The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第十三話 領主、貴族として

 昨日はあの後、クインと魔法談議をすることなく二人には帰ってもらうことになった。

 そして今日の訓練はレドによって念のためなし、ということになった。

 俺自身、普通に動いたりする分には問題なかったが、絶好調という訳ではなかったし、どういう訳か昨日はサラもずっと上の空な感じだったからこれは妥当な選択だろう。

 

 そして現に……。

 

「サラが来ないのは珍しいな」

 

 サラが起こしに来ないだけでなく、朝食も珍しく別のメイドが持ってきた。

 今日も寝坊をしているのだろうか?

 

「あ、あのファレス様」

 

 そんな俺の部屋に今にも逃げ出したいという感情が伝わってくる声で家のメイドが声をかけて来た。

 

「なんだ?」

 

 ぶっきらぼうに返すと怯えながらメイドが

 

「サラのことなのですが……」

 

 と、切り出した。

 

「サラに何かあったのか?」

 

「ひぃっ!」

 

 ちょうど考えていたサラの名前が挙がったせいでつい、強い声音になってしまう。

 

「……そう怯えなくとも良い。話してみよ」

 

 サラやクインの態度のおかげで忘れていたが、他のメイド達からの俺への態度は相変わらずだ。

 こちらも要改善だが、火急の要はサラについてだ。

 即座に取捨選択をし、なるべく優しく、それでいてファレスらしさを失わない程度でメイドを促す。

 

「は、はいぃ……その、今朝サラが起きて来ず、普段ならファレス様のところに行っているのかも……ということで気にしていなかったのですが、料理担当からファレス様の朝食が運ばれていないと言われ、先ほど別のメイドがお持ちいたしました」

 

 メイドは丁寧に今朝の状況から話し始めた。

 

「ああ、そうだったな」

 

「はい、それに関してはサラも人間ですので寝坊することもあるか、と私たちも気にしていなかったのですが、流石に遅すぎるとサラの部屋に行ってみたところ……その……」

 

 そこまでは流暢に話していたのに途端にメイドの口調が重くなる。

 

「なんだ? サラが熱でも出していたか?」

 

 そう言えば、昨日も心ここに在らずとでも言うかのような雰囲気を纏っていたし、もしかしたら

 体調を崩したのかもしれないと思いそう問う。

 

 だが、帰ってきたのは思いがけない返事だった。

 

「いえ、サラの姿がないのです」

 

「おい? 今何と言った?」

 

「ひっ、その、サラの姿が部屋にありません、と……」

 

 バンっと机に拳を叩きつけて立ち上がる。

 

「どういうことだ!?」

 

「ひぃっ! ひぇぇ……」

 

 メイドが情けない声を上げている横で俺の思考は転生してきたときぶりの速度で回転していた。

 

 どういうことだ?

 サラがいない? それも俺に一言の言もなく?

 いや、そんなことがあり得るわけがない。

 自賛するわけではないが、俺がこの世界に来てからはそれなりにサラの主としてあるべき姿を見せれていたはずだ。

 

 それに原作においてもサラが裏切るルートはたった二種類。

 どちらも現時点では条件が揃うことはない。

 絶対にありえない。

 

「屋敷内の他の場所は探したのかっ!?」

 

「ひっ! は、はいっ! ですので、ファレス様にご報告をと」

 

「チッ」

 

 思わず舌打ちをする。

 屋敷に姿がなく、それに先ほどまで誰も気が付かなかったということはサラは夜のうちに屋敷を出て行っている可能性が高い。

 

 なんだこの不安は。

 前世でも感じたことのない不安が全身を駆け巡る。はやくサラを見つけなくては取り返しのつかないことになるという漠然とした不安が。

 

「街にも人を出して聞き込みをせよ!」

 

「は、はいっ!」

 

 メイドは中々のスピードで部屋を飛び出していった。

 

 ……サラ、いったいどこに行った?

 何があったんだ?

 

 ◇◇◇

 

「ここはどこ?」

 

 そこは果てしなく暗い、沼の底のような場所だった。

 何もない空間なのに、ただひたすらにドロドロとしたものがまとわりついてくるような不快感が全身に巡る。

 

 そんな場所にサラは一人。

 

「いったい何が? ファレス様?」

 

 不安の中、まず口を吐いて出たのは最愛の人の名前だった。

 サラにとって、両親より、自分より大切な人の名前。

 だが、もちろん返事はない。

 それどころか、辺りの闇がより深くなったかのような気さえする。

 

 しかし、サラはそのおかげでこの闇の中で唯一光を放つ物に気が付いた。

 

「あれ? ブレスレットが、光ってる?」

 

 それはつい先日ファレスに貰った誕生日プレゼント。

 勢いで選んでしまったものの、ファレスに貰った初めての贈り物。

 そのブレスレットに嵌められた宝石が仄かに妖しく光を放っていた。

 

「なんだろう、これ?」

 

 一度気が付いてしまえば、サラはそのブレスレットから目が離せなくなった。

 光を放つ宝石へ手が伸びる。

 そして、その宝石に触れた瞬間――

 

『嫉妬』が溢れだした。

 

 ◇◇◇

 

 それは突然だった。

 落ち着いていられず、自分も探しに行こうと食事のために外していた竜皮の手袋をつけたとき、日本出身の俺には懐かしい感覚が屋敷を襲った。

 

 天井に吊るされたシャンデリアが揺れ、どこかでガラスの割れる音が聞こえる。

 ……地震だ。

 おそらく震度は4程度。

 

 激しい横揺れ、とは言え俺にはそこまで衝撃を与える出来事ではない。

 が、それはあくまで俺にとっての話。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

「な、なにっ!?」

 

 屋敷の至るところから悲鳴のような声が聞える。

 

 それはそうだろう。

 普段当たり前に過ごしている地が揺れる経験など、初めて体験すればパニックになるのは必然だ。

 

「チッ、サラのことに集中したいってのに。不遇ってレベルじゃないだろこれは!」

 

 幸い、この屋敷が崩れるような様子はない。

 せいぜい物が倒れたり、机の上から物が落下する程度だろう。

 だが、街はどうか?

 絶対安全とは言い切れない。

 

 俺はすぐに侯爵家と者だということが分かる外套を羽織ると自室を飛び出し、なるべく多くの者に聞こえるように叫んだ。

 

「アゼクオンに仕える者よ! 訓練場に集まれ! 全員もれなくだっ! これを聞いた者はすぐに行動を開始せよっ! 辺りに指示を聞いていない者がいれば聞いていたものが連れて来るんだ! 動けっ! 訓練場だぞ!」

 

 こういう時、室内で靴を履く文化はありがたいな。

 そんなことを考えながら魔法で風を起こし、なるべく俺の声が屋敷中に響くようにしながら訓練場へ駆ける。

 

 パニックを引き起こしていたメイド達もさすがはアゼクオンに仕える者たち。

 指示があれば、恐怖心よりも忠誠心が勝るらしい。

 普段俺には滅多に見せない真剣な顔つきで行動を始めた。

 

 良い人選をしている両親には感謝しなくてはならない、と頭の片隅で両親に感謝を伝えながら俺はいの一番に訓練場へ急いだ。

 

 ◇

 

 しばらくして、訓練場にアゼクオンに仕えるサラ以外のすべてのメイドや騎士が集まった。

 

 それを確認すると俺は置いてあった何かの木箱の上に立ち、話を始める。

 

「先の出来事で皆パニックしていただろうが、迅速に動いてくれたことにまず感謝しよう」

 

 俺の言葉に少なからず、メイド達が動揺する。

 だが、俺はそんなことを気にせずに話を続けた。

 

「今、このアゼクオンの地を襲ったのはおそらく地の揺らぎのようなものだろう。だが、そんなことはどうでもいい。お前たちも見ただろう? 置いてあったものが倒れたり、棚や机から物が落ちるのを」

 

 メイド達はついてこれていない者が半分、実際に見た者は俺の言いたいことを理解し始めていると言った感触。

 

 反応を確認しながら、さらに続ける。

 

「この屋敷はこの地で最も頑丈な建物だ。だと言うのに、あれだけの揺れを感じた。ならば、この地に住む他の者はどうか? そうだ、ここでも起こったことがより酷く起きている可能性が高い」

 

 ここまで言うと俺の言わんとすることをほぼすべての者が理解しただろう。

 皆、真剣な面持ちで俺を見ている。

 

「我は誰だ? そうだ、このアゼクオン領を治めるアゼクオン家嫡男ファレス・アゼクオンである! そして皆はなんだ? そうだ、お前たちはそんな領主に仕える第一の臣下であるっ! 何が言いたいかわかるなっ!」

 

 そこまで言うと、多くの者たちが行動を始めていた。

 

「アゼクオン臣下の全員に告ぐっ! 直ちに領内への救援活動を開始せよ! 屋敷のことは後回しだっ! これについてはこのファレス・アゼクオンがその名を持って責任を持つ! 動けっ!」

 

 俺が言い終わるまでこちらを見ている者はいなかった。

 だが、それでいい。

 

 災害大国だった日本とは違ってここは災害などが本来は存在しない世界。

 だと言うのに、恐怖に震える者がおらず、自信と誇りを持って仕事にあたる彼らには敬服の念を覚える。

 

 そして俺は念のため屋敷に壊れた場所やおかしな場所がないかの確認を始めた。

 

 本来ならば、俺が先陣を切って避難誘導などをしたいところだが、領主貴族とはいえ十一歳の身体ではとてもじゃないが迅速な行動は出来ない。

 それに、ここは民主主義の世界ではない。

 貴族は人の上に立ち、人を使う存在。俺自ら動くのはおそらく得策ではない。

 

 そうは言っても、黙って報告待ちというのも性に合わず、こうして屋敷中の確認をしている。

 いや、本音を言えば俺はこの状況でもサラの行方についてのヒントが屋敷にあるのではということが気になって仕方がなかったのだ。

 

 倒れた調度品や壁から落ちかけた絵画などを直しながら、屋敷中を回っていると感じたことのない微量な魔力を感知した。

 

「……? なんだ? この魔力は?」

 

 魔力覚醒によって研ぎ澄まされた俺の感知能力でさえほんのわずかに反応する程度の本当に微弱な魔力。

 集中力を抜けば見失ってしまいそうなそれを、丁寧に追いかける。

 

「ここは……」

 

 そうしてたどり着いた先は……サラの部屋だった。

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