The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百三十一話 竜の王と色欲の英雄①

 祝勝会から数日。

 グランダル家が魔道具を作成しており、その媒介に竜が使われているという話を母さんたちにも共有したところ、グランダル領に向かうのはもう少し情報収集してからの方がいいのではないかと言われ、俺たちは久しぶりの休息の日々を過ごしていた。

 

 先日はファルシアン領に行く前にクインと約束していた一日時間を取るという約束を果たし、色々な商会の店舗を巡るショッピングデートを敢行した。

 リカルド兄上とカーヴァリア領から帰って来たエルシアさんの惚気を聞かされてうんざりしていたセレスティアの気晴らしに、馬車を使わずに顔を隠して王都を探索する散歩にも付き合った。

 もちろん、妬きに妬いていたサラの御機嫌取りデートも欠かさなかった。

 

 と、一見すれば充実した休暇を過ごしていたのだが……。

 

「少し、良くない状況ね」

 

「ええ、そうですね」

 

 父上と共に、一度はアゼクオンへ帰ったものの、なんだかんだと理由を付けて未だ王都にいる母さんと向かい合った俺は、ここ数日の世論の状況に少し頭を悩ませていた。

 窓の外はからりと晴れた晴天だと言うのに、これこそまさに青天の霹靂の前触れと言わんばかりの空模様に思えてならない。

 

「ファレス様、奥様、こちらリラックス効果のあるハーブティーです。少しお休みになられてはいかがでしょうか?」

 

 向かい合って難しい顔をしている俺たちに、サラがいつもの紅茶ではなくハーブティーを差し入れてくれる。

 

「そうね、少し休みましょうか」

 

「ああ、いただくよサラ」

 

 前のめりになった身体を起こし、慣れないが確かに落ち着く香りのハーブティーを一口、ゆっくりと口に含み飲みこむ。

 サラの手で完璧に調整された温度のハーブティーがじんわりと身体の芯へ染み渡り、僅かにあった焦燥感を溶かしていった。

 

「サラも休むと良い」

 

「はい、失礼します」

 

 こちらを見たまま立っていたサラを隣に座らせてから、改めて考える。

 ここ数日、毎日王都へ出ていたからこそ、この問題点は俺の中でもかなり大きくなっていた。

 

 その問題とは……ファレス()人気過ぎ問題である。

 

 人気過ぎというと軽く聞こえてしまうかもしれないが、実際は軽いことなどどこにもなく、むしろ重すぎて扱いに困るほどの問題だ。

 

 問題の中身を簡単に言い表せば、求めてもいない信者ができ始めてしまったといったところか。

 

 公開裁判から数日が経った現在でも、娯楽の少ない市井ではもっぱらあの日のことが話題の種になっている。

 

 はじめは良かった。

 俺という存在を明確に国民へ刻み付けることが出来たのだから。

 しかし、その後が想定外だった。

 

 どこかから俺こそ次期皇帝にふさわしいという声が湧き上がって来たのだ。

 もちろん、それだって悪いことではない。

 今後、皇帝を目指していくために、簒奪者ではなく、成り代わったと民に見せることは国力を損なわないためにも重要だからな。

 

 だが、想定外だったのはその声の大きさと狂信性だ。

 

 せいぜい、そんな風に言い出すのは多くても王都の住民の一割にも満たないだろうというのが、当初の俺の予測だった。

 しかしながら現在にして王都の約二割、普段は政治などに興味を持たない層を中心に、今もなおその声は広がっている。

 

 それに加えて、その声の中には一部過激的なもの含まれているそうで、せっかく公開裁判によってグラーツィア皇家VSグランダル家という構図を解消したと言うのに、今ではアゼクオンVSグラーツィアとまではいかずとも、俺VSベリル殿下の構図になりつつある。

 

「……やっぱり、一度王都を離れるべきかもしれないわね」

 

 しばらく無言でハーブティーに口をつけていた母さんがぽつりとそう呟いた。

 

「そうですね。ちょうどグランダル領の情報も出揃ってきたところですし、良い頃合いかもしれません」

 

 人の噂もなんとやら、とりあえず渦中の人物が姿を消せば、いくらこの娯楽が少ない世界でも成り代わる話題は現れるはずだ。

 そして……グランダル領から何らかの成果を持ち帰った時、そこがおそらく勝負になるだろう。

 

 一度下火になったところで炎は炎だ。

 燃料が足されればすぐに燃え広がる。

 

 それまでにすべての準備を整える必要がある。

 

 現状で王都を離れるということはそう言うことだ。

 

「サラ、セレスティアとクインへ使いを送ってくれ」

 

「かしこまりました」

 

 サラが立ち上がり部屋を出て行く。

 するとそのサラと入れ替わるようにして俺の隣へ移動してきた母さんがおもむろに俺を抱きしめた。

 

「ごめんなさいファレス。本当ならもっとじっくりと地盤を固める時間が取れる予定だったのに」

 

 そう言う母さんの声は微かに震えている。

 ふむ、なるほど。

 つまりこの状況は母さんにとっても予想外だったようだな。

 

 そんな母さんと打って変わって、俺は俺の中に落ち着いた自分を見つけた。

 いつもは全て手のひらの上に転がしている母さんが焦っているおかげだろうか?

 

 それに、このことに関しては母さんに謝ってもらうようなことでもないのだ。

 確かに、皇帝になるという目標の源泉は母さんやサラたちによって与えられたものかもしれない。

 しかし、それはただのきっかけの話。

 

 今は、俺自身の目標でもあるのだ。

 

「問題ないさ、母さん。勝負の時間なんて選べるようなものじゃない。それに……ここで証明してこそ、資格があるというものだと俺は思う」

 

 今の俺が比べられているのはあくまでベリル殿下との比較。

 世代的にも実績的にも現皇帝モラク・ルー・グラーツィアと比較されることはない。

 だが、現在の世論を完璧に味方につけ、制御することが出来たのならば、それは……皇帝モラクにも届きうる牙になる。

 

 殿下には申し訳ないが、俺の目的は継承権でも次期皇帝の座でもない。

 紛れもない、歴代最強にして最高の皇帝と呼ばれしモラク・ルー・グラーツィアを超えて皇帝となることだ。

 それこそが最強の証明になる。

 

「……そう。本当に大きくなったわね」

 

 母さんの言葉には単なる成長を喜ぶだけではない、色々な意味が含まれているように感じられる。

 

「ファレスがそう言うなら頑張りなさい。でも……私もファレスのためにまだまだ色々と動かせてもらうわ」

 

 微笑みと共に、ここ一番力強く抱きしめてくる母さん。

 そんな母さんに俺も抱擁を返しながら答えた。

 

「ええ、いつも頼りにしています。母さん」

 

 しばらくその体勢のまま動かない母さんだったが、扉がノックされるとスッと身体を離した。

 

「ファレス様、よろしいでしょうか?」

 

 聞こえてくるのは当然サラの声。

 だが、後ろに聞こえる足音がなんだか多いような……?

 

「ああ、入ってくれ」

 

 俺がそう言うとサラが扉を開け部屋へと入ってくる。

 だが、入って来たのは彼女だけではなかった。

 

「待っておりましたわ。出発の準備は整っておりましてよ」

「私もいつでも大丈夫です」

「サンも大丈夫!」

 

 次々と部屋に入ってくるセレスティアにクイン、サン。

 先ほど使いを送ったばかりのはずなんだが?

 

「ふふっ、愛されてるわねファレス」

 

 母さんの呟きを聞きながらサラの方を見てみれば、すべてを理解していると言わんばかりの顔で目を伏せる。

 

 ……なるほど、これは敵わないな。

 どうやら彼女たちは俺以上に俺のことを信じていたらしい。

 俺が身を潜め、ことを先延ばしにするのではなく、身を潜めながら行動を起こし、次の瞬間には勝負を仕掛けるということを。

 ならば俺はその信頼に応えねばなるまい。

 

「よし、一先ずの目的はグランダル領。そこで俺たちは魔道具生成の実態やサンの兄弟についての何かしらを掴む。そして王都側では母さんたちにさらなる賛同者を募ってもらう」

 

「ええ」「はい!」「うん!」「仰せのままに」

「分かったわ」

 

 それぞれがそれぞれの言葉で俺に応える。

 そして俺はそんな声の中心で宣言した。

 

「そして、再びこの王都へ戻った時――取りに行くぞ、頂点を」

 

 空へ向けて手を伸ばし、頂点で拳を握る。

 さぁ、皇帝、待っていろ。

 その最強はすでに過去の物。

 この時代の最強はこの俺、ファレス・アゼクオンだ。

 

 ◇◇◇

 

「……と言うのが、世論のようです」

 

 王城、玉座の間。

 いつも通り、玉座に腰を掛けた皇帝モラク・ルー・グラーツィアはその忠臣たるエバンス家当主エドワード・エバンスからの報告をつまらなさそうに聞いていた。

 

「まあ、そんなところであろうな。それにしても、何かしらファレス側から動きがあるかと思っていたのだが……」

 

 皇帝の目に映るのはあの日、自分を超えると、目的の物は奪い取ると宣言したファレスの姿。

 皇帝からしてみれば、現在の世論を利用しないという手はないように思えた。

 公開裁判という大事の後で、最も世論が熱くなっている今こそ、信者を得て、自分に対抗する力を高めるのに最適だと思っているためだ。

 

「いえ、動きはあったようです。どうやら一度、王都を出る準備をしている様子。ほとぼりが冷めるのを待っているのでしょうか?」

 

 エドワードは推測も交えながらそう報告した。

 その声からは予想外も面白味もない、というような、いくらかファレスへの悪感情が含まれていそうに感じられるものだった。

 しかし――皇帝は違った。

 

「ほう? このタイミングで一度、王都を離れるか……そう言えばグランダル領へ調査へ入りたいと言っていたな」

 

「ええ、どうやら一行はグランダル領へ向かったようですが……」

 

 急に興味を示した皇帝に少し驚きながら、エドワードがそう言えば――

 

「クハハハハハッ! そうか! なるほどな!」

 

 皇帝は高笑いをしながら、一人で納得する。

 

「陛下?」

 

「余でも忘れるほどの古い伝承だが……どこで知ったのか。それとも強者ゆえの勘か。どちらにせよ、やはり奴は本物というわけだ」

 

「……?」

 

 長く皇帝に仕えるエドワードでも、この皇帝の言葉には察しがつかないらしい。

 そんな様子を見て、玉座の間を守護する近衛騎士隊長グレイグは何となくエドワードに親近感を覚えたのだとか……。

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