する」

 

「いえ、では私はこれで」

 

 案内をしてくれたその研究員のような人物は軽く頭を下げると足早に去って行った。

 

 研究員を見送った後で改めて通されたこの場所を振り返る。

 ここにはあるものは補修用だろうか?

 何やら資材やら床石などが置かれたこの場所で、俺たちは改めて先ほどの黒竜と対面した。

 

「改めて……凄まじい大きさですわね」

 

 力なく横たわる黒竜を見てセレスティアが呟いた。

 

 既に生を終えていると言うのにその体躯の大きさと迫力は健在だ。

 先ほどは一刀で斬り伏せた訳だが、こう至近距離で見せられるとその存在感の大きさを改めて感じる。

 

「グランダル家は一体どうやってこんな巨竜を捕らえたのでしょうか?」

 

 サラの疑問はもっともだ。

 そもそも、もしこんな竜を捕らえられたからと言っていったいどこに隠しておいたのだろうか?

 空にいたってあれだけの存在感と魔力を放っていたのだ。

 今日までバレずに隠し通しておくことはかなり難しい……いや、ほぼ不可能と言ってだろう。

 

「ファレス様! この竜、鱗の色がかなり違います! まるで頻繁に剥ぎ取られてでもいたかのような……」

 

 そんなことを考えているうちに、物怖じせずに黒竜へと近づき色々と観察していたクインがそう報告してきた。

 鱗の色が違う……まるで頻繁に剥ぎ取られていたように?

 確かに歴戦を感じさせる風格のある竜だったのに間違いはない。

 しかし、そんな生傷が多いような印象は受けなかった。精々傷跡が見え隠れしていただけだと思ったのだが……。

 

 そう考えながら俺もクインの方へ寄って確かめると、確かに若干の色の違いが見て取れた。

 

 グランダル家、黒竜の鱗、頻繁に剥ぎ取られた跡……まさか!?

 

「なぁ、クイン。黒竜の鱗は魔道具制作の触媒に成ったりするのか?」

 

 俺はある程度の確信を持ってクインに質問した。

 するとクインもほぼ同時にその結論にたどり着いていたようで神妙な面持ちで頷く。

 

「……はい。まだ、人の手による魔道具制作の技術は確立されていませんが、これだけ良質な、かつ生きた素材があったのであればもしかすると……」

 

 魔道具制作。

 原作プレイ済みの俺も噂にしか耳にしたことのない、恐らくどこかのプレイアブルキャラクターにのみ与えられた固有の魔法のような物だろうと思っていた存在。

 しかし、これまでグランダル家が魔道具業界を寡占していたことや、いくら公爵家だからとはいえ、魔物や魔獣たちを倒せば少なめに見積もっても百体に一体はドロップするような魔道具を独占できるような財力がどこから生まれていたのか……その辺りから考えれば、この黒竜を利用して魔道具を制作できる技術をグランダル家が保有していたとしてもおかしくない。

 

 危険性なく魔道具を制作できるのであれば、黒竜の再生力も相まってかなりの利益を生み出せるはずだ。

 

「これは……グランダル領に一度行って見る必要がありそうだな……。無論、報告が先だが」

 

 そう言えばサラも、以前、ルーカスを追跡した際に音の鳴らない笛のような物を吹いたかと思えば次の瞬間には馬車が現れた、と言ったようなことを言っていた気がする。

 俺にも馴染みのない魔道具だったため、知らない魔道具か……程度に思っていたのだが、もしかするとあの魔道具も制作によって作られたものだったのかもしれない。

 

 さて、やはりこの黒竜は一度持ち帰って、全身(くま)なく調べた方がいいな、と思っていたところで、そう言えばサンは何が確認したかったのだろうかと言うことに遅ばせながら気が付いた。

 

 そしてサンの姿を探すと、彼女は俺が切断し、今は胴体と並んだ形になっている頭の前でぽつんと佇んでいた。

 

「サン? 確認したかったことは出来たか?」

 

 俺が横から声を掛けるも、反応はなく、その代わりにサンが一言、呟いた。

 

「兄さん……なの?」

 

 ……兄さん?

 明らかにそう言っていたが、その対象はどうにも俺には感じられない。

 サンが兄と呼ぶ人間はこの世で一人、俺だけだ。

 しかしながら、俺はこれまでの四年間でお兄ちゃん以外の呼び方をされたことはない。

 覚えがないのではなく、確実にないと断言できる。

 

 では、一体……?

 

 サンの言う兄さんが何を指すか分からず、俺がそのまま彼女の半歩そばまで近づいたところで、サンは黒竜の額につま先立ちで手を伸ばした。

 

「……そっか。うん、うん。違うよ! 私は大丈夫! 私は飼われてるんじゃなくてお兄ちゃんの従魔だから! うん! 兄さん……心配してくれてありがとね」

 

 そうして黒竜の額へ触れたかと思えば、サンはまるでクインのように慈愛に満ちた声で、既に眠っているはずの黒竜と会話をしているかのように話し始めた。

 

「……うん! うん! 分かった。伝えておくよ! じゃあ、……え? 私にくれるの?」

 

 サンと黒竜の会話はそこそこ長く続き、終わったか、と思ったタイミングでサンが「いいの?」とでも言うかのような顔をしたかと思えば――次の瞬間、死んでいるはずの黒竜の身体が光り、その心臓辺りからサンの頭と同じくらいの水晶玉のような何かがせり出して来た。

 

「ありがとう兄さん……大切にするね。兄さんのドラゴンハート」

 

 サンがそう言うと黒竜の中から出て来たそれはサンの中にスッと取り込まれるように消えていった。

 

「強く生きよ。我らが末の妹よ」

 

 黒竜の身体から光が消えると同時にそんな声が俺にも聞こえて来た。

 

「……サン、今のはそこの黒竜が?」

 

「……うん。もしかしたらって思ってたけど、やっぱり私と半分血のつながった兄さんだったみたい」

 

 サンから発せられたそのあまりに予想外な一言に、俺たちは言葉を失うほかなかった。

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