The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

129 / 161
第百二十九話 祝勝会――すべては貴方のために

 セレスティアと共に入った我が家では、未だサラたちが忙しそうに動き回っていた。

 

「あら、まだまだ時間がかかりそうですわね」

 

「そのようだな」

 

 さて、さっきあれだけ格好つけた手前、この調子を崩せないが……正直非常に恥ずかしい。

 かなり気まずいことこの上ない。

 

 どうにかして、一旦一人になりたいところだが……。

 

「そう言えば(わたくし)、ファレス様のお部屋をじっくりと見せてもらっておりませんわ」

 

 珍しいもの見たさに、目をキラキラと輝かせるセレスティア。

 あの後でもこんな目が出来るなんて……さすがは名家のご令嬢と言ったところ……なのか?

 

 まあ、確かにセレスティアが興味を持つのも分からないではない。

 以前、ファルシアンに行く前にセレスティアがこの家に訪れた時は、ざっと屋敷中を案内したあとで客間に通したのみで、各部屋を詳しく見せたりはしなかったのだが、俺が彼女の姉であるレティシアさんのお見舞いに毎日通っていた時には、カーヴァリア別邸をこれでもかと紹介してもらったため、内装やら間取りやら家具やらを見るのが好きなのだろう。

 

 いや、もしくはさっきまでの流れのまま……という魂胆なのかもしれない。

 だが、もしその場合、各家の当主クラスも呼んでいるであろう祝勝会の会場たる我が家で、そのような行為に踏み切れるほどの胆力は流石の俺も持ち合わせていない。

 

「あ、いたいた! ファレスおかえりなさい!」

 

 どうしたものかと逡巡を巡らせたところで救世主の声が我が家の廊下に響き渡った。

 

「――! 母さん、ただいま戻りました」

 

 救世主と呼ぶべきなのか、そもそもこの祝勝会の首謀者であるところの母さんが原因と呼ぶべきか……まあ、そんなことはどうでもいい。

 これはチャンスだ。

 

「これはスジェンナ様。お邪魔しております。セレスティア・カーヴァリアです」

 

「ええ、セレスティアさんもいらっしゃい! サラに聞いても二人がどこにいるか分からなかったから探していたのよ」

 

「まだ準備中かと思い、少し馬車で時間を潰していました。そろそろかと思い出てきたのですが……母さん、これだけの規模とは一体どれだけの招待客を集めたんです?」

 

 よし、これで完全に話が流れた。

 この機を逃さず、なんとか一旦一人になって落ち着きたい!

 

「どれだけって、いやねファレス。私がそんなに無理を言うわけないじゃない。精々カーヴァリア家の方たちとスペーディア商会、懇意にしてくれているネクシア聖教の方たちくらいよ」

 

 ……カーヴァリア家、スペーディア商会に留まらず、ネクシア聖教までも呼んでいるじゃないか。

 それは十分無理を言っていますよ母上……。

 

「本当はファルシアンのお父様たちも呼びたかったのだけど、あそこは年中忙しいから」

 

「……そうですね」

 

 さすがの母さんもその辺りの分別はついたか……。

 普段ならともかく、俺のこととなるとネジが吹き飛んでしまう母さんだ。

 全然ファルシアンからお祖父様たちを連れ出してきてもおかしくなかった。

 

「……ファルシアンと言えば、セレスティアさん。ファルシアン領でカメリナ姉さんと面白い話をしたって聞いたのだけど、その話、私にも聞かせてもらえないかしら?」

 

 内心で俺がホッとしていると母さんはごく自然にその会話を切り出した。

 カメリナさんとの話? あの皇帝になろうと決断する少し前の時のことか?

 

「え、ええ。ですがあの時はサラさんも一緒におりましたので、また私たちが揃う時の方が……」

「サラはいいのよ。あの子は昔からそれが目的だったのだから。それより私はあなたに興味があるの。ファレスのどんなところに惹かれたのかしら? 今後どうなりたいのかしら? ええ、全部聞かせて頂戴!」

 

 母さんの誘いをやんわりと断ろうとするセレスティアと、それを逃がさないとばかりに詰め寄る母さん。

 セレスティアが助けを求めるような視線を送って来るが、すまない。

 そうなった母さんはアゼクオンの俺や父上では止めることはできない。アゼクオン家門におけるヒエラルキーの頂点は母さんなのだ。

 

「じゃあ、ファレス。セレスティアさんは私が借りて行くわね」

 

「ええ、セレスティアもゆっくりと楽しんでくれ」

 

「……はい」

 

 諦めて母さんの方を向くセレスティアは存外に良い顔をしていた。

 

 そして客間の方にセレスティアを連れていく母さんを見送っていると、おもむろに母さんが振り返り、パチッとウインクをして来た。

 ……なるほど、俺の内心を見透かして一人にしてくれた、と。

 

 本当に叶わないな。

 俺は軽く会釈を返すと、自室の方へ歩き出した。

 

 ◇◇◇

 

 なんだかんだサラが隣にいないということは珍しい。

 隣というか、サラが近くにいないというのは自身の身体の一部を欠いたような、そんな不自然さ、不安定さがある。

 

 そんなことをぼうっと考えながら歩いていれば、少し前の階段を上がっていくサラの姿を見つけた。

 

「サラ」

 

 彼女のことを考えていたせいか、俺は自分でも無意識のままにサラのことを呼び駆け出していた。

 

「ファレス様?――きゃっ」

 

 突然後ろで名前を呼ばれたサラは俺がこちらに来ているとは思っていなかったのか、驚いた様子で振り返ろうとして階段を踏み外し、後ろへ倒れ込んでしまう。

 

「サラっ!」

 

 危ない、と、思った時には既に俺の身体はサラを受け止めるように動いており、間一髪でサラを抱き留めることが出来た。

 

「珍しいな。疲れているのではないか?」

 

 横抱き、俗にいうお暇様抱っこの要領でサラを抱えたまま、その顔を覗き込んで問いかける。

 

「も、申し訳ありません。恥ずかしい姿をお見せしてしまいました」

 

「気にするな、と、言いたいところだが……少し揺れるぞ」

 

「え? は、はい」

 

 軽めに俺の外套を掴むサラを確認してから、俺は一足飛びに階段を駆け上がると、他の侍従たちの目につかないように静かに、かつ足早に自室へとサラを連れて入った。

 

「あ、あの……ファレス様? これは一体?」

 

 状況が理解できずに混乱している様子のサラ。

 しかし、俺は何も答えずにサラをベッドへ寝かせて、自信は彼女に背を向けてベッドへ腰かけた。

 

「サラ、お前は一体いつから眠っていない?」

 

「――!」

 

 俺の質問に背中越しにでもサラが驚いた様子が伝わって来た。

 やはり、俺の推測は間違っていなかったようだ。

 

「……いつから、お気付きだったのでしょうか?」

 

「情けのないことに気が付いたのはつい先ほどだ。さすがはサラ、主たるこの俺にまで勘付かせないとは、名優にもなれるのではないか?」

 

 そう、気が付いたのはついさっき。

 

 サラの中における優先順位はどう考えても俺>自身だ。

 そんなサラが俺の気配をこの家の中で捉え損ねるはずがないのだ。

 俺が侍従を呼ぶベルを鳴らそうと手をかけた瞬間にはドアを開けて「ご用命は?」と言ってくるようなサラが、後ろから声を掛けた程度で驚くなんて、そんな馬鹿なことがあるはずがない。

 

「……申し訳ありません。ファルシアン家でのあの件以来、私程度がファレス様にあんなことを求めてしまって良いのか、と」

 

 俺の軽い皮肉にも真っすぐと謝罪をしながら、その内心を吐き出すサラ。

 あの件、あんなこととは、考えるまでもなく皇帝になるという俺の決断のことだろう。

 特に、先の王城での出来事を見れば、よりサラの悩みが強くなってしまうのも分からなくはない。

 だが――

 

「そんなこと、悩むまでもないだろう。なあ、サラ。お前の主は誰だ?」

 

「ファレス様、です」

 

 そんなことで誰かに気に病んでもらうほど、俺は弱いつもりはない。

 

「そうだ。忠義の腹心であり、この世で最も俺とつながりの深いサラの願い一つ程度、俺にとっては何の問題にもならない。それがお前の主であるファレス・アゼクオンだ」

 

「……はい。そうでした……申し訳ありません。私如き一介のメイドが主たるファレス様の御心を推し量ろうなどと……」

「……そうではない。お前の願いは俺の願いでもあると言っているのだ。だからサラ、お前は今後もその心のままに願えばいい。何も気にする必要はない。サラ、お前は誰のものだ?」

 

 いつの日か、サラが宣言して見せたのとは逆に俺からサラへ問いかける。

 

「――っ! 私は貴方の――ファレス様のものです」

 

 振り返り、その細い身体をこれでもかと抱きしめる。

 途端に胸の内へ広がるのはいつも通りを取り戻していくような安心感だった。

 

「少し、ここで休んでいけ。欲しいものがあれば用意しよう。いつもとは立場が逆転だな」

 

 腕の中のサラを再度ベッドへ寝かせながら言う。

 するとサラは少しだけ意を決したように、眠たそうな目を開きこちらへ手を伸ばした。

 

「では……証を。生涯の証となる物をいただけませんでしょうか」

 

 それはあの日、今はまだとサラ自身が言っていたものを求める声。

 差し出された右手の薬指が何もないのに確かな存在感を示している。

 

「ああ……分かった」

 

 俺はポケットから少し横幅の広い小箱を取り出す。

 中を開けば二つの指輪が顔を見せた。

 

 片方はサラの美しい金髪を思わせる派手な指輪。

 そしてもう片方は俺の銀髪を思わせるような確かな存在感を持つ指輪だ。

 それぞれの指輪にはファルシアンの職人にお互いの名前を刻印してもらってある。

 

 俺はその内の銀の指輪を手に取り、細いサラの指へと嵌めた。

 そして自分は金の指輪を右手の薬指へと通す。

 俺はサラとサラは俺と、常にともに。

 

「これで証になるか?」

 

 何となくサラの顔が見られず、指輪を嵌めてすぐに体勢を戻すと、背中越しに聞いた。

 

「……はいっ。ですが、もう一つ我儘をよろしいでしょうか?」

 

 感極まった声で返事をするサラだったが、指輪の嵌められた右手で同じく指輪を嵌めたばかりの俺の右手を取ると――

 

「なんだ?」

 

 俺が振り返るタイミングでそのまま右手を引き、俺を倒れ込ませる。

 

「このまま、少しの間このままでいて、ください」

 

 そして俺を自身の横へ寝かせたサラは安心したように、微かな寝息を立て始めた。

 




いつかやりたかった主従逆転回(あまり逆転してない)。
本作のメインヒロイン、サラちゃん回でした。
前回のセレスティアと比べれば砂糖控えめですが、その分しっかりと感情を見せてもらいました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。